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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「疲労特性に優れたCu-Ni-Si系合金部材」とする特許権(第4255330号)を有する原告(J X 日 鉱 日 石 金 属 )が,被告(三 菱 電 機 メ テ ッ ク ス )によるM702C(被告製品)の製造,販売等は原告の特許権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の生産等の差止め並びに同法102条3項による特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の損害の一部である1080万円及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案です。

 これに対して,東京地裁民事47部(高野さんの合議体ですね。)は原告の請求を棄却しました。ほんで,どういう理由で棄却したかというと,無効の抗弁,しかも記載不備です。

 ということで,この判決を取り上げた理由もわかるでしょう。ついこの間久々に記載不備で権利行使不能となった侵害訴訟の件を取り上げましたが,来るときは来ますね~。

 クレームです。
本件発明1
A  質量百分率(%)に基づいて(以下,%と表記する)Ni:1.0~4.5%,
B  Si:0.2~1.2%を含有し,
C  残部がCuおよび不可避的不純物から成る銅合金からなり,
D  表面に66~184MPaの圧縮残留応力が存在し,
E  表面の最大谷深さ(以下,Rvと表記する)が0.5μm以下であり,
F  圧延方向に平行な断面を鏡面研磨後に,47°ボーメの塩化第二鉄溶液で2分間エッチング後,観察面において観察される直径4μm以上の介在物が86個/mm 2 以下であることを特徴とする
G  Cu-Ni-Si系合金部材

 これは,携帯電話とかのコネクター用金属の発明ですね。要するに,コネクターの抜き差しが激しくても金属疲労しにくい丈夫な金属を作った,というわけです。
 あと,記載不備が問題になっているので,論点となった表2と表4も提示しておきましょう。
 
 この表2の本発明例20がポイントです。

 この表4の介在物個数25個/平方mmというところもポイントです。

2 問題点
 今回サポート要件と実施可能要件とをごっちゃに主張しているのですが(一件書類がわからないため,被告がそう言ってるのか,それとも裁判所のまとめがパーなので,そう言ってるように見えるだけなのかはわかりません。),実質的にはサポート要件だと思います。
 で,サポート要件はいいですかね。条文から見ましょう。特許法36条6項1号です。
 
6  第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一  特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」

 これ見たとおり,サポート要件というのはクレームの要件なのですね。他方,実施可能要件というのは,発明の詳細な説明,つまり明細書の要件なわけです。実は要件の対象が違うことに注意ですね。

 ま,とはいうものの,クレームも明細書も,究極の目的としては,公開の代償としての特許権の付与という特許制度の大趣旨に資するようにすることでは同じです。つまりは,公開と言えないような公開じゃダメ!ってわけです。
 サポート要件違反というのは,要するにクレームが広く,明細書が狭い,ということです。そうすると,どうなるかというと,広い発明の一部については明細書に記載があるので,作ったり使用したりできるかもしれんけど,その他については明細書に記載がないので,作ったり使用したりできるわけがねーじゃんという話です。

 まあ,ただ,小学生にもわかるようにいちいち人類の起源から細かく説明しないといけないわけではなく,当業者なら書かずもがなという所はいいじゃんということではあります。
 ですので,端折っている所について,当業者もわからん,さらに技術常識にもない!というのであれば,こりゃ明細書に記載したものではない,ということになるのは当然ですね。

 で,今回,上記のとおり表2を出しましたが,クレームの発明のとおり,Mgを含有していない実施例は,この中の本発明例20のみです。それ以外に,たくさん本発明例はあるのですが,何故か一番基本のクレーム1に関係する実施例はこれだけだったのです。

 ちなみに,サポート要件が問題となった大合議の判決,あれは実施例が2つだったのに,その間を恣意的な数式(1次関数)で結んだことがダメ!とされた事件です。
 今回は,それよりまずく,実施例が1つにも関わらず,上記のクレームのとおりの一定の範囲を示しております。ちょっとなあって感じですかな。

 さらに,介在物というところも責め立てられております。
 上記のとおり,介在物個数が0の部分も含むようなクレームなのですが,表4のとおり,最低限は25個/平方mmのものしかありませんでした。つまり0~25個/平方mmの開示は,明細書自体には無かったのです。
 うーんなかなか~という感じがしますね。

3 判旨
「証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「ここで本発明において「介在物」とは,鋳造時の凝固過程に生じる一般に粗大である晶出物並びに溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物,硫化物等,更には,鋳造時の凝固過程以降,すなわち凝固後の冷却過程,熱間圧延後,溶体化処理後の冷却過程及び時効処理時に固相のマトリックス中に析出反応で生じる析出物であり,本銅合金のSEM観察によりマトリックス中に観察される粒子を包括するものである。」(段落【0009】),介在物のうち晶出物及び析出物について,「時効処理は所望の強度及び電気伝導性を得るために行うが,時効処理温度は300~650℃にする必要がある。300℃未満では時効処理に時間がかかり経済的でなく,650℃を越えるとNi-Si粒子は粗大化し,更に700℃を超えるとNi及びSiが固溶してしまい,強度及び電気伝導性が向上しないためである。300~650℃の範囲で時効処理する際,時効処理時間は,1~10時間であれば十分な強度,電気伝導性が得られる。」(段落【0019】)との記載があることが認められ,これによれば,時効処理温度及び時間につき,粗大な晶出物及び析出物の個数を低減させる方法についての一定の開示があるということができる。
 しかしながら,溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物,硫化物等については,本件明細書の発明の詳細な説明に,直径4μm以上の介在物個数を低減させる方法の開示は全くない。
 (3)  そして,本件明細書の記載内容及び弁論の全趣旨からすれば,原告が本件特許出願時において直径4μm以上の全ての介在物個数を0個/m㎡とするCu-Ni-Si系合金部材を製造することができたと認めるに足りず,技術的な説明がなくても,当業者が出願時の技術常識に基づいてその物を製造できたと認めることもできない。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,特許請求の範囲に記載された数値範囲全体についての実施例の開示がなく,かつ,実施例のない部分について実施可能であることが理解できる程度の技術的な説明もないものといわざるを得ない。
    (4)  したがって,本件発明は,特許請求の範囲で,粗大な介在物が存在しないものも含めて特定しながら,明細書の発明の詳細の説明では,粗大な介在物の個数が最小で25個/m㎡である発明例を記載するのみで0個/m㎡の発明例を記載せず,かつ,全ての粗大な介在物の個数を低減する方法について記載されていないことなどからすれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明の少なくとも一部につき,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 」

4 検討
 何か,イマイチな判決のような気がするのは私だけでしょうか。
 被告の主張はそうだったの?いやあいろいろ大体の感じからすると,そんな感じだったのかもしれませんが,被告の言いたかったのは,サポート要件の方がメインじゃないかと思うのです。

 勿論,サポート要件と実施可能要件というのは,実質的に同じじゃないのかなあというのが通説的考えだと思うのです。サポート要件で書かれていない部分というのは,発明の作用効果を奏することができるように書かれていないってことで,発明の作用効果を奏するとは,そのような使用=実施のことですから,実施可能要件にも等しい,となるわけです。

 でも,この判決は,被告のこんにゃく主張につられてこっちもこんにゃく判示になっていると思うのです。規範がきちんと示されていないのも気に入りませんね。要するに,代理人じゃないのに,代理人のように書いているって感じがします。

 上記のとおり,今回の明細書は穴ぼこだらけですので,結論はこれで良いとは思いますが,何かイマイチ感の強い判決ですね。

5 追伸
 今日は晴天で気分も良いので,ネトウヨにゅーす~ではありません。散歩のコーナーです。
 
 これはどこかわかりますかね。ソニーの旧本社前の歩道橋です。工事中,そうですが,正確には撤去工事中なのだと思います。
 もともと,この歩道橋は,ソニー通りに隔てられた本社圏の行き来をよくするためのものだったでしょうから,その役目が完全に終わったわけですね。
 写真の右側は既に売却され,積水によって再開発すら済んでおります。そして,写真の左側が旧本社なのですが,こちらもこの春に売却され,もう人っ子一人いません。
 旧本社圏を彷彿とさせるのは,昔知財部の本部があった3号館だけですね。ということで,撤去工事~♡となったわけでしょう。

 ただ,往時のソニーを知る人や,実際にこの本社圏に勤めていた人にとっては,本当かつてのソニーじゃないのだなあと思わせるに十分ですね。

 企業の寿命は,通常30年らしいです。そりゃそうですよね。人間のワンジェネレーションが30年ですもの。
 創業者が,創業して引退するまでが30年。よっぽど運がよいか何かしないとその後の後継者などが,創業者以上の愛情をもってその会社を切り盛りする筈がありませんよね。だって,自分の作ったものとそうでないものを,どうして同じように扱うことができるでしょうか。所詮無理な話です。

 ですので,終戦後創業して,既に2ジェネレーション以上経っているソニーがいまだ潰れていないのは,ある意味不自然な話です。残りの3号館諸共,この歩道橋のようになる日も近いのかもしれませんね。

6 更に追伸
 明日の件です。東工大陸上部OBないし東工大を応援したいという超変わり者向けの話です。

 色んな報道もされているのですが,現在東工大の陸上部には,長野の佐久長聖出身の選手がいます。箱根駅伝常連校の選手並の実力ということですから,どうしたんだろうって所ですが,人生色々です。

 ほんで,明日はその箱根駅伝の予選会が開かれるわけです。上手く行けば,1881年の東工大創設以来初めて箱根駅伝に東工大の選手が出場するかもしれないということになっております。最大のチャンスだったのは,ちょうど30年前の記念大会だったらしいですが(私が入部する直前の),それ以来のビッグウェーブがやってきた~というわけですね。

 で,応援の集合場所・時間は以下のとおりです。
 日時 10月18日(土)8:20
 場所 昭和記念公園立川口
 「金色の風船のついた大きな東工大ののぼり」を用意しているそうですから,行けばわかるのではないでしょうか。

 まあ,私は,集合時間とかにルーズなアラフィフのおっさんですので,起きれた時間にゴールに間に合うくらいに駆けつけるということにしておきます。

 ということで業務連絡でした~。
 
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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