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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,被告の有する,「本件商標」記載の構成(英字のBlue Noteで,単語間に音符のマークなどがある。)からなり,指定役務を「指定役務」記載のもの(「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,織物及び寝具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供・・・,要するに35類の小売役務)とする登録第5190076号商標に対し,原告が,平成22年1月19日,「BLUE  NOTE」又は「ブルーノート」という商標(引用商標)を引用して,本件商標の登録は,商標法4条1項15号,19号に該当するなどと主張し,本件商標登録を無効とすることを求めて,審判請求(無効2010-890002号事件)をしたものの,特許庁が不成立審決を下したため,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部(飯村さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,出所の混同等は生じない,ということですね。

2 問題点
 珍しく商標の判決にしたのは,理由があります。この問題となっている商標がいわゆる小売役務商標だからです。ただ,小売役務商標ってやつは正直よくわかりません。
 条文は,「2  前項第二号の役務には、小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする。」とする商標法2条2項が追加になっただけです。
 これが追加になった経緯としては,国際調和,小売業自身のブランドもアップするようになってきた,従前の制度では商品(役務ではなく)についてたくさん出願しなければならず面倒(金もかかる。),などなどです。この立法事実というか,立法趣旨はわかりますよね。ここまではよいです。

 しかし,その後,特許庁の作った政令(根拠は,商標法6条2項の「前項の指定は、政令で定める商品及び役務の区分に従つてしなければならない。」)中の,35類の「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(35K01)とそれ以外(35K02-21)に分けたことで(前者がいわゆる総合小売で,後者が特定小売というわけですね。),ただでさえ,商品との関係性がわかりにくかったのが,尚更わかりにくいものになってしまいました。

 わかりにくい,と抽象的に書きましたが,商品商標などとの権利範囲の関係の点です。特に,総合小売の場合,非常に一般的・抽象的な役務の指定となりますから,衣料品,飲食料品又は生活用品の商品(さらにはその特定小売役務とも)と,類似の関係に入ってしまうのではないか,そうすると,先使用はともかくも,権利侵害となる範囲が非常に広くなってしまうのではないか(要するに,禁止権の肥大ですね。),と思われるからです。

 この点,侵害とは逆のパターン(使用ではなく不使用が問題となる。)として,判例タイムズ1351号,235ページのH21(行ケ)10203号(平成21年11月26日)の評釈が参考になります。

 要するに,小売役務商標の「使用」とは何か?総合小売役務商標と特定小売役務商標との間(さらには商品商標)で,「使用」に違いは生じるのか?従来の商品商標との住み分け,特に「使用」の整理はいかに考えれればよいのか?などなどこれらの問題は,判決の蓄積を待たないといけません。

 さて,そこで,今回の判決です。侵害訴訟ではありませんが,上記のような問題点に対し,「学者的」な判示をして,裁判所がどう考えるか(正確にいうと,飯村さんがどう考えるかですかな。)を示している点で,非常に参考になります。

3 判旨
「ア  はじめに――本件商標の効力について
 本件商標に係る指定役務は,①「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(「本件総合小売等役務」),及び②「『菓子及びパンの小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』など取扱商品の種類を特定した上で,それらに属する商品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(「本件特定小売等役務」)からなるものである。
 商標法25条は,「商標権者は,商標登録に係る指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」旨を規定し,同法37条は,「登録商標に係る指定役務と同一又は類似する役務について,登録商標と同一又は類似商標を使用する行為を侵害とみなす」旨を規定する。したがって,「商標登録の査定ないし商標権の設定登録」は,商標権者に対して,指定役務(類似を含む。)の範囲で,登録商標を使用する独占権を付与する行政行為等である。
 そこで,以下,本件商標中の「小売等役務商標の査定ないし商標登録」の効力の及ぶ範囲について検討する。上記のとおり,「小売等役務商標の査定ないし商標登録」行為は,独占権を付与する行政行為等であるから,独占権の範囲に属するものとして指定される「役務」は,例えば,「金融」,「教育」,「スポーツ」,「文化活動」に属する個別的・具体的な役務のように,少なくとも,役務を示す用語それ自体から,役務の内容,態様等が特定されることが必要不可欠であるといえる。
 ところで,「小売役務商標」は,上記の,独占権の範囲を明確にさせるとの要請からは大きく離れ,「小売の業務過程で行われる」という経時的な限定等は存在するものの,「便益の提供」と規定するのみであって,提供する便益の内容,行為態様,目的等からの明確な限定はされていない。「便益の提供」とは「役務」とおおむね同義であるので,仮に何らの合理的な解釈をしない場合には,「便益の提供」で示される「役務」の内容,行為態様等は,際限なく拡大して理解,認識される余地があり,そのため,商標登録によって付与された独占権の範囲が,際限なく拡大した範囲に及ぶものと解される疑念が生じ,商標権者と第三者との衡平を図り,円滑な取引を促進する観点からも,望ましくない事態を生じかねない。例えば,譲渡し,引渡をする「物」等(小売の対象たる商品,販売促進品,景品,ソフトウエア,コンテンツ等を含む。)に登録商標と同一又は類似の標章を付するような行為態様について,これを,小売等役務商標に係る独占権の範囲から,当然に除外されると解すべきか否かについても,明確な基準はなく,円滑な取引の遂行を妨げる要因となり得るといえる。
 上記の観点から,本件について検討する。
 まず,「特定小売等役務」においては,取扱商品の種類が特定されていることから,特定された商品の小売等の業務において行われる便益提供たる役務は,その特定された取扱商品の小売等という業務目的(販売促進目的,効率化目的など)によって,特定(明確化)がされているといえる。そうすると,本件においても,本件商標権者が本件特定小売等役務について有する専有権の範囲は,小売等の業務において行われる全ての役務のうち,合理的な取引通念に照らし,特定された取扱商品に係る小売等の業務との間で,目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当である(侵害行為については類似の役務態様を含む。)。
 次に,「総合小売等役務」においては,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」などとされており,取扱商品の種類からは,何ら特定がされていないが,他方,「各種商品を一括して取り扱う小売」との特定がされていることから,一括的に扱われなければならないという「小売等の類型,態様」からの制約が付されている。したがって,商標権者が総合小売等役務について有する専有権の範囲は,小売等の業務において行われる全ての役務のうち,合理的な取引通念に照らし,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務との間で,目的と手段等の関係にあることが認められる役務態様に限定されると解するのが相当であり(侵害行為については類似の役務態様を含む。),本件においても,本件商標権者が本件総合小売等役務について有する専有権ないし独占権の範囲は上記のように解すべきである。そうだとすると,第三者において,本件商標と同一又は類似のものを使用していた事実があったとしても,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品」を「一括して取り扱う」小売等の業務の手段としての役務態様(類似を含む。)において使用していない場合,すなわち,①第三者が,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る」各種商品のうちの一部の商品しか,小売等の取扱いの対象にしていない場合(総合小売等の業務態様でない場合),あるいは,②第三者が,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る」各種商品に属する商品を取扱いの対象とする業態を行っている場合であったとして,それが,「衣料品,飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う」小売等の一部のみに向けた(例えば,一部の販売促進等に向けた)役務についてであって,各種商品の全体に向けた役務ではない場合には,本件総合小売等役務に係る独占権の範囲に含まれず,商標権者は,独占権を行使することはできないものというべきである(なお,商標登録の取消しの審判における,商標権者等による総合小売等役務商標の「使用」の意義も同様に理解すべきである。)。「総合小売等役務商標」の独占権の範囲を,このように解することによって,はじめて,他の「特定小売等役務商標」の独占権の範囲との重複を避けることができる。」

4 検討
 これって,混同するかどうか結論が出ればよい話ですよね。上記の判示部分って判例(レイシオ・デシデンダイ)なんでしょうか,それとも傍論(オビタディクタム)?

 まあそういうことはありますが,上記の問題点についての整理した考えを示すものとしては非常に有用と思えますね。私も人に聞かれたら,これを拝借しましょう。
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