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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「シートカッター」とする特許(特許第5374419 号)の特許権者である上告人(原告)が,平成25年12月,第1審判決別紙物件目録記載の工具を販売してい る被上告人(被告)に対し,本件特許権に基づき,その販売の差止め及び損害賠償等を求める本件訴訟を提起し,本件特許には特許法123条1項1号又は4号の無効理由が存在す るとして,同法104条の3第1項の規定に基づく抗弁(無効の抗弁)を主張したものの,第1審は,平成26年10月,被上告人の上記の理由による 無効の抗弁を排斥して,上告人の請求を一部認容する旨の判決を言い渡したため,被上告人は,第1審判決に対して控訴をした上,平成26年12月26日付けの 控訴理由書において,本件特許は,特許法29条1項3号又は同条2項に違反してされたものであり,本件特許には同法123条1項2号の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁(本件無効の抗弁)を主張したところ,原審は,平成27年12月16日,本件特許は特許法29条1項3号に違反してされたものであるとして,本件無効の抗弁を容れて,第1審判決中,被上告人敗訴 部分を取り消し,上告人の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡したため,これに不服の上告人が上告受理申立てをした特許権侵害訴訟の事件です。
 なお,上告人は,原審の口頭弁論終結時までに,本件無効の抗弁に対し,訂正により無効の抗弁に係る無効理由が解消されること を理由とする再抗弁(訂正の再抗弁)を主張しなかったようです。

 おお,ここでの判決の紹介だ~つまりは大ネタ。と言っても中身はそんな大した話じゃないのですが,最高裁ですからね。やはり取り上げないといけないでしょう!

 まず,一審は,東京地裁平成25(ワ)32665号で(民事46部で当時長谷川部長の合議体でした。まあ,長谷川部長の合議体は,嶋末部長と違った意味で個性的な判決が多かったですね~。今は46部の部長は柴田さんです。),平成26年10月30日判決でした。


 発明はこんなやつです。

 上記の概要のとおり,ここでは,特許法123条1項1号又は4号の無効理由→①補正の新規事項追加と②サポート要件違反,③明確性要件違反の無効の抗弁の主張がありました。
 しかし,長谷川部長の合議体は,「①について,本件明細書(なお,発明の詳細な説明 の記載は出願当初から変わっていない。)には,前記1 (3) のとおり解釈される構成要件D及びEが記載されているということができる。したがって, 本件補正が特許法17条 の2第3項に違反するものとは認められない。 また,②及び③について,前記1 (3) で判断したところによれば,本件明細書に接した当業者は,その記載から本件特許発明における課題及びその解決手段を認識することができると認められる。したがって,本件特許が同法36条6項1号に違反するとも同項2号に違反するともいうことはできない。」として,無効の抗弁を排斥し,構成要件該当性はあり!として,請求の一部を認容したわけです。
 
 何か,新規事項追加だとか記載不備だとか,やはりちょっと弱火ですね~。何故かと言うと,汗をかいていないからです(無効資料調査をしていないってことです。)。

 ほんで,被告の代理人弁護士は交替で控訴審になりました。
 控訴審(原審)は,知財高裁平成26(ネ)10124(知財高裁3部で,当時何故か部長じゃないのに,合議体を形成していた大鷹さんの合議体です。今は3部はきちんと元に戻ったのですが(大鷹さんが異動したため),あの一時期の2合議体制は何だったんでしょうねえ。)で,平成27年12月16日判決でした。
 
 この判決では,上記の概要のとおり,特許法123条1項2号の無効理由→新規性なし・進歩性なし(主引例は,米国公開特許公報2006/02010 00号(乙13))の本件無効の抗弁の主張がありました。
 そして,大鷹さんの合議体は,「乙13発明は,本件特許発明のすべての構成要件の構成 を備えているから,本件特許発明と同一の発明であることが認められる。 したがって,本件特許発明は,新規性を欠くものであり,本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)があ り,特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから, 被控訴人は,同法104条の3第1項の規定により,控訴人に対し,本件特許権を行使することはできない。」として,新規性なし!で請求を全部棄却したわけです。

 まあ何ちゅうか,大鷹さんの所でよくあった,典型的な結論ありき,それだったら何でもありじゃん的なムニョムニョしたあてはめでした~ね(弁理士の人もこういうのに注意です。)。

 ということで,いやいやいや,訂正せんとわりいっちゅうんじゃったら,そげえすんのに,そげな機会ねかったわえ,こげなこつしていいんかえ,ちゅうやつです(大分には凄い雨が降りましたね。)。

 これに対して,最高裁の結論としては,上告棄却なので,知財高裁のとおりです。つまり,原告,特許権者側の負けが確定したわけです。

2 問題点
 問題点は,もうこれ一つ,訂正のタイミングです。特に,無効審判が請求されて,法的に訂正審判も訂正請求もできない場合にどうすればいいのか?ということです。

 まず,訂正の再抗弁自体,訂正請求等が原則として必要であるということが通説です。これは,あやふやなクレームだと色々問題ありということで,或る程度確定させる必要があるというのがその理由です。
 ただし,この通説もいついかなる場合も訂正請求が必要とは言っておらず,特に104条の4が創設され,再審で無効確定だとか訂正確定だとかを言えなくなったことと,無効審判内で訂正請求できる期間が限られたこと(訂正審判は無効審判が請求されるともう起こせません。)の対比で,いついかなる場合も現実の訂正請求を要求するのは酷だろう,ということになっています。

 とは言え,通説のこの例外事例って,どういう場合が例外事例なんだろうってことですね。そこはちょっとはっきりしません。

 他方,逆に,侵害訴訟確定前に,訂正が確定したからと言って,上告審でこれを争えるとすると,特許法104条の4の意味が無くなるような気もします。
 なので,訂正請求や訂正審判が法的にできず,訂正の再抗弁が事実上難しいように思える場合でも,104条の4の意味を重視すると,積極的に訂正の再抗弁はやっておくべきということになるし,上記の通説の例外事例は極めて厳格に解釈すべきだろうということにもなりますね。

 ということで,どうなったのでしょうか?

3 判旨
「 特許権侵害訴訟において,その相手方は,無効の抗弁を主張することができ,これに対して,特許権者は,訂正の再抗弁を主張することができる。特許法104条の3第1項の規定が,特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことを要せずに無効の抗弁を主張することができるものとしているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決することを図ったものであると解される。そして,同条2項の規定が,無効の抗弁が審理を不当に遅延させることを目的として主張されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるものとしているのは,無効の抗弁について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解される。以上の理は,訂正の再抗弁についても異ならないものというべきである(最高裁平成18年(受)第1772号同20年4月24日第一小法廷判決・民集62巻5号1262頁参照)。
  また,特許法104条の4の規定が,特許権侵害訴訟の終局判決が確定した後に同条3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等(以下,単に「訂正審決等」という。)が確定したときは,当該訴訟の当事者であった者は当該終局判決に対する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することができないものとしているのは,上記のとおり,特許権侵害訴訟においては,無効の抗弁に対して訂正の再抗弁を主張することができるものとされていることを前提として,特許権の侵害に係る紛争を一回的に解決することを図ったものであると解される。
 そして,特許権侵害訴訟の終局判決の確定前であっても,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等の確定を理由として事実審の判断を争うことを許すことは,終局判決に対する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することを認める場合と同様に,事実審における審理及び判断を全てやり直すことを認めるに等しいといえる。
  そうすると,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されないものというべきである。
  (2)  これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,原審の口頭弁論終結時までに,原審において主張された本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張しなかったものである。そして,上告人は,その時までに,本件無効の抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判の請求又は訂正の請求をすることが法律上できなかったものである。しかしながら,それが,原審で新たに主張された本件無効の抗弁に係る無効理由とは別の無効理由に係る別件審決に対する審決取消訴訟が既に係属中であることから別件審決が確定していなかったためであるなどの前記1(5)の事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張するために現にこれらの請求をしている必要はないというべきであるから,これをもって,上告人が原審において本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張することができなかったとはいえず,その他上告人において訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれない。 」

4 検討
 判例が先例として引いているのは,いわゆるナイフの加工装置事件です(百選の最新版だと76番ですね。)。

 まあしかし,今回の判決の射程をどうみるかって難しい所があります。 

 下線部が要旨なので,先例性があるのはここなのでしょう。
 そうすると,ナイフの加工装置事件の事実経過とあんまり変わらない,上告審で結論が出る前に訂正請求等が上手く行ったというようなレアケースしか射程が及ばないように見えます(A)。

 そうではなく,訂正請求が上手く行ったという場合に限らず,兎に角,事実審で訂正の再抗弁を主張しなかった(出来なかった)場合にも射程が及ぶということになると(B),この判決の影響は大きいと思います(裁判所のサイトの「判示事項」はこのBのように書かれています。)。その場合,やむを得ないといえるだけの特段の事情を上告審で主張すると何とかなる場合もあり得そうです。

 でも,判決の文言を普通に解釈すると,BではなくAのような感じがします。

 あと,傍論というかあてはめが結構重要です。
前記1(5)の事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張するために現にこれらの請求をしている必要はないというべきであるから,
とあります。

 どういうことかというと,最高裁自ら,訂正の再抗弁時に,いついかなる場合も訂正請求が必要である,という立場を取らないということを認めているからです。つまり,あくまでも通説だということですね。しかし,じゃあどういう場合に,訂正請求が不要かはよくわかりません。
 ただ,法的に主張できない場合は,この場合に当たる可能性は高いと言えますので,訂正できるといいのにな~♫という場合で,でも法的にはもう訂正請求できないなあ~♫という場合に,訂正の再抗弁を主張せず,漫然と成り行き任せ~♡では弁護過誤になる虞があります。

 これは今後気をつけた方がいいでしょう。ということは,今後の特許権侵害訴訟の事案では,積極的に訂正の再抗弁を主張していった方がいいってことですよ!
 勿論,訂正すると大体の場合,権利範囲は狭くなりますから,本来はやりたくないことです。ですが,それも予備的主張ということにしておけば,ある程度リスク回避できるのではないでしょうか。

 まあなかなかマニアックな論点なのですが,原告側代理人をいつもいつも悩ませる論点なので,多少の取っ掛かりにはなるかなあと思います(個人的には,裁判所からの釈明があると有り難いのだけどねえと思いますが,それは甘え過ぎですかね。)。

5 追伸
 上記のとおりのうちの田舎の方は凄い雨が降ってしまいましたが(豊後高田は海沿いなので,まだましでした。山の方が上昇気流が発生しやすく,大雨になりますね。),東京の方は,急遽帰省から帰った7/2以来,夏本番のような暑さです。
 7/1からの最高気温を並べると以下のとおりです。
 7/1 25.3
 7/2 32
 7/3 32.5
 7/4 29.9
 7/5 31.4
 7/6 30.7
 7/7 32.3 
 7/8 33.7
 7/9 32.5
 7/10  32.1
 やはり,7/1だけ低くて,後は結構高いです。

 で,梅雨明けしたのでしたっけ?よくわかりませんねえ。まあしかし,散歩には辛い季節ですね。

 さて,一昨日は,2週ぶりにサーフィンに行ってきました。いい天気でしたが,波はスネで,本当マッタリって感じのサーフィンでした。人も少ないですし,私はのんびりやりたい派なので悪くはないですね。

 で,今週は,実はいつもやっているポイントで,ちょうど湘南オープンをやっていますので,土日はエリア規制で結構たいへんかもしれません。この前の土曜みたいな波だとレイデイの連続かと思いきや,今日はスタートしています。オンショアできついので風波が立つのでしょうねえ。ま,この時期の湘南は,こんな感じですので,東京オリンピックのサーフィンが千葉というのは致し方ない所でしょう。

 あと,昨日の日曜は某所で久々潮干狩りをしておりました。2日連続して,海に行くという,しかも一日はサーフィン,もう一日は潮干狩りという,あんまり弁護士にはいないだろうタイプの過ごし方です。
 で,その潮干狩りですが,もう小学校以来という大漁でしたね(アサリ)。本当びっくりしました。どこかは内緒です。

 夏って感じの土日でしたが,今週もこんな天気が続くのでしょうかね。

 そうだ,そうだ,高校野球,我が母校,高田高校が今日一回戦だったのです。あー鶴崎高校にコールド負け~うーん,がっくり。
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1 概要
 本件は,角化症治療薬の有効成分であるマキサカルシトールを含む化合物の製造方法の特許に係る特許権の共有者である被上告人が,上告人らの輸入販売等に係る医薬品の製造方法は,上記特許に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであり,その特許発明の技術的範囲に属すると主張して(最高裁平成6年 (オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁 参照。以下,この判決を「平成10年判決」といいます。),上告人らに対し,当該医薬品の輸入販売等の差止め及びその廃棄を求め,これに対し,上告人らは,本件では,平成10年判決にいう,特許権侵害訴訟における相手方が製造等をする製品又は用いる方法(対象製品等)が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するから,上記医薬品の製造方法は,上記特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるとはいえないと主張して,被上告人の請求を争っている事件です。

 所謂マキサカルシトール大合議事件の,最高裁判決です。
 
 大合議事件の方は諸般の事情により,後継ブログの方で書いておりますので,ここで引用するのは地裁の判決の方にしておきます。

 で,地裁の一審は,均等論で侵害,知財高裁の大合議でも均等論で侵害としたわけですね。ということで,怒り心頭の被告(控訴人)の方が最高裁に上告受理の申立てをしたわけです。

 とは言え,結論は,上告は受理したけど,上告棄却=請求認容のまま,ってことです。つまり,均等論での侵害を認めたってことですね。

2 問題点
 問題点は均等論ですが,詳しく言えば,均等論の第五要件ですね。恐らく,上告受理申立人は,均等論や無効論についてもたくさんたくさん主張したのだと思いますが,最高裁に取り上げられたのは,このうち均等論の第五要件のみです。

 ということで,最高裁も先例として挙げた平成10年判決の要旨を載せておきます。
明細書の特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造等をする製品又は用いる方法と異なる部分が存する場合であっても、①右部分が特許発明の本質的部分ではなく、②右部分を右製品等におけるものと置き換えても特許発明の目的を達することができ同一の作用効果を奏するものであって、③右のように置き換えることに当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が右製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、④右製品等が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は右の者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、⑤右製品等が特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解すべきである。

 実は,平成10年というのは,私が知財部に異動した年です。異動したてということで,知財部の主催する研修を,はるか彼方の厚木から,ここ五反田の近くの御殿山のソニー本社近くまで受けに来ていたのですね。
 そのときの研修で,多くの講師からこの均等論の紹介がありました。いかに企業知財部に影響があったのかということがわかります。

 その私が研修を受けていた場所に建っていたソニーの建物も今はありません。積水系の建物が建ち,研修を受けていたその場所には,今は,東京いや日本いや世界でも有数のフランス料理店であるQuintessenceがあります(ちょうどあの辺なのですね。)。ソニーの往時を伝えるのは,今はのみです。
 港南の本社の跡にもそのうちこんな碑が立つのでしょうかね。ま,シャープのように外資に買収されれば,一応生き残れるかなあ,ムフフ。
 
 おっといつものように議題から逸れました。

 兎も角言いたいことは,今回の最高裁の判示は,上記⑤の要件,「⑤右製品等が特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」の吟味ってわけです。

 で,上告受理申立人としては,こんな事情で,第5要件に該当しないなんてありえなーいって所だったのでしょう。
 そうすると,何か?,要らんことは言うなというか,吟味の足りない明細書,所謂poorな明細書を出して,後で均等論を主張した方がいいってわけかい?ってなことになります。

 しかし,最高裁としては~って所ですね。

3 判旨
「 5(1)  特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものである(特許法1条参照)。そして,特許法70条1項は,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないと規定する。しかるところ,特許権侵害訴訟における相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部をこれと実質的に同一なものとして容易に想到することができる他の技術等に置き換えることによって,特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば,上記のような特許法の目的に反し,衡平の理念にもとる結果となることなどに照らすと,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,所定の要件を満たすときには,対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するというべきである。そして,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するときは,上記のような均等の主張は許されないものと解されるが,その理由は,特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないというところにある(平成10年判決参照)。
  しかるに,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったというだけでは,特許出願に係る明細書の開示を受ける第三者に対し,対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものであることの信頼を生じさせるものとはいえず,当該出願人において,対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものとはいい難い。また,上記のように容易に想到することができた構成を特許請求の範囲に記載しなかったというだけで,特許権侵害訴訟において,対象製品等と特許請求の範囲に記載された構成との均等を理由に対象製品等が特許発明の技術的範囲に属する旨の主張をすることが一律に許されなくなるとすると,先願主義の下で早期の特許出願を迫られる出願人において,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲の記載を特許出願時に強いられることと等しくなる一方,明細書の開示を受ける第三者においては,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものを上記のような時間的制約を受けずに検討することができるため,特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができることとなり,相当とはいえない。
  そうすると,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。
  (2)  もっとも,上記(1)の場合であっても,出願人が,特許出願時に,その特許に係る特許発明について,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,特許請求の範囲に記載された構成を対象製品等に係る構成と置き換えることができるものであることを明細書等に記載するなど,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,明細書の開示を受ける第三者も,その表示に基づき,対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものとして理解するといえるから,当該出願人において,対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものということができる。また,以上のようなときに上記特段の事情が存するものとすることは,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与するという特許法の目的にかない,出願人と第三者の利害を適切に調整するものであって,相当なものというべきである。
  したがって,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。
  そして,前記事実関係等に照らすと,被上告人が,本件特許の特許出願時に,本件特許請求の範囲に記載された構成中の上告人らの製造方法と異なる部分につき,客観的,外形的にみて,上告人らの製造方法に係る構成が本件特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながあえて本件特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたという事情があるとはうかがわれない。
6  原審の判断は,これと同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。 」

4 検討
 この判旨を読んで,私が思ったことは,あれ,知財高裁の判決だっけ,これって?ということです。
 試しに,知財高裁の判決を見てみましょう。

「先願主義の下においては,出願人は,限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを作成し,これを出願しなければならないことを考慮すれば,出願人に対して,限られた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲とこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される場合がある。これに対し,特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者は,当該特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載から容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護,奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外とすることは相当ではない。
(イ) もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。  
  なぜなら,上記のような場合には,特許権者の側において,特許請求の範囲を記載する際に,当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの,すなわち,当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと理解することができ,そのような理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから,特許権者が後にこれに反して当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは,禁反言の法理に照らして許されないからである。」

 結構同じですね。
 
 とは言え違いもあります。

 知財高裁の場合は,特段の事情に当たる例として,「①出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,②出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているとき」を挙げていますが,最高裁は「特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,特許請求の範囲に記載された構成を対象製品等に係る構成と置き換えることができるものであることを明細書等に記載するなど」と,知財高裁でいう①の例しか記載していないのですね。②の論文の例は書いてません。

 まあ,これは最高裁の価値判断として,そんな遠くのことまで知らんがな,それはもういいんじゃね,ってことなのだと思いますね。知財高裁の判決の評釈でも,だいたい納得できるけど,②の例は言い過ぎじゃね,って意見が多かったですもんね。
 
 ですので,出願人というか弁理士が気をつけるのは,あくまでも明細書だけでよし!ってことになると思います。

 まあこの程度の判示で,判決出すということは結構重要なことだったんだなあと思うとともに,大合議の裁判官はニンマリしているでしょうね。ほーら俺らの判示で大体いいじゃん,てね。
 個人的には第一要件の方が見たかったという気がするのですが,まあいいでしょう。久々の特許の最高裁ですもん。

 ですので,今回も後継ブログではなく,こちらで紹介した次第です。
1 概要
 本件本訴は,米国法人であるA社との間で同社の製造する電気瞬間湯沸器(本件湯沸器)につき日本国内における独占的な販売代理店契約を締結し,「エマックス」,「EemaX」又は「Eemax」の文字を横書きして成る各商標(被上告人使用商標)を使用して本件湯沸器を販売している被上告人(日本建装工業)が,本件湯沸器を独自に輸入して日本国内で販売している上告人(エマックス東京)に対し,被上告人使用商標と同一の商標を使用する上告人の行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するなどと主張して,その商標の使用の差止め及び損害賠償等を求める事案です。
 他方,本件反訴は,逆に,上告人が,被上告人に対し,上告人の有する各商標権に基づき,各登録商標に類似する商標の使用の差止め等を求める事案です。 
 これに対しては,被上告人は,上記各登録商標は商標法4条1項10号に定める商標登録を受けることができない商標に該当し,被上告人に対する上記各商標権の行使は許されないなどと主張して争っているわけです。

 本訴と反訴があるのでややこしいですが,本訴は独占販売権者が混同惹起行為として請求し,反訴は並行輸入業者が,商標権に基づき,請求しているわけです。
 なお,実は,並行輸入業者の方は,昔昔,独占販売権者から仕入れていたものの,トラブって仕入れることが出来なくなり,並行輸入したという経緯があります。

 さらに,以前もこの業者間で揉め,和解が成立したという経緯もあります(その辺は,山崎敏充裁判官の補足意見に詳しいです。)。

 原審(福岡高裁平成26(ネ)791,平成27年6月17日判決)は,①被上告人使用商標は不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示(中略)として需要者の間に広く認識されているもの」に当たり,上告人が被上告人使用商標と同一の商標を使用する行為は同号所定の不正競争に該当するとして,本訴請求の一部を認容すべきものとし,また,②被上告人使用商標は商標法4条1項10号にいう「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」に当たり,被上告人使用商標と同一又は類似の商標である本件各登録商標のいずれについても,商標登録を受けることができない同号所定の商標に該当するから,同法39条において準用される特許法104条の3第1項に係る抗弁が認められ,被上告人に対する本件各商標権の行使は許されないとして,反訴請求を棄却すべきものとしたわけです。

 つまり,独占販売権者の不競法の請求はOK,並行輸入業者の商標権の請求はNGとしたわけです。ちなみに,この原審の判決を見ようとしたら,私の使っているデータベースにも,裁判所のデータベースにもありませんでした。

 ただ,この両当事者が,商標権(「平成17年登録商標」ではなく,平成22年の登録商標ですね。)の登録性を争った事件があります(知財高裁平成27年(行ケ)第10083号,平成27年12月24日判決)。
 
 なので,あんまり話題には上っていなかった事件かなあと思いますが,判示は重要ですね。
 ちなみに,最高裁の結論は,破棄差戻しです。

 まあ,商標の最高裁なんて珍しいですよね。なので,マジ判決紹介するのをやめているこのブログでもさすがに紹介せんわけにはいかんだろうということで,書いた次第です。

2 問題点
 問題点は2つあります。
 1つは,不競法の事件での周知性です。さらに言えば,この不競法2条1項1号の周知性と,商標法4条1項10号の周知性は同じか,違うのかという論点もあると思います。条文上の文言はほぼ同じですけどね。

 ちなみに,原審の福岡高裁は,不競法2条1項1号の周知性を満たすと判断し,別事件の知財高裁は,商標法4条1項10号の周知性を満たさないと判断したのです。

 ですが,今回の最高裁はこの論点の判断はあるのですが,原審の判断が不十分という是非の判断をしただけで,特段の規範等を踏まえた判断までしたわけでありません。なので,ここはお預けですね。

 で,もう一つの判断が,権利の濫用の関係です。
 上記のとおり,「平成17年登録商標」は,登録から5年を経過しておりましたので,もはや無効審判を起こすことができないわけです(除斥期間の商標法47条1項)。
 なので,その場合には,無効の抗弁の主張はできないのか?仮にできないとすると一般的な権利濫用の抗弁はどうだ?ってやつです。

 まあ特許だと除斥期間ってやつが無く,この除斥期間は商標法独自のものです。だって商標法には,業務上の信用維持という産業の発達だけではない立法目的があるのです。長く使ってりゃ,信用が維持されるでしょ,多少ヤクザなことをしてもそういう事実状態になるともう信用が維持されんだから,無効にできないでしょってやつです。

 よくどっかの国の憲法に対しても,もう70年以上不都合なく使ってきたんだから,外国から多少無理矢理押し付けられたとしても,そういう事実状態を守るべきじゃないの~っていう屁理屈がありますが,それと一緒なわけですね。ただ,そんなこと言っていると,北方領土も竹島もそして沖縄も永久に帰ってこないと思いますけどね~♫あーこりゃこりゃ。

 おっとまた議題からずれそうだわい。
 で,そういう除斥期間という特別なやつが商標法にはあるのです。ちなみに,私が弁理士を受験したころは,「ミスは,以後なやむさ+4Ⅰ⑩」という語呂合わせで覚えたのですが,今はどうなんでしょうねえ。
 あ,この語呂合わせの中身知りたいって?いやあタダではねえ~。ムフフ。

 おっとまたまた議論が明後日の方向に・・・。

 戻しますと,そういう除斥期間後に,抗弁として無効の抗弁(特許法104条の3を準用する抗弁のこと)を主張できるかという論点がまずあるわけです。
 これには肯定説と否定説があります。条文上無効審判の請求できないんだから抗弁もできるわけないじゃないかというのが否定説で,いやいやいや無効の抗弁は無効審判を提起するのがmustじゃないでしょ,だからOKですよ,というのが肯定説です。

 で,否定説をとった場合には,じゃあそういう状況の下,民法的な権利濫用の抗弁はどうなの?それまで主張できないってのはおかしいよね,って言う論点があります。
 この論点については何かの抗弁は主張できるだろうというのが通説だと思うのですが,その抗弁の根拠については,民法だとか,いやいやキルビー判決だとか,多少割れています。

 まあ前提条件の説明としてはこんな所でしょうかね。ここまで説明したら分かるでしょ。

3 判旨
(1)不正競争防止法2条1項1号に関する部分について
「前記事実関係等によれば,被上告人が被上告人使用商標を使用して販売している本件湯沸器は,商品の内容や取引の実情等に照らして,その販売地域が一定の地域に限定されるものとはいえず,日本国内の広範囲にわたるものであることがうかがわれる。そして,被上告人による本件湯沸器の広告宣伝等についてみると,前記2(6)アからエまでのとおり,被上告人とA社との販売代理店契約の締結に関する紹介記事が複数の業界紙に掲載されたり,本件湯沸器の宣伝のため展示会への出展がされるなどしたものの,被上告人を広告主とする新聞広告が掲載されたのは平成7年及び平成11年の2回にすぎず,被上告人が平成6年度から平成24年度までに支出した広告宣伝費及び展示会費の額も,本件湯沸器の販売地域が日本国内の広範囲にわたることに照らすと,多額であるとはいえない。また,被上告人による本件湯沸器の販売についてみると,前記2(6)オのとおり,大手の建設会社を含む相当数の企業等に対する販売実績があり,販売台数も一定以上にのぼることがうかがわれるものの,具体的な販売台数などの販売状況の総体は明らかでない。そうすると,前記2(2)アのとおり上告人代表者が知人を介して本件湯沸器の存在を知り被上告人との間で販売代理店契約の締結の交渉を開始したことを考慮したとしても,これらの事情から直ちに,被上告人使用商標が日本国内の広範囲にわたって取引者等の間に知られるようになったということはできない。
 したがって,被上告人による本件湯沸器の具体的な販売状況等について十分に審理することなく,原審摘示の事情のみをもって直ちに,被上告人使用商標が不正競争防止法2条1項1号にいう「需要者の間に広く認識されている」商標に当たるとして,上告人が被上告人使用商標と同一の商標を使用する行為につき同号該当性を認めた原審の判断には,法令の適用を誤った違法があるというべきである。」

(2)商標法4条1項10号に関する部分について
「ア(ア) 前記3のとおり,原審は本件各登録商標のいずれについても商標法4条1項10号該当性の判断をしているところ,平成17年登録商標については,商標権の設定登録の日から,被上告人が本件訴訟において同号該当性の主張をした前記2(5)の弁論準備手続期日までに,同号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま5年を経過している。
 商標法47条1項は,商標登録が同法4条1項10号の規定に違反してされたときは,不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除き,商標権の設定登録の日から5年の除斥期間を経過した後はその商標登録についての無効審判を請求することができない旨定めており,その趣旨は,同号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものであるが,商標登録の無効審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは,商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために,商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される(最高裁平成15年(行ヒ)第353号同17年7月11日第二小法廷判決・裁判集民事217号317頁参照)。そして,商標法39条において準用される特許法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば,商標権侵害訴訟において,商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,商標権者は相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ,上記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判を請求することができないのであるから,この無効審判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が商標登録の無効理由の存在を主張しても,同訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認める余地はない。また,上記の期間経過後であっても商標権侵害訴訟において商標法4条1項10号該当を理由として本件規定に係る抗弁を主張し得ることとすると,商標権者は,商標権侵害訴訟を提起しても,相手方からそのような抗弁を主張されることによって自らの権利を行使することができなくなり,商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護するものとした同法47条1項の上記趣旨が没却されることとなる。
 そうすると,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって,本件規定に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。
(イ) 一方,商標法4条1項10号が,商標登録の出願時において他人の業務に係る商品又は役務(以下「商品等」という。)を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標につき商標登録を受けることができないものとしている(同条3項参照)のは,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品等の出所の混同の防止を図るとともに,当該商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている者の利益と商標登録出願人の利益との調整を図るものであると解される。そうすると,登録商標が商標法4条1項10号に該当するものであるにもかかわらず同号の規定に違反して商標登録がされた場合に,当該登録商標と同一又は類似の商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている者に対してまでも,商標権者が当該登録商標に係る商標権の侵害を主張して商標の使用の差止め等を求めることは,特段の事情がない限り,商標法の法目的の一つである客観的に公正な競争秩序の維持を害するものとして,権利の濫用に当たり許されないものというべきである(最高裁昭和60年(オ)第1576号平成2年7月20日第二小法廷判決・民集44巻5号876頁参照)。そこで,商標権侵害訴訟の相手方は,自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている商標との関係で登録商標が商標法4条1項10号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することができるものと解されるところ,かかる抗弁については,商標権の設定登録の日から5年を経過したために本件規定に係る抗弁を主張し得なくなった後においても主張することができるものとしても,同法47条1項の上記(ア)の趣旨を没却するものとはいえない。
 したがって,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるために同号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当である。そして,本件における被上告人の主張は,本件各登録商標が被上告人の業務に係る商品を表示するものとして商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるために商標法4条1項10号に該当することを理由として,被上告人に対する本件各商標権の行使が許されない旨をいうものであるから,上記のような権利濫用の抗弁の主張を含むものと解される。
(ウ) 以上によれば,平成17年登録商標について商標登録に係る不正競争の目的の有無を明らかにしないまま本件規定に係る抗弁を認めた原審の判断には誤りがあるものの,本件における被上告人の主張は上記(イ)のような権利濫用の抗弁の主張を含むものと解されるから,平成17年登録商標についても,商標登録に係る不正競争の目的の有無を問わず,商標法4条1項10号該当性に関する原審の判断の適否を検討すべきことになる。
イ そこで,本件各登録商標の商標法4条1項10号該当性についてみると,前記(1)のとおりの被上告人による本件湯沸器の広告宣伝や販売等の状況に照らし,被上告人使用商標が,本件各登録商標に係る商標登録の出願時までに,日本国内の広範囲にわたって取引者等の間に知られるようになったとは直ちにいうことができない。したがって,被上告人による本件湯沸器の具体的な販売状況等について十分に審理することなく,原審摘示の事情のみをもって直ちに,被上告人使用商標が商標法4条1項10号にいう「需要者の間に広く認識されている」商標に当たるとして,本件各登録商標につき同号該当性を認めた原審の判断には,法令の適用を誤った違法があるというべきである。」

4 検討
 まず,除斥期間後に,抗弁として無効の抗弁を主張できるかという論点については,最高裁は否定説を取ったということです。

 次に,その後,何らかの民法的な権利濫用抗弁を主張できるかという論点については,最高裁は通説と同様の肯定説を取ったということです。

 で,この民法的な権利濫用抗弁については,最高裁昭和60年(オ)第1576号平成2年7月20日第二小法廷判決を判例として引用しております。これは所謂,ポパイマフラー事件です。これを引用していることから,キルビーとか言うより民法と言った感じがしますね。

 なので,4Ⅰ⑩該当を理由として権利濫用主張を許される,という部分に線が引かれており,先例性があるのは,そこだけのように見えるのですが,いやいやこの判決の射程はもっと広いと思います。
 それに上記のとおり,山ちゃんの補足意見によると,さらに広く権利濫用の抗弁を認めても良さそうですから,この判決自体の射程はかなり広いのではないかと思います。

 あ,最後に宣伝ですが,今回の論点については,「実録 知財ビジネス法務」に良く載っています。ちょっとお世話になっている某先生によるとあまり売れなかったらしいですが,私も執筆者の一人ですので,お買い求めて頂くというのはいかがでしょうか?
 アマゾンを見ると,おお中古ですげえ安いや~♡
1 概要
 本件は,「(1) 抗告人は,児童買春をしたとの被疑事実に基づき,平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の容疑で平成23年11月に逮捕され,同年12月に同法違反の罪により罰金刑に処せられた。抗告人が上記容疑で逮捕された事実(以下「本件事実」という。)は逮捕当日に報道され,その内容の全部又は一部がインターネット上のウェブサイトの電子掲示板に多数回書き込まれた。
(2) 相手方は,利用者の求めに応じてインターネット上のウェブサイトを検索し,ウェブサイトを識別するための符号であるURLを検索結果として当該利用者に提供することを業として行う者(以下「検索事業者」という。)である。
 相手方から上記のとおり検索結果の提供を受ける利用者が,抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件として検索すると,当該利用者に対し,原々決定の引用する仮処分決定別紙検索結果一覧記載のウェブサイトにつき,URL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋(以下「URL等情報」と総称する。)が提供されるが,この中には,本件事実等が書き込まれたウェブサイトのURL等情報(以下「本件検索結果」という。)が含まれる。
2 本件は,抗告人が,相手方に対し,人格権ないし人格的利益に基づき,本件検索結果の削除を求める仮処分命令の申立てをした事案である。」ということです。
 抗告人は一般の人,相手方はグーグルです。

 ま,要するに,過去の犯罪について,グーグル検索で出ないようにしてくれという申立てについて,削除せんでもよろし,という結論のものです。
 
 本案訴訟ではなく,仮地位仮処分なので,一審という表現が相応しくはないのですが,最初はさいたま地裁でした。
 平成27年(ヨ)第17号です。これは,驚いたことに忘れられる権利というのを認め,申立ての認容決定をしたのですね。これに対して,グーグルが保全異議をかけたのですが,これもダメでした。
 そこで,グーグルが,東京高裁に抗告したのが,原審ということになります(
平成28年(ラ)第192号,平成28年7月12日決定)。
 
 ここでの論理は,略今回の最高裁の決定と同じです。
 ・忘れられる権利は,要件効果が明確でなく,従来の名誉権ないしプライバシー権で検討すれば足りる。
 ・検索のスニペットやタイトルは,独立した表現として機能している。
 ・本件犯行(児童買春の件)については,表現の自由及び知る権利の保護が優越する。

 ということで,原審は逆転で,仮処分を認めなかった(却下)わけです。

 で,最高裁は,この原審を追認したと言ってよいでしょうね。

2 問題点
 問題点は端的に言うと,グーグル検索の結果を削除できるのはどんな場合?ってことになろうと思います。
 派生論点としては,グーグル検索ってそもそも表現なの?ってこともあろうと思います。

 プライバシー権に関する差し止め等の話は昔から色々あります。三島由紀夫の小説(宴のあと)の話,早稲田大学の名簿提出事件,あと石に泳ぐ魚事件とかありましたね。

 今回の事件が目新しいのはメディアが目新しいからでしょうね。プライバシー権的なものは昔からありますので。

 インターネットというのはすごいもので,場所の不公平さも時間の不公平さも無くすことができます。
 今回の最高裁の決定も,昨日のうちに日本全国はおろか世界中からアクセスできました。一昔前だったら,判例紙に載るのを数ヶ月待ち,そして,いざ出版されても,東京などの大都市と,地方では数日間のタイムラグが出ていたわけです。
 それが何と略その日のうちに,です。

 それを今や司ると言ってよいグーグル検索の威力というか破壊力も凄いものがあります。自ら表現しているわけではなく機械的にやっていると言いながらも,どういう意図?っていうのは,広告(
Google AdWords)を集めていることから明白でしょ。

 なので,こういう新しいメディアでの,どれ程の内容だったら,削除が認められるのかってえのは,実に興味深い話だったわけです。

3 判旨
「3(1) 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は,法的保護の対象となるというべきである(最高裁昭和52年(オ)第323号同56年4月14日第三小法廷判決・民集35巻3号620頁,最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁,最高裁平成13年(オ)第851号,同年(受)第837号同14年9月24日第三小法廷判決・裁判集民事207号243頁,最高裁平成12年(受)第1335号同15年3月14日第二小法廷判決・民集57巻3号229頁,最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照)。他方,検索事業者は,インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し,同複製を基にした索引を作成するなどして情報を整理し,利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供するものであるが,この情報の収集,整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの,同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから,検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。また,検索事業者による検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。そして,検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされるということは,上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより,検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。
 以上のような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると,検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,抗告人は,本件検索結果に含まれるURLで識別されるウェブサイトに本件事実の全部又は一部を含む記事等が掲載されているとして本件検索結果の削除を求めているところ,児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが,児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また,本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。
 以上の諸事情に照らすと,抗告人が妻子と共に生活し,前記1(1)の罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。
4 抗告人の申立てを却下した原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。」


4 検討
 判旨のとおり,削除できる基準はかなり厳しいと言えます。
 当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に削除できるだけですので。

 つまり,引き分けの場合はダメ,明らかに優越~していないと削除できないのですね。

 で,従来のメディア(本)での典型例,今回の最高裁決定でも判例として引かれた石に泳ぐ魚事件ではどうだったか,見てみます。

どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは,侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ,予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして,侵害行為が明らかに予想され,その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり,かつ,その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである。

 これを見てみると分かるとおり,やはり比較衡量なのですね。最高裁はこの手の事案で,比較衡量を所謂審査基準に使っていることがわかります~(憲法の学者の皆さん,残念でしたね。)。
 ほんで,この石に泳ぐ魚事件でも,差し止めはかなり厳しい条件でしか認めていません!つまり,今回のグーグルの事件でも,安易な削除は認めない,これは従来の判断の延長線上にあることですから,表現の自由の重要性に鑑みると妥当な結論じゃないかと思います。

 それに,やっぱ,女子大生の容貌に関することと,児童買春したことでは,それに対する表現の必要性の高低が違うという気がします。
 昨今,色物の犯罪には厳しいですからね,ま私もスケベなオッサンの一人ではあるので,抗告人に多少は同情するのですが,ここは涙を呑んでもらいましょう。

 ところで,今回の抗告人の代理人は,所謂パカ弁のカリスマと言える先生です。私も昔パカ弁をやっていたのですが,今やサッパリ依頼がありません。
 昔やっていたころは,判例検索に載るような判決も勝ち取ったこともありますし,何の先例も無かったツイッターでの名誉毀損についても,実質勝訴の和解を得たこともあります(この事件がきっかけでツイッター辞めたのですが。)。

 ところが,いつころか,何かピタリと依頼がなくなったのです。何故か?今でもいいですよ,グーグルで,誹謗中傷 弁護士だとか,ネット被害 弁護士だとかで検索してみてください。もう無茶苦茶広告が出ます。広告じゃなくてもSEO対策している所ばかりです。

 うちの事務所のサイト,見てください。何すか,これ,って感じでしょ。SEO対策なんぼのもんじゃあって感じですかね,良く言えば。

 まあ,過払いと一緒ですよ。ばあっと広告やらSEO対策出来た所が勝ち残ったのでしょうね。ということで,私の方はこの分野から足を洗うというか,締め出されたわけです。致し方ない所です。

 それでもときどきはこの件で泣きつかれるようなこともあります。
 例えば,頼んだ弁護士が70過ぎのおじいちゃんで,よく考えたらそんな人にネットの対策ができるわけがないという,やはり過払いでよくあった事務員等丸投げパターン,2chのスレ埋めを頼んだら残り200はあと20万円払え(1000になったらDAT落ちで見れなくなるのです。)という悪徳業者パターン,などですね。

 でね,こういうパターンを考えるにつけ,ネットで何か書かれた場合,どうすればいいか教えましょう。
 それはほっとく!これだけです。

 弁護士に頼んだり,業者に頼んだりしても,運が悪いと全く消せませんし,相手が誰かもわかりません。でも金は確実に取られます。
 人の噂も七十五日と言うじゃないですか。ネットでも同じです。そんなずーっとあんたのことなんか興味無いですって,誰も。ほっときゃいいのです。

 いやいや殺人予告とか,そうなったら,とてもほっとけないのがあるじゃないですか,それは?
 それは警察に行けばいいのです。警察が動くようならそりゃほっとけない程度の酷さですから,あとは警察に任せればいいわけですね。しかもタダ!

 わかりましたかね,原則はほっとく,そして例外的に警察,これで十分です。

 
1 概要
 本件は,弁護士法23条の2第2項に基づく照会をC株式会社に対してした弁護士会である被上告人(愛知県弁護士会)が,本件会社を吸収合併した上告人(日本郵便)に対し,主位的に,本件会社が23条照会に対する報告を拒絶したことにより被上告人の法律上保護される利益が侵害されたと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求め,予備的に,上告人が23条照会に対する報告をする義務を負うことの確認を求める事案です。

 最高裁の判示によると,事実の経過は以下のとおりです。
Aは,平成22年2月,Bに対し,株式の購入代金名目で金員を詐取されたと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟を提起し,同年9月,Bとの間で,BがAに対し損害賠償金を支払うことなどを内容とする訴訟上の和解をした。Aの代理人弁護士は,Bに対する強制執行の準備のため,平成23年9月,所属弁護士会である被上告人に対し,弁護士法23条の2第1項に基づき,B宛ての郵便物に係る転居届の提出の有無及び転居届記載の新住所(居所)等について本件会社に23条照会をすることを申し出た。
 被上告人は,上記の申出を適当と認め,平成23年9月,本件会社に対し,上記の事項について23条照会をしたが,本件会社は,同年10月,これに対する報告を拒絶した。

 要するに,AさんとBさんの間の訴訟が決着したものの,Bさんがお金を支払ってくれずにトンズラしたもんだから,居場所を探したかったわけです。
 かかる場合に,住民票を見りゃあいいじゃんという話はありますが,金を払わずにバックレる人が住民票なんか移しますかいな。
 とは言え,そんな人でも郵便物がきちんと届かないと困りますから,郵便局に転居届は出す場合も多いわけです。なので,Aさんの代理人弁護士はそこに目を付けたわけです。

 で,その場合使ったのが弁護士会照会ってやつです。弁護士照会じゃありませんからね。弁護士法23条の2に基づくものです。
(報告の請求)
第二十三条の二  弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2  弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

 私の所属している一弁だと,1件7,350円で,郵券が770円分必要です(照会の手引 五訂版)。
 凄く高いわけではありませんし,やり方によっては結構良い情報が出ることがあります。なので,離婚も相続もやらないこの私でも何回か使ったことはあります。

2 問題点
 本件では,不法行為となるか,つまり「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」かどうかが問題です。

 本件では,上記のとおり,日本郵便は回答を拒絶したのですね
 とは言え,回答拒絶に対するサンクションは,弁護士法上規定がありません。サンクションが無いからと言って,即それは努力義務だ~絵に描いた餅だ~とはならないのですが(当たり前),やってくれないときにじゃあどうすればいいかって困ってしまいます。

 なので,そういうときは,一般不法行為と構成するのがデフォー,つまり,少なくともお金で掣肘を加え,実効性を担保しておくのですね。なので,この不法行為が問題となるわけです。

 ほんで,こういう事案で一審の名古屋地方裁判所平成23(ワ)7490号は,「被控訴人が本件照会事項の全部について報告を拒絶したことには正当な理由を欠くところがあったが,被控訴人に過失があるとまではいえないと判断して,控訴人らの本訴請求をいずれも棄却した」わけです。

 次に,二審の名古屋高裁
平成25(ネ)957は,「23条照会をする権限は,その制度の適正な運用を図るために弁護士会にのみ与えられており,弁護士会は,自己の事務として,個々の弁護士からの申出が制度の趣旨に照らして適切であるか否かについて自律的に判断して上記権限を行使するものである。そして,弁護士会が,23条照会の適切な運用に向けて力を注ぎ,国民の権利の実現を図ってきたことからすれば,23条照会に対する報告を拒絶する行為は,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成するというべきである。」と,逆転で一部弁護士会の主張を認めたわけです。パチパチパチ。

 しかし,これに納得のいかない日本郵便が上告受理申立てをしたのが本件というわけです。

 弁護士会に法律上保護される利益があるかどうか,これが問題となるわけです。

3 判旨
「23条照会の制度は,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものである。そして,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解されるのであり,23条照会をすることが上記の公務所又は公私の団体の利害に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み,弁護士法23条の2は,上記制度の適正な運用を図るために,照会権限を弁護士会に付与し,個々の弁護士の申出が上記制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会に委ねているものである。そうすると,弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない。
 したがって,23条照会に対する報告を拒絶する行為が,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないというべきである。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の主位的請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却すべきである。被上告人の予備的請求である報告義務確認請求については,更に審理を尽くさせる必要があるから,本件を原審に差し戻すこととする。」

4 検討
 この後,岡部っちと木内っちの補足意見があるのですが,いやあ木で鼻を括るっちゅうのはこういうことなんですかねえ。けつまらん内容です。

 確かにね,困るのは弁護士会ではなく,代理人の弁護士であり,さらに言えば,困るのはその弁護士ではなく,お金が取れない依頼者のAさんなわけです。
 でも,様々な下級審で,代理人弁護士や依頼者の損害賠償請求を結局否定したという経緯があるのです。なので,実効性担保の最後の拠り所がこの弁護士会だった,という面は否定できません。

 にも関わらず,ここもダメだとすると,回答拒絶を掣肘できる方法はなくなってしまったわけです。

 最高裁は,上記のとおり,弁護士会の予備的請求である報告義務確認請求がまだあるからいいじゃないか~みたいな判示をしていますが,仮にこの義務が認められたら何か良いことがあるんですかね~。

 義務違反と認められた途端,日本郵便の一番偉い人の首につけた爆弾が爆発する?そんなわけはありません。スルーで回答が得られる?勿論回答する可能性はありますが,給付訴訟じゃない以上拒絶し続けた場合の方策はない筈です。
 じゃあ回答せよという給付訴訟を再度起こして,また数年待ちますか~。その間にBさんはまた別の所に移るか,もう死んじゃっているかもしれませんねえ。

 まあこういう事案のときは,何か訴訟的なものに早く持ち込んで調査嘱託(民訴法186条)にしろってことですかねえ。ようわかりませんわ。

 ま,最高裁がどう考えているかようわかりませんが,弁護士に頼んでも仕方ねえなあと思わせるような状況が続くと,裁判なんかやっても仕方ねえなあってなりますけどね。
 あ,そうかそれを狙っているんですね。だって,裁判官なんて公務員だから,仕事が少なくても給料変わりませんでした~。こりゃ失礼しました。
 ま,でもそのうちギリシャみたいに給料払える原資も底をつくと思いますけどね。
 
1 概要
 本件は,米軍属である申立人が那覇地方裁判所に起訴されている強姦致死,殺人,死体遺棄被告事件については,沖縄県内において,米軍基地やいわゆる日米地位協定の問題と絡めて,大々的に報道され,また,広範な抗議活動が行われたことから,沖縄県民にあっては,被告人の自白内容,自白を補強する物証等の存在を知り,被告人が有罪との心証を有しているだけでなく,被告人を厳罰に処すべきとの予断を持つに至っているところ,そのような県民の中から裁判員を選任しなくてはならないことなどからすると,那覇地方裁判所において公平な裁判を行うことは不可能であるなどとして,東京地方裁判所への管轄の移転を請求するという,管轄移転の請求事件です。

 これに対して,最高裁第二小法廷は,本件管轄移転の請求を棄却しました。

 これは,ちょっとマスコミでも話題になった,米軍属殺人事件の管轄の移転を求めるやつです。

 まあ気持ちは分かりますがが,っちゅう事件ですね。

2 問題点
 問題点としては,刑事訴訟法17条1項2号に当たるかどうかってやつです。

第17条検察官は、左の場合には、直近上級の裁判所に管轄移転の請求をしなければならない。
・・・
二  地方の民心、訴訟の状況その他の事情により裁判の公平を維持することができない虞があるとき。

 この「裁判の公平を維持することができない虞」ってえのが問題です。


 いやあ私,司法試験の科目に刑事訴訟法があったのですが,こんな条文があったなんて初めて知りました。見たこともないし,2号だったので,裁判員裁判用に改正したのかとおもいきや,昔からあるようですね。

 昭和23年6月9日の参議院で,立法者はこう答弁しております。

二号は大体「地方の民心、訴訟の状況その他の事情」、「その他の事情」と申しますのは、これは被告人の側におきまするところの事情等がこれに入ると思います。そういうような点につきましては、第十七條は現行刑訴とは変つておりません。

 まあこの主張自体米軍経由で出てきたものですので,彼の国の,陪審員制度(jury trial)がいかに偏ったものであるかを逆に推測させてくれますね。

 とは言え確かに裁かれる者としては,怖くてしょうがない所かもしれません。
 なので,最高裁がどう判断したかというのが大事です。

3 判旨
「そもそも裁判員制度は,国民の視点や感覚と法曹の専門性との交流によって,相互の理解を深めることを通じてより良い刑事裁判の実現を目指すものである。そして,裁判員裁判対象事件を取り扱う裁判体は,公平性,中立性を確保できるよう配慮された手続の下に選任された裁判員と,身分保障の下,独立して職権を行使することが保障された裁判官とによって構成され,裁判員は,法令に従い公平誠実にその職務を行う義務を負っている上,裁判長は,裁判員がその職責を十分に果たすことができるように配慮しなければならないとされていることなども考慮すると,公平な裁判所における法と証拠に基づく適正な裁判が行われることが制度的に十分保障されているといえる(最高裁平成22年(あ)第1196号同23年11月16日大法廷判決・刑集65巻8号1285頁参照)。
 このような裁判員制度の仕組みの下においては,所論が主張する点は,那覇地方裁判所において公平な裁判が行われることを期待し難い事情とはいえないから,本件は,刑訴法17条1項2号にいう「裁判の公平を維持することができない虞があるとき」に当たらない。
 よって,本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。」

4 検討
 何かよくわからない判旨ではあります。
 裁判員裁判制度はいい具合に公正な制度なんだから,公平なんだよねえと,ある意味トートロジーのようなことを言って,棄却しております。

 少なくとも申立人の言い分に対して,真正面から答えてはいないように思えますね。ま,これで東京地裁に移すわけにはいかないだろうから,この結論しかないとは思いますがね。

 さて,去年の4月沖縄に行ったことはここでも書きました。
 まあ米軍基地の多さとその規模は本当異常です。
 私は神奈川(相模原市)にも住んでいたころもあり,そこも米軍の基地や駐屯地が多くありました。
 とは言え,陸の相模原市,海の横須賀市と言われたように,神奈川に現在ある米軍の駐屯地等は,戦前の旧日本陸軍と海軍の基地だった所がメインなわけです。

 しかし沖縄の状況は本当異常です。

 今回の事件が起きたとき,私は東京の特許庁の近くにある米国大使館前に,ヘイトスピーチのデモ隊が来るのを今か今かと待ち続けました(ウソ)。アメリカ人は出て行け~♬アメリカ人を殺せ~♬ってね。

 ところが待てど暮らせどそんなデモ隊は現れません。ヘイトスピーチやっている人達って保守ではないの?

 今回の事件の被告人には死刑しかないと思いますが,問題は今回の件にとどまりません。
 もうさあ,本気で米軍に出て行ってもらう時期じゃないですかね。一体いつになったら,自分で汚れ仕事をやる気になるんでしょ。

 個人的には,現在尖閣諸島に対し中共の挑発が盛んになっていますけど,これで中共の実効支配を許す事態にならないかなあと思っています。

 イヤイヤイヤイヤ,それじゃあまずいでしょ,中共に負けるってことですよと思われるかもしれません。でもそれでいいのです。
 ああ,いざとなったら米軍は何もしないんだなあ,しかも自衛隊の出撃すらないのだなあと思い至らせることが重要なのです。

 そうなって初めて,ああ,沖縄に米軍は要らん,自分の身は自分で守るしかないんだなあってことがよくよくわかるのではないでしょうか。そうなってからでも遅くはないのですね。

 でも,中共もそこまでバカじゃないかな~♡。

5 追伸
 毎度おなじみ流浪の弁護士,散歩のコーナーでございます。
 本日はここ山本橋に来ております。
 
 さて,本日の東京の最高気温は,37.7℃ということです。勿論,今年最高です。
 どおりで昼散歩していたら,暑いはずですよ。暑すぎでセミが何匹も道端で死んでましたらからね(ウソ)。

 今年の夏は,初めはイマイチだったのですが,先週の木曜くらいからメーターが上がっているという気がしますね。今週末から夏休みの人も多そうですから,良い夏休みになるのではないかと思います。

 さて,オリンピックの方も少し。
 柔道は,大野選手が金メダルでした。良かったですね。
 今朝はやはりなかなか起きれず,5時に起きたときは,既に女子の方の3位決定戦で,松本選手が出ている途中でした。

 で,大野選手も金メダルの試合だけは見たのですが,いやあこの階級ではちょっと飛び抜けてたのではないでしょうか。それくらい,久々に全く不安になる所のない選手でしたね。

 例えば,金メダルの候補だった女子の中村選手や,海老沼選手だと,自分の組手というか有利な体勢にいつでも持っていけるわけじゃないのですね。自分と同じか自分より格上の選手が何人か居るので仕方がない所ではあります。
 ところが,大野選手は,どんどん自分の組手に持って行って,勝手に技をかけているように見えましたので,よほど差があるのでしょう。実に素晴らしかったです。

 で,そのままチャンネルを変えたら,体操の男子決勝もやってました。予選は何故かシッチャカメッチャカになってしまいましたが,決勝は実に計算し尽くされたかのように,種目が進むに連れてドンドン日本の順位が上がっていきましたね。
 それでも最後から2つ目の鉄棒はヒヤヒヤしながら見ておりました。その5種目が終わって1位になり,最後の床は得意種目なので,これは安心して見ておりましたが。

 ま,何事も諦めないことが肝腎なのかもしれません。私個人はじつにあっさり,諦め早いのですけどね。
 
1 概要
 本件は,再生手続開始の決定を受けた上告人(リーマン・ブラザーズ証券)が,被上告人(野村信託銀行)との間で基本契約を締結して行っていた通貨オプション取引等が平成20年9月15日に終了したとして,上記基本契約に基づき,清算金11億0811万1192円及び約定遅延損害金の支払を求める事案です。
 被上告人は,上記再生手続開始の決定後,自らと完全親会社(野村ホールディングス)を同じくする他の株式会社(野村證券)が上告人に対して有する債権(再生債権)を自働債権とし,上告人が被上告人に対して有する上記清算金の支払請求権を受働債権として上記基本契約に基づく相殺をしたことにより,上記清算金の支払請求権は消滅したなどと主張しています。

 これも日経の報道を見てもらった方が早いでしょう。

 原審の東京高裁平成25(ネ)3891 号(平成26年1月29日 判決)は,「本件相殺は,2当事者が互いに債務を負担する場合における相殺ではないが,再生手続開始の時点において再生債権者が再生債務者に対して債務を負担しているときと同様の相殺の合理的期待が存在すると認められ,かつ,相殺が再生債権者間の公平,平等を害しない場合には,民事再生法において制限される相殺には当たらないと解するのが相当である。そして,本件相殺条項の合意時において,上告人と被上告人は,関係会社を含めたグループ企業同士で総体的にリスク管理をすることを企図しており,本件相殺条項のような3者間の相殺を定めた契約は,分社化が進んだ金融機関のデリバティブ取引における慣行といえる程度に広く用いられていたと推認されること等からすれば,本件相殺は,再生手続開始の時点で再生債権者が再生債務者に対して債務を負担しているときと同様の相殺の合理的期待が存在するものであると認められ,かつ,再生債権者間の公平,平等を害するものであるとまではいえない。そうすると,本件相殺は,同法93条の2第1項によって相殺が禁止される場合に当たらず,同法92条により許容されるものと解するのが相当である。」と判断して,相殺OK!,本件清算金債権は本件相殺によりその全額が消滅したと認め,原告の請求を棄却すべきものとしたわけです。

 これに対して,最高裁は,相殺NG!として,「上告人の請求は,被上告人に対し,清算金4億3150万8744円並びに期限前終了日である平成20年9月15日から同年10月1日までの確定約定遅延損害金16万6841円及び上記清算金に対する同月2日から支払済みの前日まで2%を365で除した割合を日利とする各日複利の割合による約定遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余は棄却すべきであり,原判決を主文第1項のとおり変更することとする。」と,原判決破棄自判したわけです。

 問題点は,倒産と相殺ですかねえ。

2 問題点
 ということで,倒産と相殺が問題なのですが,今回普通のその手の論点とは異なり,三角相殺という所が違います。

 まず,再生債務者のリーマンが,野村信託銀行に債権を持ち,野村信託銀行は,リーマンに対して債権を持っておりません。
 リーマンに対して債権を持っているのが,その関係会社の野村證券です。そして,この野村信託銀行と野村信託銀行は,同じ野村グループということで,野村ホールディングスの100%子会社なわけです。
 なので,全くの第三者というわけではありません。

 さらに,上告人のリーマンと被上告人の野村信託銀行との間の基本契約には以下のような条項があったのです。
ア 一方の当事者の信用保証提供者が,破産決定その他救済を求める手続の開始を申し立てた場合には,当該当事者につき,期限の利益を喪失する事由(以下「期限の利益喪失事由」という。)に該当することとなるものとし,当事者間に存在する全ての取引は,期限の利益喪失事由の発生に伴い行われる関連手続の開始又は申請の直前の時点で終了するものとする(以下,この定めにより当事者間に存在する全ての取引が終了することを「期限前終了」といい,その終了の日を「期限前終了日」という。)。
イ 期限の利益喪失事由が生じ,一方の当事者(甲)について期限前終了をしたときは,他方の当事者(乙)は,乙及びその関係会社(直接的又は間接的に,乙から支配(議決権の過半数を所有することをいう。以下同じ。)を受け,乙を支配し,又は乙と共通の支配下にある法的主体をいう。以下同じ。)が甲に対して有する債権と,甲が乙及びその関係会社に対して有する債権とを相殺することができる(以下「本件相殺条項」という。)。
 この本件相殺条項は,甲(リーマン)が再生債務者となった場合であっても,乙(野村信託銀行)が,自らの関係会社(野村證券)が甲(リーマン)に対して有する債権を自働債権とし,甲の乙に対する債権を受働債権として相殺することができるというものです。

 そうすると,契約にあるんだから,相殺も有効なのでは?となりますよね。

 しかし,民事再生法93条の2第1項1号はこんな感じです。

第九十三条の二  再生債務者に対して債務を負担する者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。
一  再生手続開始後に他人の再生債権を取得したとき。」

 相殺というのは,担保機能と言うように,手っ取り早い抜け駆け弁済のようなものです。
 例えばA社から1億円返せと言われたときに,A社の債権者であるC社から同じ額面1億円の債権を1000万円程度で買ったとします(A社の弁済の能力に疑問があればあり得る話です。)。
 そうすると,債権債務の対立がありますので,相殺すれば,1億円返さずに済みます。何と,1000万円のコストで9000万円のベネフィットが出たわけです。

 ま,通常の場合は,これでよいと思いますよ。民法も認めているわけですからね。でも,上記のとおり,民事再生法では,こういう後での債権を譲り受けての相殺を認めておりません。破産法も確かそうです。

 何故か?

 それは簡単です。仮に再生債務者に対して債務のある人が,その債務を弁済しなくていいとなると,再生計画はシッチャカメッチャカです。その債権が弁済されることを当てにして,総債権者は弁済率等を皮算用するわけです。
 つまり,個人の負担ではあるものの,その期待は総債権者の期待となり,それをむやみに相殺で無くしちゃダメだということなのですね。

 なので,いくら契約で予定されていたと言っても,それは私的自治の原則のらち外の話ではないかと思えるわけです。

 さらに,本件では,そもそも,当事者間で債権債務の対立がありませんので,相殺適状になっていないのでは?という話もありますしね。

 つーことで最高裁は?ってわけです。

3 判旨
「相殺は,互いに同種の債権を有する当事者間において,相対立する債権債務を簡易な方法によって決済し,もって両者の債権関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする制度であって,相殺権を行使する債権者の立場からすれば,債務者の資力が不十分な場合においても,自己の債権について確実かつ十分な返済を受けたと同様の利益を得ることができる点において,受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た機能を営むものである。上記のような相殺の担保的機能に対する再生債権者の期待を保護することは,通常,再生債権についての再生債権者間の公平,平等な扱いを基本原則とする再生手続の趣旨に反するものではないことから,民事再生法92条は,原則として,再生手続開始時において再生債務者に対して債務を負担する再生債権者による相殺を認め,再生債権者が再生計画の定めるところによらずに一般の再生債権者に優先して債権の回収を図り得ることとし,この点において,相殺権を別除権と同様に取り扱うこととしたものと解される(最高裁昭和39年(オ)第155号同45年6月24日大法廷判決・民集24巻6号587頁,最高裁平成21年(受)第1567号同24年5月28日第二小法廷判決・民集66巻7号3123頁参照)。
 このように,民事再生法92条は,再生債権者が再生計画の定めるところによらずに相殺をすることができる場合を定めているところ,同条1項は「再生債務者に対して債務を負担する」ことを要件とし,民法505条1項本文に規定する2人が互いに債務を負担するとの相殺の要件を,再生債権者がする相殺においても採用しているものと解される。そして,再生債務者に対して債務を負担する者が他人の有する再生債権をもって相殺することができるものとすることは,互いに債務を負担する関係にない者の間における相殺を許すものにほかならず,民事再生法92条1項の上記文言に反し,再生債権者間の公平,平等な扱いという上記の基本原則を没却するものというべきであり,相当ではない。このことは,完全親会社を同じくする複数の株式会社がそれぞれ再生債務者に対して債権を有し,又は債務を負担するときには,これらの当事者間において当該債権及び債務をもって相殺することができる旨の合意があらかじめされていた場合であっても,異なるものではない。
 したがって,再生債務者に対して債務を負担する者が,当該債務に係る債権を受働債権とし,自らと完全親会社を同じくする他の株式会社が有する再生債権を自働債権としてする相殺は,これをすることができる旨の合意があらかじめされていた場合であっても,民事再生法92条1項によりすることができる相殺に該当しないものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると,本件相殺は,再生債務者である上告人に対して本件清算金債権に係る債務を負担する被上告人が,上記債権を受働債権とし,自らと完全親会社を同じくするBが有する再生債権であるB清算金債権を自働債権として相殺するものであるから,民事再生法92条1項によりすることができる相殺に該当しないものというべきである。」

4 検討
 まあそうなんでしょうが,そうすると,スキーム作りの点で,若干予測可能性に乏しいですね。
 ま,一旦最高裁が判決を出しましたので,危機時に三角相殺できるなどとした契約条項は見直す必要があるでしょう。
 これもかなりの大手企業が対象となる話であり,私のような何処の馬の骨かわからない弱小弁護士には,関係のない話でござんす~って所です。

 とは言え,ビジネス系で重要な論点がここの所立て続けに最高裁で判示されております。要注意ですね。


 あ,そうそう,今回のこの判決,千葉ちゃんの補足意見があり,それが実に面白いです。

ところで,本件相殺的処理は,上告人の全債権者のための引き当て財産となるべき債権を当事者間の合意である本件相殺条項により消滅させるものである。そして,これは,上告人に期限の利益喪失事由が発生し,その後に関係会社の同意がされることにより,期限の利益喪失事由が発生した時点に遡って本件相殺的処理を行うというものである。内田貴被上告人訴訟代理人(東京大学名誉教授)による「上告受理申立理由書に対する意見書(2)」のとおり,このような当事者間ないし関係会社を巻き込んだ3当事者間における合意による本件相殺的処理は,再生手続開始前に債権債務の差引清算が完結しているものであると主張して,そもそも再生手続の規制の対象にはならず,したがって法92条の相殺該当性を問題にするまでもなく,有効性を肯定できるとする見解もあり得よう。・・・

 そして,具体的には,本件相殺的処理が許容されるのは,法92条1項の規定する相殺に該当する場合であるから,民法505条の定める相殺に当たると評価できるものでなければならない。そして,本件においては,法定相殺とされるための要件のうち,特に,同一当事者間で互いに債権債務が存在していること(以下,この要件を「相互性」という。)が満たされているかどうかが問題となるのである。
2 本件相殺的処理における「相互性」の有無
(1) 相殺について相互性が要求されるのは,相互に債権債務を有する当事者は,相手方の資力に関係なく信頼し合うものであるから,一方の当事者の資力が悪化しても,この信頼を裏切って相殺を禁ずることは,かえって不公平となるので,対当額で債権債務を消滅させる処理が公平に適するという考え方が制度の基礎にあり(我妻榮「新訂債権総論」317頁等参照),相殺についての担保的機能や相殺による債権回収への合理的期待が存在するからであろう。・・・

 いやあ,底意地悪いというか,大笑いというか,露骨ですね。え,気が付きませんかね?
 東大の名誉教授だか何だか知らねえけど,学者崩れの雑魚の意見が何個あろうとも,あの我妻先生はこう言われておるのだぞ,雑魚も家に帰って我妻先生の債権総論のこのページをよく読みなさいバータレ,ということです。

 私の事務所にも一応「我妻」は全部置いておりますので,それを見たところ,上記の部分はほぼ該当頁のコピペです。

 いやあ凄いですね。私の民裁の教官(今は東京家裁の所長)は,はっきりと,裁判所は我妻ですから~よろピコと言っておりましたが,まあそうなんでしょうね(千葉ちゃんも生粋の裁判官)。

 そういえば,民法改正もどうなったんでしょうねえ。TPPも漂流しそうですしね。
 数年前,本当日本に典型的に現れた,アメリカ的グローバル化の波が一気に引くとはね。大元のアメリカ自身で,グローバル化に異議申し立てがなされている状況になるとは(トランプ現象がまさにそれ!),世の中ってえのは本当予想通りに行かないもんじゃないですかね。ねー元参与。
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