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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,「(1) 抗告人は,児童買春をしたとの被疑事実に基づき,平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の容疑で平成23年11月に逮捕され,同年12月に同法違反の罪により罰金刑に処せられた。抗告人が上記容疑で逮捕された事実(以下「本件事実」という。)は逮捕当日に報道され,その内容の全部又は一部がインターネット上のウェブサイトの電子掲示板に多数回書き込まれた。
(2) 相手方は,利用者の求めに応じてインターネット上のウェブサイトを検索し,ウェブサイトを識別するための符号であるURLを検索結果として当該利用者に提供することを業として行う者(以下「検索事業者」という。)である。
 相手方から上記のとおり検索結果の提供を受ける利用者が,抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件として検索すると,当該利用者に対し,原々決定の引用する仮処分決定別紙検索結果一覧記載のウェブサイトにつき,URL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋(以下「URL等情報」と総称する。)が提供されるが,この中には,本件事実等が書き込まれたウェブサイトのURL等情報(以下「本件検索結果」という。)が含まれる。
2 本件は,抗告人が,相手方に対し,人格権ないし人格的利益に基づき,本件検索結果の削除を求める仮処分命令の申立てをした事案である。」ということです。
 抗告人は一般の人,相手方はグーグルです。

 ま,要するに,過去の犯罪について,グーグル検索で出ないようにしてくれという申立てについて,削除せんでもよろし,という結論のものです。
 
 本案訴訟ではなく,仮地位仮処分なので,一審という表現が相応しくはないのですが,最初はさいたま地裁でした。
 平成27年(ヨ)第17号です。これは,驚いたことに忘れられる権利というのを認め,申立ての認容決定をしたのですね。これに対して,グーグルが保全異議をかけたのですが,これもダメでした。
 そこで,グーグルが,東京高裁に抗告したのが,原審ということになります(
平成28年(ラ)第192号,平成28年7月12日決定)。
 
 ここでの論理は,略今回の最高裁の決定と同じです。
 ・忘れられる権利は,要件効果が明確でなく,従来の名誉権ないしプライバシー権で検討すれば足りる。
 ・検索のスニペットやタイトルは,独立した表現として機能している。
 ・本件犯行(児童買春の件)については,表現の自由及び知る権利の保護が優越する。

 ということで,原審は逆転で,仮処分を認めなかった(却下)わけです。

 で,最高裁は,この原審を追認したと言ってよいでしょうね。

2 問題点
 問題点は端的に言うと,グーグル検索の結果を削除できるのはどんな場合?ってことになろうと思います。
 派生論点としては,グーグル検索ってそもそも表現なの?ってこともあろうと思います。

 プライバシー権に関する差し止め等の話は昔から色々あります。三島由紀夫の小説(宴のあと)の話,早稲田大学の名簿提出事件,あと石に泳ぐ魚事件とかありましたね。

 今回の事件が目新しいのはメディアが目新しいからでしょうね。プライバシー権的なものは昔からありますので。

 インターネットというのはすごいもので,場所の不公平さも時間の不公平さも無くすことができます。
 今回の最高裁の決定も,昨日のうちに日本全国はおろか世界中からアクセスできました。一昔前だったら,判例紙に載るのを数ヶ月待ち,そして,いざ出版されても,東京などの大都市と,地方では数日間のタイムラグが出ていたわけです。
 それが何と略その日のうちに,です。

 それを今や司ると言ってよいグーグル検索の威力というか破壊力も凄いものがあります。自ら表現しているわけではなく機械的にやっていると言いながらも,どういう意図?っていうのは,広告(
Google AdWords)を集めていることから明白でしょ。

 なので,こういう新しいメディアでの,どれ程の内容だったら,削除が認められるのかってえのは,実に興味深い話だったわけです。

3 判旨
「3(1) 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は,法的保護の対象となるというべきである(最高裁昭和52年(オ)第323号同56年4月14日第三小法廷判決・民集35巻3号620頁,最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁,最高裁平成13年(オ)第851号,同年(受)第837号同14年9月24日第三小法廷判決・裁判集民事207号243頁,最高裁平成12年(受)第1335号同15年3月14日第二小法廷判決・民集57巻3号229頁,最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照)。他方,検索事業者は,インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し,同複製を基にした索引を作成するなどして情報を整理し,利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供するものであるが,この情報の収集,整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの,同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから,検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。また,検索事業者による検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。そして,検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされるということは,上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより,検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。
 以上のような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると,検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,抗告人は,本件検索結果に含まれるURLで識別されるウェブサイトに本件事実の全部又は一部を含む記事等が掲載されているとして本件検索結果の削除を求めているところ,児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが,児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また,本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。
 以上の諸事情に照らすと,抗告人が妻子と共に生活し,前記1(1)の罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。
4 抗告人の申立てを却下した原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。」


4 検討
 判旨のとおり,削除できる基準はかなり厳しいと言えます。
 当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に削除できるだけですので。

 つまり,引き分けの場合はダメ,明らかに優越~していないと削除できないのですね。

 で,従来のメディア(本)での典型例,今回の最高裁決定でも判例として引かれた石に泳ぐ魚事件ではどうだったか,見てみます。

どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは,侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ,予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。そして,侵害行為が明らかに予想され,その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり,かつ,その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである。

 これを見てみると分かるとおり,やはり比較衡量なのですね。最高裁はこの手の事案で,比較衡量を所謂審査基準に使っていることがわかります~(憲法の学者の皆さん,残念でしたね。)。
 ほんで,この石に泳ぐ魚事件でも,差し止めはかなり厳しい条件でしか認めていません!つまり,今回のグーグルの事件でも,安易な削除は認めない,これは従来の判断の延長線上にあることですから,表現の自由の重要性に鑑みると妥当な結論じゃないかと思います。

 それに,やっぱ,女子大生の容貌に関することと,児童買春したことでは,それに対する表現の必要性の高低が違うという気がします。
 昨今,色物の犯罪には厳しいですからね,ま私もスケベなオッサンの一人ではあるので,抗告人に多少は同情するのですが,ここは涙を呑んでもらいましょう。

 ところで,今回の抗告人の代理人は,所謂パカ弁のカリスマと言える先生です。私も昔パカ弁をやっていたのですが,今やサッパリ依頼がありません。
 昔やっていたころは,判例検索に載るような判決も勝ち取ったこともありますし,何の先例も無かったツイッターでの名誉毀損についても,実質勝訴の和解を得たこともあります(この事件がきっかけでツイッター辞めたのですが。)。

 ところが,いつころか,何かピタリと依頼がなくなったのです。何故か?今でもいいですよ,グーグルで,誹謗中傷 弁護士だとか,ネット被害 弁護士だとかで検索してみてください。もう無茶苦茶広告が出ます。広告じゃなくてもSEO対策している所ばかりです。

 うちの事務所のサイト,見てください。何すか,これ,って感じでしょ。SEO対策なんぼのもんじゃあって感じですかね,良く言えば。

 まあ,過払いと一緒ですよ。ばあっと広告やらSEO対策出来た所が勝ち残ったのでしょうね。ということで,私の方はこの分野から足を洗うというか,締め出されたわけです。致し方ない所です。

 それでもときどきはこの件で泣きつかれるようなこともあります。
 例えば,頼んだ弁護士が70過ぎのおじいちゃんで,よく考えたらそんな人にネットの対策ができるわけがないという,やはり過払いでよくあった事務員等丸投げパターン,2chのスレ埋めを頼んだら残り200はあと20万円払え(1000になったらDAT落ちで見れなくなるのです。)という悪徳業者パターン,などですね。

 でね,こういうパターンを考えるにつけ,ネットで何か書かれた場合,どうすればいいか教えましょう。
 それはほっとく!これだけです。

 弁護士に頼んだり,業者に頼んだりしても,運が悪いと全く消せませんし,相手が誰かもわかりません。でも金は確実に取られます。
 人の噂も七十五日と言うじゃないですか。ネットでも同じです。そんなずーっとあんたのことなんか興味無いですって,誰も。ほっときゃいいのです。

 いやいや殺人予告とか,そうなったら,とてもほっとけないのがあるじゃないですか,それは?
 それは警察に行けばいいのです。警察が動くようならそりゃほっとけない程度の酷さですから,あとは警察に任せればいいわけですね。しかもタダ!

 わかりましたかね,原則はほっとく,そして例外的に警察,これで十分です。

 
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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