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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は, 第32類「レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」を指定商品として,後記の構成からなる登録第5427470号商標(平成21年12月1日登録出願,平成23年6月27日登録査定。)の商標権者である原告(カルピス)に対し, 訴外サントリーホールディングス株式会社は,平成23年10月21日,本件商標は,自他商品識別標識としての機能を果たし得ず(商標法3条1項3号),また,本件商標は,需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができない商標に該当する(同項6号)として,登録異議の申立てをし,更に,訴外キリンホールディングス株式会社も,同月24日,本件商標は,自他商品識別標識としての機能を果たし得ない(同項3号)として,登録異議の申立てをし,これに関し,この2件の登録異議の申立ては,異議2011-900380号事件として特許庁で審理され,特許庁は,平成24年9月4日,本件商標の商標登録を取り消す旨の決定(商標法3条1項3号に該当し,また,本件商標について使用により自他商品識別力を獲得したものと認められないから,同条2項に該当しない。)をしたため,これに不服の原告が,取消決定取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁1部(飯村さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。要するに,取消決定そのままでよし,としたわけですね。

 マスコミでも結構取り上げられた,例のほっとレモン商標事件です。
 
 商標はこのとおりです。
 まあ,なかなか登録の難しい商標ということであろうことは,ちょっと見わかるのですのですが,中身に行きますかね。

2 問題点
 問題点は,上記のとおり,商標法3条1項3号に該当し,識別力がなく,3条2項に非該当ということは,使用により識別力を獲得したわけでもない,ということの適否ですね。

 その前に,あまりここでも取り上げたことのない,異議の話も少し触れましょうかね。昔むかしは,異議という制度は特許にもありました。更に昔は付与前異議ということでしたが,trips協定に伴って,付与後異議となり,その後,ここで,disったように,平成15年改正で,なくなりました。
 ただし,なくなったのは,特許のみで,商標は生き残ったのですね。
(登録異議の申立て)
第四十三条の二  何人も、商標掲載公報の発行の日から二月以内に限り、特許庁長官に、商標登録が次の各号のいずれかに該当することを理由として登録異議の申立てをするこ とができる。この場合において、二以上の指定商品又は指定役務に係る商標登録については、指定商品又は指定役務ごとに登録異議の申立てをすることができ る。
一  その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定に違反してされたこと。
二  その商標登録が条約に違反してされたこと。 」

 
 
私がソニーに居た頃は,出た公報をその分野の担当者がくまなくチェックし,やばい特許には異議をかけるというのがデフォ―でした。ですので,商標も同じように今でもやっていると思います。

 本件でも,サントリーとキリンが,その異議をかけたわけですね。ただ,異議というのは,再審査のような扱いで,基本異議をかけた人達は,異議の審理から外れます。最初だけ,当事者主義で,あとは職権主義というわけです。他方,異議をかけられた方は,再度の審査という感じですから,場合によっては,意見書を提出することになります。

 ですので,異議をかける方は,ダメで元々ということで,フィーもそんなにかからないし,手続きの負担もありませんので,結構有意義な制度という感じがします。
 他方,かけられる方は,何とか苦労して登録までしたのに,またこれかよ~!って感じがしますねえ。

 あ,あと,異議は,審判ではありませんので,その取消訴訟は,審決取消訴訟でないことに注意です。ただ,査定系の審決取消訴訟と実際行政訴訟法上どういった違いがあるのかは,私にはわかりません。こういうのはオナニー大好きの学者先生に尋ねるとよいでしょう。

 で,次に,取消の理由ですが,商標法3条1項3号は,こういうやつです。
三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務 の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる 商標 」

 そして,3条2項は,こうです。
「前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。 」

 まず,商標法3条1項3号は,所謂記述的商標はダメよ,と言っているわけです。判決であるのは,ビールに「本生」ってやつの事件が有名です。
 ただ,商標ってやつは,別にその言葉を保護するわけでなく,その裏にある信用などを保護する制度ですから,逆に,使用により信用が溜まったような商標については,一見,記述的で,誰の何の商品とかわからないようなやつでも登録できるのです。

 昔いた会社の商標で,ミニディスクというものがありませんでしたか?今はipodに駆逐されてしまいましたが,持っていた人は多いと思います。
 この商標も,相当苦労したけれど,ついに使用による識別力を認められ登録に至ったという話です。

 ですので,今回の「ほっとレモン」の商標も,一見,暖かいレモンの飲み物を想起させるだけの識別力なし,とも思えますが,どの程度,識別力の確保をしたのかがポイントになろうと思います。

3 判旨
・3条1項3号「 本件文字部分のうち,片仮名「レモン」部分は,指定商品(第32類「レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」)を含む清涼飲料・果実飲料との関係では,果実の「レモン」又は「レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であることを意味し,また本件文字部分のうち,平仮名「ほっと」部分は,上記指定商品との関係では,「熱い」,「温かい」を意味すると理解するのが自然である(上記1(3)及び同(4)参照)。また,本件輪郭部分については,上辺中央を上方に湾曲させた輪郭線により囲み枠を設けることは,清涼飲料水等では,比較的多く用いられているといえるから(上記1(6)参照),本件輪郭部分が,需要者に対し,強い印象を与えるものではない。さらに,「ほっとレモン」の書体についても,通常の工夫の範囲を超えるものとはいえない。
  そうすると,「ほっとレモン」との文字及びそれを囲む輪郭部分の組合せからなる本件商標は,本件商標の指定商品(「レモンを加味した清涼飲料,レモンを加味した果実飲料」)との関係では,商標法3条1項3号所定の「商品の・・・品質,原材料・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというべきである。 」

・3条2項「本件商標は,本件輪郭部分と「ほっとレモン」との本件文字部分から構成されている。
  ア  使用商標における「輪郭部分」は,右上隅以外の隅がレモンの図形等により隠され,その全体の形状を確認することができない。したがって,輪郭部分の形状が長く使用され,その特徴によって,商品の出所識別機能を有するに至ったと解することは到底できない。
  イ  使用商標における「レモン」の文字部分については,以下のとおりの理由から,商品の出所識別機能を有するに至ったとすることはできない。
  すなわち,①使用商標には,レモンの図柄が描かれていること,②使用商標には,レモンを連想させる色彩でグラデーションされた円形図形が施されていること,③使用商標には,輪郭部分の外側においても,レモンを連想する彩色が施されていること,④一般に,本件商標の指定商品を含む清涼飲料・果実飲料においては,各種果物がその原材料として使用されていること等の事実を総合すれば,「レモン」の文字部分は,当該商品が,果実の「レモン」又は「レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であることを端的に示したものと合理的に理解されるから,「レモン」の文字部分が長く使用され,その特徴によって,商品の出所識別機能を有するに至ったとすることは到底できない。
  ウ  使用商標における「ほっと」の文字部分は,以下のとおりの理由から,商品の出所識別機能を有するに至ったとすることはできない。
  すなわち,①使用商標では,「輪郭部分」及び「『ほっとレモン』の文字部分」は,いずれ「温かさ」,「暖かさ」を連想させる赤色に彩色されていること(この点は,本件商標も同様である。),②使用商標では,上段に「ほっと」,下段に「レモン」が,丸みを帯びた赤く彩色された書体により,まとまりよく表記されていることから,一連の意味を持つものとの印象を需要者に与え,そうであるとすると「温かいレモン飲料」を容易に想起させ得ること,③「ホットレモン」との語が,レモン果汁を入れた温かい飲料又はレモン風味の味付けをした温かい飲料を意味するものとして定着していると認められること,④平仮名「ほっと」については,本件商標の指定商品を含む清涼飲料・果実飲料においては,「ほっとドリンクゆず」,「ほっとカシス」,「ほっとりんご」,「ほっとアセロラ」,「ほっと金柑」,「ほっと梅」,「ほっとアップル」,「ほっとゼリー」,「ほっとゆずれもん」,「ほっとグレープフルーツ」が販売され,「ほっと」と「果物等の素材」とを組み合わせた文字は,当該商品が果物等の素材を原材料とし,あるいは加味した,温かい清涼飲料・果実飲料であることを示す語として普通に使用されていることから,需要者は,上記のように認識,理解していると解するのが合理的であること,⑤原告商品それ自体も,「温かいレモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であること等の事実を総合すれば,使用商標における「ほっと」の文字部分は,温かい状態で飲まれることを想定した清涼飲料等であることを示す表記であるといえる。したがって,使用商標中の「ほっと」の文字部分が長く使用され,その特徴等によって,商品の出所識別機能を有するに至ったとすることは到底できない。」
「 「ほっとレモン」,「ホットレモン」等の名称に関する調査結果等について 調査会社が,平成24年12月に,原告からの依頼を受けて行った本件商標に関連した調査結果(甲24)には,以下の記載がある。すなわち,
  ①「『缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料』ときくと,なんという商品名やメーカー(会社名)が思い浮かぶか」との質問に対して,「ホットレモン」と回答した者は全体の27.3%であり,「ほっとレモン」と回答した者は全体の20.3%であったとの結果が得られたとしている。②「ホットレモン」と回答した者のうち,メーカー名について回答した者は,「わからない」との回答者が一番多く(全体の14.7%),原告であると回答した者は,全体の1.0%であった。③「ほっとレモン」と回答した者のうち,メーカー名について回答した者は,同様に「わからない」との回答者が一番多く(全体の11.0%),原告であると回答した者は,メーカー5社中最下位(全体の0.3%)に位置し,「ほっとレモン」の文字を含む商品を市場に提供していないメーカーと対比しても低いことが記載されている。・・・ 同調査結果は,その他の質問回答もされているが,本件商標が,その使用によって,特定の出所識別機能を有するものとなったことを認定するに足りる調査結果を見出すことはできない。 」

4 検討
 まあ,「ほっとレモン」自体には,識別力がないかなあというのはわかりますね。書体もよくあるパターンですしね。
 でも,調査結果はいただけませんね~。つーか,ほっとレモンと聞いて私はカルピスのものだとは思いませんでした。さらにつーか,カルピスってホット飲料出してたのね??ってくらいの認識ですわ。

 法的なものって,何か特別なことのように思っている人もいると思いますが,違いますよね。最後は,普通の常識で判断するものです。
 私が上記のように思ったってことは,「ほっとレモン」って,まったく認知度がなく,それなのに,識別力があるなーんて結論になるわけないっしょ。

 この事件を代理した先生方も,ほっとレモンがカルピスだって認識した人,何人いたことでしょうね~,本当正直に手を上げてちょうだい。
 そんなんで,勝てるわけがないというか,カルピスは大会社でしょうが,このほっとレモン自体は大したブランドじゃないってことですから,マスコミで騒ぐような事件だったのかなあ,とそもそも疑問ですニャ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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