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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,以下のとおりの概要です。

  原告である日亜化学工業!は,平成7年12月1日,発明の名称を「窒化物半導体発光素子」とする特許出願(特願平7-314339号。優先権主張:平成6年12月2日,同年12月9日,平成7年3月16日,日本)をし,平成10年5月15日,設定の登録(特許第2780691号)を受けました(本件特許)。
      被告(エバーライトエレクトロニクス)は,平成23年9月28日,特許庁に対し,本件特許の請求項1ないし12に係る発明を無効にすることを求めて審判請求(無効2011-800183号)をし,特許庁は,平成24年11月12日,無効審決をし,その謄本は同年11月22日,原告に送達されました。
        原告は,上記審決を不服とし,平成24年12月22日,知財高裁に対して上記審決を取り消すことを求めて訴訟を提起しました(当裁判所平成24年(行ケ)第10440号)。
        原告は,平成25年2月19日,特許庁に対し訂正審判を請求し(訂正2013-390031号),知財高裁に対して平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下「平成23年改正前特許法」という。)181条2項所定の決定を求めたところ,知財高裁は,平成25年3月4日,上記規定により「特許庁が無効2011-800183号事件について平成24年11月12日にした審決を取り消す。」との決定をしました。
      特許庁は,原告が上記訂正審判請求において提出した訂正明細書(甲22)を特許無効審判における訂正の請求とみなして(平成23年改正前特許法134条の3),審理の上,平成25年7月18日,訂正を認めての無効審決(実施可能要件違反)をし,その謄本は,同年7月26日,原告に送達されました。
      そこで,原告は,平成25年8月23日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起したというわけです。

 これに対して,知財高裁4部(富田さんの合議体ですね。)は,審決を取消しました。

 いやあ,長いキャッチボールの経緯ですね。要するに,実施可能要件違反で無効審決が下された,というわけです。

 まあ,ここで取り上げるのはそれなりの理由があるのですが,まずは,上記のとおり,実施可能要件違反が逆転でOKになったことが一点です。そして,実にタイムリーな話!原告を見て下さい,日亜化学工業ですよね。
 そして,発明者は?そう,この発明者の一人は,昨日ノーベル賞受賞が決まった中村修二さんです。

 クレームはこんな感じです。

【請求項1】
インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してInxGa1-xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1-yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してAlaGa1-aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体発光素子。

 まあ,かなりマニアックな発光ダイオードの発明ですが,ポイントはそんな難しくありません。要するに,本件発明は何層構造?ってところです。

 あ,LEDの原理はいいですよね。私もそんな専門家ではないのですが,太陽電池の真逆と思えばいいんじゃないですかね。つまり,マイクとスピーカーみたいなもんです。
 光に当たれば,電気が起きる半導体(太陽電池)があるなら,じゃあ電気を流せば光る半導体があってもいいんじゃね~ってえのがLEDです。もともと半導体にある非常にプリミティブな性質の応用です。励起した電子と正孔が対消滅したときに,ゲップかおならかのように,モリッと光やら熱が出る,それを効率よく取り出せるようにしたのがLEDってわけです。

 青とか赤とか緑とかは,その対消滅するときのエネルギー次第で,半導体によって大体決まっているものです(バンドギャップといいます。)。青色だと450nmくらいですかね,それに相応するエネルギー,つまりバンドギャップを持っているのが,クレームの活性層だと思われますね。
 ま,素人の与太話ですので,この辺で。

2 問題点
 ということで,問題点は,実施可能要件違反の有無です。

 実施可能要件ってえのはわかりやすい要件ですよね。条文を見てみましょう。特許法36条4項1号です。

4  前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一  経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。

 当業者なら,誰でもそれ見ただけで,作ったり使用できたりできるように書かないといけないわけです。じゃないと,特許制度の趣旨って,公開の代償としての独占排他権,なので,公開と言えないような明細書じゃあ,ダメってわけです。

 ですので,普通は本願発明を作ったり使用できるように書いておかないといけないわけです。

 本件の審決も,「本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明1の「活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する」点について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。 」と判断しております。

 要するに,上記のとおり,バンドギャップが光の波長,つまり色を規定するのですが,今回の発明はそれよりも低いエネルギー,つまり若干赤寄りの色を発するLEDの発明のはずなのに,どうやって,バンドギャップとおりじゃない低いエネルギーを実現するのか,ちっともわからんじゃないか~,えーよくもこんなんでノーベル賞なんか取れたなあ,っと言われているわけです。

 普通はこういうことを言われたら,教科書や他の出願をたくさん持ち出し,いやいやいやこの程度の記述でも,当業者ならわかるんですよ,世の中,審査官と同様のバカばかりじゃないのですよ,自分がバカだからって他人もバカばかりと思わないでちょうだい,と応じるわけです。

 ほんで,確かにこの程度でも,悔しいけどわかるようだなあと思えば,ひっくり返るし,いやいやいややっぱりものには限度があって,この程度じゃ試行錯誤しねえとわからねえじゃん,この不親切野郎めというのであれば,そのままです。

 ですが,上記のとおり,わざわざ,この件を取り上げたのは,違う理由もあるからですね。

3 判旨
「以上によれば,本件審決は,本件発明1の要旨を,その発明特定事項から「n型窒化物半導体層に接してAlaGa1-aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層」を備える点を除外した構成,すなわち,「活性層の第1の面に接してInxGa1-xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1-yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光する,窒化物半導体発光素子」と認定し,これを前提に本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充たすものであるか否かを判断しているといえる。
  一方,本件発明1の要旨は,前記イ(イ)記載のとおり,本件訂正後の請求項1の記載,すなわち,その発明特定事項に基づいて,「インジウムおよびガリウムを含む窒化物半導体よりなり,第1および第2の面を有する活性層を備え,該活性層の第1の面に接してInxGa1-xN(0<x<1)よりなるn型窒化物半導体層を備え,該活性層の第2の面に接してAlyGa1-yN(0<y<1)よりなるp型窒化物半導体層を備え,該n型窒化物半導体層に接してAlaGa1-aN(0≦a<1)よりなる第2のn型窒化物半導体層を備え,該活性層を量子井戸構造とし,活性層を構成する窒化物半導体の本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光することを特徴とする窒化物半導体発光素子」であると認められるから,本件審決は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が本件発明1について実施可能要件を充たすものであるか否かを判断するに際し,本件発明1の要旨の認定を誤ったものというべきである。 」

4 検討
 判旨は長いのですが,ポイントだけ。わかりますかね。
 審決は,n-活性層-pの3層構造。
 原告(判決)は,n②-n①-活性層-pの4層構造。

 何だか訂正が入っているのを忘れてしまっていたような気もするのですが,審決は,上記のとおり,本願発明の要旨認定を恥ずかしいほどにしくじったわけです。

 で,こういう4層構造だと,明細書の中には,本来のバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光を発光させるやり方,すなわちひっぱり応力の強い層を一層挟む,つまり,4層構造でのやり方をきちんと書いていたので,そりゃあ実施可能要件違反なんてなるわけがない!てな結論です。

 いやあ,翻ってみると,どうしてこんな単純なミスを特許庁が犯したのか全然わかりません。実に稀有な例と言えましょう。

 ところで,今回の相手は,台湾の会社です。日亜化学工業は,昔から特許にアグレッシブな会社ですので,権利行使の防御の一環なのでしょうね。発明者は中村修二さんと言えども,権利者は,会社ですので,もはや発明者は何の関係もない話です。

 そうそう,朝の日経のプロフィール見てびっくりしたのですが,もう国籍も米国に変わってしまったのですね。
  いやあ,勿論,本人にとっても不幸でしたが,日本にとっても不幸な結末ですねえ。今回の受賞で少しは怒りが和らぐといいのですけど・・・。

 ほんで,こんなことがあっても,まだ職務発明は,会社に帰属させるのがいいと言うのでしょうかなあ。手遅れになってから気づいても遅いということは,先の大戦で学ばなかったのね~♪
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