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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 首記は,一昨日,特許庁が公表した調査報告書です(知財研が特許庁から請け負ってます。)。

 結構固い題の報告書で,あまり騒がれてもいないようですが,これ,結構重要です。
 つーか,お,それそれ,そーいうことが知りたかったのよん,っていうことに,定量的に応えてくれる,実に貴重な報告書です。

2 最近,前にも増して,特許戦略とか知財戦略とかの話(噂かな)をよく聞きませんか。

 イノベーションには特許が重要だとか,スタートアップ企業には知財が必須だとか,こういう特許の取り方だとか,ああいう戦略的な出願のやり方だとか,こうすりゃいい,ああすりゃいい・・・もうどうすりゃいい?って感じですよね。

 私に言わせりゃ,弁護士や弁理士の資格に名を借りた口からデマ化師がたくさんたくさん増えましたねえって感じです。

 何故か?
 じゃああんたの言うとおり,特許をとればどんくらい儲かんのよ?あんたに払うお金よりリターンの方が多いよね~きっとね,っちゅう根本的な質問に答えてる人がだーれもいないからです。

 特許は個別具体的,しかも出願から権利取得までに数年かかる,変化する国際事情・・・,そうそう短絡的にいくら儲かるなんて出せないのさ~トランキーロ,あせんなよ~ロス・ インゴベルナブレ~~~ス!! ・デ・ハポン!って所ですかね(いきなり内藤風)。

3 でもそれって卑怯じゃないですかね。儲かるかどうかわからないのに,勧めるなんてね。

 それに,私もこの業界に居ますから,なんかのときのために確信は持ちたいですよ。どのくらい,またどのように意味があるのか,特許ってところに。

 勿論,「反・知的独占」の著者のような考えもありましょう。でもそういう大きな視点じゃなく,そもそも俺が,うちの会社が,私が・・・,特許を取ったら,どういう良いことがあるかって言えた方がいいですよね~。私同様,そういうことを知りたいと思っていた,意識高い系?の人には,実に良いです。

 あ,引っ張りすぎですかね。まあ,いつも前置きが長いのが,このブログの特徴ですし,ひとしきり当てこすりをしないと気持ちが悪いんですよね。

 じゃ行きましょう。全体は245pあります。私と同様に興味があっても,長くて読めない人もいるかと思います。 
 そういう人は,この報告書3p~の要約で大体わかると思います。

 で,ポイントは以下のとおりです。

4 まず,「1 企業パフォーマンスと知的財産権の貢献に関する調査 」の所です。
 これは,「経済産業省『企業活動基本調査(以下、企活と略す)』(1995年度調査から2014年度調査)に、知的財産研究所『IIPパテントデータベース(以下、IIPPDと略す)』の特許データを接続したデータ」に基づくものです(6との違いが重要です。)。
 しかし, この企活では従業員数50人未満の企業がカバーされていないので,補論でそこを示しております。

 統計的な処理をして,その結果について,以下のような記載があります。
・設立からの特許保有が早いほど、成長率が非保有企業と比べて顕著に高いことが確認できる
・特許保有件数は有意に生産性(付加価値)を高める
・減免対象期間が長いほど、また、近くに頼れる弁理士がいるときほど、特許保有件数が多くなる
・従業員数の少ないスタートアップ企業において減免対象期間の効果が強くなる
・新たに特許を保有した企業の付加価値はそうでない企業よりも大きい
・スタートアップの特許保有確率は、減免の対象となることで6.3%が高まり、弁理士との距離が10km縮まることで1%高まる。また特許を保有することで5年後の付加価値は約2.34%高まる。(なお,「東京都では社内弁理士を除く最寄りの弁理士までの距離の平均値はわずか0.31kmであるのに対し、高知県では101.47kmである」だそうです。四国は,どの県も弁理士アクセスが非常に悪いです。)
・早期の特許取得が売上高を高める可能性が示されている。

 要するに,特許の保有数は企業の生産性を高め,新たに特許を取ることもそうでない企業より企業の付加価値を高め,早期に特許を取った方がいい。あと,中小企業には,特許の審査請求料・特許料の減免制度や弁理士が近くに居ることは凄く意味がある,って所でしょうか。

 また,補論で,「企活において50人未満の企業がカバーされていないという点を補完すべく、」中小企業のデータで同様の分析をやっているのですが,以下の記載があります。
・製造業について見てみると、サンプルが非常に限られるものの、売上高、利益、従業員いずれについても、特許保有を開始した企業の方がそうでない企業よりも成長率が高い。
・新たに特許を保有した企業の売上高はそうでない企業よりも大きいことが分かる。特に、特許保有開始から1年後の効果が最も大きいことが分かる。

 要するに,大きな傾向は上と変わらないが,さらに,中小企業だと,即時的な効果が大きいということですね。
 つまりスタートアップ企業もなるべく早く特許を取った方がいいってことですわ。
 まあこれは一般的な常識とそう変わらない所でしょう。
 
5 つぎに,「2.  企業パフォーマンスとライセンスとの関係性に関する調査 」です。
 これは特許を取った後の活用,つまりライセンスしたり(ライセンスアウト),ライセンスされたり(ライセンスイン)が実際どんな意味があるの?っていう分析です。

 これは結構ラジカルでしたね。以下のよう記載がポイントです。
・出願人のライセンス・アウト活動は、出願人の(1)営業利益、(2)マーケットシェア、(3)売上高、(4)給与のいずれにも有意な影響を及ぼしていないことが分かる。
・取引金額ベースで見た場合、ライセンス・アウトによって収入(売上高や売上高ベースのマーケットシェア)は増加しているが、ライセンスにともなうライセンシー(ライセンスにより技術供与を受けた出願人)の参入がもたらす競争圧力の増大によって利益(収入ではない)が失われた結果だと考えられる。
・出願人の前期ライセンス・イン活動は、出願人の研究開発集約度を含めてどの企業パフォーマンスにも有意な影響を及ぼしていないことが分かる。
・ライセンス・インによって、自社の研究開発費の節約効果があると同時に、補完的な技術を導入したことによる自社の研究開発の促進効果が相互に打ち消し合った結果だと考えられる。

 これは凄い結果です。
 ライセンサーはライセンスしない方が良いわけです。
 ライセンスすると,ライセンス料は入ってくるけど,その分他社の参入により,競争圧力がかかり,利益等が少なくなるってわけです。つまりは,特許は差し止めメインで使うべしってことですわ。
 他方,ライセンシーにとっても,ライセンスを受けても,メリットもデメリットも無い,ってことです。別な技術領域で別なことをやった方がいいってことですかね~。実に興味深い結果ですね。

6 「6.  知的財産活動調査データを用いた調査  オープン・クローズ戦略と特許化・特許利用行動との関係 」です。3,4,5は飛ばします。まああまりにマニアックすぎるし,今回のメインの議題,特許を取るのって意味あんの?ってことへの回答の話じゃないからです。

 さてここは,1と同様の議題なのですが,元データが違います。最初の1の元データが,経済産業省『企業活動基本調査』であったのに対し,この6は,特許庁の『知的財産活動調査』が元データです。
 こうすると何が良いかというと,「通常アクセスすることが難しい、知的財産活動に関する詳細なデータを利用できることである。」らしいです。経産省のデータと違って公表してないのかしらん?

 で,この分析では,主として中小企業に関する分析を行っております。ポイントは以下の記載でしょうか。
・推計結果を見ると、依然として保有件数は統計的に有意にプラスであり、この結果は頑健性が高いと言えよう。
・特許化した発明を実施することが企業のパフォーマンスを強く高めることを示唆していると言える。
・少なくとも短期的には、特許出願可能な発明の営業秘密化は企業のパフォーマンスに良い影響を与えていないことを示している。これは特許化しないことで、競合他社が容易にリバースエンジニアリング等で模倣できている可能性を示している。逆に言うと、中小企業では、特許化が重要であると言える。
・ 大企業に焦点をあてた企業の特許保有・出願と企業価値の関係では、単純な特許出願件数は、多重共線性によるものである可能性を含め、統計的には有意にマイナスであるとの結果を得た。他方で、自社実施件数は企業価値にプラスの影響を与えていることも明らかとなった。

 これもなかなか面白い結論です。
 大企業において,単純に特許の数を増やしても意味がないってことです(1の結果と若干違うように見えます。)。そして,大企業でも中小企業でも,自社実施の特許を増やすといいよ~とは言えます。
 あと,中小企業には,営業秘密化じゃなく,特許しないと駄目だってことですね。これは私が自分の本「知財実務のセオリー」で書いたとおりです。リバースエンジニアリングでわかるものを営業秘密にしても何の意味もない!,これは定性的には理解できると思うのですが,定量的(つまり儲けの観点から)にも裏付けられたということになります。

7 まとめ
 私なりのまとめをしておきます。
 特許取得は,意味がないことはなく,特に自社実施の発明を特許化するのは大変意味があり,そういう特許なら創業間もなくてもなる早で出願→登録した方が良く,そうかと言って調子に乗ってライセンスなんかせず,差し止めろってことですかね。
 あ,あと営業秘密化はイマイチ~っちゅうことで。

 知財研に関しては,まあ色々言いたいことはあるのですが,今日はやめておきます。こういう研究というか調査だったら,実に意味があると思いますからね。

 あと,ここに書かれたことは引用はしていますが,私の考えなので,そうじゃないだろうというのは私に責任のあることですので。つまりは,ちゃんと原書を見ろよ,面倒臭がってんじゃねえぞ,ってことです。当たり前のことですけどね。

 しかし,実に面白い内容だったなあ~。あ,そういえば,私の本と同様,知的財産と言いながら,ほぼ特許の役割だけでしたね。

 

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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