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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は, 平成17年(2005年)1月28日,発明の名称を「芝草品質の改良方法」とする発明について特許出願(特願2005-20775号,パリ条約による優先権主張:平成16年(2004年)2月13日,優先権主張国:アメリカ合衆国。)をした原告が,平成23年4月1日付けで特許庁から拒絶査定を受けたことから,同年8月11日,これに対する不服の審判を請求し,平成25年3月18日付け手続補正書により特許請求の範囲を補正した(本件補正)ものの, 特許庁は,前記請求を不服2011-17402号事件として審理し,平成25年5月1日,拒絶審決(新規性なし,進歩性なし)をしたため,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して知財高裁4部(富田さんの合議体です。)は,審決を取消しました。つまりは,同一発明でなく,進歩性なしとも言えないということです。

 最近の進歩性は2パターンしかないというのは,このブログを見ている人にはよくわかると思います。今回は,事実誤認の方ですね。

 クレームからです。
    
【請求項1】芝草の密度,均一性及び緑度を改良するためのフタロシアニンの使用方法であって,銅フタロシアニンを含有する組成物の有効量を芝草に施用することを含み,ただし,(i)該組成物は,亜リン酸もしくはその塩,または亜リン酸のモノアルキルエステルもしくはその塩の有効量を含まず,(ii)該組成物は,有効量の金属エチレンビスジチオカーバメート接触性殺菌剤を含まない,方法。

 ポイントは,クレーム中の緑度,つまり芝を青々とすることです。
 
ア  刊1発明 (新規性)
  一致点
「芝草の均一性及び緑度を改良するためのフタロシアニンの使用方法であって、銅フタロシアニンを含有する組成物の有効量を芝草に施用することを含み、ただし、(i)該組成物は、亜リン酸もしくはその塩、または亜リン酸のモノアルキルエステルもしくはその塩の有効量を含まず、(ii)該組成物は、有効量の金属エチレンビスジチオカーバメート接触性殺菌剤を含まない、方法。」に関するものである点。
  (一応の)相違点
  フタロシアニンの使用が、本願請求項1に係る発明においては「芝草の密度」も改良するための使用であるのに対して、刊1発明においては「芝草の密度」を改良するための使用として特定されていない点。
イ  刊2発明 (新規性と進歩性)
  一致点
「フタロシアニンの使用方法であって、銅フタロシアニンを含有する組成物の有効量を芝草に施用することを含み、ただし、(i)該組成物は、亜リン酸もしくはその塩、または亜リン酸のモノアルキルエステルもしくはその塩の有効量を含まず、(ii)該組成物は、有効量の金属エチレンビスジチオカーバメート接触性殺菌剤を含まない、方法。」に関するものである点。
  (一応の)相違点
 フタロシアニンの使用が、本願請求項1に係る発明においては「芝草の密度、均一性及び緑度を改良する」ための使用であるに対して、刊2発明においては「芝草の密度、均一性及び緑度を改良する」ための使用として特定されていない点。

2 問題点
 問題点,しかも新規性進歩性での事実認定の問題点ですから,要するに,引用発明の勘違いということになるわけです。

 ただ,こう言うとただのアホ!みたいな感じがするのですが,本件で問題になっているのは,用途違いという所です。

 有名な例だと爆薬に使用するニトログリセリン,ダイナマイトの原料ですね。あー実にいいタイミング。それをよく使う炭鉱労働者には,心臓病の患者が少なかったらしいのですね。それでよく調べてみたら,ニトログリセリンに心臓の冠動脈を広げる作用があることがわかったということで,全く同じ物質なのに,用途が違うわけです。

 そうすると,物質としては全く公知であっても,「心臓病薬としてのニトログリセリン」みたいに出願すれば,新規性を有することになります。発明の主なポイントは構成ではあり,通常は,その構成が一致すれば同一発明ということで,新規性は失われます(このようなことは「知財実務のセオリー」買って読んでね~♡)。しかし,構成がポイントではない発明(これが用途発明。)については,用途の部分まで一致しなければ同一発明にならないわけです。

 ただ,新規性をクリアしても進歩性が残っています。上記の例ですと,心臓病薬以外の部分は同一です。ですので,この心臓病薬の差異について,論理付けできるかどうかポイントです。
 しかし,爆薬としてのニトログリセリンについての刊行物や,ニトログリセリンと極めてよく似た化合物(化学の場合は,ちょっと違っても効果は大きく違うので。)の発明の明細書などに,冠動脈拡張作用があるなんていう記載や示唆がない限り,進歩性もOKでしょうね。

 やはり,爆薬と薬では技術的な意味が大きく違うので,よっぽどそのものずばりのものがなければ,新規性も進歩性もクリアできると思います。

 で,今回もその手のものだったのですね。主引例は2つあるのですが,両方共構成だけを見ると本願発明にそっくりです。使用方法というか,作用効果が若干違うだけのように見えます。

 判旨に行ってみましょうか。

3 判旨
刊行物1
「しかしながら,芝草管理用語辞典(126頁。甲30)によれば,芝草の品質は,肉眼観察で判断できる葉色,密度,均一性など利用目的に適合しているかどうかの度合いなどを総合評価して判断するとされていることからすると,芝草管理においては,「密度」「均一性」などの用語は,芝草の植物としての品質を評価する指標として用いられるものであると認められ,各指標の内容は一義的に明らかとはいえないものの,本願の特許請求の範囲の請求項1における「芝草の密度,均一性及び緑度」は,芝草の植物としての品質を意味するものと認められる。そして,「改良」は,悪いところを改めて良くするという意味であることからすると,本願発明の「芝草の密度,均一性及び緑度を改良する」とは,芝草に対して生理的に働きかけて,芝草の品質を良くすることを意味すると認められ,この点については,本願明細書において,芝草の植物としての品質を生理的に改良することがもっぱら記載され,着色などの人工的な加工については記載されていないことからも明らかである。
 一方, 刊行物1の記載からすると,刊1発明の「芝生を全体にきれいな緑色に着色」は,晩秋から春にかけて自然現象で薄茶色に変化する芝生を美しい緑に見せるために,緑色顔料又は青色顔料と黄色顔料の組み合わせを含む着色剤を芝生の表面に散布して,全体的に緑色を着けることを意味することは明らかである。
 そうすると,刊1発明の「芝生を全体的に均一な緑色に着色するために顔料(銅フタロシアニン等)を含む芝生用着色剤を芝生に散布する方法」と,本願発明の「芝草の均一性及び緑度を改良するためのフタロシアニンの使用方法」とでは,技術的意義が異なることは明らかである。」

刊行物2
「しかしながら,本件審決が根拠とする刊行物2の記載についてみると,観察結果として「処理時においては,実施例及び比較例ともに殆ど差は見られず,着色濃度に応じた外観を呈していたが,処理後45日後の11月29日においては無処理の芝は地上部の葉が殆ど枯れて褐色となっていたが,実施例1は緑色を保持していたのに対し,比較例1は色が褪せて枯れ芝色に近い色となっていた。更に状態を詳しく観察すると,無処理区及び比較例1の処理区においては芝の地上部が休眠期に入り,殆ど枯れていたのに対し,実施例1の処理区においては,芝の地上部があたかもまだ活動しているが如く緑色を呈しており,この表面に着色剤が付着していることが観察された。」(段落【0021】)というものであって,当該記載の趣旨としては,「無処理」と「比較例1」とは,植物自体の状態としては差がないものの,「比較例1」では45日前に処理した着色剤が色は褪せたものの多少残存しているため,「無処理」のように褐色ではなく,枯れ芝色に近い色止まりであったという趣旨であった。したがって,比較例1は,実施例と異なり,芝生に対して生理作用を有さない着色剤として,それを具体的に示すデータを伴って記載されたものと解される。 」

4 検討
 わかりますかな。最初に青々とするのがポイントだと書きました。
 刊行物1発明も刊行物2発明も芝を青々とする発明です。しかし,そのやり方が本願発明とは違うわけです。本願発明は,芝の品質を上げて青々とするのがポイントです。つまり,生きている芝のみに作用するものです。他方,刊行物1発明も刊行物2発明も,芝に着色して青々と見せる発明であって,芝が枯れようが生きていようが関係ない発明なのです。

 まあ私も歳をとって髪も薄くなってきましたが,本願発明は育毛剤みたいなもので,刊行物1,2は,増えたように見えるふりかけスプレーの発明と思えばわかりやすいでしょう。
 ですので,作用機序が全然違うのですね。でも,面白いのが,作用機序が違うのに,同じ物質だということです。なので,用途発明と言えるのですが,作用効果自体も,芝を青々とするという点では同じです。
 そうすると,今回,かなり特殊な事例で,構成というスタートも,効果(用途)というゴールも同じなのではあるが,途中の作用機序というプロセスのみが異なる!という非常に珍しい類型の事例だと思うのですね。

 ここまで一緒なのは,なかなかお目にかかりません。通常,スタートもゴールも同じなら,全部一緒のことが多いと思うのですが,化学系はこういうこともあります。まあ化学であっても例外的なのではありますが,何がポイントかよくよく確認した方が良いということですね。

5 その他
 上記に,ダイナマイトの話が出ましたが,今週は所謂ノーベルウィークです。
 昨日,医学生理学賞の発表がありました。受賞理由は,for their discoveries of cells that constitute a positioning  system in the brainということです。脳内での空間認識に関する細胞を見っけたよってやつですね。

 いやあここまでくるとさすがにようわかりません。

 ということで,私の最も興味のあるのは,当然物理学賞です。いやあ,昨日からノーベル財団から電話がかかってくるのを待っているのに,全く電話がかかってこねえや,とマジで言ってみたいもんです。どこで,路線を間違えたかなあ~(遠い目)。

 兎も角も,本日,物理学賞の発表ですので,受賞の分野,受賞者次第で,本日二度目の更新があるかもしれません。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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