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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告が有する下記商標登録(本件商標,登録第5348154号,指定商品第16類「雑誌,新聞」)について,被告が行った商標法51条1項に基づく商標登録取消審判請求に対し,特許庁がこれを認容する審決をしたことから,原告がその審決の取消しを求めた事案です。

 これに対して知財高裁2部は原告の請求を棄却しました。つまりは,審決とおり,登録取消でよし!としたわけです。

 まずは,本件商標等です。

 上段が,登録されている原告の登録商標です。他方,下段が実際に原告が使用していた商標です。登録商標では,NURSEという部分と,HEARTという部分と,ナースハートという部分がありますが,実際使われていたのは,HEARTの部分だけなのですね。

 他方,原告の同業他社である被告は,循環器系疾患医療に関わる看護師を主な対象読者として,昭和62年11月1日に看護雑誌「HEART  nursing」(被告雑誌)を創刊し,当該創刊時から平成16年3月頃に至るまで,16年以上,以下の態様からなる商標(旧被告商標)を使用してきたそうです。
 
 その商標がこれです。

 で,原告が,上記のHEARTの部分だけをフューチャーした欧文字からなる商標(本件使用商標1)を,循環器系疾患医療に関わる看護師を主な対象読者とする月刊雑誌(原告雑誌)において,その題号として使用し,平成23年12月1日発行の雑誌からは本件使用商標に登録商標であることを示すの記号(Rのやつ)を付記した商標(本件使用商標2)を使用していたようなのですね。

 そうすると,昔から雑誌にHEARTをフューチャーした題号をつけていた被告としたら,原告何してんねん,真似じゃんということになり,何とかしたいと思ったのでしょうね。で,こういう取消審判を提起したわけです。

2 問題点
 問題点は,判旨のとおり,①原告による下記の本件使用商標1及び2(本件使用商標)と本件商標との類似性,②被告の業務に係る商品との出所混同を生ずるおそれの有無,③原告の故意の有無です。

 ただ,商標法51条1項の審判が何かわからないと??ですよね。ですので,これから若干説明します。条文は,こうです。
 「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたとき は、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。

 ちょっと傍線部はややこしいんじゃないですかね。商標をよくやる法曹や弁理士には,あ,禁止権のところね,となるのですが,慣れないとさっぱりでしょう。

 実は,商標権て特許権と権利の性質が大きく違います。特許権の場合,仮に特許を取れたとしても,そのクレームの範囲で自由に実施できるかどうかわかりません。つーか,通常自由に実施できないでしょうね。
 何故か?それは,誰かの特許を改良したような発明でも特許が取れるからです。だって,技術は日進月歩,階段のように先人の知恵の上に積み重なっていくものですからね。特許法も72条で,それが前提である規定を置いております。

 ですので,特許の意味は,これから自分の技術を真似しようとするようなヤツを排除することに意義があるのです。今特許をとれたからとして,過去の特許を蹴散らすことはできませんよ。
 ですので,本当に自由実施できるかどうかは,世界中のある程度の過去の特許を検索し,それと自分のやりたい技術を比べないとわからないという,正直気の遠くなるようなことをやらないといけないわけです。これが,FTO調査(Freedom to operate)と呼ばれているものです。

 他方,商標は,商標同一商品等同一の範囲は使用権と言われ,その範囲であれば,原則として,誰からも文句を言われず,自由に使用できます(商標法25条)。
 ですので,特許と違い,他人の登録商標との調整規定はありません(商標法29条はありますが,これには他人の商標権が含まれていないことに注意です。)。つまり,登録商標がとれたら,基本,使用権の範囲で自由に使用できるのです!
 これに対し,商標同一商品等類似,商標類似商品等同一,商標類似商品等類似(使用権と併せてマトリクスにするとよくわかります。要するに,類似の範囲です。)の範囲は禁止権と呼ばれ,他人の使用をやめさせることはできるのですが(商標法37条1号),この中では商標権者と言えども自由に使用はできず,他人の禁止権に入らなければ,事実上使用できるに留まるのみです。

 ですので,事実上使用できるにも関わらず,その中で,変な使用をしたら,サンクションとして,登録を取り消す!というのがこの取消審判の趣旨です。

 長々と説明しましたが,こういう風に遡ってやらないと多分わからないと思います。

 ということで,要件は,条文のとおり,A商標権者であること,B故意であること,C禁止権の範囲での使用であること,D誤認・混同が生じたことです。

 で,一番上の論点を見ればわかるとおり,今回は,B~Dのすべてが論点となっております。

3 判旨
C禁止権の範囲での使用であること(①の論点)について
「 ・・・以上を総合すると,本件商標の外観から,「HEART」部分が,「NURSE」あるいは「ナースハート」の文字部分を凌駕して,需要者において「HEART」部分のみに注目するとまでは言い難いものの,上記に認定した取引実情等や,原告自身が登録商標であることを示すの記号を付して,本件使用商標2を使用しており,本件審判段階においても,本件使用商標が本件商標の使用であることを争っておらず,かえって,「HEART」が中核であると自認していたとの経緯をも踏まえれば,本件商標のうち,「HEART」の部分が自他商品識別機能を有する部分として,本件使用商標との類似性を認めるのが相当である。 」

D誤認・混同が生じたこと(②の論点)について
「  (2)  本件使用商標と被告商標の類似性について
  被告旧商標は,前記のとおり,「HEART」の右の「RT」の下部あたりに「nursing」との記載部分を配置してなり,被告現商標は,「HEART」の右横下に「nursing」と記載されてなるところ,いずれについても,「HEART」は,「Times  New  Roman」の大文字書体で「nursing」よりも格段に大きく,太く示されており,「HEART」部分の文字は,「nursing」の文字から明瞭に区別することができ,被告商標に接した需要者等は,大きく記された「HEART」部分を強く意識することが多いものと認められる。そして,上記認定のとおり,「HEART」は,被告雑誌の表紙に表題を示すものとして,大きく記され,証拠(乙31~37)によれば,広く「HEART」として呼称されるなどして被告雑誌を示す商品表示として機能していると認められることからすれば,「HEART」部分は被告商標の要部であると認められる。
  以上を前提として,本件使用商標と被告商標の類否について見ると,両者は,「ハート」との称呼を生じ,観念についても上記と同様に,「心」,「心臓」との観念を生ずるものである点で共通する。また,外観について,被告旧商標は,本件使用商標1及び2と酷似しており,被告現商標は,「Λ」と「R」の表記においてデザインがやや異なっているものの,単なる書体の違いにすぎず,需要者がそこから受ける意味合いや呼称,全体から受ける印象に大きな違いはない。さらに,取引の実情についてみると,本件使用商標及び被告商標は,いずれも看護師を主たる対象とする月刊誌において,表紙の雑誌題名を記す部分に使用され,書店においていわゆる面出しの状態で陳列販売される場合もある。これらのことからすれば,本件使用商標と被告商標とは類似するものと認められる。
    (3)  出所混同のおそれについて
  以上を踏まえ,「他人の業務に係る商品…と混同を生ずる」おそれがあるか否かについて検討する。
  原告雑誌及び被告雑誌はともに,循環器系疾患医療に関わる看護師を主たる読者とする雑誌である点で共通し,店頭で医療雑誌として販売されるという点でも共通しているところ,そのいずれもが雑誌の表題を示す表紙部分に「HEART」と「Times  New  Roman」書体でほぼ同じ大きさ,配置で表題が示されており,両雑誌がいわゆる面出しの状態で医療雑誌のコーナーで陳列販売される場合があり,雑誌を購入する読者にとって,最も識別力を有するのは雑誌の表題部分であると推認されることからすれば,一見して紛らわしいものである。そして,上記のとおり,被告雑誌が,循環器系疾患医療に関わる看護師用の月刊誌として,周知されていることからすれば,需要者が原告雑誌を広く知られている被告雑誌と混同するおそれは十分に認められる。加えて,実際に,需要者において原告雑誌と被告雑誌を混同し,あるいは,混同のおそれを感じている者がいることが認められる(乙14,15,17ないし21,34,35,37,40)
  そうすると,本件使用商標の使用は,被告の業務に係る被告雑誌と混同を生じるおそれのあるものと認められる。 」

B故意であること(③の論点)について
「 商標法51条1項における商標権者の「故意」とは,商標権者が,指定商品について登録商標に類似する商標等を使用するに当たり,その使用の結果,他人の業務に係る商品と混同を生じさせること等を認識していたことをもって足りるものと解される。そして,原告は,前記のとおり,平成23年8月ころから,「HEART」という雑誌名の原告雑誌に本件使用商標1を使用し,同年12月1日発行分から本件使用商標2を使用しており,これらの本件使用商標開始時において,原告にかかる認識があったか否かについて検討する。
・・・本件使用商標と被告商標の類似性や,取引形態,使用形態の共通性,類似性を考慮に入れると,本件使用商標の使用が,被告の業務に係る被告雑誌と混同を生じさせることを当然に認識していたものと認めるのが相当である。
  したがって,原告において,本件使用商標を使用するに当たり,被告の業務に係る商品と出所混同を生じさせることについて故意を有していたものと認められるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。 」

4 検討
 ということで,すべての要件が認められ,審決は特段問題なしとなったわけです。

 ただ,このサンクションは,大して使っていない登録商標の取り消しに留まるだけです。別に,HEARTの題号を差し止めるなんてできません。
 それには別途商標権侵害訴訟や,不正競争防止法に基づく差止訴訟をしないといけません(被告は,不正競争防止法の方でやったようですね。)。

 ですが,折角の登録商標が取消になれば痛手も痛手ですし,こうやって裁判所のHPに原告名がデカデカと載り,私のようなチンピラ弁護士がブログで書き散らすとなれば,更にダメージ大でしょうね。

 ま,変な使用はしないに限るということでした。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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