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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は, 平成16年11月5日に出願し,平成22年9月17日に設定登録された「靴下及びその編成方法」という名称の特許(特許第4590247号)の特許権者である原告らに対し,被告は,平成24年6月29日,本件特許について無効審判を請求したため(無効2012-800112号),原告らは,訂正請求をしたものの(本件訂正), 特許庁は,平成25年7月1日,本件訂正を認めた上で,無効審決(進歩性なし)を下したことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁第2部(清水さんの合議体ですね。)は,審決を取り消しました。要するに,進歩性ありってわけです。

 新年度一発目の進歩性の判決の紹介ですかね。ま,逆転で進歩性を認めたのが,ミソでしょう。あとは,いやあプロパテントの時代は,裁判所も辛いね~って所でしょうか。

 クレームです。
【請求項1】
口ゴム部から身部ついで足部へと編成していく靴下において(構成A),踵部の外側すなわち着用者の第五趾側は減らし目ついで増やし目を行いながら編成し(構成B),踵部の内側すなわち着用者の第一趾側は減らし目,増やし目,減らし目ついで増やし目の順に編成して,踵部の内側に形成されるゴアライン2aの全幅L1が,踵部の外側に形成されるゴアライン2bの全幅L2よりも小さくなるようにすると共に(構成C)外側方向にウェール数を多めに編成することを特微とする靴下の編成方法(構成D)。

 他方,主引例となる甲1発明との一致点・相違点はこうです(争いなしです。)。
(一致点) 
口ゴム部から身部ついで足部へと編成していく靴下において,踵部の外側すなわち着用者の第五趾側は減らし目ついで増やし目を行いながら編成し,踵部の内側すなわち着用者の第一趾側は減らし目,増やし目,減らし目ついで増やし目の順に編成する,靴下の編成方法。
(相違点1)    
本件発明では,踵部の内側に形成されるゴアライン2aの全幅L1が,踵部の外側に形成されるゴアライン2bの全幅L2よりも小さくなるようにしているのに対し,甲1発明では,それらのゴアラインの大小関係は規定されていない点。
(相違点2)
  本件発明では,踵部の外側方向にウェール数を多めに編成しているのに対し,甲1発明では,そのような特定がない点。
 
 要するに,靴下の発明なのですが,これは図がないとわかりにくいです。判決に図があるのでちょっと見てください。

 で,ポイントは阻害事由ですね。

2 問題点
 問題点は,進歩性です。で,進歩性って,本当言い始めたらキリがない,非常に深い話です。
 ほんで,今や1万人いると思われる弁理士の皆さんも独自の見解をかなり深く持っているわけで,下手な弁護士や学者が,迂闊なことをしゃべろうものなら,ありとあらゆる所から,一斉に罵声が飛んでくるという状況になっております。

 ま,そのため,書籍レベルできちんと進歩性を論じた本はなかなかありません。近頃じゃ論文レベルでもあんまり見ませんね(勿論,弁理士の書いたやつは結構見かけるのですが,如何せん・・・)。

 その進歩性については私は,よくある判断手法に則ってやればよく,あとは事例をたくさん勉強すればわかると思います。

 で,本件で問題となった阻害事由って一体どこの話かということが大事です。まず,事実認定の話じゃありません。法的判断の話です。
 そして,その法的判断のどこの話かというと,引用発明を組み合わせる動機付けは認められるっぽいけども,その組み合わせを阻害する何かがあるんじゃないか,ここの話なわけです。

 だから,法的判断と言っても,設計事項等だとか周知例の使い方だとかの話じゃありません。所謂動機付けが認められるかも,っていう所での話なのですね。

 で,どういうのが阻害事由となるかは,まさに事例をよく見た方がいいでしょう。なので,今回は,早目に判旨にいきます。

3 判旨
「(2) 甲1発明と甲2発明の組合せの可否について
ア  甲1発明の「まち部20」は,踵部の内側を,減らし目,増やし目,減らし目ついで増やし目の順に編成する,すなわち,減らし目及び増やし目工程を二工程ずつ行うことで形成されるが,甲1の段落【0008】,【図1】のとおり,減らし目,増やし目,減らし目ついで増やし目の順に編成することは,ゴアラインをY字状に形成することと同じである。そして,「まち部20」は,歩く際に,内側に力が加えられることによって踵部の内側の生地が引っ張られて緊張する程度を,緩和するものである(段落【0007】)。
  よって,上記(1)で認定した甲2発明と対比すると,甲1発明の「まち部20」と甲2発明の「ウェール数を多めに編成すること」は,靴下という同じ技術分野において,靴下のはき心地を良好にするという同じ技術的課題に対する解決方法であり,歩行時における編地の緊張を緩和するという同じ技術的効果を奏するものであるといえる。
      イ  他方,審決が認定するとおり,シリンダの回転角度を左右いずれにも自在にシフトして編成範囲を設定し得る靴下編機は,周知技術であり(甲3,4),かつ,課題の解決のためにシリンダの回転角度を調整することは,当業者にとって格別困難な事柄ではないから,ウェール数をどの程度多めに編成するかについては,甲2発明に記載がなくとも,当業者が自由に調整できる設計事項である。
ウ  したがって,甲1発明の踵部の内側において,「まち部20」に代えて又はこれに加えて,甲2発明の「ウェール数を多めに編成する」構成を適用することは,当業者が容易に想到し得るものである。
    (3) 甲1発明と甲2発明の組合せの結果について
ア  ところで,甲2発明において,「ウェール数を多めに編成する」のは,あくまでも甲1の「まち部20」と同じ効果をもたらすためであるから,当業者が,靴下の内側又は外側に対し,甲2発明の構成を適用しようとするのは,甲1発明の「まち部20」が形成されるのと同じ側,すなわち踵部の内側である。
 したがって,甲2の「ウェール数を多めに編成する」構成を甲1発明に適用したとしても,それは,減らし目及び増やし目工程を二工程ずつ行う側とウェール数を多めに編成する側とが踵部において同じ側になることが明らかであり,両方の側が互いに反対となる本件発明の構成,「踵部の内側すなわち着用者の第一趾側は減らし目,増やし目,減らし目ついで増やし目の順に編成・・・すると共に外側方向にウェール数を多めに編成する」には至らないから,相違点2を解消できない。
イ  仮に,「まち部20」が形成される側と反対側,例えば,踵部の内側に「まち部20」を形成しつつ,踵部の外側の「ウェール数を多めに編成」した場合には,相違点2そのものは解消されることになる。
 しかしながら,かかる構成を採用した場合,踵部の内側に「まち部20」による余裕ができる一方で,踵部の外側に「ウェール数を多めに編成」することによる余裕ができてしまい,踵部の両側に余裕ができることになるため,踵部の内側と外側とが対称形に近づいてしまい,踵部が左右非対称形に形成された靴下を提供するという甲1発明の目的や課題に反することとなってしまう。
 したがって,「ウェール数を多めに編成すること」を甲1発明の「まち部20」が形成される側とは反対側に適用することには,阻害事由があるということになる。 」

4 検討
 そんなに難しい技術ではありませんが,字面を追っても理解できないと思いますよ。これは図を見ないとなかなか理解できません。

 簡単なクレームチャートを作るとこうなります。
 
外側 内側
本件発明 通常+ウェール数多い 減→増→減→増=Y字型
甲1発明 通常+____ 減→増→減→増=Y字型
甲2発明 - ウェール数多い


 ですので,本件発明と甲1発明の違いは,上記に書いたウェール数多いという相違点2だけなのですね(相違点1は実質的な違いでないとされました。)。そして,甲2発明には,その相違点2のことは書いてあったのです。

 勿論,大体の課題も公報に載っており,それを理解するために,これを見ている皆さんも,自分の靴下というか,踵のところをみてください。
 踵の関節の所が内も外もちょっと飛び出ていますよね。しかも,飛び出方は,人体の中心からして線対称であるものの内と外で異なってますよね。ですので,従来の靴下のように,右も左も同じ型っていうのはあり得ず,それぞれの踵の関節の飛び出方に応じた縫い方をしないといけないわけです。

 それで,従来は,内は,減→増→減→増=Y字型(これは縫い方で,Y字に見えるものです。通常の縫い方はI字型でしょうかね。私の靴下は安物なので,Y字になってません。)ないしは,ウェール数が多い,ということをするらしかったのですね。これは,両者とも,余裕を与えるものらしいです。

 なので,大雑把に考えると,甲2発明を甲1発明の外側の縫い方に適用すると,本件発明は全部揃ってしまいます。少なくとも6年くらい前までは,こうやっても誰も咎めなかったと思いますよ。

 しかし,飯村さんがH21のはじめに新傾向判決を下してから早5年,そんな大雑把なことじゃいかーんというわけで,今回の判決も生まれる遠因になったわけです。

 判旨のとおり,甲2発明を甲1発明の外側の縫い方に適用すると,左右の靴下の差が無くなるんだからそんな馬鹿なことはせんわい,だからこれが阻害事由なんじゃ,というわけです。
 じゃあ何故本件発明はそんな馬鹿なことをしたのか?!それが発明,それがイノベーションってなもんですかね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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