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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,控訴人(一審原告,イタリアの会社)が,被控訴人(一審被告,楽天)が運営するインターネットショッピングモールにおいて,一審被告が主体となって出店者を介し,あるいは出店者と共同で,少なくとも出店者を幇助して,一審原告の商品を表示するものとして周知又は著名な「チュッパチャプス」の表示,「Chupa Chups」の表示若しくは一審原告の登録商標に類似する標章を付した商品を展示又は販売(譲渡)し,一審原告の登録商標の商標権を侵害するとともに,不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号又は2号)を行った旨主張して,一審被告に対し,商標法36条1項及び不正競争防止法3条1項に基づき上記標章を付した商品の譲渡等の差止めと民法709条及び不正競争防止法4条に基づき弁護士費用相当額の損害賠償を求める事案の控訴審です。

 原審の東京地裁46部(大鷹さんの合議体ですね。)は,「本件各出店者の出店ページにおける本件各商品の展示及び販売に係る被告の関与(行為)は,商標法2条3項2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」に該当するものと認めることはできず,同様に,不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」に該当するものと認めることもできない。」として,一審原告の請求すべてを棄却しました。
 まあ主体というか,当事者が違うという,形式張った判断ですね。

 これに対し,一審原告が控訴したのが,本件というわけです。

 しかしながら,本件でも知財高裁1部(中野所長の合議体です。)は,控訴を棄却しました(請求棄却の原審とおりでよい,ということです。)。
 一審原告には残念なのですが,ただし,おっと思わせるようなところがありましたので(既に報道等でもご承知の方は多いと思います。),ここでも取り上げました。

2 問題点
 そのおっと思わせるようなところは何かと言いますと,直接の侵害者(「実行行為者」と言った方が誤解が少ないかもしれません。)でない者をとっちめるにはどうすればよいか?の商標バージョンが見られたからです。

 実行行為者でない者をとっちめるのは,著作権法がかなりの先駆者です。本日の日経紙の朝刊の法務欄でも,その行き過ぎによる萎縮効果を緩和すべく,著作権法の改正がまた!議論されているというような話が載っておりました。
 有名なのは,カラオケ法理ですね。カラオケスナックで,客に歌を歌わせていたカラオケスナックの方をとっちめるため生み出されたものです(実行行為者はあくまでも客ですからね。)。通常,このカラオケスナックは,幇助になるようなものなのかもしれませんが,実行行為者の客が著作権法38条で適法行為とされる可能性が高く,そうすると,幇助で問責できないのですね。

 ここまでわざと刑事と民事をごっちゃにしておりますが,知財の法構成って刑事法と非常によく似ております(脱線の予防線です~♫)。
 特許法は特にそうですね。例えば,特許請求の範囲(クレーム)のことを構成要件と呼ぶことがあります!弁理士の方はそれに対して何らの不自然さを感じないと思いますが,一般法の知識がある者からすると,えっ!って感じですよね。構成要件と言えば,刑法の「罪」の部分を指すことが多いからです(「人を殺した」の刑法199条,「人の身体を傷害した」の刑法204条など。)。
 この同じ言葉,おそらくドイツ語由来だと思いますが,ドイツ語でも同じ言葉だったのでしょうね(略称は,Tbかな。)。そして,内容も基本同じです。
 特許の構成要件には二つの機能があるとされておりました。一つは自由保障機能,二つは発明分別機能です。前者は,構成要件に入らなければ,業としての実施は自由,好きにその技術を使って良いとするものです。後者は,他の発明と当該発明を区別するものです。区別できなければ,審査審判訴訟,その他実施する上でも困りますからね。
 他方,刑法の構成要件の機能も,自由保障機能と,他罪と区別する機能があると言われております。つまり,構成要件に該当しなければ,何をやろうが国民の自由であり,他の罪と区別できなければ,やはり色々困る,ということです。

 ということですから,刑法上の構成要件の機能と特許のクレームの構成要件の機能は,全く同じということがわかりますね。なお,この考えは私のオリジナルではなく,弁理士時代のソニー知財部での師匠にあたるHさんの受け売りです。さらに,そのHさんも有名な知財弁護士であるK先生(名前を出せば誰もが知っている方です。)経由だそうです。

 脱線しまくりですが,私はさらに,共犯の考え方も刑事法と知財で似ているところがあると思います。
 例えば,特許の間接侵害で,独立説と従属説があるのはご存知でしょうが,これは刑法の共犯で言う実行従属性の論点の話とそっくりです。
 その刑法が実行行為をやっていない者をいかにとっちめるか色んな発明やら工夫やらを行なって対処したように(間接正犯,共同正犯・・),知財でも実行行為を行なっていない者をどうやってとっちめるかが議論となっているわけです(漸く本題に戻りそうかなあ)。

 上記のとおり,幇助的なものでとっちめようとすると,実行行為者が適法な場合は,基本アウトです。また,幇助って要するに手助けですから,何か迫力に欠けますね。ですので,著作権法では,実行行為者でない者を直接の侵害者とすることに苦労しそうしてきたわけです。ただ,私は今のそういう著作権法のトレンドは行き過ぎていると思います。

 他方,他の知財,工業所有権法はどうかというと,特許法も商標法も,間接侵害(実行行為者以外をとっちめる場合)は法定されているのですね(ここが著作権法と違います。)。これが,特許法101条であり,商標法37条です。
 ですので,従来,間接侵害の範囲について,大して規定のなかった著作権法では,大いに発達し,拡張しすぎるくらいに拡張し(典型的にはカラオケ法理♫),他方,下手に規定のあった特許法・商標法では,規定どおりでいいんじゃねえの~ってことで拡張はあまりなかったと言えます。

 そして,今回,商標法において,明文のない間接侵害の拡張について,一定程度認められるかも?という規範が登場したのが大きいわけですね。

3 判旨
 「本件における被告サイトのように,ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し,これを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合において,上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは,商標権者は,直接に上記展示を行っている出店者に対し,商標権侵害を理由に,ウェブページからの削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが,そのほかに,ウェブページの運営者が,単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず,運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い,出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって,その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当理由があるに至ったときは,その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り,上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し,商標権侵害を理由に,出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。けだし,(1)本件における被告サイト(楽天市場)のように,ウェブページを利用して多くの出店者からインターネットショッピングをすることができる販売方法は,販売者・購入者の双方にとって便利であり,社会的にも有益な方法である上,ウェブページに表示される商品の多くは,第三者の商標権を侵害するものではないから,本件のような商品の販売方法は,基本的には商標権侵害を惹起する危険は少ないものであること,(2)仮に出店者によるウェブページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても,出店者が先使用権者であったり,商標権者から使用許諾を受けていたり,並行輸入品であったりすること等もあり得ることから,上記出品がなされたからといって,ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえないこと,(3)しかし,商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり,ウェブページの運営者であっても,出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識,認容するに至ったときは,同法違反の幇助犯となる可能性があること,(4)ウェブページの運営者は,出店者との間で出店契約を締結していて,上記ウェブページの運営により,出店料やシステム利用料という営業上の利益を得ているものであること,(5)さらにウェブページの運営者は,商標権侵害行為の存在を認識できたときは,出店者との契約により,コンテンツの削除,出店停止等の結果回避措置を執ることができること等の事情があり,これらを併せ考えれば,ウェブページの運営者は,商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは,出店者に対しその意見を聴くなどして,その侵害の有無を速やかに調査すべきであり,これを履行している限りは,商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが,これを怠ったときは,出店者と同様,これらの責任を負うものと解されるからである。
 もっとも商標法は,その第37条で侵害とみなす行為を法定しているが,商標権は「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」権利であり(同法25条),商標権者は「自己の商標権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる」(同法36条1項)のであるから,侵害者が商標法2条3項に規定する「使用」をしている場合に限らず,社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能というべきであり,商標法が,間接侵害に関する上記明文規定(同法37条)を置いているからといって,商標権侵害となるのは上記明文規定に該当する場合に限られるとまで解する必要はないというべきである。」

4 検討
 上記規範を見ると,管理・支配+利益享受+知って合理的期間内に削除しない,という3つの要件を満たすと,直接の行為者(実行行為者)と同様に問責されるということですね。いわば,カラオケ法理+αです~♫

 さて,このように具体的事例まで下がってくると,何か思い浮かびませんか?IT企業が自分でやったことじゃないのに,責任を負う又はそれに準じたシチュエーションに追い込まれるという場合を。

 そう,プロバイダ責任制限法関係で,よくあるパターンですよね。
 IT企業などの主催などする掲示板,オークション,ブログなどなどに,名誉毀損,プライバシー侵害,著作権侵害などの情報が載せられ,しかしながら,誰がやったかわからないので,プロバイダ責任制限法に基づいて発信者情報の開示をやるパターンです。そして,こういう場合,発信者情報の開示とともに,おまえがきちんと情報を削除するなりしなかったので,損害を被ったのだ~という請求もすることがあります。今回の事例はそういうパターンと一緒です(今回は誰がやったかは明々白々)。

 そして,プロバイダ責任制限法的なもので,商標法が問題となった場合は少ないのですが,先例性のあるものとして,東京地裁平成17年(ワ)第24370号があります。
 これは,あるレンタルサーバー屋さんの管理する契約者のウェブに,原告の商標が載っていたというパターンです(対契約者に関しては,本件と同様,商標権侵害が前提。)。
 この事件については,東京地裁40部(市川さんの合議体でした。)は,原告側からの商標登録簿の写しなどの添付がなく,侵害かどうか判断するのに時間を要した等として,商標権侵害をやはり認めませんでした。そして,規範を示さず事例的にあてはめを行っただけですので,果たして,このようなシチュエーションで,直接の行為者(実行行為者)でない者が問責されることはあるのかということは不明なままでした。

 他方,今回の事例では,事実審の統一を図ろうとする知財高裁が一定の規範を示したというのですから,インパクトはあると思いますね。
 
 ところで,ふと思ったのですが,上記の判旨に,「商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり」などとあります。折角ここまで述べているのですから,この点に関連して,知財高裁でも刑事事件をやるようにしてはいかがでしょうか?

 知財高裁設置法を見ると,民事だけ,とは一言も書いておりません。それどころか,二条三号には,「前二号に掲げるもののほか、主要な争点の審理に知的財産に関する専門的な知見を要する事件」とあります。さらに,刑訴法の改正も不要の筈です(知財高裁は東京高裁の特別支部ですので,東京高裁に管轄ある事件は,知財高裁にも管轄がある筈です。支部と本庁間の話は,単なる事務分配の話に過ぎませんので。)。
 そうすると,最近そして今後も多いであろう,著作権法絡みの複雑な刑事事件の控訴審は知財高裁でやったらどうですかな~。民事の知財事件は減っておりますので,裁判官を遊ばせる手はないと思いますぜ。






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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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