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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告が下記の本願商標につき商標登録出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決(商標法4条1項11号に該当)を受けたことから,その取消しを求めた事案です。

 本件商標は以下のとおりです。指定商品は,29類と32類です。
b36e6d76.jpg






 これに対して,知財高裁1部は,審決を取消しました。要するに,各引用商標1~3と類似していない,とのことです。

 引用商標は,以下のとおりです。

 引用商標1(指定商品は,32類)
fffed93c.jpg






 引用商標2(指定商品は,5類と10類)
6ec88644.jpg






 引用商標3(指定商品は,29類)
bcf28851.jpg






 まあ,これもよくあるパターンなのですが,あまりに典型的なので,取り上げることにしました。

2 問題点
 商標は特許とは大きく異なります。何と言っても創作物ではないということに尽きますね。もちろん,実際のネーミングは創作物に違いないのですが,一から創りだすのではなく,選択しただけ,という前提に立っているのです。でも,そんなこと言っては特許も著作権も多かれ少なかれそうですよね。

 さて,そのような前提に立つと,新しい商標などというものはありえないとまでは言いませんが,少なくとも重きを置かないということになります。それよりも,信用を害さないか,他者との混同が生じないか,そういう視点が大事だということになるわけです。
 具体的には,他者と類似の商標は登録できないということになるのですが,その視点も既存の商標と同じだからということではなく(新しい,古いの問題ではないということです。),誤認混同を惹き起こすか否かという視点で見ないといけません。

 特許をやっている頭と違う頭で考えないとダメなわけです。

 さて,本件ではどう判断したのでしょうか。

3 判旨
「 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に,商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品・役務に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者・需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品・役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品・役務の出所の誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。 」

「 また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標について,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者・需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合を除き,許されないというべきである(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,同平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,同平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照。)

引用商標1
「 以上のとおり,両商標の外観が共通するのは,その構成部分に漢字2文字の部分を有し,そのうちの一文字が「潤」であることのみであって,全体的に観察すると,両商標の外観は著しく異なる。 」
「 以上のとおり,両商標とも特定の観念を生じるとは認められないから,観念において比較することはできず,観念が同一又は類似するということはできない。 」
「 以上のとおり,本願商標と引用商標1の称呼は,「ジュンコウ」との部分で一部重なっているといえるが,全体的に観察すると,両商標の称呼は類似しているとまではいえない。 」
「そうすると,本願商標が使用されている原告商品と引用商標1及び3が使用されている商品とは双方とも健康食品であるという点では共通性があるものの,商品の構成及びその販売形態は著しく異なるものと認められるから,実際の取引においては,商品の出所の誤認混同をきたすおそれがあるとはいえない。 」
「 以上のとおり,本願商標と引用商標1とは,外観が著しく異なり,両者とも特定の観念を生じないから観念において比較することができず,称呼も類似するとはいえない上,上記取引の実情をも考慮して取引者・需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して判断すると,両者は類似の商標ということはできないというべきである。 」
引用商標2
「 以上のとおり,両商標は,「うるおう」との文字で共通する部分があるのみであって,その外観は著しく異なる。 」
「以上のとおり,両商標は,観念を一部共通にすると認められる。」
「本願商標と引用商標2の称呼は,「ウルオウ」との部分で一部重なる部分があるが,全体的には類似するとまではいえない。 」
「 以上のとおり,本願商標と引用商標2とは,観念について一部共通する部分があり,称呼についても一部重なる部分があるものの,全体的には類似するとはいえず,特に外観が著しく異なるから,取引者・需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して判断すると,両者は類似の商標ということはできないというべきである。 」

引用商標3
「  以上のとおり,本願商標と引用商標3の外観は,その構成の中で大きな部分を占めるのが漢字2文字であり,そのうちの1文字がいずれも「潤」である点で共通するが,もう1文字につき前者が「煌」であり,後者が「甦」であって全く共通性のない文字であるばかりか,前記(2)ア(ア) のとおり,本願商標には識別力のある「本草製薬の」及び赤地の四角形内に白抜きの「うるおう」の文字が統一的にバランスよく配されているから,全体的に観察すると,両商標の外観は異なるというべきである。   」
「 以上のとおり,両商標とも特定の観念を生じるとは認められないから,観念において比較することはできず,観念が同一又は類似するということはできない。 」
「 以上のとおり,本願商標と引用商標3の称呼は,「ジュンコウ」との部分で一部重なっているといえるが,全体的に観察すると,両商標の称呼は類似しているとまではいえない。 」
「 以上のとおり,本願商標と引用商標3とは,外観が異なり,両者とも特定の観念を生じないから観念において比較することができず,称呼も類似するとはいえない上,前記(2)エで述べた実際の取引の実情をも考慮して取引者・需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して判断すると,類似の商標ということはできないというべきである。  」

4 検討
 規範は,基本的にいつもの氷山事件ですね。
 そして,分析的ではあるが,あっさりした判旨であるというところでしょう。

 本件の事例だと,引用商標1や3とは,類似しているとも言えなくはないか~という気もしますが,これは判断が分かれそうです。

 というように,商標の類否は,商標のキモなのですが,かなり難しいものです。
 商標は単なる文字列だったりする場合が多く,簡単だと思っている人が多いと思いますが,実は特許よりも難しいと思います。本件でも本人出願のようで,審判までは本人がやっているようですが,訴訟からは弁護士を代理人として立てています。ロゴの標章だし代理人なんか使わずとも平気だーい,と思ったのでしょうね。結局,訴訟で弁護士に頼むことになってしまいましたので,初めから代理人に頼んだ方が安上がりだったのではないでしょうか~。まあいつもはうまく行っていたのでしょう。

 ところで,我が事務所というか,私も商標出願はときどきやっています。他方,私は,理系の弁護士で,弁理士試験にも受かり,ソニーでは特許の仕事をやっていたわけですが,現在特許の出願はやっておりません。

 おやおや,特許に比べて馴染みがないはずであり,しかも上で特許より難しいと言っているのに,どうして特許出願をやらずに,商標の出願はやっているの?おかしいのでは?と訝る向きもあろうかと思います。

 それは,2の問題点で書いたように,商標の特性にあります。商標に新規性はいらないわけですから,何かこちらのミスで特許庁手続に失敗した場合でも,取り返せるのです。商標は,基本,先願主義で早いもの勝ちではあるのですが,使用による信用の蓄積が何よりも重視されますので,それさえきちんとしていれば,いつでも出願し,登録まで持って行けることができるのです。

 他方,特許はそうではありません。手続に一度失敗すると取り返しががつきません。自分の過去の出願により,出願し直しの出願は,新規性なしなどとして,拒絶されてしまいます。

 原発の例を言うまでもなく,人は失敗するものであり,失敗する前提ですべて考えないといけないわけです。自分の能力等を客観的に分析し,失敗した場合にコンペンセイトできるのであれば,やればよいのですが,特許の場合はとてもコンペンセイトできません。
 ですので,経歴からすると,何故特許出願やらないの?という話になるのですが,頭の悪い人間なりに冷静に考え,こう判断しているということです。

 あ,別に商標は失敗ばかり,出願し直しばかりしているというわけではありませんからね。仮に,の話ですからね。商標の出願もご安心してご依頼ください,ね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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