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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 商標の無効審判の不成立審決に対し,これに不服の請求人が商標権者たる被告を相手方として,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁(4部)は,原告の請求を棄却しております。

2 問題点等
 原告が取消事由としてあげたのは,被告の商標権者の行った補正(指定商品を,32類「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」→30類「メープルシロップ」にした)が要旨変更にあたるということです。仮に要旨変更にあたるならば,出願日が繰り下がるので(9条の4),他の登録商標等によって無効とされるというわけです。

 ちなみに特許の補正の基準も昔は,新規事項追加ではなく要旨変更の時代がありました。そのときの効果も今の商標と同じで,補正のときに出願日が繰り下がるというものでした。

 さて,特許の場合は,補正が新規事項の追加になるか(昔は要旨変更になるか)ということは重大な問題です。というのは,特許は発明という創作を保護するものですから,新規性・進歩性の基準が出願日となるなど,出願の出し直しが原則としてできない制度なのです。
 ところが,商標は創作を保護するものではありません。要旨変更をくらって,補正が却下された場合でも,じゃあ出し直し(新出願)します,で済むことが多いのです。
 ですので,要旨変更か否かの基準は審査基準を見てもあまり役に立ちません(当たり前のことを書いているだけに見えますし,新出願で済むことが多いので必要性も高くないですし。)。

 したがい,基本書等を見てもこの論点の記述は薄いですね。商標の肝は,類否判断ですから,しょうがないと言えばしょうがないのですが。そのため,訴訟でもあまり問題になったことはないのではないでしょうか。基本書でも,ここの判決の引用はないですし,「商標・意匠・不正競争判例百選」(有斐閣)にも載っておりません。

今回の判決は,ここが問題になりました。

3 判旨
「出願された商標について行われた補正が要旨の変更に当たるか否かは,当該補正が出願された商標につき商標としての同一性を実質的に損ない,第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるものと認められるか否かにより判断すべきものである。」
「・・・本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現は,一般の需要者及び取引者によって,清涼飲料としてではなく,カエデの樹液を煮詰めて作られる砂糖溶液であって調味料などに
用いられる「メープルシロップ」と同一のものと広く認識される表現(甲12,乙5)であると認められ,このことは,第30類として登録されている商標に「メープルシロップ」を指定商品とするものが存在すること(甲16,17)によっても裏付けられる。
そうすると,本件補正に係る「メープルシロップ」は,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現を,より一般的な表現に改めただけであって,両者は,その内容において同一の商品を指定するものであったといわなければならない。
したがって,第32類に「シロップ」が含まれているからといって,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現により一般の需要者及び取引者がこれを清涼飲料に含まれる「シロップ」と誤認するおそれはなく,調味料などとして利用される「メープルシロップ」と理解するのが一般的であるから,本件出願に際して商品区分を第32類と指定したことは,第32類に「シロップ」が含まれていたことにより,その記載を誤ったにすぎないものというべく,本件補正により第32類を第30類とすることは,誤記の訂正の範囲を出ないものといえる。」

4 検討
 あまり役に立たない審査基準も「指定商品又は指定役務の範囲の変更又は拡大は、非類似の商品若しくは役務に変更し、又は拡大する場合のみならず、他の類似の商品若しくは役務に変更し、又は拡大する場合も要旨の変更である。」とするのが,原則ですので,今回のような類の変更も形式的には要旨変更となりそうですね。

 しかし,知財高裁は,第三者に不測の不利益を与えないならOKとしました。この基準自体は,「新・商標法概説」小野昌延・三山峻司(青林書院)の基準と同じです。
 上記のとおり,この論点の判決は少ないですから,何かのついでなどには,この判決は今後参照できるものになるのかもしれませんね。
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