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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,「日本数学検定協会」の文字を標準文字で表してなり,指定商品及び指定役務は下記記載のとおりである登録第4954496号商標(本件商標権)の商標権者である原告が,被告の請求した無効審判(無効2011-890092号事件)により無効審決(後発的に商標法4条1項7号に該当)が下されたことを不服として出訴した審決取消訴訟の事案です。
 これに対して,知財高裁3部(芝田さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。つまり,公序良俗違反ではない!ということです。
 
 おお,連続して判決の紹介です。どんどん下がるぞ,閲覧数。
 岩永先生,暇なんすね~,おうあたぼうよ!
 
 なお,指定商品等は下記のとおりです。そして,同一の原被告間で,若干違う商標についての事件もあります(結論は同一)。
 
指定商品等
第9類 業務用テレビゲーム機,家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,電子出版物
 第16類 書籍,専門書,問題集,参考書,学習書,雑誌,新聞,パンフレット,印刷物
 第35類 教師のあっせん,人事管理・労務管理,教育組織・学習塾の設立に関する企画の立案及び指導又は助言,教育事業の管理
 第41類 学習支援に関する知識の教授,学習支援に関する教材として用いる書籍の企画・制作,学習支援に関するセミナー・イベントの企画・開催・運営,教育者の育成,知識の教授に関する助言,学習支援組織や学習塾における知識の教授に対する指導又は助言,学習支援組織や学習塾に関する情報の提供,技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,書籍の製作,放送番組の制作,教育・文化・娯楽用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組の制作における演出,教育研修のための施設の提供,図書の貸与,録画済み磁気テープの貸与
 第42類 数学学習が脳活動に及ぼす研究,数学学習と脳活動領域との関係に関する研究,数学教育が他の教科学習に及ぼす影響についての調査・研究,数学が用いられる産業分野の調査・研究,数学レベルと産業分野との関係についての調査・研究,数学教育と工業化との関係についての調査・研究,数学教育に関する国別の実態調査・研究
 
2 問題点
 問題点は,1つで,公序良俗違反の判断です。特に,商標法46条1項5号という後発的無効事由の判断ですね。
 
 公序良俗違反というのは,審査基準ではこうなります。

 「「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものとする。

 つまり,「お○んこ」そのものや,それを図化したようなやつは,そりゃダメ!ですわな。ただそうでなくても,社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合はダメだということです。本件もこの後段に該当するような場合として,特許庁は審決を下したわけですね。
 
 ただ,こういう規範的な話というのは,特許庁が一番苦手なタイプですよね。まさにリーガルマインドが問われるような話です。
 となると・・うっしし。
 
3 判旨
「ア 上記(1) 認定の事実によれば,本件商標は,被告が財団法人として認可を受 ける前にも,任意団体である日本数学検定協会の数学検定試験に使用されており, 財団法人(被告)の設立年度には受検者数が約9万4000人(団体受験校250 0校)に達していたこと,被告の設立後,被告の実用数学検定試験の受検者数が大幅に増加し,本件商標もより広く知られるようになったが,原告は,平成22年1月21日に退任するまで被告の理事(理事長)であったこと,原告と被告とは,平 成11年,平成21年及び平成23年に商標のパテント料に関する契約を締結し, 被告が原告に対し,パテント料の支払(本件商標登録前の分も含む。)を行ったこと,被告は,原告が被告の理事を退任した後も,合意書や誓約書において,原告が本件商標権を有することを前提としていることが認められる。すなわち,本件商標は,当初,原告によって使用されており,被告の設立後,被告によって使用されるようになったが,被告は,上記誓約書を作成した平成23年4月ころまでは原告が本件商標権を有することを前提としており,その後,被告が本件商標権を取得したとか,被告に対し本件商標に関する専用使用権が設定されたとの事実は認められない。上記の事情からすると,被告の設立後,本件商標の周知著名性が高まった事実があるとしても,本件商標が被告によって使用されるべき性格の商標になったということはできない。
 イ また,上記(1) 認定の事実によれば,本件商標権のパテント料支払に関する 契約の有効性等につき原告と被告との間に見解の相違があること,本件商標に係る パテント料支払について文部科学省から改善を要する事項について通知を受けたこと,実用数学技能検定事業に関し,原告と被告とが同時期に同様な検定を実施したことから受検者等に混乱が生じた経緯があることが認められる。しかし,上記のような当事者間の民事上の紛争や受検生等の混乱は,もっぱら当事者間の反目や当事者による本件商標の使用態様その他の行動に起因して発生したものというべきであり,本件商標登録によって生じたとは認められない。そうすると,仮に,被告の実用数学技能検定事業が何らかの公的性格を有するとしても,民事上の紛争等が発生していることを根拠として,本件商標が被告によって使用されるべき性格の商標になったとか,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害するようになったということはできない。」
 
4 検討
 検討に当っては,これ単独で検討するより,似たようなタイプの事件を比べるといいと思います。
 何かというと漢検の事件(平成24(行ケ)10064号で,これ以外数件あり。どれも知財高裁平成24年11月15日判決。)です。
 この場合,ご存知のとおり,特許庁で,公序良俗違反で無効となり,それが審決取消訴訟でも維持されました。つまり,本件と正反対の結果なのですね。しかも比べやすいことに,同じ部なのですね(芝田さんの第3部ですね。)。
 
 ですので,数検事件と漢検事件での違いを見てみましょう。
  数検  漢検
商標権者(原告) 自然人 法人
被告の使用権原 通常使用権 専用使用権
原告の使用 当初あり
被告(団体)の認識 原告に商標権が帰属してもやむを得ず
歴史 平成2年ころから S50年ころから

 
 原告のやった事自体,数検も漢検もあんまり変わらないような気もするのですね。でも,上記のとおり,若干違うところがあると思います。漢検の場合,漢検の商標は,専用使用権の設定がありましたので,団体以外使用を予定していないものだと考えられます。
 他方,数検の場合,通常の使用権だけのようですし,被告の団体自体も,原告が商標権を保有し続けるのもやむを得ないなあと考えていた節もあると思います。それに,潜在的に一番重要なことだと思うのですが,歴史とかが結構違いますよね。漢検はもう40年近くになりますが,数検は,20年少しです。そのため,漢検は私でも知ってましたが,数検は残念ながら知りませんでした〜。裁判官も人ですので,理屈は何であれ,結構こういう価値判断が重要だったりするのですね。
 ですので,こういう所で,結論が分かれたのかもしれません。ま,本当のところは芝田部長に酒の席ででも聞いてみるしかありませんけどね。
 
 ともかくも,こういう団体の内部抗争等に纏わる事件としては非常に対照的でよい勉強になるのではないかと思います。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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