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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件本訴は,米国法人であるA社との間で同社の製造する電気瞬間湯沸器(本件湯沸器)につき日本国内における独占的な販売代理店契約を締結し,「エマックス」,「EemaX」又は「Eemax」の文字を横書きして成る各商標(被上告人使用商標)を使用して本件湯沸器を販売している被上告人(日本建装工業)が,本件湯沸器を独自に輸入して日本国内で販売している上告人(エマックス東京)に対し,被上告人使用商標と同一の商標を使用する上告人の行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するなどと主張して,その商標の使用の差止め及び損害賠償等を求める事案です。
 他方,本件反訴は,逆に,上告人が,被上告人に対し,上告人の有する各商標権に基づき,各登録商標に類似する商標の使用の差止め等を求める事案です。 
 これに対しては,被上告人は,上記各登録商標は商標法4条1項10号に定める商標登録を受けることができない商標に該当し,被上告人に対する上記各商標権の行使は許されないなどと主張して争っているわけです。

 本訴と反訴があるのでややこしいですが,本訴は独占販売権者が混同惹起行為として請求し,反訴は並行輸入業者が,商標権に基づき,請求しているわけです。
 なお,実は,並行輸入業者の方は,昔昔,独占販売権者から仕入れていたものの,トラブって仕入れることが出来なくなり,並行輸入したという経緯があります。

 さらに,以前もこの業者間で揉め,和解が成立したという経緯もあります(その辺は,山崎敏充裁判官の補足意見に詳しいです。)。

 原審(福岡高裁平成26(ネ)791,平成27年6月17日判決)は,①被上告人使用商標は不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示(中略)として需要者の間に広く認識されているもの」に当たり,上告人が被上告人使用商標と同一の商標を使用する行為は同号所定の不正競争に該当するとして,本訴請求の一部を認容すべきものとし,また,②被上告人使用商標は商標法4条1項10号にいう「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」に当たり,被上告人使用商標と同一又は類似の商標である本件各登録商標のいずれについても,商標登録を受けることができない同号所定の商標に該当するから,同法39条において準用される特許法104条の3第1項に係る抗弁が認められ,被上告人に対する本件各商標権の行使は許されないとして,反訴請求を棄却すべきものとしたわけです。

 つまり,独占販売権者の不競法の請求はOK,並行輸入業者の商標権の請求はNGとしたわけです。ちなみに,この原審の判決を見ようとしたら,私の使っているデータベースにも,裁判所のデータベースにもありませんでした。

 ただ,この両当事者が,商標権(「平成17年登録商標」ではなく,平成22年の登録商標ですね。)の登録性を争った事件があります(知財高裁平成27年(行ケ)第10083号,平成27年12月24日判決)。
 
 なので,あんまり話題には上っていなかった事件かなあと思いますが,判示は重要ですね。
 ちなみに,最高裁の結論は,破棄差戻しです。

 まあ,商標の最高裁なんて珍しいですよね。なので,マジ判決紹介するのをやめているこのブログでもさすがに紹介せんわけにはいかんだろうということで,書いた次第です。

2 問題点
 問題点は2つあります。
 1つは,不競法の事件での周知性です。さらに言えば,この不競法2条1項1号の周知性と,商標法4条1項10号の周知性は同じか,違うのかという論点もあると思います。条文上の文言はほぼ同じですけどね。

 ちなみに,原審の福岡高裁は,不競法2条1項1号の周知性を満たすと判断し,別事件の知財高裁は,商標法4条1項10号の周知性を満たさないと判断したのです。

 ですが,今回の最高裁はこの論点の判断はあるのですが,原審の判断が不十分という是非の判断をしただけで,特段の規範等を踏まえた判断までしたわけでありません。なので,ここはお預けですね。

 で,もう一つの判断が,権利の濫用の関係です。
 上記のとおり,「平成17年登録商標」は,登録から5年を経過しておりましたので,もはや無効審判を起こすことができないわけです(除斥期間の商標法47条1項)。
 なので,その場合には,無効の抗弁の主張はできないのか?仮にできないとすると一般的な権利濫用の抗弁はどうだ?ってやつです。

 まあ特許だと除斥期間ってやつが無く,この除斥期間は商標法独自のものです。だって商標法には,業務上の信用維持という産業の発達だけではない立法目的があるのです。長く使ってりゃ,信用が維持されるでしょ,多少ヤクザなことをしてもそういう事実状態になるともう信用が維持されんだから,無効にできないでしょってやつです。

 よくどっかの国の憲法に対しても,もう70年以上不都合なく使ってきたんだから,外国から多少無理矢理押し付けられたとしても,そういう事実状態を守るべきじゃないの~っていう屁理屈がありますが,それと一緒なわけですね。ただ,そんなこと言っていると,北方領土も竹島もそして沖縄も永久に帰ってこないと思いますけどね~♫あーこりゃこりゃ。

 おっとまた議題からずれそうだわい。
 で,そういう除斥期間という特別なやつが商標法にはあるのです。ちなみに,私が弁理士を受験したころは,「ミスは,以後なやむさ+4Ⅰ⑩」という語呂合わせで覚えたのですが,今はどうなんでしょうねえ。
 あ,この語呂合わせの中身知りたいって?いやあタダではねえ~。ムフフ。

 おっとまたまた議論が明後日の方向に・・・。

 戻しますと,そういう除斥期間後に,抗弁として無効の抗弁(特許法104条の3を準用する抗弁のこと)を主張できるかという論点がまずあるわけです。
 これには肯定説と否定説があります。条文上無効審判の請求できないんだから抗弁もできるわけないじゃないかというのが否定説で,いやいやいや無効の抗弁は無効審判を提起するのがmustじゃないでしょ,だからOKですよ,というのが肯定説です。

 で,否定説をとった場合には,じゃあそういう状況の下,民法的な権利濫用の抗弁はどうなの?それまで主張できないってのはおかしいよね,って言う論点があります。
 この論点については何かの抗弁は主張できるだろうというのが通説だと思うのですが,その抗弁の根拠については,民法だとか,いやいやキルビー判決だとか,多少割れています。

 まあ前提条件の説明としてはこんな所でしょうかね。ここまで説明したら分かるでしょ。

3 判旨
(1)不正競争防止法2条1項1号に関する部分について
「前記事実関係等によれば,被上告人が被上告人使用商標を使用して販売している本件湯沸器は,商品の内容や取引の実情等に照らして,その販売地域が一定の地域に限定されるものとはいえず,日本国内の広範囲にわたるものであることがうかがわれる。そして,被上告人による本件湯沸器の広告宣伝等についてみると,前記2(6)アからエまでのとおり,被上告人とA社との販売代理店契約の締結に関する紹介記事が複数の業界紙に掲載されたり,本件湯沸器の宣伝のため展示会への出展がされるなどしたものの,被上告人を広告主とする新聞広告が掲載されたのは平成7年及び平成11年の2回にすぎず,被上告人が平成6年度から平成24年度までに支出した広告宣伝費及び展示会費の額も,本件湯沸器の販売地域が日本国内の広範囲にわたることに照らすと,多額であるとはいえない。また,被上告人による本件湯沸器の販売についてみると,前記2(6)オのとおり,大手の建設会社を含む相当数の企業等に対する販売実績があり,販売台数も一定以上にのぼることがうかがわれるものの,具体的な販売台数などの販売状況の総体は明らかでない。そうすると,前記2(2)アのとおり上告人代表者が知人を介して本件湯沸器の存在を知り被上告人との間で販売代理店契約の締結の交渉を開始したことを考慮したとしても,これらの事情から直ちに,被上告人使用商標が日本国内の広範囲にわたって取引者等の間に知られるようになったということはできない。
 したがって,被上告人による本件湯沸器の具体的な販売状況等について十分に審理することなく,原審摘示の事情のみをもって直ちに,被上告人使用商標が不正競争防止法2条1項1号にいう「需要者の間に広く認識されている」商標に当たるとして,上告人が被上告人使用商標と同一の商標を使用する行為につき同号該当性を認めた原審の判断には,法令の適用を誤った違法があるというべきである。」

(2)商標法4条1項10号に関する部分について
「ア(ア) 前記3のとおり,原審は本件各登録商標のいずれについても商標法4条1項10号該当性の判断をしているところ,平成17年登録商標については,商標権の設定登録の日から,被上告人が本件訴訟において同号該当性の主張をした前記2(5)の弁論準備手続期日までに,同号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま5年を経過している。
 商標法47条1項は,商標登録が同法4条1項10号の規定に違反してされたときは,不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除き,商標権の設定登録の日から5年の除斥期間を経過した後はその商標登録についての無効審判を請求することができない旨定めており,その趣旨は,同号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものであるが,商標登録の無効審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは,商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために,商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される(最高裁平成15年(行ヒ)第353号同17年7月11日第二小法廷判決・裁判集民事217号317頁参照)。そして,商標法39条において準用される特許法104条の3第1項の規定(以下「本件規定」という。)によれば,商標権侵害訴訟において,商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,商標権者は相手方に対しその権利を行使することができないとされているところ,上記のとおり商標権の設定登録の日から5年を経過した後は商標法47条1項の規定により同法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判を請求することができないのであるから,この無効審判が請求されないまま上記の期間を経過した後に商標権侵害訴訟の相手方が商標登録の無効理由の存在を主張しても,同訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認める余地はない。また,上記の期間経過後であっても商標権侵害訴訟において商標法4条1項10号該当を理由として本件規定に係る抗弁を主張し得ることとすると,商標権者は,商標権侵害訴訟を提起しても,相手方からそのような抗弁を主張されることによって自らの権利を行使することができなくなり,商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護するものとした同法47条1項の上記趣旨が没却されることとなる。
 そうすると,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって,本件規定に係る抗弁を主張することが許されないと解するのが相当である。
(イ) 一方,商標法4条1項10号が,商標登録の出願時において他人の業務に係る商品又は役務(以下「商品等」という。)を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標につき商標登録を受けることができないものとしている(同条3項参照)のは,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品等の出所の混同の防止を図るとともに,当該商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている者の利益と商標登録出願人の利益との調整を図るものであると解される。そうすると,登録商標が商標法4条1項10号に該当するものであるにもかかわらず同号の規定に違反して商標登録がされた場合に,当該登録商標と同一又は類似の商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている者に対してまでも,商標権者が当該登録商標に係る商標権の侵害を主張して商標の使用の差止め等を求めることは,特段の事情がない限り,商標法の法目的の一つである客観的に公正な競争秩序の維持を害するものとして,権利の濫用に当たり許されないものというべきである(最高裁昭和60年(オ)第1576号平成2年7月20日第二小法廷判決・民集44巻5号876頁参照)。そこで,商標権侵害訴訟の相手方は,自己の業務に係る商品等を表示するものとして認識されている商標との関係で登録商標が商標法4条1項10号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することができるものと解されるところ,かかる抗弁については,商標権の設定登録の日から5年を経過したために本件規定に係る抗弁を主張し得なくなった後においても主張することができるものとしても,同法47条1項の上記(ア)の趣旨を没却するものとはいえない。
 したがって,商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後であっても,当該商標登録が不正競争の目的で受けたものであるか否かにかかわらず,商標権侵害訴訟の相手方は,その登録商標が自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるために同号に該当することを理由として,自己に対する商標権の行使が権利の濫用に当たることを抗弁として主張することが許されると解するのが相当である。そして,本件における被上告人の主張は,本件各登録商標が被上告人の業務に係る商品を表示するものとして商標登録の出願時において需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であるために商標法4条1項10号に該当することを理由として,被上告人に対する本件各商標権の行使が許されない旨をいうものであるから,上記のような権利濫用の抗弁の主張を含むものと解される。
(ウ) 以上によれば,平成17年登録商標について商標登録に係る不正競争の目的の有無を明らかにしないまま本件規定に係る抗弁を認めた原審の判断には誤りがあるものの,本件における被上告人の主張は上記(イ)のような権利濫用の抗弁の主張を含むものと解されるから,平成17年登録商標についても,商標登録に係る不正競争の目的の有無を問わず,商標法4条1項10号該当性に関する原審の判断の適否を検討すべきことになる。
イ そこで,本件各登録商標の商標法4条1項10号該当性についてみると,前記(1)のとおりの被上告人による本件湯沸器の広告宣伝や販売等の状況に照らし,被上告人使用商標が,本件各登録商標に係る商標登録の出願時までに,日本国内の広範囲にわたって取引者等の間に知られるようになったとは直ちにいうことができない。したがって,被上告人による本件湯沸器の具体的な販売状況等について十分に審理することなく,原審摘示の事情のみをもって直ちに,被上告人使用商標が商標法4条1項10号にいう「需要者の間に広く認識されている」商標に当たるとして,本件各登録商標につき同号該当性を認めた原審の判断には,法令の適用を誤った違法があるというべきである。」

4 検討
 まず,除斥期間後に,抗弁として無効の抗弁を主張できるかという論点については,最高裁は否定説を取ったということです。

 次に,その後,何らかの民法的な権利濫用抗弁を主張できるかという論点については,最高裁は通説と同様の肯定説を取ったということです。

 で,この民法的な権利濫用抗弁については,最高裁昭和60年(オ)第1576号平成2年7月20日第二小法廷判決を判例として引用しております。これは所謂,ポパイマフラー事件です。これを引用していることから,キルビーとか言うより民法と言った感じがしますね。

 なので,4Ⅰ⑩該当を理由として権利濫用主張を許される,という部分に線が引かれており,先例性があるのは,そこだけのように見えるのですが,いやいやこの判決の射程はもっと広いと思います。
 それに上記のとおり,山ちゃんの補足意見によると,さらに広く権利濫用の抗弁を認めても良さそうですから,この判決自体の射程はかなり広いのではないかと思います。

 あ,最後に宣伝ですが,今回の論点については,「実録 知財ビジネス法務」に良く載っています。ちょっとお世話になっている某先生によるとあまり売れなかったらしいですが,私も執筆者の一人ですので,お買い求めて頂くというのはいかがでしょうか?
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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