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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「脱硫ゴムおよび方法」とする発明について,2007年4月10日国際出願(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年12月11日,米国。特願2009-541291号。)をした原告が,平成23年12月28日,拒絶査定を受けたため,平成24年3月29日,これに対する不服審判請求(不服2012-5740号事件)をするとともに,同日付で手続補正(本件補正)をしたところ,特許庁は,平成25年4月23日,拒絶審決(甲1により新規性なし,甲2により進歩性なし)をしたことから,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁1部(設樂さんの合議体です。)は,審決を取り消しました。要するに,甲2により進歩性なしとは言えないということです。

 まずはクレームからです。
  本願補正発明
  「ゴムの脱硫方法であって, 
  硫黄架橋している硫黄を含む加硫ゴムを準備する工程と, 
  前記加硫ゴムをテレピン溶液と接触させて反応混合物を生成する工程と,
  前記テレピン溶液による脱加硫作用によって,前記加硫ゴムの54~100%の架橋を破壊して,加硫ゴム中の硫黄含量を減少させる工程を含み,
  前記反応混合物は,前記加硫ゴムと前記テレピン溶液が,10℃から180℃の温度でかつ4×10の4乗パスカルから4×10の5 乗パスカルの圧力で接している,
  前記脱硫方法。

 で,進歩性だけが論点だったので,甲2に関わるところだけ。ですので,甲2発明との一致点相違点です。
  ア  一致点
  「ゴムの脱硫方法であって, 
  硫黄架橋している硫黄を含む加硫ゴムを準備する工程と, 
  前記加硫ゴムをテレピン溶液と接触させて反応混合物を生成する工程を含み, 
  反応混合物には,架橋を破壊して,加硫ゴム中の硫黄含量を減少するに十分な量のテレピン溶液が存在している, 
  前記脱硫方法。」 
  イ  相違点
   本願発明では,「54~100%の」架橋を破壊しているのに対して,甲2発明では,架橋を破壊しているものの,上記「」内の事項の特定がない点。

 まあ要するに,相違点は1つだけと認定したのですね。

2 問題点
 問題点としては,進歩性なのですが,進歩性が争点の場合,大きく分けて2点,争う所があります。まずは,事実認定のところです。つぎに,法的判断のところです。

 今月の初め,この進歩性についてはセミナーを開催したのですが,そこに出席した人はよくわかると思います。事実認定で間違い易いのは,引用発明(主引例)の認定であって,法的判断で間違い易いのは,動機付けのところ,特に技術分野と課題のところだということでしたよね。

 審査官や審判官も,人の子ですから,間違い易い所はあります。本願発明の認定はさすがに間違いませんが,引用発明の認定は間違いやすいのです。
 まずは,気が抜けるということがあるでしょう。本願発明の認定はさすがに必死ですが,その後の引用発明は山場を抜けてホッとして本願発明ほど精緻じゃないのですね。
 つぎに,偏見です。調査を自分でやらないことも多いようですから,そっくりとしてあがった調査結果を鵜呑みにしてしまうことはありがちです。ですので,本当は,かなり違う引用発明の要素を本願発明の構成要件と比べ,これは同じだ!としてしまうのですね。
 あとでじっくり考えると何でこれとこれを同一と言ったんだろう??と思っていると推測しますが,検察庁同様,裁判所同様,間違っても間違ったと言わないところが,役人の役人たる所以ですよね。ば・か・た・れ・ど・も・めってところです。

 ですので,技術がちゃんと分かると,おかしな事実認定とおかしな法的判断がたくさんある!というのが,今の審決取消訴訟の実態です。

 本件でも,引用発明の事実認定が何かちょっとおかしく,そのため法的判断も何かちょっとおかしかったような感じです。
 判旨に行ってみましょうかね。

3 判旨
「 (4)  甲2発明の認定と本願発明との対比
  ア  上記のとおり,本願では,「脱硫」を使用済みの加硫ゴムを再利用できる形態まで処理するという意味で用いているものと認められる。したがって,「脱硫方法」である本願発明と対比するために引用文献から認定される甲2発明は,引用文献でいうところの「脱硫」ではなく「再生」の方法であるべきで,本願発明と対比する際に認定されるべき甲2発明は,「屑ゴムの再生方法であって,硫黄架橋している硫黄を含む加硫ゴムである屑ゴムを Cracking(粗砕)及び Grinding(細砕)する工程,脱硫罐内に松根油と共に入れて加熱する工程,Refining(精細)して再利用可能な程度の可塑性と粘着性を与える工程,を含む屑ゴムの再生方法。」というべきものである。
  審決は,引用文献から,屑ゴムを砕き,化学処理する工程までの「脱硫」方法を認定したに留まり,再利用可能な可塑性及び粘着性を有するゴムを得るための「再生」方法全体を認定しなかった点で誤りである。
  イ  本願発明の「テルピン溶液」は甲2発明の「松根油」に相当し,本願発明の「脱硫」は甲2発明の「再生」に相当するので,両者は,①甲2発明においては,「Refining(精細)して再利用可能な程度の可塑性と粘着性を与える工程」を含むのに対して,本願発明ではそのような工程を含むことが特定されていない点,②用いるテルピン溶液が,本願発明では54~100%の架橋を破壊して,加硫ゴム中の硫黄含量を減少するに十分な量であるのに対して,甲2発明では量について特定がない点,及び,③本願発明では,「54~100%の」架橋を破壊しているのに対して,甲2発明では,架橋を破壊しているものの,架橋の破壊の程度について特定がない点,において相違する。
  したがって,審決の相違点の認定には誤りがある。
  2  取消事由4(本願発明の容易想到性判断の誤り)について
  (1)  上記1(4)のとおり,本願発明と甲2発明との間には審決の認定しなかった相違点があるので,その点の容易想到性について検討する。
  (2)  引用文献においては,「Refining(精細)して再利用可能な程度の可塑性と粘着性を与える工程」については,「再生は脱硫のみならず Refining に依つても行われる」,「(Refining を)をおろそかにしている工場の殆ど總ては・・・出来上つた再生ゴムは粒子が粗く著しい見劣りが感ぜられた」,「何れにしても Refining は斯くの如く重要なもの」等とされており,「Refining(精細)して再利用可能な程度の可塑性と粘着性を与える工程」を重視すべきことが強調されている(甲2)。そうすると甲2発明に接した当業者は,再生(本願発明の「脱硫」)に際して「Refining(精細)して再利用可能な程度の可塑性と粘着性を与える工程」を強化するべきことを想到するとしても,「Refining(精細)して再利用可能な程度の可塑性と粘着性を与える工程」を必須としない構成については,これを容易に想到し得ない。
  (3)  本願発明の「54~100%の架橋を破壊して,加硫ゴム中の硫黄含量を減少するに十分な量のテルピン溶液」とは,本願発明の意味での「脱硫」,すなわち,使用済みの加硫ゴムを再利用できる形態まで「再生」すること,を基本的に完了するに足りる量のテルピン溶液を意味すると解される。
  一方,甲2発明の「再生方法」では,松根油と共に加熱する工程のみならず,可塑性及び粘着性を強める Refining 工程も必須であって,松根油と共に加熱する工程のみで「再生」が行われるわけではないから,松根油の量は,加硫ゴムを再利用できる可塑性及び粘着性を有する形態まで「再生」するのに十分な量であるとは認められない。むしろ,引用文献には,前記のとおり油の量を多くし加熱時間を長くすると再生ゴムの腰が弱くなるので,そうせずに Refining を十分に行うことで十分な可塑性と粘着性を有し,腰の強い再生ゴムが得られる旨が記載されているので,油の量を多くすることには阻害要因があるというべきである。
  (4)  したがって,本願発明と甲2発明との間の上記各相違点に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから,審決の容易想到性判断には誤りがある。そして,この誤りは結論に影響を及ぼすものであるから,原告主張の取消事由4は理由がある。 」

4 検討
 本願発明は,古タイヤのゴムなどの再生技術等に関するもので,クレームのとおり,化学的工程で課題解決するに十分な発明です。
 他方,引用発明も同様の分野の発明なのですが,課題解決するためには,化学的工程に加え,Refining 工程という機械的工程(ローラーで更に細かく押しつぶす)を経ないといけないという発明です。

 ところが,審決の事実認定は,その一連の工程のうち,良いところどりをしているのですね。こういう良いところどりは,裁判所が許すところではなく,他に知財高裁平成23年(行ケ)10134号(2012/2/6判決)などがあります。

 で,良い所どりを許さないと,上記の判旨のとおり,3つの相違点があることになります。そして,判決はその事実認定の誤りも取り消すほどであると述べております。

 さらに,この事実認定の誤りがあれば,法的判断も通常誤りになります。これは判旨のとおり,まずは,機械的工程(ローラーで更に細かく押しつぶす)を必要としない発明は容易想到じゃないよね,つぎに,引用発明にはテレピン油が多すぎるとヤバイって書いてあるんだから,テレピン油を多くした本願発明に関して阻害要因があるよね,としたわけです。ほんで,この法的判断についても取り消すほどの誤りだとしたのですね。

 ところで,これらの判断はそれはそれでいいとして,甲1の方ってこれでいいんですかね(甲2ではなく。)。
 甲1での新規性の件って,判決では全く触れておりません。つまり,甲1からして新規性がないということは間違っていない可能性があります。
 そうした場合に,審決を取り消しても,やはり甲1で新規性なしとなる可能性はあるのですね。
 さて,そうすると,そのような場合に,審決を取り消しても?と思うのです。まあ大きな瑕疵故取り消さざるを得ないのかもしれませんが,ちょっとどうだったっけなあ~♪と思った次第です。詳しい人がどこかに書いてくれると嬉しいです。

5 追伸
 散歩ついでに久々,よく見る景色で。
 
 真ん中のビルは大体建ちましたね。右隣りのビルも工事が進んでおります。ちなみにパークシティ大崎のビルはここからでは見えません。左のイマジカのビルが邪魔してますね。ただ,そちらも結構建設が進んでおります。
 あ,あと右手の大崎側のビル群の一角で,「匿名探偵」のロケハンをやってましたね。そのうちこの近辺がテレビに出るかもしれません。

6 更に追伸
 大分の高校野球ですが,いよいよ佳境です。ベスト4には,県立高校が2校も残り,しかも両者とも何とか商業とか何とか工業とかではなく,普通科の高校だったので,注目していたのですが・・・。今日,両者とも負けてしまいました。
 後に残るは大分と別府の私立なので,まあどっちが勝ってもいいですわ~♪おっさんはワガママで気まぐれなのですよ。

 兎も角も,健闘を取り敢えず,期待しておきます。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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