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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,弁護士である被上告人に債務整理を依頼した第1審原告亡Aの相続人である上告人が,被上告人に対し,債務整理の方針についての説明義務違反があったことなどを理由として,債務不履行に基づき慰謝料等を損害賠償として求める事案です。

 まず,原審の福岡高裁宮崎支部は,「債務整理の方針についての説明義務違反の有無について,A(弁護士の依頼者)が,被上告人から上記2(1)及び(4)に記載の内容等の説明を受け,被上告人の採る債務整理の方針に異議を述べず,その方針を黙示に承諾したと認められることなどからすれば,被上告人が上記説明義務に違反したとは認められないと判断して,上告人の請求を棄却し」ました。つまり,債務不履行は無かったということです。

 これに対し,最高裁は,「原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,損害の点等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」としました。つまりは,破棄差戻しで,債務不履行もあった,ということです。

 債務整理をやる弁護士の説明義務違反の事例・・・,弁護士界隈では結構話題になっている最高裁の判決です。

2 問題点
 債務整理というのは,弁護士の仕事の基本中の基本のようなものです。ただし,企業法務やインハウスの弁護士には家事事件以上に全く縁のないものだと思います。私も,年に2件くらい債務整理をやりますが(そのほとんどは破産の申立てです。),イソ弁時代には一件もやったことはありませんでした(法律相談レベルでもしたことがありませんでした)。

 で,独立してからは,知財だけでは食っていけませんので,債務整理事件を受任するようになりました。私が独立したころは,いわゆる過払い金でウハウハっという時代は既に過ぎておりましたので,上記のとおり,殆どは破産の申立てで終わるということが多いですね。
 ま,イメージとは違い,倒産という法領域は私は好きなんですよね。こういうと,弁理士仲間等は怪訝な顔をするのですが,法人でも個人でも,立ち直りというか再建的な面があり,非常にクリエイティブなところがあります。その基本中の基本が破産ですので,どんな小さな事件でも色々勉強できることがあり,面白いものです。

 他方,法的整理でない場合,実はこっちの方がしんどいかもしれません。過払い金があって,全体で+になるというのであれば,報酬が期待できますので,私のような金権悪徳弁護士はルンルンですが,そんな事例は今やありません。いや,正確に言えば,広告費をたくさん出している事務所が根こそぎぶんどったのでしょうね。
 そうすると,報酬は期待できず,かと言って,法的整理できないのですから(法的整理が出来れば,多くの場合,それに越したことはありません。),ある意味,色んな交渉術を用いて債権者と交渉しなければなりません。

 ね,しんどい理由がわかるでしょ。こちらは債務が残るけど,破産ができないという弱い立場ですから,何とか債権者をなだめすかしつつ,長期の分割払いなどにしてもらうよう頼みます。でも,頼むだけだから,相手の胸先三寸でどうにでもなるという,極めてバーゲニングパワーの乏しい交渉です。とすると,反則スレスレの大技や,意表を突く返し技を使いたくなるというのも,人の常ですわな。

 私もそうですが,人間って口では何でも言えますが,聖人君子でも何でもなく,実際分水嶺みたいな所に立たせられると,結構もろくて弱いものです。
 ですので,私は自分の愚かさ弱さを自覚している故,そういう対策はすべてフールプルーフにしております。例えば,何かの拍子に預り金に手を出したくなるかもしれません。ですので,お金は預からないようにしております。

 自分を信じちゃいけないよ~卑しい心は人の常~♪あ~こりゃこりゃ。

 とはいうものの,本件の事例ではそんな極限的な話でもないようです。

3 判旨
 「本件において被上告人が採った時効待ち方針は,DがAに対して何らの措置も採らないことを一方的に期待して残債権の消滅時効の完成を待つというものであり,債務整理の最終的な解決が遅延するという不利益があるばかりか,当時の状況に鑑みてDがAに対する残債権の回収を断念し,消滅時効が完成することを期待し得る合理的な根拠があったことはうかがえないのであるから,Dから提訴される可能性を残し,一旦提訴されると法定利率を超える高い利率による遅延損害金も含めた敗訴判決を受ける公算が高いというリスクをも伴うものであった。
 また,被上告人は,Aに対し,Dに対する未払分として29万7840円が残ったと通知していたところ,回収した過払金から被上告人の報酬等を控除してもなお48万円を超える残金があったのであるから,これを用いてDに対する残債務を弁済するという一般的に採られている債務整理の方法によって最終的な解決を図ることも現実的な選択肢として十分に考えられたといえる。
 このような事情の下においては,債務整理に係る法律事務を受任した被上告人は,委任契約に基づく善管注意義務の一環として,時効待ち方針を採るのであれば,Aに対し,時効待ち方針に伴う上記の不利益やリスクを説明するとともに,回収した過払金をもってDに対する債務を弁済するという選択肢があることも説明すべき義務を負っていたというべきである。
 しかるに,被上告人は,平成18年7月31日頃,Aに対し,裁判所やDから連絡があった場合には被上告人に伝えてくれれば対処すること,Dとの交渉に際して必要になるかもしれないので返還する預り金は保管しておいた方が良いことなどは説明しているものの,時効待ち方針を採ることによる上記の不利益やリスクをAに理解させるに足りる説明をしたとは認め難く,また,Dに対する債務を弁済するという選択肢について説明したことはうかがわれないのであるから,上記の説明義務を尽くしたということはできない。そうである以上,仮に,Aが時効待ち方針を承諾していたとしても,それによって説明義務違反の責任を免れるものではない。」

4 検討
 本件の事例の場合,この結論は致し方無いのだと思います。
 かと言って,この被上告人の弁護士を責める気もありませんけどね。

 私が責めたいのは,もっと違うところです。
 実は,この事件,被上告人の弁護士が,公設事務所で扱った事件についての依頼者との揉め事なのですね。

 で,公設事務所って何じゃらホイってことになるのですが,これは弁護士会や日弁連が会員(私のような弁護士)からの会費を元にして,主として田舎に作った法律事務所です。よく似たものに,法テラスの法律事務所もありますね。

 ですが,はっきり言わせてもらえば,こんなもん全く不要で,偽善の巣窟と言ってよいものです。

 どういうことかというと,公設事務所も法テラスの事務所も,趣旨は一緒です。全国津々浦々に,法の支配をもたらすということです。弁護士のいない地域をなくす,こういうことですね。
 ねーちょっと聞くとそれの何が悪いんだー別に良いじゃないかと思いますね。でもね,公で作るのは違うのですよ。

 例えば,私の田舎の豊後高田市には法律事務所は一件もありません。大分市や中津市の事務所の支店もありません。何故か?それは自営を支えるだけのニーズがない,からだけです。ですので,弁護士が必要なときは,わざわざ中津に行かないといけません。自動車で40分くらいはかかります。

 こう書くと,そうだろう,だから公の事務所が必要だろ,と言われるかもしれません。
 でもね,例えば,豊後高田市がお金を出して,それこそ都会に居る私に,お金の補助をしてあげるから帰っておいで~♪として,豊後高田市で半分市営の事務所を開いたとします。ところが,トラブルには色んなトラブルがあります。市役所が相手方となるトラブルも出てくるでしょう。そうしたら,いやあお金出してもらっているからなあ,ちょっと難しいなあ,と断らないといけません。大分県が金を出しても同じです。勿論,国でも,弁護士会でも法テラスでも,です。
 どっからも影響されないために,弁護士が自営でやるというのは非常に意味があるのです。

 じゃあ,上のように,田舎の人は,となり町までそれこそ自動車で行かないといけないし,豊後高田市ならまだいいよ,もっと田舎だとか離島だとかとんでもなく不便じゃないか,と言われるかもしれません。
 でもそりゃ不便だけど,別に構わないのではないかと思うのです。
 弁護士なんか,緊急で,今日明日にでも罹らないと死んでしまうというものではありません。毎日毎日つきっきりで診てもらわないと手遅れになるというものでもありません。弁護士との面接なんか,訴訟になっても,月に1回打ち合わせをするかしないかくらいなものです。多少距離があっても,電話もFAXも電子メールだってあります。私は,知財とか技術とか,専門性が高い法分野を得意にしていますので,地方の弁護士のちゃんといる街の方からもよくご依頼を受けますが,何の支障もありません。

 はっきり言って,コンビニもないような田舎に法律事務所作ってどうすんだってことですよ。

 津々浦々に法の支配をとか言っている結局アメリカかぶれのバカサヨクは,国土強靭化基本法などが出ると,熊しか通らない所に高速道路作ってどうすんだとか,そんな所に新幹線作って稲刈りにでも行くのかなどと,田舎者をバカにした考え方の持ち主が多いようですが,公設事務所よりは百倍マシじゃボケっ!と返しておきましょう。

 日弁連は,公設事務所の不祥事ともあって,火消しにやっきです。
 でも,私が修習生のころ,この被上告人である弁護士の活動の様子が顔写真入りで,日弁連の会誌の「偽善と欺罔」(別名,自由と正義)に載っていたのをよく覚えております。その頃は日弁連は諸手を挙げてこの方を応援していたわけです。
 ですが,上記のとおりの原理原則に反している上に,これで余分な仕事も増えたわけですので,愚かしいことこの上なしですね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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