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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,被上告人(東芝)の従業員であった上告人が,鬱病に罹患して休職し休職期間満了後に被上告人から解雇されたが,上記鬱病(本件鬱病)は過重な業務に起因するものであって上記解雇は違法,無効であるとして,被上告人に対し,安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく休業損害や慰謝料等の損害賠償,被上告人の規程に基づく見舞金の支払,未払賃金の支払等を求める事案です。

 まず,一審( 平成16年(ワ)24332号,東京地裁平成20年04月22日判決)は,東京地裁民事11部の単独体で,「雇用契約上の権利を有する地位の確認,本件解雇後である平成16年10月から本判決確定に至るまで毎月25日限り月額47万3831円の割合による賃金の支払並びに慰謝料等835万1382円及びこれに対する平成16年12月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある」として,かなり原告に有利な判決でした。

 次に,二審(
平成20年(ネ)2954号,東京高裁平成23年02月23日判決)は,東京高裁の第11民事部で,「損害賠償の額を定めるに当たり,・・・過失相殺に関する民法418条又は722条2項の規定の適用ないし類推適用により損害額の2割を減額するとともに,休業損害に係る損害賠償請求につき,要旨次の(3)のとおり判断して,その認容すべき額が選択的併合の関係にある未払賃金請求の認容すべき額を下回るからこれを棄却すべきものである」として,要するに過失相殺,素因減額をして,一審に比べて,若干額を減じたわけです。

 おー。一審も二審も11だ~♫こりゃ単なる偶然でしょうね。

 ほんで,最高裁は,「被上告人が安全配慮義務違反等に基づく損害賠償として上告人に対し賠償すべき額を定めるに当たっては,上告人が上記の情報を被上告人に申告しなかったことをもって,民法418条又は722条2項の規定による過失相殺をすることはできないというべきである。」として,基本,破棄差戻しにしました。

 昨日の判決がもう見れる~。今朝の朝刊にも大きく載っていた東芝解雇事件の最高裁です。

 ま,私は基本弱きをくじき強きを助け,寄らば大樹の陰,長いものには巻かれろ~♫という反人権派ネトウヨエロ弁護士なので,労働問題なんか本来あんまり興味はないのです。
 でも,事案によっては非常に,特許や知財以上に興味を持ちます。
 何故か?そりゃ内緒ですが,同期の同じクラスと実務修習の同じ班の人たちは若干知っているかもしれませんね。そういえば,この事件も,原告の代理人(一審)の一人が同期同クラスの方です。労働事件なら,彼が良いと思いますよ。

 ま,ということで,今回の事件は,その特別例外的に興味を持つ事案なわけです。

2 問題点
 法律上の問題点は,労働者が過重な業務によって鬱病を発症し増悪させた場合において,使用者の安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償の額を定めるに当たり,当該労働者が自らの精神的健康に関する情報を申告しなかったことをもって過失相殺等をすることができるかどうかです。

 過失相殺は条文があります。民法418条です。
(過失相殺)
第四百十八条  債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
 これは,債務の不履行,つまり契約関係にある者の間での話です。
 不法行為だと,民法722条2項です。
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

 若干違いますね。債務不履行の場合は,責任まで定め,不法行為の場合は,額のみです。また,債務不履行では,定める,となっているのに,不法行為では定めることができる,となっております。こういう所は実に重要なのですが,今回本質とは関係ないので,省きます。

 ま,要するに,こっちも悪いけど,あんたも少し悪い所があったじゃん,っていう時に,お金を少なくしまっせってやつです。
 交通事故ではよくありますよね。車に轢かれたけど,夜に無灯火だった自転車の人,車に轢かれたけど横断歩道じゃない所を車からすると青信号なのに渡った人,などなどです。

 で,こういうわかりやすいときはいいのですが,今回の事例のように,①上告人が,神経科の医院への通院,その診断に係る病名,神経症に適応のある薬剤の処方等の情報を上司や産業医等に申告しなかったことは,被上告人において上告人の鬱病の発症を回避したり発症後の増悪を防止する措置を執る機会を失わせる一因となったものであるから,上告人の損害賠償請求については過失相殺をするのが相当であるのか ,また,②上告人が,入社後慢性的に生理痛を抱え,平成12年6月ないし7月頃及び同年12月には慢性頭痛及び神経症と診断されて抑鬱や睡眠障害に適応のある薬剤の処方を受けており,業務を離れて治療を続けながら9年を超えてなお寛解に至らないことを併せ考慮すれば,上告人には個体側のぜい弱性(つまり,本人が脆弱だから病気が治らないのだ)が存在したと推認され,上告人の損害賠償請求についてはいわゆる素因減額をするのが相当であるのか,ということが争点となったわけです。

 ま,私は労働事件やっていないので,あれですが,一方の過失が凄く悪けりゃ,他方のちょっとの過失も問題とならないだろし,情報の性質によっては,それはちょっと言いにくいさ~っちゅうのもあるでしょうね。

3 判旨
「  (1)ア  上告人は,本件鬱病の発症以前の数か月において,前記2(3)のとおりの時間外労働を行っており,しばしば休日や深夜の勤務を余儀なくされていたところ,その間,当時世界最大サイズの液晶画面の製造ラインを短期間で立ち上げることを内容とする本件プロジェクトの一工程において初めてプロジェクトのリーダーになるという相応の精神的負荷を伴う職責を担う中で,業務の期限や日程を更に短縮されて業務の日程や内容につき上司から厳しい督促や指示を受ける一方で助言や援助を受けられず,上記工程の担当者を理由の説明なく減員された上,過去に経験のない異種製品の開発業務や技術支障問題の対策業務を新たに命ぜられるなどして負担を大幅に加重されたものであって,これらの一連の経緯や状況等に鑑みると,上告人の業務の負担は相当過重なものであったといえる。
  イ  上記の業務の過程において,上告人が被上告人に申告しなかった自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報は,神経科の医院への通院,その診断に係る病名,神経症に適応のある薬剤の処方等を内容とするもので,労働者にとって,自己のプライバシーに属する情報であり,人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であったといえる。使用者は,必ずしも労働者からの申告がなくても,その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ,上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には,上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で,必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。また,本件においては,上記の過重な業務が続く中で,上告人は,平成13年3月及び4月の時間外超過者健康診断において自覚症状として頭痛,めまい,不眠等を申告し,同年5月頃から,同僚から見ても体調が悪い様子で仕事を円滑に行えるようには見えず,同月下旬以降は,頭痛等の体調不良が原因であることを上司に伝えた上で1週間以上を含む相当の日数の欠勤を繰り返して予定されていた重要な会議を欠席し,その前後には上司に対してそれまでしたことのない業務の軽減の申出を行い,従業員の健康管理等につき被上告人に勧告し得る産業医に対しても上記欠勤の事実等を伝え,同年6月の定期健康診断の問診でもいつもより気が重くて憂鬱になる等の多数の項目の症状を申告するなどしていたものである。このように,上記の過重な業務が続く中で,上告人は,上記のとおり体調が不良であることを被上告人に伝えて相当の日数の欠勤を繰り返し,業務の軽減の申出をするなどしていたものであるから,被上告人としては,そのような状態が過重な業務によって生じていることを認識し得る状況にあり,その状態の悪化を防ぐために上告人の業務の軽減をするなどの措置を執ることは可能であったというべきである。これらの諸事情に鑑みると,被上告人が上告人に対し上記の措置を執らずに本件鬱病が発症し増悪したことについて,上告人が被上告人に対して上記の情報を申告しなかったことを重視するのは相当でなく,これを上告人の責めに帰すべきものということはできない。
  ウ  以上によれば,被上告人が安全配慮義務違反等に基づく損害賠償として上告人に対し賠償すべき額を定めるに当たっては,上告人が上記の情報を被上告人に申告しなかったことをもって,民法418条又は722条2項の規定による過失相殺をすることはできないというべきである。

4 検討
 この事例で,原告のせいにしなきゃいけないものって本当少ないのだと思いますよ。本当良かったですよ,まだ差し戻しなので,高裁がまたありますけどね。

 で,良かったと思うのは,今回の結論もさることながら,原告の方が亡くなっていないということですね。鬱病は死に至る病なので,若年期での鬱病の死亡率は,全病気のうち最高なのじゃないですかね。

 で,今回の原告は,「平成2年3月に大学の理工学部を卒業し,同年4月に被上告人に雇用されて入社した。」ということで,社会人デビューは私と同じです。年代もほぼ同じですね。

 その後,原告は,「平成10年1月に被上告人の液晶ディスプレイ等を製造する工場(以下「本件工場」という。)に異動となり,液晶生産事業部(以下「本件配属部」という。)の一つの技術部門を担当する課に配属となり,」他方「被上告人は,本件工場において,遅くとも平成12年11月頃から,当時世界最大のサイズのガラス基板を用いる液晶ディスプレイの製造ラインを構築するプロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)を立ち上げ,「垂直立上げ」という標語を掲げ,人材を集中させて同13年4月までの短期間で成功することを目指していた。」そうです。

 そして,「本件プロジェクトにおける上告人を含む技術担当者の主な業務は,設備メーカーと共同で製品の良品率や生産性を向上させるために製造装置の運転条件を調整する作業であった。
  上告人は,本件プロジェクトの一つの工程において初めてプロジェクトのリーダーになった。上告人は,本件プロジェクトへの従事中,休日に出勤することも多く,帰宅が午後11時を過ぎることも増えた。」みたいです。

 いやあ,私が,エンジニア時代やってた仕事とよく似ています。
 私も,ソニー長崎やソニー国分に,ラインの垂直立ち上げ,そして歩留まりアップなんてことでよく出張してましたわ。本当,こんな感じです。
 11時過ぎに仕事終わりで飯食いがてら,同僚や後輩とソニー国分近くの「若大将」(今もあるのかなあ。)に飲みに行ったりしました~。ほんで,ギリギリ二日酔いにならないかくらいで,朝出勤と~♫

 で,原告の方は,「 本件プロジェクトの立上げ後,4月までの間に,平成12年12月に75時間06分,1月に64時間59分,2月に64時間32分,3月に84時間21分,4月に60時間33分の時間外労働(法定の労働時間を超える時間における労働をいう。以下同じ。)をそれぞれ行っていた。 」みたいです。

 今と違って,2000年代の初めころって,日本の液晶もバンバン盛り上がってころですから,繁忙感はハンバなかったでしょうね。ほんで,原告は真面目で仕事ができたのでしょう。だから,こんな羽目になったわけです。
 仕事が出来ても不真面目なら,息抜きもできるでしょうし,真面目でも仕事ができなきゃ,こんな重要な仕事は任せられないわけです。

 ここが私と原告の違いだと思います。私は不真面目な上に仕事ができませんでしたからね~。重要なことは任せられないし,よく癇癪を起こしてスノーボードとかサーフィンに行ってましたから,鬱病になることはなかったわけです。

 でもね~。当時のエンジニアの職場で,鬱病で会社に来られなくなった人が結構な割合でいました。ソニー国分もです。
 すごい割合ですよ。結局,今回の原告と同じ,真面目で仕事ができる人に負担がかかるのです。

 そういった人がその後どうなったか,それは私のビギンズナイトに関わることなので,詳細に述べることはできません。
 でもこの時期,若干は思い出しますね。そうか~あれからもう14年も経ったわけですか~。ちょっと格好つけて言えば,私はあの日にジョーカーメモリを手に入れたわけですね。
 
 私は基本弱きをくじき強きを助け,寄らば大樹の陰,長いものには巻かれろ~♫という反人権派ネトウヨエロ弁護士なので,大手企業の味方をするのが本分なのですが,このことに限ってはなかなかそことの折り合いをつけることができませんね。ま,死ぬなよ,みんな。

5 追伸
 そうだそうだ,今日の桜です。
 
 目黒川沿いで大崎近くの場所です。かなり花弁も開いてきております。木によっては,一つ二つ開花しているやつもありますね。うーん,もうちょいです。
 ほんで,東京は暖かいですね~。寒いのが嫌な私にとっては漸くいい感じになってきました。

 ところで,事務所の前のソニー通りは今日非常に混んでいたので,何かなと思っていたら,山手通りが不通になっていたのですね。事故で,トラック横転だそうです。場所は,この目黒川沿いをさらに南下して海側に行き,山手線などの高架のあるすぐ近くですね。なので,山手線からはこの横転しているトラックがよく見えたのではないでしょうか。

 ま,色々気をつけないといけないって所ですね。

 
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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