忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,第5類「薬剤」を指定商品とする商標権(出願年月日  平成17年8月30日,登録年月日  平成18年4月7日 ,登 録 番 号  第4942833号 ,登 録 商 標  「PITAVA」(標準文字) を有する原告(興和)が,被告( Meiji  Seika ファルマ)が薬剤に付した別紙被告標章目録1ないし3の標章(被告標章)が原告の商標権の登録商標に類似すると主張して,被告に対し,商標法36条に基づき,被告標章の使用の差止め及び被告標章を付した薬剤の廃棄を求める事案です。

 これに対して,東京地裁民事47部(高野さんの合議体ですね。)は,原告の請求を棄却しました。

 お,珍しい商標権侵害の事件の判決です。ま,最近の商標権侵害事件って,内輪もめか,剽窃した出願を大元に権利行使するかというはっきり言って信義則で解決するような事件ばかりなので,紹介する気も失せるのですが,これは正統派です。しかも,ちょっと法改正に関係する所なので,取り上げました。

 原告の商標権は,上記のとおり,標準文字の「PITAVA」です。他方,被告の方は,こんな感じです。
 

2 問題点
 問題点は,上記の被告の使用した標章の態様等が,所謂商標的使用に当たるかどうかです。

 で,この商標的使用については,このブログで何度か述べました。これが一番詳しいかもしれません。
 ほんで,それはそれでよいとして,問題なのは,要件事実です。

 ま,要件事実というと,私の同級生が頭に浮かんでくるかもしれませんが,知財の訴訟実務でそんなに問題になることはありません。だってもう決まっているんだもーん♪

 ですので,この商標的使用についても,裁判所は,判決に記載した争点整理で,
「   (1)  争点1(被告標章の使用が商標的使用に当たるか)について
    (原告)
    ピタバは,取引者,需要者,とりわけ医薬品を服用する患者において,ピタバスタチンあるいはピタバスタチンカルシウムと認識されているとはいえず,服用者たる患者は,被告標章を視認して他の薬剤と出所を識別するのであるから,被告標章は自他商品識別機能を奏する。
 被告は,ピタバがピタバスタチンの略称であることの根拠として研究報告や公開特許公報等を挙げるが,これらはピタバスタチンをロスバスタチン等と比較する等限られた使用例に過ぎない上,取引者,需要者,とりわけ患者の認識を示すものではないから,被告の主張には理由がない。患者は,自らの意思と支出において医薬品を購入するのであり,少なくとも医薬品が処方される過程に影響を与えるから,取引者,需要者に当たる。
 被告商品のパッケージであるPTPシートに「明治」と表示されているとしても,それによって錠剤の「ピタバ」の表示が自他商品識別機能を失うわけではないし,とりわけ一包化調剤として被告商品を交付された患者は,パッケージであるPTPシート等の表示を認識せず,錠剤の表示に基づいて薬剤の出所を識別するから,被告標章が自他商品識別機能を奏することに変わりはない。
    (被告)
    ピタバは,ピタバスタチンカルシウムの略称であり,錠剤に被告標章の印字あるいは刻印をしているのは,服用者が服用する際に他の薬剤と間違えないよう誤飲防止のためであるから,被告標章は,商標的機能,すなわち自他商品識別機能を有しない。
 ピタバスタチンの「statin」(スタチン)は,コレステロール値を下げる薬の総称の1つであり,これを除外したピタバは,ピタバスタチンカルシウムを想起させる略称として,需要者,取引者たる調剤薬局の現場において一般的に使用されている。このことは,特許庁審査官が原告の「ピタバ」の商標 登 録 出 願 を 拒 絶 し た こ と や , ピ タ バ ス タ チ ン を 「 ピ タ バ 」 な い し「PITAVA」と略称した研究報告,公開特許公報等があることから明らかである。被告商品は処方箋医薬品に該当するから,患者は,被告標章を出所表示として認識した上で任意に被告商品を選択して購入することはなく,取引者,需要者に該当しない。
    被告商品のパッケージであるPTPシートには,いずれも「明治」と表示されており,商標としての自他商品識別機能は,「明治」の部分にある。被告商品を購入する取引者,需要者に対しては,錠剤のパッケージ等の表示が商標的機能,すなわち,自他商品識別機能を奏しており,患者がこれをパッケージから取り出して服用しようとする際に取り出された錠剤に印字あるいは刻印された被告標章を見て自他商品を識別することはないから,被告標章の使用は商標的使用に当たらない。なお,原告が主張する一包化調剤の場合においても,患者は袋を開封してそのまま全ての薬剤を服用するから,被告標章により他の薬剤から選択して服用するようなことはしない。
としております。

 いや,これ当事者の言い分を要約してまとめただけでしょ,これが要件事実と何のつながりが?と思うかもしれません。弁護士だと絶対そんな抜けた感想は出ないはずですが,弁理士なら,何のことか全くピンと来ない人もいるかもしれません。

 これね,順番が大事なのですよ。原告から書いているでしょ,つまり原告に主張立証責任のあることだっていう意味です。
 判決をよく見てください。26条とか無効の抗弁とかは,ちゃんと被告から書いているのです。こういう所を見逃さないようにしないといけないわけです。神は細部に宿る!素人がボケっとするのはいいけど,プロならこういう所が大事です。

 ということは,裁判所は,商標的使用については,請求原因事実だと見ているわけですね。つまり,原告が,被告の上記の錠剤での使用態様が,商標的使用,つまり自他商品識別機能を奏するのだ!と主張し,他方被告が,いやいやこれは商標的使用じゃない,自他商品識別機能を有していない!と主張しているわけです。

 これは非常に重要な話です。何でかというと,仮に被告に主張立証責任があるとなると,被告が自他商品識別機能を有していないということを立証できないと被告の負け,つまり請求認容となってしまいます。でも,ないことの証明ってどうやるんでしょう??ないことの証明って難しいですよ。たった一つの反例で証明失敗になりますからね。
 刑事事件でアリバイというのがありますが,それを考えるとよくわかります。犯行現場に居なかったことの証明は出来ないわけです。ですので,犯行現場に「居なかった」証明ではなく,他の場所に「居た」証明をやるわけですね(被告人に立証責任が~♪というややこしい論点はさておき。)。

 いやいやいや,特許の無効の抗弁だって進歩性がないことの証明を被告にやらせてんじゃん,という話になると思うかもしれませんが,あれは条文を見てください。「容易に発明をすることができた」という肯定文です。ですので,被告に証明させてもいいわけですね。

 いやあここまで来ると何が言いたいか勘の良い人にはわかると思いますが,その前に判旨を見ましょう。

3 判旨
「 以上によれば,被告標章は,被告商品の有効成分であるピタバスタチンカルシウムの略称として被告商品(錠剤)に表示されているものであって,その具体的表示態様は,本件商標権の使用許諾を受けているキョーリンリメディオ株式会社のそれと何ら異なるものではない。そうすると,被告商品の主たる取引者,需要者である医師や薬剤師等の医療関係者は,被告商品に接する際,その販売名に付された会社名(屋号等)「明治」に加えて,被告商品のパッケージであるPTPシートに付された「明治」との表示や被告商品に併せて表示されている「明治」や「MS」の表示によってその出所を識別し,錠剤に表示された被告標章は,被告商品の出所を表示するものではなく,有効成分の説明的表示であると認識すると考えられる。 」

4 検討
 判決の結論は,よくあるパターンで,どうってことのない事例判決に過ぎません。でも,そういうよくある判決が,商標的使用を請求原因事実として扱っているということは非常に重要です。

 で,平成26年改正法です。商標法26条1項に新たに6号が加わります。
前各号に掲げるもののほか,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標

 そう,今まで明文の無かった商標的使用が,明文化されるのです。で,場所が問題です。これ,上記のとおり,26条ですので,当然,被告の抗弁,つまりは被告の主張立証責任のある事実になってしまいます。
 まあそれはしょうがないとしても,明文で,否定形で書かれていますよね。

 これねえ,実にまずいんじゃないかと思いますね。元々,商標的使用ってそもそも肯定的概念ですから,商標の定義(2条1項)か,使用の定義(2条2項)に読み込めるものだったわけです。だからこそ多くの裁判例で,商標的使用は,請求原因事実となっていたわけです。

 ところが,何でか知らんが,いきなりどさくさ紛れで,今般,法改正で抗弁事実となってしまいました。これねえ,本当罪深いですよ。実務とはまるっきり反対ですからね。
 そういう実務を知らずに,単なる座りの良さで26条に据えたというなら,もうバカ丸出しだし,他方知ってはいるけど,故意にやったというのでは更に最悪で,要するに,裏で何らかの深謀遠慮が働いたってわけですからね。

 全く不要な改正で,本当今からでも遅くないから削除して欲しいものですニャ。
PR
971  970  969  968  967  966  965  964  963  962  961 
カレンダー
06 2017/07 08
S M T W T F S
1
3 5 7 8
9 11 12 13 15
16 17 19 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]