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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,Bさんら6名の破産者の各破産管財人である承継前上告人らが,それぞれ,被上告人である三井住友銀行に対し,各破産者と被上告人との間の当座勘定取引契約を解約したことに基づく払戻金及び遅延損害金の支払を求める事案です。

 原審である大阪高裁(平成20(ネ)2971号,平成21年05月27日判決,金法1878号46頁)は,「保証人が,主たる債務者の破産手続開始前に締結された保証契約に基づき同手続開始後に弁済をして取得するに至った求償権は,当該保証契約が主たる債務者の委託を受けないで締結されたものであっても,破産債権となる。」「破産法72条1項1号にいう破産債権の取得とは,将来の請求権の場合には,現実化する前の将来の請求権を取得することをいうと解されるところ,被上告人は,将来の請求権としての求償権をBらの破産手続開始前である本件各保証契約の締結時に取得したと解すべきであるから,本件各相殺につき,同号は類推適用されず,被上告人による本件各相殺が許される。」として,控訴棄却(請求棄却)しました。

 これに対して,最高裁は,原判決破棄し,原審に差し戻しました。

 おそらく,今日の閲覧数は激減でしょうね。めちゃくちゃ固い話,そして,これぞ法律家っていうような話です。

2 問題点
 原審の判決が出たころから,いわゆる倒産村や破産法の学者の中では,結構知られた論点です。
 つまり,こういうような事案です。Bさんらは,取引先であるHさんに債務を負っていたのですね。まあこの債務は貸金でも買掛金でもいいのですが(本件では,買掛金と手形の債務だったようです。)。
 そして,本件では,Bさんらの保証人として,銀行が登場します。そして,Bさんらは,この銀行に債権があったのですね(例えば,典型的なものは預金債権です。)。

 で,最高裁の判断だとポイントになるのですが,保証人には,2つのタイプがあります。
 債務者の委託を受けた保証人と,委託を受けない保証人です。まあ難しい言い方ですが,平たく言えば,①金を借りた人にお願いされた保証人か(ちまたの連帯保証人で,債務者と一緒にドボンとなるのがこのタイプ。),②金を借りた人にはお願いされていない,逆に債権者にお願いされた保証人,この2つのタイプの保証人がいるのですね。

 そして,保証人には,債務者に対する事後求償権があるのですが(保証人が債権者にお金を払って,本当の債務者にその分くれ,というやつ),①の保証人の事後求償権は,委任の事務処理の費用請求権(言われたとおりに仕事をしたんだから,実費等をくれ,この能なし!)とされており,②の保証人の事後求償権は,事務管理の費用請求権(いらぬお節介なんだけど,実費くらいは払ってやりなさい)とされております。

 以上のような前提で,Bさんらが破産となり,その後,保証人である銀行が,Hさんにお金を払った(保証債務の履行)のです。
 そうすると,銀行としては,自分の銀行のBさん口座の預金と,さっき支払ったお金が転じた求償権とを相殺したくなります。というか,保証債務の履行をしたのは,一にも二にもその口座の預金が担保的に存在しているからです。

 ただ,そうすると,銀行は損しないとしても,破産財団と思っていた銀行のBさん口座の預金ががっぽり銀行にとられてしまいます。元々,買掛金等であり,Bさんが支払不能に陥れば弁済してもらえることなどあり得なかった債権です。いくら資力のある銀行を保証人として連れて来た慧眼に感服~と言っても,ちょっと抜け駆け的過ぎる気もします。

 このような利益考量状況で,様々議論が進みました。
 論点は,2つです。
 一つが破産法72条1項1号「破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき」との関係性です(これに当たると相殺できません。)。このポイントは,「後」「他人」「破産債権」ということでしょう。
 そして,もう一つが,それに関連して,または関連せず,相殺できるかどうかです。

 一審も原審も,基本,破産債権にはあたるが,破産手続開始前に取得したものだとして,破産法72条1項1号には当たらず,類推適用もせず,相殺はOKとして,銀行の勝ちとしたわけです。

 しかし,これには噛み付いた先生方も多かったと思います。私が普段知財法しかやっておらず,何でこの論点に妙に詳しいのかと思われるかもしれませんが,それは,この噛み付いた先生方の一人である伊藤眞先生(塾長じゃないよ。)の講演を受けていたからです。

 伊藤先生によると,上記の①のような保証人の場合,破産者となる人の委託があり,すでにその委託契約時点で,みんな予期していたもののため,保証人である銀行が抜け駆けしても,それは想定の範囲内で,基本問題なし。でも,②のような保証人の場合,破産者となる人の委託なく,勝手に債権者と保証人でニギニギしていただけなんだから,全く利益衡量上の状況が違う。だから,②のような場合は,破産債権とならず,相殺も駄目だ,とこういうわけだそうです。

 ちなみに,本件では,一審でも原審の二審でも,破産債権となり,相殺もOKとなったのは,上記のとおりです。

 わかりましたか~。事案はそんなに難しくないですよ。委託のない保証人で,保証人の弁済は開始決定後で,保証人が従前から有する受働債権で,さきの弁済に基づく求償権(自働債権)で相殺,できるかどうかです。

3 判旨
論点1 「保証人は,弁済をした場合,民法の規定に従って主たる債務者に対する求償権を取得するのであり(民法459条,462条),このことは,保証が主たる債務者の委託を受けてされた場合と受けないでされた場合とで異なるところはない(以下,主たる債務者の委託を受けないで保証契約を締結した保証人を「無委託保証人」という。)。このように,無委託保証人が弁済をすれば,法律の規定に従って求償権が発生する以上,保証人の弁済が破産手続開始後にされても,保証契約が主たる債務者の破産手続開始前に締結されていれば,当該求償権の発生の基礎となる保証関係は,その破産手続開始前に発生しているということができるから,当該求償権は,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」(破産法2条5項)に当たるものというべきである。したがって,無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は,破産債権であると解するのが相当である。

論点2「ア 相殺は,互いに同種の債権を有する当事者間において,相対立する債権債務を簡易な方法によって決済し,もって両者の債権関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする合理的な制度であって,相殺権を行使する債権者の立場からすれば,債務者の資力が不十分な場合においても,自己の債権について確実かつ十分な弁済を受けたと同様の利益を得ることができる点において,受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た機能を営むものである(最高裁昭和39年(オ)第155号同45年6月24日大法廷判決・民集24巻6号587頁参照)。上記のような相殺の担保的機能に対する破産債権者の期待を保護することは,通常,破産債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする破産制度の趣旨に反するものではないことから,破産法67条は,原則として,破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺を認め,同破産債権者が破産手続によることなく一般の破産債権者に優先して債権の回収を図り得ることとし,この点において,相殺権を別除権と同様に取り扱うこととしたものと解される。
 他方,破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺であっても,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においては,上記基本原則を没却するものとして,破産手続上許容し難いことがあり得ることから,破産法71条,72条がかかる場合の相殺を禁止したものと解され,同法72条1項1号は,かかる見地から,破産者に対して債務を負担する者が破産手続開始後に他人の破産債権を取得してする相殺を禁止したものである。
 イ 破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始前に債務者である破産者の委託を受けて保証契約を締結し,同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合には,この求償権を自働債権とする相殺は,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においても,他の破産債権者が容認すべきものであり,同相殺に対する期待は,破産法67条によって保護される合理的なものである。しかし,無委託保証人が破産者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合についてみると,この求償権を自働債権とする相殺を認めることは,破産者の意思や法定の原因とは無関係に破産手続において優先的に取り扱われる債権が作出されることを認めるに等しいものということができ,この場合における相殺に対する期待を,委託を受けて保証契約を締結した場合と同様に解することは困難というべきである。そして,無委託保証人が上記の求償権を自働債権としてする相殺は,破産手続開始後に,破産者の意思に基づくことなく破産手続上破産債権を行使する者が入れ替わった結果相殺適状が生ずる点において,破産者に対して債務を負担する者が,破産手続開始後に他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上同債権を自働債権としてする相殺に類似し,破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続上許容し難い点において,破産法72条1項1号が禁ずる相殺と異なるところはない。
 そうすると,無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において,保証人が取得する求償権を自働債権とし,主たる債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とする相殺は,破産法72条1項1号の類推適用により許されないと解するのが相当である。

4 検討
 結局,最高裁は,本件のような場合でも,破産債権だとしました(伊藤先生,残念。ちなみに伊藤先生の理論は,千葉裁判長の補足意見で全否定されてしまっております。)。
 結局,保証契約自体は「前」にあるからです。ですので,破産法72条1項1号の直接適用はないわけです。

 しかし,その上で,相殺は認めませんでした。それは,「前」の破産債権だけども,破産法72条1項1号の類推適用をしたからです。その理由は2つのようです。一つは①のような保証人の場合,想定外となってしまう,ということです。もう一つは,利益衡量上の状況が,破産法72条1項1号の典型的状況と似ている,ということです。
 このような理由から,最高裁は本事例において,銀行の相殺を認めませんでした。

 これは実に座りのよい結論です。最高裁に大賛成というところです。ちなみに,本件の銀行は,三井住友銀行なんですが,ざまあかんかんかっぱのへーってところですね。

 なんか久々弁護士っぽいことを書きましたので,読んでいる多くの人は超退屈だったでしょうね。
 でも私は破産法好きなので,非常に面白いのです。残念なのは,この力を発揮する場がなくなってしまったということです。というのは,やっと選任されるようになった破産管財人の配点が全く回ってこなくなった!からです。

 現在の東京の破産管財人は,ほぼ唯一の,営業活動の要らない美味しい仕事であり,希望する弁護士は腐るほどいます。そうすると,裁判所からすると,厳しく減点法で採点し,ちょっとでもミスをすれば,即配点なし,ということなんでしょうね。まあそれでも,3件回ってきたからよしとしますかな。知り合いの中には,1件回っておしまいや,1件も回って来なかったという方もいますからね。

 ただ,私は蛇蝎の如く執念深いですから,反発する弁護士も中にはいるだろうけど切っちまおうということで,やっているのでしたら,それ相応の報いはそのうち20部&倒産村に振りかかると思います。ジャハンナムの門は大きく開かれているのです。自業自得なのです。
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