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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,信用協同組合である上告人(信用組合関西興銀)の勧誘に応じて上告人に各500万円を出資したが,上告人の経営が破綻して持分の払戻しを受けられなくなった被上告人らが,上告人は,上記の勧誘に当たり,上告人が実質的な債務超過の状態にあり経営が破綻するおそれがあることを被上告人らに説明すべき義務に違反したなどと主張して,上告人に対し,主位的に,不法行為による損害賠償請求権又は出資契約の詐欺取消し若しくは錯誤無効を理由とする不当利得返還請求権に基づき,予備的に,出資契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき,各500万円及び遅延損害金の支払を求める事案です。

 論点としては,予備的請求である出資契約上の債務不履行による損害賠償請求の当否が争われております。

 原審である大阪高裁は,本件説明義務違反は,不法行為を構成するのみならず,本件各出資契約上の付随義務違反として債務不履行をも構成するとして,被上告人らの予備的請求である債務不履行による損害賠償請求を,遅延損害金請求の一部を除いて認容すべきものとしました。

 これに対して,最高裁第二小法廷は,原判決破棄(第一審も取り消し)して,自判(被上告人らの請求棄却)しました。要するに,逆転で,被害者の負けということになったわけですね。

2 問題点
 契約締結前というのは,当事者お互いの探り探りの状態と言えます。それでも,価格,利回り,納期,保証,その他のメリット,デメリットを冷静に考慮してある特定の者とめでたく契約締結に至るわけです。もちろん,契約締結前に想像していた程度のイレギュラーな事態が起こってもそれは想定の範囲内ということになりましょうが,本件のように,相手方が破綻するようなことになっては大変です。

 1回きりの売買などでは,支払と引渡が済んだあとで,相手が破綻しようがあの世に行こうが,それは特段の問題とはなりません。
 しかし,契約が済んでもしばらく契約締結状態に縛られるものではこうも行きません。例えば,今回のような出資や金融商品の売買,賃貸借,1回きりの売買でもM&A,などですね。

 このような場合,売り手などが,買い手などに説明不十分な場合,買い手などとしたら,そこを知っていれば,またはそこを聞いていれば,おたくとは取引しなかったのに,というところがありえます。
 そのような場合,可哀想な買い手などを救済する手段として,だまくらかしたわけだから,不法行為となることは容易に想像できるでしょう。他方,債務不履行となるかどうかは,若干問題となります。というのは,説明の不十分さなどは,契約締結前の事情であるため,契約の直接の違反ではないからです。

 ただ,通常,不法行為だろうが,債務不履行だろうが,それであまり問題となることはありません。ただ,時効だけが違います。不法行為だと3年,債務不履行だと10年なのです。本件でも押っ取り刀で訴訟を提起などしたのが,3年を過ぎていたので,債務不履行にこだわったのでしょうね。

3 判旨
「しかしながら,原審の上記判断のうち,本件説明義務違反が上告人の本件各出資契約上の債務不履行を構成するとした部分は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
  契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはないというべきである。
  なぜなら,上記のように,一方当事者が信義則上の説明義務に違反したために,相手方が本来であれば締結しなかったはずの契約を締結するに至り,損害を被った場合には,後に締結された契約は,上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって,上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということは,それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず,一種の背理であるといわざるを得ないからである。契約締結の準備段階においても,信義則が当事者間の法律関係を規律し,信義則上の義務が発生するからといって,その義務が当然にその後に締結された契約に基づくものであるということにならないことはいうまでもない。
  このように解すると,上記のような場合の損害賠償請求権は不法行為により発生したものであるから,これには民法724条前段所定の3年の消滅時効が適用されることになるが,上記の消滅時効の制度趣旨や同条前段の起算点の定めに鑑みると,このことにより被害者の権利救済が不当に妨げられることにはならないものというべきである。 」

4 検討
 まあ何事もやばいと思ったらすぐに訴訟にしないと(少なくとも催告),時効にかかってしまうことがあるということですかね。今回のような事例だけでなく,ハウスメーカーに家の建築を頼んだら倒産した(リフォーム会社でも同じ)などという事例ではぴったり射程が当てはまると思います。

 他方,企業間でのM&Aなどでは,説明義務を尽くしたなどということに対して,表明保証責任を課すことが多いと思います。つまり,「 もっとも,このような契約締結の準備段階の当事者の信義則上の義務を一つの法領域として扱い,その発生要件,内容等を明確にした上で,契約法理に準ずるような法規制を創設することはあり得るところであり,むしろその方が当事者の予見可能性が高まる等の観点から好ましいという考えもあろうが,それはあくまでも立法政策の問題であって,現行法制を前提にした解釈論の域を超えるものである。 」との千葉勝美裁判長の懸念に対し,契約そのものでケアするというわけです。

 個人的には何でもかんでも法律,規制などではなく,契約書でカバーできるものはそれでいいんじゃないのって感じがします。要するに,民法の債権法の改正など,全く不要だということですよ。男の嫉妬は醜いなあって思いますね。

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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