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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「シートカッター」とする特許(特許第5374419 号)の特許権者である上告人(原告)が,平成25年12月,第1審判決別紙物件目録記載の工具を販売してい る被上告人(被告)に対し,本件特許権に基づき,その販売の差止め及び損害賠償等を求める本件訴訟を提起し,本件特許には特許法123条1項1号又は4号の無効理由が存在す るとして,同法104条の3第1項の規定に基づく抗弁(無効の抗弁)を主張したものの,第1審は,平成26年10月,被上告人の上記の理由による 無効の抗弁を排斥して,上告人の請求を一部認容する旨の判決を言い渡したため,被上告人は,第1審判決に対して控訴をした上,平成26年12月26日付けの 控訴理由書において,本件特許は,特許法29条1項3号又は同条2項に違反してされたものであり,本件特許には同法123条1項2号の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁(本件無効の抗弁)を主張したところ,原審は,平成27年12月16日,本件特許は特許法29条1項3号に違反してされたものであるとして,本件無効の抗弁を容れて,第1審判決中,被上告人敗訴 部分を取り消し,上告人の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡したため,これに不服の上告人が上告受理申立てをした特許権侵害訴訟の事件です。
 なお,上告人は,原審の口頭弁論終結時までに,本件無効の抗弁に対し,訂正により無効の抗弁に係る無効理由が解消されること を理由とする再抗弁(訂正の再抗弁)を主張しなかったようです。

 おお,ここでの判決の紹介だ~つまりは大ネタ。と言っても中身はそんな大した話じゃないのですが,最高裁ですからね。やはり取り上げないといけないでしょう!

 まず,一審は,東京地裁平成25(ワ)32665号で(民事46部で当時長谷川部長の合議体でした。まあ,長谷川部長の合議体は,嶋末部長と違った意味で個性的な判決が多かったですね~。今は46部の部長は柴田さんです。),平成26年10月30日判決でした。


 発明はこんなやつです。

 上記の概要のとおり,ここでは,特許法123条1項1号又は4号の無効理由→①補正の新規事項追加と②サポート要件違反,③明確性要件違反の無効の抗弁の主張がありました。
 しかし,長谷川部長の合議体は,「①について,本件明細書(なお,発明の詳細な説明 の記載は出願当初から変わっていない。)には,前記1 (3) のとおり解釈される構成要件D及びEが記載されているということができる。したがって, 本件補正が特許法17条 の2第3項に違反するものとは認められない。 また,②及び③について,前記1 (3) で判断したところによれば,本件明細書に接した当業者は,その記載から本件特許発明における課題及びその解決手段を認識することができると認められる。したがって,本件特許が同法36条6項1号に違反するとも同項2号に違反するともいうことはできない。」として,無効の抗弁を排斥し,構成要件該当性はあり!として,請求の一部を認容したわけです。
 
 何か,新規事項追加だとか記載不備だとか,やはりちょっと弱火ですね~。何故かと言うと,汗をかいていないからです(無効資料調査をしていないってことです。)。

 ほんで,被告の代理人弁護士は交替で控訴審になりました。
 控訴審(原審)は,知財高裁平成26(ネ)10124(知財高裁3部で,当時何故か部長じゃないのに,合議体を形成していた大鷹さんの合議体です。今は3部はきちんと元に戻ったのですが(大鷹さんが異動したため),あの一時期の2合議体制は何だったんでしょうねえ。)で,平成27年12月16日判決でした。
 
 この判決では,上記の概要のとおり,特許法123条1項2号の無効理由→新規性なし・進歩性なし(主引例は,米国公開特許公報2006/02010 00号(乙13))の本件無効の抗弁の主張がありました。
 そして,大鷹さんの合議体は,「乙13発明は,本件特許発明のすべての構成要件の構成 を備えているから,本件特許発明と同一の発明であることが認められる。 したがって,本件特許発明は,新規性を欠くものであり,本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)があ り,特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから, 被控訴人は,同法104条の3第1項の規定により,控訴人に対し,本件特許権を行使することはできない。」として,新規性なし!で請求を全部棄却したわけです。

 まあ何ちゅうか,大鷹さんの所でよくあった,典型的な結論ありき,それだったら何でもありじゃん的なムニョムニョしたあてはめでした~ね(弁理士の人もこういうのに注意です。)。

 ということで,いやいやいや,訂正せんとわりいっちゅうんじゃったら,そげえすんのに,そげな機会ねかったわえ,こげなこつしていいんかえ,ちゅうやつです(大分には凄い雨が降りましたね。)。

 これに対して,最高裁の結論としては,上告棄却なので,知財高裁のとおりです。つまり,原告,特許権者側の負けが確定したわけです。

2 問題点
 問題点は,もうこれ一つ,訂正のタイミングです。特に,無効審判が請求されて,法的に訂正審判も訂正請求もできない場合にどうすればいいのか?ということです。

 まず,訂正の再抗弁自体,訂正請求等が原則として必要であるということが通説です。これは,あやふやなクレームだと色々問題ありということで,或る程度確定させる必要があるというのがその理由です。
 ただし,この通説もいついかなる場合も訂正請求が必要とは言っておらず,特に104条の4が創設され,再審で無効確定だとか訂正確定だとかを言えなくなったことと,無効審判内で訂正請求できる期間が限られたこと(訂正審判は無効審判が請求されるともう起こせません。)の対比で,いついかなる場合も現実の訂正請求を要求するのは酷だろう,ということになっています。

 とは言え,通説のこの例外事例って,どういう場合が例外事例なんだろうってことですね。そこはちょっとはっきりしません。

 他方,逆に,侵害訴訟確定前に,訂正が確定したからと言って,上告審でこれを争えるとすると,特許法104条の4の意味が無くなるような気もします。
 なので,訂正請求や訂正審判が法的にできず,訂正の再抗弁が事実上難しいように思える場合でも,104条の4の意味を重視すると,積極的に訂正の再抗弁はやっておくべきということになるし,上記の通説の例外事例は極めて厳格に解釈すべきだろうということにもなりますね。

 ということで,どうなったのでしょうか?

3 判旨
「 特許権侵害訴訟において,その相手方は,無効の抗弁を主張することができ,これに対して,特許権者は,訂正の再抗弁を主張することができる。特許法104条の3第1項の規定が,特許無効審判手続による無効審決の確定を待つことを要せずに無効の抗弁を主張することができるものとしているのは,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速に解決することを図ったものであると解される。そして,同条2項の規定が,無効の抗弁が審理を不当に遅延させることを目的として主張されたものと認められるときは,裁判所はこれを却下することができるものとしているのは,無効の抗弁について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためであると解される。以上の理は,訂正の再抗弁についても異ならないものというべきである(最高裁平成18年(受)第1772号同20年4月24日第一小法廷判決・民集62巻5号1262頁参照)。
  また,特許法104条の4の規定が,特許権侵害訴訟の終局判決が確定した後に同条3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等(以下,単に「訂正審決等」という。)が確定したときは,当該訴訟の当事者であった者は当該終局判決に対する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することができないものとしているのは,上記のとおり,特許権侵害訴訟においては,無効の抗弁に対して訂正の再抗弁を主張することができるものとされていることを前提として,特許権の侵害に係る紛争を一回的に解決することを図ったものであると解される。
 そして,特許権侵害訴訟の終局判決の確定前であっても,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等の確定を理由として事実審の判断を争うことを許すことは,終局判決に対する再審の訴えにおいて訂正審決等が確定したことを主張することを認める場合と同様に,事実審における審理及び判断を全てやり直すことを認めるに等しいといえる。
  そうすると,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは,訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り,特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されないものというべきである。
  (2)  これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,上告人は,原審の口頭弁論終結時までに,原審において主張された本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張しなかったものである。そして,上告人は,その時までに,本件無効の抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判の請求又は訂正の請求をすることが法律上できなかったものである。しかしながら,それが,原審で新たに主張された本件無効の抗弁に係る無効理由とは別の無効理由に係る別件審決に対する審決取消訴訟が既に係属中であることから別件審決が確定していなかったためであるなどの前記1(5)の事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張するために現にこれらの請求をしている必要はないというべきであるから,これをもって,上告人が原審において本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張することができなかったとはいえず,その他上告人において訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれない。 」

4 検討
 判例が先例として引いているのは,いわゆるナイフの加工装置事件です(百選の最新版だと76番ですね。)。

 まあしかし,今回の判決の射程をどうみるかって難しい所があります。 

 下線部が要旨なので,先例性があるのはここなのでしょう。
 そうすると,ナイフの加工装置事件の事実経過とあんまり変わらない,上告審で結論が出る前に訂正請求等が上手く行ったというようなレアケースしか射程が及ばないように見えます(A)。

 そうではなく,訂正請求が上手く行ったという場合に限らず,兎に角,事実審で訂正の再抗弁を主張しなかった(出来なかった)場合にも射程が及ぶということになると(B),この判決の影響は大きいと思います(裁判所のサイトの「判示事項」はこのBのように書かれています。)。その場合,やむを得ないといえるだけの特段の事情を上告審で主張すると何とかなる場合もあり得そうです。

 でも,判決の文言を普通に解釈すると,BではなくAのような感じがします。

 あと,傍論というかあてはめが結構重要です。
前記1(5)の事情の下では,本件無効の抗弁に対する訂正の再抗弁を主張するために現にこれらの請求をしている必要はないというべきであるから,
とあります。

 どういうことかというと,最高裁自ら,訂正の再抗弁時に,いついかなる場合も訂正請求が必要である,という立場を取らないということを認めているからです。つまり,あくまでも通説だということですね。しかし,じゃあどういう場合に,訂正請求が不要かはよくわかりません。
 ただ,法的に主張できない場合は,この場合に当たる可能性は高いと言えますので,訂正できるといいのにな~♫という場合で,でも法的にはもう訂正請求できないなあ~♫という場合に,訂正の再抗弁を主張せず,漫然と成り行き任せ~♡では弁護過誤になる虞があります。

 これは今後気をつけた方がいいでしょう。ということは,今後の特許権侵害訴訟の事案では,積極的に訂正の再抗弁を主張していった方がいいってことですよ!
 勿論,訂正すると大体の場合,権利範囲は狭くなりますから,本来はやりたくないことです。ですが,それも予備的主張ということにしておけば,ある程度リスク回避できるのではないでしょうか。

 まあなかなかマニアックな論点なのですが,原告側代理人をいつもいつも悩ませる論点なので,多少の取っ掛かりにはなるかなあと思います(個人的には,裁判所からの釈明があると有り難いのだけどねえと思いますが,それは甘え過ぎですかね。)。

5 追伸
 上記のとおりのうちの田舎の方は凄い雨が降ってしまいましたが(豊後高田は海沿いなので,まだましでした。山の方が上昇気流が発生しやすく,大雨になりますね。),東京の方は,急遽帰省から帰った7/2以来,夏本番のような暑さです。
 7/1からの最高気温を並べると以下のとおりです。
 7/1 25.3
 7/2 32
 7/3 32.5
 7/4 29.9
 7/5 31.4
 7/6 30.7
 7/7 32.3 
 7/8 33.7
 7/9 32.5
 7/10  32.1
 やはり,7/1だけ低くて,後は結構高いです。

 で,梅雨明けしたのでしたっけ?よくわかりませんねえ。まあしかし,散歩には辛い季節ですね。

 さて,一昨日は,2週ぶりにサーフィンに行ってきました。いい天気でしたが,波はスネで,本当マッタリって感じのサーフィンでした。人も少ないですし,私はのんびりやりたい派なので悪くはないですね。

 で,今週は,実はいつもやっているポイントで,ちょうど湘南オープンをやっていますので,土日はエリア規制で結構たいへんかもしれません。この前の土曜みたいな波だとレイデイの連続かと思いきや,今日はスタートしています。オンショアできついので風波が立つのでしょうねえ。ま,この時期の湘南は,こんな感じですので,東京オリンピックのサーフィンが千葉というのは致し方ない所でしょう。

 あと,昨日の日曜は某所で久々潮干狩りをしておりました。2日連続して,海に行くという,しかも一日はサーフィン,もう一日は潮干狩りという,あんまり弁護士にはいないだろうタイプの過ごし方です。
 で,その潮干狩りですが,もう小学校以来という大漁でしたね(アサリ)。本当びっくりしました。どこかは内緒です。

 夏って感じの土日でしたが,今週もこんな天気が続くのでしょうかね。

 そうだ,そうだ,高校野球,我が母校,高田高校が今日一回戦だったのです。あー鶴崎高校にコールド負け~うーん,がっくり。
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