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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,原告ら(アディダスのグループ企業)が,特許庁に対し,被告(ニッセン)の有する本件商標登録の無効を求めて審判(無効2010-890100号事件)を請求したものの,特許庁が不成立審決(商標法4条1項15号該当せず,同項7号にも該当せず。)をしたことから,これに不服の原告らが,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部(芝田さんの合議体です。)は,審決を取り消しました。要するに,「本件商標は,商標法4条1項15号に該当」するということです。

 先週末ちょっと話題になりましたね。判決のアップは今週に入ってからされたようですが。
 つまり,シューズの3本ラインの商標を持っているアディダスが,4本ラインの商標を持っているニッセンに対し,それって,どうなのよ,ということで無効審判を提起し,特許庁は無効じゃないとしたものの,知財高裁はやっぱ無効じゃね,としたということです。
 
 ニッセンの本件商標は,
 登録番号 第4913996号
 出願日 平成17年5月25日
 登録日 平成17年12月9日
 商品及び役務の区分 第25類
 指定商品 「履物,運動用特殊靴」
 です。
  アディダス側主張の引用商標は23個もあるのですが,引用商標1と本件商標を示します。
 f4a18edf.jpeg
上が,本件商標で,下が,引用商標1です。

4本ラインと3本ラインの対比ってところですね。





2 問題点
 問題点としては,4条1項7号の公序良俗違反の主張もあったのですが,裁判所で判断しているのは,4条1項15号だけですから,これのみ考えますね。

 4条1項15号を示します。
 「十五  他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)
 括弧書きが結構重要です。つまり,他人の登録商標と類似の場合は,そっち(11号)でやってね,ということです。

 とすると,この「混同を生ずるおそれ」って何だろう??ってことがポイントです。

 まあしかし,はっきり言って,憲法以上に抽象的でこのままの文言では,何のこっちゃさっぱりわかりませんわな。ただ,上記のとおり,類似関係の規定とは別に規定されていますので,商標の類似,商品等の類似が生じていない場合でも適用があることは確かです。
 でもそういう場合ってどういう場合?がやはり疑問として残るのですけどね。

 この点について,判例はあります。レール・デュ・タン事件です(平成12年07月11日 最高裁判所第三小法廷
 「 1 【要旨1】商標法四条一項一五号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。けだし、同号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ、その趣旨からすれば、企業経営の多角化、同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業や市場の変化に応じて、周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。
 そして、【要旨2】「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。
 
 この事件は,わかりやすいです。商標自体は,おそらく類似の関係にあり,商品等が非類似の関係にあった場合ですからね(4条1項11号が使えない。)。

 とすると,商標が非類似で商品等が類似の場合,商標も非類似で商品等も非類似の場合にはどうなるのか~というのは気になりますけどね。ですので,上記の要旨2に線を引っ張ったわけです。
 この点について,最高裁は,やはり,商標の類似性というのが重要で,あと著名性というのも重要,その後,商品等の類否,需要者側の共通性,そしていつものその他と,最後にお決まりの総合判断,というわけです。

 ま,最高裁がこう言ってますので,実務家としてはこれに従うしかないなっと。

3 判旨
「イ 本件商標は,上記(2)アのとおり,細長い4本の台形様ストライプからなるものであるが,その指定商品「履物,運動用特殊靴」に属する運動靴においては,同ウに認定したとおり,靴の甲の側面に商標を付す表示態様が多く採用され,そのような態様で付された場合,商標の上下両端部における構成が視認しにくく,また,4本線の部分とそれらの間に存在する3つの空白部分につき,4本線か3本線かが紛れる場合が見受けられるのであり,その場合,参考図(別紙記載11a,b)のような構成のものと区別することが困難であるともいえる。
 そして,4本線商標とスリーストライプス商標との相異の程度について,別の角度から検討すると,本件商標の構成と同様に4本の長短のある台形様図形をやや傾けて互いに平行に等間隔で配置してなる4本線商標(引用商標1,2の図形部分に似た白色の4本線のもの1件,黒色の4本線のもの3件)の事例について,特許庁において,アディダスの業務に係る商品と出所混同を生ずるおそれがあり,商標法4条1項15号に該当するとの認定がなされ,登録無効審決又は登録取消決定が確定していることが認められる(甲93の1,2,甲94,122~127)。
 そうすると,運動靴の甲の側面に付された本件商標に接した取引者,需要者は,本件商標の上下両端部における構成が視認しにくい場合や,本件商標から,4本の細長いストライプではなく,それらの間に存在する空白部分を3本のストライプと認識する場合などがあり,これらのことから,3本のストライプから著名なアディダスのスリーストライプス商標を想起するものと認められる。また,4本線商標かスリーストライプス商標かという相異についても,靴の甲の側面に商標として付された場合,さほど大きな区別のメルクマールになるものとはいえない。
 さらに,本件商標は,4本線商標というのみならず,台形様図形の向かい合う2辺の各々に沿って表示された2本のステッチ状の模様とその間に均等間隔に表示された多数の小さな丸点が描かれている点において,引用商標と異なることは確かであるが,アディダスのスリーストライプス商標の付された運動靴において,甲の両側面に付されたスリーストライプス商標の各ストライプの向かいあう2つの長辺に沿ってその内側に2本のステッチ状の模様(これは商標を靴の甲の側面に付す場合の縫い目のようにも見える。)のあるものが多数存在し,3本のストライプ間の中央部又はストライプ中央部にストライプに沿って直線上に多数のパンチング(小さな丸い孔)模様のあるものも存在することを考慮すると,本件商標の「2本のステッチ状の模様」及び「多数の小さな丸点」は,本件商標の構成において,格別の出所識別機能を発揮するものと認めることはできない。

ウ  以上検討したところによれば,単に本件商標と引用各商標との外観上の類否を論ずるだけでは足りないのであって,本件商標と引用各商標(アディダスの著名商標)との構成態様より受ける印象及び両商標が使用される指定商品の取引の実情等を総合勘案すると,本件商標を指定商品「履物,運動用特殊靴」に使用したときは,その取引者,需要者において,当該商品がアディダスの業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものと認められる。」

4 検討
 ま,最高裁の規範とおりってところでしょうか。ポイントは①アディダスの3本ラインの著名性(上記の判旨では当たり前過ぎて省略しました。),②4本ラインも構成によっては,3つの隙間が3本ラインに見えてしまう,ということですね。
 商標自体の類似性と,著名性がポイントだな~って感じです。

 ただ,4本線と聞いて私が真っ先に思い浮かんだのは,プロケッズですね。確か,昔4本線のプロケッズって結構売ってたような気がします。これを読んで,そうそうと思った方は多いと思いますよ。

 そこで,ちょっと検索したところ,見事にその画像が全くありませんね。うーん。

 判旨でも書いていますが,「4本線商標(引用商標1,2の図形部分に似た白色の4本線のもの1件,黒色の4本線のもの3件)の事例について,特許庁において,アディダスの業務に係る商品と出所混同を生ずるおそれがあり,商標法4条1項15号に該当するとの認定がなされ,登録無効審決又は登録取消決定が確定していることが認められる」とあるのは,このことでしょうかな。おーこわ。

 これで4本ラインは市場から完全駆逐されそうです。次は2本ラインなのでしょうが,これは難しいでしょうね。ちなみに,2本ラインは,上記のプロケッズもそうですし,パトリックも2本ラインですよね。

 あと,勘違いなきようにして欲しいのは,今回侵害訴訟ではありませんので,被告のニッセンがそれでも4本ラインのシューズを販売できるかどうかという問題には決着がついていない,ということです。
 例えば,アディダスがニッセンの商標権侵害を問おうとした場合,商標権侵害の要件は,登録商標(この場合はアディダスの3本ラインです。)との少なくとも類似です(25条,37条各号)。
 ところが,上記のとおり,今回4本ラインのニッセン商標と,3本ラインとのアディダス商標との類否の判断はしてないのですね(今回は,あくまで類似性の話です。)。むしろ,商標自体は非類似じゃないかと思います。
 ですので,ストレートに商標権侵害訴訟をやったところで,請求棄却になるのではないでしょうか。

 じゃあどうするか,あとは不競法しかありません。こういういわゆるダイリューション系の問題を解決するために,不競法2条1項2号が創設されたわけです。
二  自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
 しかし,この規定にしても,「著名な商品等表示と同一若しくは類似のもの」とあり,類似を越えた場合には手が出せないのです。
 ですので,実際にニッセンが今後も使い続けた場合,なかなか厳しいかなあと思います。勿論,今回の件は,ニッセンにとっては,痛手ではありますよ。
 
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