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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。

1 概要
 本件は,控訴人(原告)が,被控訴人(被告)に対し,ア 第1事件では,被控訴人が返品分の仕入代金を支払わないとして,不当利得金の返還合意に基づき,899万 2270円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成21年7月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,イ 第2事件では,①本件覚書に係る債務不履行による損害賠償請求権に基づき5億1166万 8618円,②本件商標権の侵害による不当利得金返還請求権に基づき3億6960万円,及びこれらに対する訴状送達日の翌日である同年9月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事件です。
 
 これに対して,まず,原審の東京地裁民事40部(岡本さんの合議体です。)は,アの第1事件のみ,原告の請求を認めました。つまりは,商標権の侵害はない(非類似)としたわけです。そのため,原告が控訴したのです。
 
 そして,今般,知財高裁1部(飯村さんの合議体ですね。)は,アの第1事件に加えて,イの第2事件の②の商標権の侵害についても原告の請求を認めた(類似)のです。
 
 2日続けて商標の記事,しかも飯村さんの合議体の判決ですね。別に飯村さんのマニアというわけでなく,たまたまなのですが,今回これを取り上げたのは,地裁と高裁で,こんなに類否の判断が違っていいんかえ!予測可能性に乏しいなあ,もう,って感じだったからです。
 
 一応商標を見てみましょうか。
 被告さんの商標が以下です。
4491c604.pdf
 ナ~ナ,ンな??ちょっと詰まりましたね。この商標を使用したのは,二重まぶた形成用テープ,二重まぶた形成用のり及び二重まぶた形成用テープの補助下地剤などの商品です。
 
 他方,原告さんの登録商標は,ナーナニーナ(標準文字)ですね。指定商品等は,第3類の「つけまつ毛用接着剤,つけづめ用接着剤, せっけん類,歯磨き,化粧品,つけづめ,つけまつ毛」などです。
 
 ということですので,商品は類似なのだと思います。問題なのは,商標の類否ですね。
 
2 問題点
 商標の類否は,商標の肝と言っていいものです。特許で言えば進歩性ですね。つまり,同一が新規性で,類似が進歩性と思っていいでしょう。
 なのに,きちんと進歩性のことを書いている基本書がないなんて〜,今の日本の学者のレベルの低さがわかりますね〜(あ,私は金持ち喧嘩せずの真逆です。それに,理学部で修士まで出た人間が法学部の学者なんて尊敬するわけないっしょ。)。
 
 話を元に戻すと,類否は,そういう重要概念で,審査段階等では,拒絶,無効の事由となりますし(商標法4条1項11号),権利行使段階では,侵害かどうかの判断基準となります(商標法37条)。
 
 この基準については,言わずと知れた氷山事件ですね(最高裁昭和43年2月27日)。
 で,面白いのは,特許の場合,発明の要旨の判断と技術的範囲の解釈については,原則として異なる基準で判断するのに対し(前者がリパーゼ判決,後者が特許法70条です。),商標の場合,審査段階でも権利行使段階でも,味噌も糞も全部氷山事件の基準でやることです(氷山事件自体は審決取消系の行政訴訟ですが,この基準を商標権侵害訴訟でも引いているのですね。興味のある方は,侵害訴訟の上告審で最初に引いたのは,どの事件だろうなんて調べてみるといいかもしれませんね。)。
 
 で,その基準は,「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」です。
 
 要素としては,外観(視覚),観念(意味,頭の中),称呼(聴覚)が挙げられ,総合・全体考察という点です。さらに具体的な取引状況もありますが,これが,外観等と同レベルの要素なのか,それとも補助的なものなのか等は議論のあるところです。
 
 で,原審の東京地裁は,「被告標章は,「na」,本件図形1,「nani」,本件図形3,「na」を左から右へ表したものということができる。そして,「na」「nani」「na」をローマ字読みすれば,「ナ」「ナニ」「ナ」, すなわち「ナナニナ」の称呼を生じるが,ローマ字において長音記号「ー」は用いられないこと,本件図形1及び本件図形3は,多少変形したものでは あるがいずれもハート形の図形であることからすると,需要者は,装飾的なものとしてハート形の図形が用いられているものと認識し,原告が主張するように,これらの図形を需要者が長音記号「ー」として認識すると認めることはできず,被告標章から「ナーナニーナ」の称呼を生じると認めることはできない。」としました。
 要するに,「ナナニナ」まで把握できるが,ハート形の図形等を「ー」として把握できないとしたのです。

 そうすると,東京地裁が,「本件商標と被告標章は,①外観においては全く異なり,②どちらも特定の観念を生じないから観念において類似するということはできず,③称呼においては,本件商標の称呼は「ナーナニーナ」であり,被告標章の称呼は「ナナニナ」であり,前者が2つの長音を含む点において相違するものの,類似する印象を与えること自体は否定し難いものと認められる。」と判断したのは,当然です。
 
 では,知財高裁は?
 
3 判旨
本件図形1及び本件図形3は,それぞれ横長の形状であることからする と,看者をして長音記号「ー」を模したものとの印象を与えるものであるから,被 告標章は,全体として「naーnaniーna」との表記との印象を与えるものと認められる。
 このような被告標章の外観に加えて,①被控訴人が被告標章の使用を始めたのは, 従前「na~na❤ni~na」あるいは「na~na ni~na」との標章が付されていた「MEZAIKストレッチファイバー48」(商品コード:MENN9 41)及び「MEZAIKミルキーダブラー」(商品コード:MENN851)の後継商品においてであり(前記(1)ウ),被告標章は,従前使用されていた標章と同一の称呼を生じると解するのが自然であること,②被控訴人が被告標章の使用を始め た時点では,被控訴人は控訴人を通じてメザイク商品を販売しており(前記(1)ウ), 被告標章に従前使用してきた標準的なブランド名と異なる称呼を与える合理的な理由は見出せないこと,③被控訴人が被告標章の作成をデザイン会社に依頼した際には「ナーナニーナロゴタイプ作成」を発注していること(前記(1)ウ),被控訴人の ウェブサイトを印刷すると,そのヘッダー部分に「ナーナニーナ」が表示されること(前記(1)オ),被告商品は「ナーナ」という女の子が使用する商品とのコンセプトであることからすると(前記(1)オ),被控訴人の社内においては,被告標章が「ナーナニーナ」と称呼されることは当然の前提とされていたと認められること,④被控訴人は,取引先に対する通知文書でも「ナーナニーナ」との語を用いている(前 記(1)オ)など,被控訴人社内での被告標章の称呼は取引先にも当然知られており, 需要者においても同様の認識を持つに至ると認められること,⑤インターネット上 の各種サイトでも被告標章を指して「ナーナニーナ」と称呼していると認められる こと(前記(1)オ),これらの事情からすると,被告標章には「ナーナニーナ」との称呼が生じると認められる。

 
4 検討
 いやあ何とも言えませんわな。地裁には地裁の理由があり,不当なものではありません。
 私のような全くセンスのない石頭のコンコンチキからすると,被告の商標を見ると,アルファベットのところしか読めません。ですので,地裁の判断でいいんじゃないのと思います。

 他方,つーけまつーけまつけまつける♪の需要者からすると,ナーナニーナとストレートに簡単に読めるようですので,そういう面からすると高裁の判断でもいいんじゃないのと思います。
 
 でもそうすると,予見可能性は全くありませんね。
 弱いものや貧しいものを救うんだというのをテーマにしている方は別でしょうが,私のような企業関係,少なくとも事業者からの依頼を多くやっていると重要なのは予見可能性です。

 だめかもしれないが訴えないと気が収まらない,マスコミに露出して政治判断を引き出す,なんてのは,訴訟が単なるゲームだと思っている私からすると,全くの邪道ですね。ヨルダンのゴールキーパーの昼飯に毒を入れておこうかというのと同レベルです。
 重要なのは,この事例だとこういう判断だろうから,訴訟をするよりは,ライセンスに応じた方が得だなとか,ライセンスに応じてもらえなくても訴訟をしたらきっちり勝てるなとかが事前に予測できることです。
 
 ところが,今回の事例だとどうでしょう。原告はイケイケドンドンだったのかもしれませんが,地裁の判断を見たときには,もうちょっと穏当なところで抑えておけば良かったかなとなります。他方,被告が高裁の判断を見た時に,和解しておけば良かったかなってなりますよね。もう,どうすりゃいいのかわからない!

 私は,知財だけじゃあ食って行けませんので,知財以外の一般事件もやるのですが,それに比べると知財って,本当予測できません。自称優秀な弁護士は,専門家に頼むのが知財事件だ〜みたいな言い方をしますが,単なる自分の宣伝だけですよね。
 でも本当困ります。知財の筋の見極めって非常に難しく,この事件がその典型だなあと思いますね。

5 追伸
 本日は昨日と打って変わり,非常に暖かい日です。逆にこれで桜は散るでしょうね。

 さて,本日全く取引のない税理士のコンサルから分厚い資料が送られてきました。何かなあと見ると,「経営革新等支援機関」に認定されたところに送っているらしいです。要するに,自分のところも一緒に選ばれたので,一緒にニギニギしようぜ,というものです。

 いやあ機を見るに敏とはこのことですね。税理士の営業はすげえや。

 そうそう,経営革新等支援機関については,こちらを見て下さい。例の中小企業金融円滑化法が終わったあとの対策のやつです。私も,支援機関の認定申請をして,先週めでたく選ばれたというわけですね。
 それ自体別に大層なものじゃないのですが,結構資料集めとかが大変で,こういうののために,これだけの資料をあつめさせるのは,まさにお役所仕事ですなあと思うに十分過ぎるくらいの資料を集めさせられました。本当。

 ま,全銀協がやっている震災の二重ローン対策のやつよりはマシなものになることを願っておりますよ~♪

 さて,散る前の桜。池田山付近です。
 IMG_0279.JPG

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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