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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告が,被告が原告になりすましてインターネット上の掲示板に第三者を罵倒するような投稿等を行ったことにより,原告の名誉権,プライバシー権,肖像権及びアイデンティティ権を侵害されたとして,被告に対し,不法行為に基づき,慰謝料,発信者情報開示費用及び弁護士費用の合計である損害賠償金723万6000円及びこれに対する不法行為の日である平成27年5月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案です。

 これに対して,大阪地裁第22民事部(北川さんの合議体ですね。)は,原告の主張を一部認め,130万6000円と遅延損害金の支払いを認めました。

 まあ,特許でもなく,知財でもないのですが,要するに,ネットの事件ということで,取り上げたわけです。

2 問題点
 問題点は,上記のとおり,なりすましによる様々な被害を被った場合,どれでやるといい?って所だと思います。

 私もその昔というか,独立したてのころは,所謂パカ弁関係をよくやっておりました。
 その手順は,このブログでも書いたとおりなのですが,この記事はよく引用されております。しかし,お陰様で,私への依頼は全く来なくなったのも,ここで書いたとおりです。

 では何故,今回取り上げるかというと,この手の事件ってあんまり判決までいかないかなあということで,備忘のため,似たような事件を扱う代理人のため,という所でしょうか。

 実は,私もその昔の,パカ弁をやっていたころ,この事案に非常に似た事件が舞い込んだときがあります。
 で,そのときに困ったのが,請求の立て方,つまりは訴訟物なのですね。

 どういうことかというと,なりすましって,この事件だと誹謗中傷しております。判決も以下のとおり,認定しております。

これらの投稿は,いずれも他者を侮辱や罵倒する内容であると認められ,前記(1)のとおり,原告による投稿であると誤認されるものであることと併せ考えれば,第三者に対し,原告が他者を根拠なく侮辱や罵倒して本件掲示板の場を乱す人間であるかのような誤解を与えるものであるといえるから,原告の社会的評価を低下させ,その名誉権を侵害しているというべきである。

 しかし,頭のいいなりすましって,こんな下手なことはしません。さもそれっぽいような感じでそれっぽいことを書き込むから,余計問題なわけです。

 とすると,普通は,名誉毀損ってなかなか難しいわけです。

 とすると,あとは,プライバシー権かということになります。でもこれもなあって感じです。
 というのは,プライバシー権って要件が結構厳しいです。なので使いにくいのですね。じゃああとは・・・・ということになるのですが,これは判旨を見た方が早いかな~という所です。

3 判旨
「(1)  原告は,被告が本件アカウントのプロフィール画像として原告の顔写真を公開したことにより原告のプライバシー権及び肖像権を侵害した旨主張する。
 この点,前記争いのない事実等(3)及び前記1で認定したとおり,被告は,本件アカウントのプロフィール画像として原告の顔写真を使用して本件投稿を行ったことを認めることができる。
(2)  ところで,プライバシー権は,その外延がいまだ明確に定まっていない部分があるものの,私生活上の自由の保護をその中核とし,他人に知られたくない私生活上の事実又は情報をみだりに公開されない利益又は権利をその内容とするものと解される。そして,原告の陳述書(甲16)によれば,原告は,本件投稿の当時,被告に使用された顔写真を本件サイトのプロフィール画像に自ら設定していたことが認められ,本件サイトは不特定多数の者がアクセスできるインターネット上のページであることを踏まえれば,原告の顔写真は,原告によって第三者がアクセス可能な公的領域に置かれていたと認めるのが相当であり,他人に知られたくない私生活上の事実や情報に該当するということはできない。
 そうすると,被告が使用した原告の顔写真を第三者から無断で公開されないという利益は,少なくともプライバシー権によって保護されるものと認めることはできない。
(3)  肖像は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される(最高裁平成24年2月2日判決・民集66巻2号89頁参照)。他方,他人の肖像の使用が正当な表現行為等として許容されるべき場合もあるというべきであるから,他人の肖像の使用が違法となるかどうかは,使用の目的,被侵害利益の程度や侵害行為の態様等を総合考慮して,その侵害が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかを判断して決すべきである(最高裁平成17年11月10日判決・民集59巻9号2428頁参照)。
 前記1及び(1)で認定説示したとおり,被告は,原告の顔写真を本件アカウントのプロフィール画像として使用し,原告の社会的評価を低下させるような投稿を行ったことが認められ,被告による原告の肖像の使用について,その目的に正当性を認めることはできない。そして,前記争いのない事実等⑶のとおり,被告が,原告の社会的評価を低下させる投稿をするために原告の肖像を使用するとともに,「わたしの顔どうですか?w」(平成27年5月18日午前10時39分),「こんな顔でHさんを罵っていました。ごめんなさい」(同日午前10時54分)などと投稿したことは,原告を侮辱し,原告の肖像権に結びつけられた利益のうち名誉感情に関する利益を侵害したと認めるのが相当である。
 そうすると,被告による原告の肖像の使用は,その目的や原告に生じた不利益等に照らし,社会生活上受忍すべき限度を超えて,原告の肖像権を違法に侵害したものと認められる。
(4)  したがって,原告の前記⑴の主張のうち原告の肖像権が違法に侵害されたことを認めることができる。 」

「(1)  原告は,権利性が認められている氏名や肖像を冒用されない利益の根源が他者から見た人格の同一性を保持する必要性にあるとすれば,憲法13条後段の幸福追求権又は人格権から他者との関係において人格的同一性を保持する利益であるアイデンティティ権が導き出され,被告が原告になりすまして本件投稿を行ったことは原告のアイデンティティ権を侵害した旨主張する
(2)  個人が,自己同一性を保持することは人格的生存の前提となる行為であり,社会生活の中で自己実現を図ることも人格的生存の重要な要素であるから,他者との関係における人格的同一性を保持することも,人格的生存に不可欠というべきである。したがって,他者から見た人格の同一性に関する利益も不法行為法上保護される人格的な利益になり得ると解される。
 もっとも,他者から見た人格の同一性に関する利益の内容,外縁は必ずしも明確ではなく,氏名や肖像を冒用されない権利・利益とは異なり,その性質上不法行為法上の利益として十分に強固なものとはいえないから,他者から見た人格の同一性が偽られたからといって直ちに不法行為が成立すると解すべきではなく,なりすましの意図・動機,なりすましの方法・態様,なりすまされた者がなりすましによって受ける不利益の有無・程度等を総合考慮して,その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものかどうかを判断して,当該行為が違法性を有するか否かを決すべきである。
(3)  本件では,前記2で認定説示したとおり,被告は,本件アカウント名にて,原告の社会的評価を低下させるような内容を含む投稿を行っていることからすると,なりすましが正当な意図,動機によるものとは認められない。
 しかしながら,なりすましの方法,態様についてみると,原告が,被告による原告のなりすましとして主張する行為とは,具体的には,前記2(1)で認定説示したとおり,被告が原告の本件サイトにおけるアカウント名を冒用し,プロフィール画像に原告の顔写真を登録した上で,本件掲示板への投稿を行ったというものであるところ,通常は,アカウント名やプロフィール画像は,本件サイト内での通用を予定して設定されるものであること,前記争いのない事実等(4)のとおり,本件サイトの利用者は,アカウント名・プロフィール画像を自由に変更することができることからすると,社会一般に通用し,通常は身分変動のない限り変更されることなく生涯個人を特定・識別し,個人の人格を象徴する氏名の場合とは異なり,利用者とアカウント名・プロフィール画像との結び付きないしアカウント名・プロフィール画像が具体的な利用者を象徴する度合いは,必ずしも強いとはいえないというべきである。
 また,原告が被告によるなりすましによって受けた不利益について検討するに,前記2及び3で認定説示したとおり,原告の名誉権及び肖像権の侵害による不利益については別に不法行為上の保護を受けると認められる。その余の不利益については,被告によるなりすましは本件サイト内の投稿にとどまること(弁論の全趣旨),証拠(甲5)によれば,被告によるなりすまし投稿の直後から,他の本件サイト利用者により,投稿が原告本人以外の者によるものである可能性が指摘されていたことが認められること,前記争いのない事実等(3)のとおり,本件掲示板に「C」とのアカウント名及び原告の顔写真のプロフィール画像が表示されていたのは約1か月余りの間であり,その後これらは変更されたことが認められる。
 以上の事実を総合考慮すれば,本件では,被告のなりすまし行為(名誉権侵害行為,肖像権侵害行為は除く)による原告の人格的な利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものとまでは認められないというべきであり,当該行為が違法とは認められない。 」

4 検討
 前半が,プライバシー権と肖像権に関する部分で,後半がアイデンティティ権に関する部分です。

 で,今回,プロフィール画像が原告の顔写真であったことから,肖像権の侵害は認めてもらえました。でもプライバシー権の侵害はないということです。

 他方,原告の立てた,アイデンティティ権(要するに,なりすまされない権利と言える,今回のような事件についての単刀直入な権利です。)については,侵害を認めてもらえませんでした。要するに,侵害の度合いが強くなく,不利益も大きくないということですね。

 本件だと,プロフィール画像が顔写真で,肖像権の侵害がOKだったので,良かったのですが,例えば,似顔絵とかだとNGになるでしょうね。
 だとすると,そのような似顔絵でのプロフィール画像を冒用し,なりすましされた場合の救済って,やはり今回でいうアイデンティティ権などで認めてもらうしかありません。

 いや,こういうのが問題になってなけりゃ別にいいのですよ。でも,なりすましが問題になる場合って,上で書いたように,名誉毀損的なことは言わないし,顔写真冒用のような,下手なことはやらないってことです。

 そうすると,今回認められた名誉毀損も無理だし,肖像権も無理なわけです。なので,今回でいうアイデンティティ権とかでやるしかない場合もあるのです。
 そして,今のなりすましの主流がそういう場合だと思われるのですね(私にはもうあんまり依頼がないので,あくまで推定です~♫)。

 このような場合,どうすりゃいいかを,以前,ここでも書きました。それは,肖像権が財産権化してパブリシティ権になったように,プライバシー権も財産権化出来るのではないか,強いて言えば,目的外使用を禁ずるような権利ですね。

 そんなこと言うと,今現在は個人情報保護法があり,そこでいう個人情報に・・・という観点もあると思いますが,個人情報って個人情報保護法に定義があり,それに該当しないと保護されません。

 そうではなくて,もうちょっとパブリシティ権的なもので認められないかなあって感じです(立法ではなく判例上ね。)。

 ま,以前書いた通り,チンピラ弁護士の妄言に過ぎませんので,このくらいでやめておきますわ~♡

 あと,そうだそうだ,この事件の陪席の裁判官の名前,某有名学者の先生の名前にクリソツです。法曹業界は,政治家業界以上に二世三世法曹が多い業界ですが(さらに,特許事務所の所長弁理士の二世三世で弁護士っていうパターンも多いですね。),ここもそうなのでしょうか。

5 追伸
 毎度おなじみ流浪の弁護士,散歩のコーナーでございます。
 本日はここ山本橋に来ております。
 
 セミは鳴いておりますが,さすがに,素手で捕まえられる場所には居ませんね。桜の葉もよく見ると色づき,そして散っている部分もあります。
 東京は,日曜は一日雨で,昨日今日と良い天気になっております。

 しかし,日曜は風も強く,桜もところどころ折れておりました。
 私の実家の近くも凄い雨が降ったようで,佐伯や津久見の方の模様がテレビによく出てました。幸い実家のある豊後高田は,大災害という所まで行かず,多少は安心しております。しかし,天災は忘れた頃にやってくると言ったのは寺田寅彦でしたっけ?まだまだ台風の季節ですので,気をつけておいた方がいいでしょう。

 ちなみに,台風とその他の要因のため,先週のサーフィンはおやすみでした。今週末は行けるといいですね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーのエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。次は何かな。
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