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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,平成16年11月24日,発明の名称を「ロウ付け用のアルミニウム合金製の帯材」とする国際特許出願をした(特願2006-540530号。パリ条約による優先権主張,2003年11月28日  フランス共和国)原告ら(出願時の名称は,原告コンステリウム  フランスが「アルカン  レナリュ」,原告コンステリウム  ロールド  プロダクツ-レイヴンズウッド,エルエルシーが「アルカン  ロールド  プロダクツ-レイヴンズウッド,エルエルシー」。)が,平成24年2月14日,拒絶査定を受け,同年3月16日,審判請求をするとともに(不服2012-5039号事件)手続補正をし,また平成25年4月2日,再度手続補正をしたものの, 特許庁は,平成25年5月27日,拒絶審決(進歩性なし)を下したため,原告は,これに不服として審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して知財高裁2部(清水さんの合議体です。)は,原告の請求を認め,審決を取消しました。つまりは進歩性はなしとは言えないというわけです。

 何だかまともな判決紹介は久々って感じがしますね。そもそも最近アップされる判決が少なかったのと,7月に進歩性の判決のまとめの講演のため,かなり詳細に判決を分析してまとめたため,若干食傷気味だったわけですね。
 でももう9月です。過ぎたことに囚われる以上の時間が過ぎました~♪

 まずは,クレームです。
 
【請求項1】管理された窒素の雰囲気下で無フラックスのろう付けによってろう付けされた部材を製造するための,重量パーセントで,少なくとも80%のアルミニウム,ならびに,Si<1.0% Fe<1.0% Cu<1.0% Mn<2.0% Mg<3.0% Zn<6.0% Ti<0.3% Zr<0.3% Cr<0.3% Hf<0.6% V<0.3% Ni<2.0% Co<2.0% In<0.3% Sn<0.3%,合計0.15%であるその他の元素それぞれ<0.05%,を含む芯材用のアルミニウム合金製の帯材または板材における,0.01~0.5%のイットリウムの使用。

 ここで,ろう付けが出てきますが,これはわかりますかね?基本はんだ付けと同じです。A部材とB部材をくっつけるのに,AかBかを溶かして付けるのは溶接です。
 そうではなく,新たにC部材をもってきて,これを溶かしてAとBをくっつける,これがろう付けであり,そのうち温度の低いものをはんだ付けと言うわけです。

 簡単でしょ。で,この発明は,そのろう付けの,窒素雰囲気で無フラックス(滑りをよくしたりする溶剤なしってこと。)でのろう付け用部材(上記C部材のこと)の発明なのです。

 いやあ,何で弁護士知財ネットの勉強会で,審決取消訴訟を忌避するのかわかりませんねえ,こんなわかりやすい話なのにね。

 で,引用発明との差とかです。

(一致点)
ろう付けによってろう付けされた部材を製造するための,重量パーセントで,少なくとも80%のアルミニウム,及び,Si<1.0% Fe<1.0% Cu<1.0% Mn<2.0% Mg<3.0% Zn<6.0% Ti<0.3% Zr<0.3% Cr<0.3% Hf<0.6% V<0.3% Ni<2.0% Co<2.0% In<0.3% Sn<0.3%を含む芯材用のアルミニウム合金製の帯材又は板材における,0.01~0.5%のイットリウムの使用。

(相違点1)
  本願発明は,具体的に列記されていないその他の元素の含有量が,それぞれ0.05%未満であり,合計で0.15%未満であるのに対し,引用発明は,その他の元素に相当する不可避的不純物の含有量が規定されていない点。
(相違点2)
 本願発明は,管理された窒素の雰囲気下でフラックスレスのろう付けによってろう付けされた部材を製造するための芯材用のアルミニウム合金製の帯材又は板材であるのに対し,引用発明は,真空雰囲気下でのろう付けによってろう付け部材を製造するための芯材用アルミニウム合金製の帯材又は板材である点。

 はんだと同じで,極めて細かい数値限定のある発明であることがわかります。

 で,ポイントは,相違点2の方です。

2 問題点
 争点としては,進歩性ですので,争い方は典型的には2つあり,この判決でもそれが2つの争点となっております。
 まずは,事実認定の誤りです。これは,上記で書いた夏の講演に出た人はすぐにわかりますね。結局,引用発明の認定誤りに帰着されるということを。
 この判決では,上記のとおり相違点2がクローズアップされていますが,ここは実は排斥されています。

 つぎに,法的判断の誤りです。
 審決はどう言っているかというと,
(相違点2)
  真空ろう付け法が窒素ガス雰囲気ろう付け法とともにフラックスレスろう付け法の一手法であることは,技術常識として古くから広く知られているところである(特開昭62-13259号公報(乙1)の2頁左上欄17行~右上欄3行,3頁左上欄15行~17行,竹本正「軽金属,Vol.41,No.9(1991)」(乙2)p.639の図1のアルミニウムのろう付け法の分類等,特開平9-85433号公報(乙3)の段落【0006】,【0008】等参照。)から,刊行物2の従来技術に関する「自動車用熱交換器・・・は,・・・真空ろう付け等によりろう付けされ」との記載に基づいて,真空雰囲気下でのフラックスレスろう付け用の引用発明に係る芯材用アルミニウム合金製の帯材又は板材を,管理された窒素雰囲気下でのフラックスレスろう付け用の芯材用アルミニウム合金製の帯材又は板材として用いることは,当業者が容易になし得ることである。

 要するに,よく似た技術の,真空ろう付け法では,本願発明のろう材を使っていたわけですね。だから,窒素雰囲気中でのろう付け法に転用するのは当業者に容易だろう,という技術分野の関連性での動機付けあり!ってやつです。

 ですが,新傾向判決以降の今の流れってそうですかね~。技術分野が関連してても,課題が共通じゃないといけないんだし,さらに,その示唆がないとダメでしたよね。とすると,本件では~?っとなるわけです。

3 判旨
「   (2) 本願出願時の技術常識
   弁論の全趣旨,甲2及び乙1~10によれば,以下の事実が,本願出願時における技術常識として認められる。
 遅くとも平成7年ころには,アルミニウムのろう付けの分類として,フラックス法とフラックスレス法があること,フラックスレス法には真空法と雰囲気法があること,雰囲気法には窒素ガス中で行うものがあること,ろう付けを良くするためにはろう材や芯材に工夫をすることが一般的であり,ろう付けに用いられるろう材の基本組成として,真空法ではAl-Si-Mg系であり,雰囲気法ではAl-Si-微量添加元素(Bi,Be,Sr等)であること,芯材の基本構成として,窒素雰囲気下ではMgを微量添加することが知られていた(弁論の全趣旨,乙2の639頁左欄最下行~640頁左欄下から11行,図1,表2,乙3の段落【0008】,【0022】,【0027】,【0037】表1の実施例12,14,15,【0042】,乙7の「従来の技術」,乙10の表7)。このように,アルミニウム合金ブレージングシートを使用してろう付けする際に,どのような成分組成のものが使用されるかは,通常,ろう付け法により決せられ,真空雰囲気下でのろう付け法と,管理された窒素雰囲気下でのろう付け法が,いずれも同じフラックスレスろう付け法であるとしても,これらのろう付け法において使用されるろう材,芯材は,通常,区別されるものであるとされていた。
  (3) 相違点2の容易想到性について
 審決は,フラックスレスろう付けの手法として,真空ろう付け法と窒素ガス雰囲気ろう付け法がともに技術常識であることから,相違点2に係る構成は,当業者が容易に想到できるものと判断した。
  確かに,本願発明と引用発明とは,いずれも,ろう付けされた部材の製造に使用される,芯材用のアルミニウム合金製の帯材又は板材において,所定量のイットリウムを含有させる点で共通するものである。また,エロージョンは,ろう材が芯材を侵食する現象であり,芯材の中にシリコンが浸透して腐食が起きやすくなるために,ろう付けの際に回避すべきものであるが,エロージョンが起きれば,侵食された芯材部分にろう材が流れ込む結果,ろう付けのための充分なろう材が行き渡らずに所定の付着効果が得られず,ろう付け性が低下するから,エロージョンの抑制には,結果的にはろう付け性を改善するといえる側面もあり,本願発明と引用発明の技術課題に重なり合う部分が存在すること自体は否定し難い。しかしながら,本願発明は,管理された窒素雰囲気でのろう付けによるものであるのに対して,引用発明は,真空雰囲気下でのろう付けによるものであるという相違点があるのであり,相違点2に係る構成が当業者にとって容易に想到し得るものか否かは,結局,刊行物2に記載されたイットリウムの使用が,管理された窒素雰囲気下でのろう付けにも使用できるという示唆があるかどうか,また,本願出願時の技術常識から,それぞれのろう付け法におけるろう材や芯材の相互の互換性があるといえるか否かにより判断されるべきである。
  しかるに,刊行物2そのものには,管理された窒素雰囲気下でのろう付けについて,何らの記載も示唆もない。また,芯材用アルミニウム合金にイットリウムを含有させることにより,管理された窒素雰囲気下でのろう付けにおいて,改善されたろう付け性が得られることについて,何らの記載も示唆もない。そして,上記のとおり,本願出願時には,ろう付け法ごとに,それぞれ特定の組成を持ったろう材や芯材が使用されることが既に技術常識となっており,ろう付け法の違いを超えて相互にろう材や芯材を容易に利用できるという技術的知見は認められない。したがって,真空雰囲気下でのろう付け法である引用発明において,芯材用アルミニウム合金にイットリウムを含有させることにより,ろう付けの際に生じるエロージョンを抑制することができるものであるとしても,管理された窒素雰囲気下でのろう付け法において,改善されたろう付け性が得られるかどうかは,試行錯誤なしに当然に導き出せる結論ではない。
  したがって,相違点2に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえず,この点に関する審決の判断は誤りである。 」

4 検討
 まあ,ろう材転用の示唆もなければ,そういう技術常識もなかったので,動機付けなし,としたわけですね。
 なので,かなり近い技術で似た発明を探してきたと思いきや,これでもダメ~ってなったわけです。

 若干特許庁には厳しいかなあという感も無きにしもあらずです。ただ,私はこの分野の当業者ではないので,真空ろう付けと窒素雰囲気中ろう付けが,どの程度かけ離れているのかがイマイチピンときません。知財高裁の認定した技術常識等からでは,真空ろう付けと窒素雰囲気中ろう付けでは,使うろう材がかなりはっきり分かれていたので,そこが決め手になったのでしょうね。

 つまり,高温ポリシリコンTFTでは使っても,低温ポリシリコンTFTでは使わない,ましてやIGZOでは全く使わない,似ているけどそういう技術だ~♪てなわけなのでしょうね。

 おっと,これから弁理士会の研修なので,そろそろ出ないと。

5 追伸
 本日は久々カラッと晴れた東京です。でも,往時の暑さはありません。で,まだあまり誰も言わないけど,今年の冷夏のことです。

 今年,2014が冷夏で,前の冷夏が2003年でした。その前が1993年で,その前が1980年でした。
 少くとも,1980年からはよく覚えております。
 
 何つっても,1980年は私が中学3年生で,当時入っていたボーイスカウトのジャンボリーで,大分県の山間部の飯田高原に行ったのですが,とんでも無い雨と寒さ~,だからよく覚えております。
 1993年はコメが不作でタイ米の輸入で話題になりましたよね。2003年は結構最近なので,そりゃ覚えております。

 で,それぞれの冷夏って,太陽黒点のピークと結構一致しております。若干のずれがあるものの11年周期と言えなくも無いって感じです。
 なので,来年が今年以上の冷夏になれば別ですが,今年の冷夏は黒点原因だったって気がしますね。

 ところで,ちょっとは暑さを感じた理由なのですが,それは上記のとおり,弁理士会の研修に行ってたからですね。この研修のことについては,チャンスがあれば,ここでも書くと思いますが,今日はこの程度にしておきます。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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