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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。

1 概要
 本件は,欧文字の「KAMUI」の標準文字からなる商標を登録商標(本件商標)とし,指定商品を第28類「運動用具」とする商標(登録第5142685号。平成19年4月23日出願,平成20年6月20日登録,本件商標登録。)の商標権者である原告(カムイワークスジャパン)に対し,被告(中条)が,平成25年1月28日,本件商標は,商標法4条1項10号に該当すると主張して(商標法4条1項7号該当性も併せて主張),無効審判(無効2013-890005号事件。本件審判。)を請求したところ,特許庁は,同年7月5日,無効審決(商標法4条1項10号該当,本件審決。)をしたため,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁1部(飯村さんの合議体ですね。)は,「前審決の確定効に反するものとして許されない」として,審決を取り消しました。

 何と珍しい, 商標法56条1項が準用する特許法167条の事件です。

 ということで,前の審決が重要ですね。
 前の審決は,被告が,平成21年7月2日,本件商標は,商標法4条1項10号に該当すると主張して,無効審判(無効2009-890077号事件。前審判。)を請求したものです(なお,併せて同項19号への該当性も無効理由として主張していたようです。)。
 この審決は,平成22年4月30日,不成立審決(前審決)で,同審決は同年6月10日に確定したのです。

 その理由は,被告の引用した被告使用の,前審判引用商標は,本件商標の登録出願時以前から,被告の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内の需要者の間に広く認識されていたとは認められず,本件商標は商標法4条1項10号に該当しないと判断したわけです。

 ただ,何でこうなったかというと,ゴルフをやっている人は知っているかもしれませんが,カムイブランドって二つあるのですね。カムイワークスというのと,カムイプロというやつです。前者が今回の原告,後者が今回の被告のブランドです。

 実はこの両者,本件で無効審判の対象となった登録商標について,商標権侵害訴訟でも争ってました。平成24年(ネ)10019号(知財高裁平成25年01月24日判決)です。やはり,原告と被告はここでも原告と被告となり,原告の請求が棄却され,控訴審でもそのままでした。
 その棄却理由は,被告に先使用権があったから!です。つまり,昔は一緒にやっていたわけですよ。この辺は侵害訴訟の一審,平成22年(ワ)32483号(東京地裁平成24年01月26日判決)に詳しいので,そこを見てください。かいつまむとこんな感じです。
 
 「原告と被告は,平成5年ころ,共同でゴルフクラブを製造,販売することを計画し,平成6年2月1日,ゴルフクラブの開発,製造,販売を目的とする共同企業体カムイクラフト(以下「カムイクラフト」という。)を設立し,製造したゴルフクラブに「KAMUIPRO」(カムイプロ)の名称を付けて販売した。そして,原告と被告は,同月28日,共同で「KAMUIPRO」の商標を,第28類の運動用具で出願し,同商標は,平成9年11月7日に登録された。
     当時,カムイクラフトが製造したゴルフクラブ「カムイプロ300」は,非常によく売れ,一大ヒット商品となった。

 原告と被告は,平成7年2月21日,カムイクラフトによる共同事業を解消し,カムイの新製品については,それぞれが権利を有すること,カムイプロ300の金型については,それぞれが50%の権利を有することを確認した。

 まあ,何でもそうなのですが,共同事業って,うまく行った方が,仲違いするんですよね~♫ほんで一旦仲違いすると,もう他人の手に負えないくらいこじれにこじれます。商標の訴訟ってこういうやつ本当多いです。
 ま,これは会社対会社ですが,家事事件って,ほぼこのパターンです。仲の良かった二人(元夫婦)や小さいころ遊んだ仲(兄弟など)なのに,何でか知らんけど,ほんのちょっとの金や,自分たちに似て出来の悪い子供などを巡って,まさに骨肉の争いを繰り広げるという,傍から見たら,勝手にやってれば,というやつと同じです。
 こんなのに首突っ込んで,殺されたり殺されかかったりする弁護士が居るのですから,もう~全く~って感じなのですが,今,事件数が伸びているのって,家事事件しかないもんで,選択の余地はないのかもしれませんねえ。

 私?私のようなヘタレ弁護士なんかじゃこんな犬も食わない事件など解決できませんよ~。法テラスなどにいる,弱い者の味方,正義の味方の弁護士の先生さま様に頼まないとね~ワハハハ。

 元に戻りますが,ま,この審決取消訴訟もその侵害訴訟の後始末の一環でしょうね。

2 問題点
 で,論点は,この審決取消訴訟での論点そのままです。つまり,特許法167条にいう「同一の事実及び同一の証拠」って何?ってことです。

 ですので,まず条文です。
 「(審決の効力)
第百六十七条  特許無効審判又は延長登録無効審判の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」

 ま,これは同じことで何回も何回も審判を起こされちゃあたまんないから,ってやつです。その昔は,「何人も」となっていたのを,確定判決の既判力さえ当事者限りなのに,憲法違反じゃねえのというヤーヤー言いが居たもんで,平成23年の法改正で,上記のとおりになったものです。

 ま,今回は当事者が同じなので,文言的には,旧法新法にかかわらない問題ですけどね。

 ただ,「同一の事実及び同一の証拠」って言っても,通常,人間ってそんなバカじゃないので,まるっきり同じ証拠と同じ主張なんてしません。ちょっと加えたり引いたりと,ちびっと変えるわけですね。ということで,どの程度変えればいいのか,言い換えれば,実質同一の範囲はどこまでか,ということになりますね。

 ほんで,旧法時代は,現に改正されちゃったように,この条文を適用したくなかったわけです。何でか?適用すると,第三者の審判請求を制限することになるからです。だから,「同一の事実及び同一の証拠」も厳しく,キチキチ,デットコピー並の同じ場合のみに適用とされたようです。
 他方,新法になると,第三者の審判請求を制限することはありませんから,逆に当事者の蒸し返しは,大胆に制限したいですよね。そうすると,「同一の事実及び同一の証拠」も緩やかに,ちょっとくらい主張を変えたり,証拠を加えても,広く適用だ!としてもいいかもしれません。

 ね,改正の経緯からすると,どっちの方向で解釈するか,予想がつきそうですね。

 ちなみに,今回の審決は,「ア  前審判は,商標法4条1項10号及び19号違反の事実に基づき,本件商標登録を無効にすることを求めて審判請求をしたものであるのに対し,本件審判は,同項7号又は10号違反の事実に基づき,本件商標登録を無効にすることを求めて審判請求をしたものであるから,前審判と本件審判とは,同一の事実に基づいて審判請求をしたものでない。
イ  前審判と本件審判とでは,「KAMUI」単体商標の周知性に係る証拠のうち,被告ゴルフクラブの販売実績数のデータ,雑誌は同一であるが,①「使用プロ一覧」と題する書面(以下「使用プロ一覧表」という。)の記載内容が異なること,②カタログの発行年度が異なることから,同一の証拠ではなく,また,③本件審判における決算報告書は,前審判で主張した販売額を裏付けるためのものとして提出されたものであって,単なる補強証拠とはいえない。」として,一事不再理に反しないとしたのでした。

3 判旨
「 商標法56条1項が準用する特許法167条は,「特許無効審判・・・の審決が確定したときは,当事者及び参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない」旨規定する
  同条は,当事者(参加人を含む。)の提出に係る主張及び証拠等に基づいて判断をした審決が確定した場合には,当事者が同一事項に係る主張及び立証をすることにより,確定審決と矛盾する判断を求めることは許されず,また,審判体も確定審決と矛盾する判断をすることはできない旨を規定したものである。同条が設けられた趣旨は,①同一事項に係る主張及び証拠に基づく矛盾する複数の確定審決が発生することを防止すること,②無効審判請求等の濫用を防止すること,③権利者の被る無効審判手続等に対応する煩雑さを回避すること,④紛争の一回的な解決を図ること等にあると解される。
  そうすると,無効審判請求においては,「同一の事実」とは,同一の無効理由に係る主張事実を指し,「同一の証拠」とは,当該主張事実を根拠づけるための実質的に同一の証拠を指すものと解するのが相当である。そして,同一の事実(同一の立証命題)を根拠づけるための証拠である以上,証拠方法が相違することは,直ちには,証拠の実質的同一性を否定する理由にはならないと解すべきである。このような理解は,平成23年法律第63号による特許法167条の改正により,確定審決の第三者効を廃止することとし,他方で当事者間(参加人を含む。)においては,紛争の一回的解決を実現させた趣旨に,最も良く合致するものというべきである。 ・・・

 ア  同一事実について
  本件商標が商標法4条1項10号に該当するとの事項についての被告の主張事実は,被告が使用する商標は,本件商標登録の出願時には,被告がゴルフクラブに使用する商標として,日本国内の取引者・需要者に広く認識されており,その状態は本件商標の登録査定時においても継続していること,本件商標は被告が使用する商標と類似すること,本件商標の指定商品は被告の商標が使用されているゴルフクラブと類似することであり,その主張事実は,前審判及び本件審判において同一であると評価できる。
  なお,本件審判では,周知であるとの被告の主張に係る商標が,以下の①ないし③のいずれであるか必ずしも明確ではない。
  ①「KAMUI」単体商標のみ
  ②「KAMUI」単体商標及び「K∧MUI+くさび図形」商標
  ③①又は②に「KAMUIPRO」,「TYPHOONPRO」及び「KAMUI
TYPHOONPRO」の各文字からなる商標を含む
  しかし,本件審判において被告が周知であると主張する商標が上記のいずれであっても,それらは,前審判において判断の対象とした商標に含まれるというべきである。すなわち,
  ①「KAMUI」単体商標は,前審判における別紙前審判引用商標目録1,2及び4記載の商標に含まれる。
  ②「K∧MUI+くさび図形」商標は,前審判における別紙前審判引用商標目録4記載の商標に図形を付加した商標である。
  ③「KAMUIPRO」及び「KAMUI  TYPHOONPRO」の各文字からなる商標について原告が周知であると主張する部分は,いずれも「KAMUI」部分であると合理的に解される(「TYPHOONPRO」の文字からなる商標は,本件審決の判断の当否に直接関連するものではない。)。
  以上によれば,前審判と本件審判とでは,被告が周知性を有すると主張する被告使用の商標は,互いに同一と評価できる。
   (なお,本件審決は,前審判における無効理由が商標法4条1項10号及び19号該当性であるのに対して,本件審判における無効理由が同項7号又は10号該当性であるから,前審判と本件審判とは「同一の事実」に基づく審判請求ではないと判断する。しかし,同項10号所定の無効理由の存否について判断した審決が確定した後に,それと異なる無効理由を追加さえすれば,同項10号所定の無効理由の存否について判断した審決の確定効がなくなると解する審決の判断が,誤った理解に基づくことは明らかである。
  イ  同一証拠について
  前記のとおり,前審判と本件審判とでは,被告が使用する商標の周知性を裏付ける主張事実は,ほとんど同一であり,周知性を立証するための証拠は,そのほとんどが同一である。
  なお,本件審判では,前審判とは異なり,「被告の2000年版商品カタログ」(甲10),「カムイ社の出荷明細」(甲11-1-1ないし11-1-9),「カムイ社の平成15年度ないし平成18年度の決算報告書」(甲11-2ないし11-5),「使用プロ一覧表」(甲11-31)が,証拠として提出されている。そこで,上記各証拠の性質につき,念のため検討する(なお,本件審判で新たに提出された上記以外の証拠は,商標法4条1項10号該当性に関連するものではない。)。
  (ア)  「被告の2000年版商品カタログ」(甲10)
  前審判において,被告は,他のカタログ(甲53,54)を提出したが,前審決において,提出に係る当該カタログは作成年月日が確認できないとされたことから(甲112),本件審判において,作成年月日の確認ができるカタログを提出したと解される。
  (イ)  「カムイ社の出荷明細及び決算報告書」(甲11-1-1ないし11-1-9,11-2ないし11-5)
  前審判において,被告は,カムイ社が販売した被告ゴルフクラブの本数の表(甲11-1)を提出したが,前審決において,販売数の裏付けがないことなどから同表に記載された本数が採用されなかったため,本件審判において,同表の信憑性を裏付けるために提出された証拠と解される。
  (ウ)  「使用プロ一覧表」(甲11-31)
  前審判において,被告は,使用プロ一覧表(甲40)を提出したが,本件審判において,その形式を変更し,被告ゴルフクラブを使用するプロゴルファーの氏名等を追加記載したものを証拠として提出したと解される。
  上記によれば,本件審判で提出された上記各証拠は,前審決における被告の主張を排斥した判断に対し,同判断を蒸し返す趣旨で提出された証拠の範囲を超えるものではない。
  ウ  小括
  以上によると,前審判と本件審判とでは,商標法4条1項10号違反の根拠として主張されている事実において同一であり,また,これを立証するために提出された証拠も実質的に同一であると評価できる。
  したがって,本件審判における本件商標が同項10号に該当することを理由とする無効審判請求は,前審決の確定効に反するものとして許されないというべきである。本件商標が同項10号に該当するとして本件商標登録が無効であるとした本件審決には,上記の点における誤りがある。」

4 検討
 同一の事実については,同一の無効理由のことをいうのだから,また4条1項10号なので,同一としたわけですね。それに7号加えてもダメに決まっているだろ,バカか特許庁は,というのを法的に格調高く言ったのが,カッコのなお書です。

 次に,同一の証拠というのは,実質同一で足りるとしましたので,ほとんど同一で良いとしております。ただ,これは若干認定が粗いですね。ま,こんな粗い認定で足りるくらい,新たな情報を加えるようなものではなかったということでもありますが。

 ということで,「同一の事実及び同一の証拠」については,緩やかに~♫解釈したのが,今回の判決です。ま,方向としてはそれでいいんじゃないかと思います。

 ま,飯村さんの合議体ですので,法律の文言の解釈(特にここ)と,事例のあてはめは参考になるのではないでしょうかね。

 さて,今日は春分の日,お彼岸で,お休みですが,珍しく仕事をしております。普段,私は休日に仕事をしません。ワーク・ライフ・バランス?そんなケチ臭いやつには興味がありませんよ。だって,休日まで仕事をしてたら,平日にやることが無くなってしまいますもん。そそ,そんなに仕事がありませんからね~。ムフフフ。

 ただ,ちょっと今週は,珍しく週に2回も裁判の期日が入ったり(普段は,月に1回あるかないかくらいしか期日がないので,それだけでも10倍の頻度),それ以外にも外出が相次ぎ,ちょっと起案をやっておかないと,これは桜のころに呑気に花見が出来ねえやというわけですね。

  で,桜ですが,蕾はかなり膨らんでますね。ただ,花弁まで見えるのはごくわずか。これも一本の木で漸く一つ花弁が見えるやつを撮ったものです。一昨日18日は春一番も吹いて実に暖かかったのですが,昨日今日と東京は肌寒いです。
 来週は結構暖かくなるそうで,一気に咲くかもしれませんね。とすると,このブログも桜情報だけとなりそうです。

5 追伸(160215)
 この判決により,特許庁に戻った事件について,審決に不服として,さらに知財高裁で争われたようです(知財高裁平成27(行ケ)10132,平成28年2月9判決)。

 今度は,商標法4条1項7号の無効事由があると争ったようですが,それは認められなかったようです。
 ま,兎も角も,このかつての仲間同士という,骨肉の争いパターンはちょっとやそっとのことじゃあなかなか解決に至りませんねえ。まるで,キリスト教とイスラム教の間のようです。




 
 

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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