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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 昨日、明治大学知的財産法政策研究所主催の改正特許法に関するシンポジウムに行ってきました。会場はすごい人でした。
 後の質問タイムなどからすると、弁理士と企業知財部の人がわんさか来ていたようですね。弁理士の方は、弁理士会HPの電子フォーラムから知った人が多かったと思われます。こういう改正法がらみの研修会などは最近ボツボツあるのですが、それでも需要に比して少ないようです。そのため、このような人波だったのでしょうね。

 さて、内容ですが、2部に分かれていましたので、まず、1部の改正法の解説から行きましょう(ところで,今回,すごーく長いので,特許法改正に興味のある人以外はふっ飛ばすことをオススメしておきます。)。

なお、昨日のシンポジウムの紹介ではありますが、既に私というフィルターを通した上での紹介です。ですので、そんな話だっけ?やそんな発言だっけ?ということの責任はすべて私にありますので、個別の特許庁さんやパネラーさんにお問い合わせなどしないようにお願いします(まさにノートとしての使い道です。)。

2 挨拶
 挨拶は誰もが知っている中山信弘先生でした。印象に残っているのは、近時鳴り物入りで改正した包括ライセンス制度(中山先生も関与した。)が結局廃止ということになった轍を踏まず、今回の改正は使ってもらえるといいね~という話と、冒認の取り戻し制度につき盗まれた発明と出来た特許が同じとは限らないがどうするのだ?という話でした。

 しかし、いつも中山先生を見て思うのは、私の学生・院生時代の恩師である北原先生に似ているなあということです。ポールマッカートニーに似た容貌のロックスターは結構いることから、ロック顔というのがあるようですが、学者大御所顔というのもあるのかもしれません。

3 改正特許法の解説
(1)発表者は、前特許庁総務部総務課長の広実郁郎さんでした。「前」というのは、7/15に異動したからなのですね。あと、質問対応要員として、実際の担当者も2人来ておりました。

(2)通常実施権の当然対抗制度
 内容は、新99条のとおりです。ただ、「当然対抗」というものの、条文上「対抗」という言葉はありません!「その効力を有する」なのです。条文の見出しが「通常実施権の対抗力」とあるだけです。
 他方、借地借家法の31条1項は「その効力を生ずる。」とありますから、基本、建物賃貸借のアナロジーと考えているのでしょうかね?(借地の場合は「対抗」とありますので。)。

 さて、この説明のとき、おや?と思ったのは、通常実施権の権利変動についての対抗要件は、民法の指名債権一般の規定(民法467条など)で擬律されるという説明です。この点、後の質疑応答でもおそらく勘違いしたのではないかという質問がありました(私も一瞬おや?っと思ったくらいだから、勘違いされるのは当然です。)。

 どういうことかというと、「当然」対抗制度なのですから、基本何らの様式も要らないはずです。他方、民法の467条は、

(指名債権の譲渡の対抗要件) 第四百六十七条 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。 2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。」とあります。つまり様式主義なのです。 

 上記の私も含めた勘違いは、2つの場面を混同してしまったため、「当然」なのに様式??ということになってしまったわけです。

私見ですが、①「当然」対抗というのは、99条1項に規定のあるような、特許権者や専用実施権者が変動してしまったときに、通常実施権者が新特許権者や新専用実施権者に「対抗」できるかという話だと思います。ここは何らの様式無く、ただ通常実施権の発生の時期(これをどう証明するかという話もありますが、全く別の話です。)だけで、対抗できるか否か決めようというものです。「発生」の様式自体は問われておりません。

他方、②「様式」の方の話は、このシチュエーションではありません。旧99条3項のような場合、すなわち、通常実施権が2重譲渡されたような場合の話なのです。この場合、旧法では、「登録」が対抗要件でした。しかし、今回の改正で、「当然」対抗に伴って(あくまで、「伴って」です。)、通常実施権の「登録」制度自体あの世行きになりました。

しかしながら、二重譲渡は当然に「対抗」できる話ではありません(ある意味、民法177条が規定するのと同じ、本来的な「対抗」問題と言えますので。)。何かの様式的なものがないと外から全くわかりません。とすると、まあ基本の基本に戻って??指名債権譲渡の擬律に従う、ということになったのでしょうね。

さてさて、このように考えると、民法467条でいう債権者が通常実施権者(ライセンシー)になり、他方、債務者は特許権者など(ライセンサー)になる、ということになります。すなわち、通常実施権を譲渡する場合は、特許権者に、なるべく確定日付ある通知(単なる通知と確定日付ある通知の意味合いの違いは、民法467条に詳しい方に聞いてください。)など(94条があるので,債務者の承諾か。)をしなければならない、ということになりますね。 

以上のとおり、このように今回のこの部分の改正は、民法のかなり精度の高い知識が、必須なのです。俺は、付記弁理士だから、民法なんておちゃのこさいさいと思われる方のうち、上のことが納得できたか、又は納得出来ないものの論点はよくわかる、という方、あなたはおちゃのこさいさいと思って結構です。
 他方、何ことやらさっぱりわからんという方はもう一度、物権変動と債権譲渡のところを勉強した方がよいと思います。ちなみに、私も通常実施権ってやはり債権なんだなあと再確認した次第で、勉強し直しました。 

(3)冒認関係
 内容は、新74条を見ればわかると思います。従前、取り戻しが限定的だったものについて(例えば最判H13.6.12)、多少広くしたものです。また、この取り戻しの効果には遡及効がありますので、これによって不利益を受ける人のために、新74条の2が規定されております。

 なお、今回冒認の定義自体変えていないという特許庁の方の言でした。しかしながら、49条7号と123条1項6号の冒認の条文の字面は若干変わっております。この点、後の質疑応答で質問した方がいたのですが、特許庁の方は答えられませんでした。
 私もいまだよくわかりません。皆さんの中で、こういう理由ですよ、というおわかりになる方がいらっしゃいましたら、是非教えてください。

(4)訂正審判の請求の制限
 現在、審決取消訴訟の提起から90日以内に、例外的に訂正審判を請求することができます(126条2項ただし書き)。しかし、それでもキャッチボール現象を結局なくすことができないので、例外条項をなくすことにしたものです。ただ、そうすると、特許権者の防御の機会が乏しくなることになりますので、新たに、審決予告という心証開示の制度を用意したということでした(新164条の2)。

 この制度は複雑怪奇ですが、論点的には大したことはありません。

(5)再審の訴えにおける主張の制限
 要するに、侵害訴訟が原告の勝ちで終わったのに、その確定の後、無効審判で無効が確定すると、再審事由となってしまう、それは酷でしょう、というやつの対策です。

 内容は、新104条の4です。なお、この条文の位置にも意味があるそうで、結局、信義則に基づくものだから、104条の3の後、というわけだそうです。

 後のパネルディスカッションの中で飯村部長が答えたのですが、この条文によると、あくまで主張の制限であって、権利の制限ではないため、効果はどうなるのか(つまり却下なのか、それとも受理して棄却するということになるのか?)という問題があります。飯村部長は、却下だと考えている旨回答したと思います。

 また、このような条文ができたことを見ると、いわゆるダブルトラックにおいて、侵害訴訟ルートをメインに考えてください、ということのようです。審議会では、ダブルトラックの解消ということまで検討したようですが、今回はこのような条文を規定して、ダブルトラックは残すことにした模様です。

(6)審決の確定の範囲など
 現在、請求項ごとに扱うか(訂正請求)、一体として扱うか(訂正審判)で、一貫性がないと思います。そこで、今回原則として、請求項ごとに扱うよう規定を整備したということのようです。

 ただ、このようにすると、明細書を見ただけでは、どのクレームが生きているのか死んでいるのかわからなくなるため、そのケアも同時行ったということでした(126条3項、同法1項4号、同法4項。さらに、167条の2など。)。

 これも結構面倒な話ですが、論点的には大したことはありません。

(7)無効審判確定審決の第三者効の廃止
 特許法167条について、第三者の裁判を受ける権利を奪うもので、違憲ではないのかという論点があったと思います。今回これを治癒し、当事者に限ったものにした、ということのようです。だったら、無効審判の数も制限してくれという話もあったかと思いますが、今回の改正では、数の制限はありません。

(8)その他
 料金の見直し、新規性喪失の例外規定の見直し(これでグレースピリオド並か)、などなど、ありました。

 その後、質疑応答が結構長くありました。一部は上記で紹介しておりますが、誰も聞かなければ私が聞いちゃおうというものがありました(聞いてくれた人がいました。)。

 それは、今回の当然対抗制度は、実案と意匠にも導入されるけれど、商標には導入されない、何故か?という件です(これは本当。)。
 これに関する特許庁の方の理由の回答ですが、①商標は、特許と異なり、1物1商標であり、通常使用権の数が少ない、②仮に当然対抗制度を導入すると、新商標権者と通常使用権者の商標が同じになり、出所の混同を来たし、商標制度に反する、ということでした。まあこれはそのとおりだなあというところです。

 聴講前は、大改正とは言えないんじゃないのと思いましたが、モデルチェンジはしなかったものの、マイナーチェンジの中ではかなり大きいものだと思い直しましたね。しかも、かなりわかりやすい説明で、無料ですからね、かなりお徳です。
 近時、企業向けの有料セミナーもあるようですが、こういうちゃんとしたものを聞くと、これが無料だとすると、有料って何?と思いますね。

4 パネルディスカッション             
(1)パネラーは、北大の田村先生、弁護士の片山先生、知財高裁の飯村部長でした。その司会は、元特許庁審判部長の高倉先生、さらに総合司会は、熊谷先生でした。

いやあ、すごいメンバーですね。私は弁理士会で研修企画を考える立場なのですが、こりゃあジェラシット(参照:ゴーカイジャー)ですね。特許庁の担当者を複数呼び、更にこれだけのパネラーを集められた日にゃあ、!!!です。

内容ですが、個々のパネラーに担当を割り振り、後半は皆で議論するという、よくあるパターンです。ちなみに担当が、冒認が田村先生、当然対抗が片山先生、ダブルトラック関係が飯村部長です。

(2)田村先生(冒認)
 マイブームが来たのでしょうか、法と経済、または経済学アナロジーの話満載でした。

要するに、今回の改正は、発明して、出願したという原理原則に合わないということが言いたかったようです。

後半は若干実務的な話になり、何とかついていけました。ただ、そこでも言いたかったことは、冒認出願が請求項の追加や改良発明の場合に(最初、中山先生が指摘したことでもあります。)、共同発明に準じ、共有になるということのようです(真の発明者と冒認者との共有とのことです。)。
 このパネルディスカッションの最後に竹田先生の演説があったのですが、竹田先生はこの考え方に反対のようでした(竹田先生としては、権利の分割でしょうかね。)。

ところで、この先生、私とは合わないなあといつも思います(結論としては、納得できる話が多いのですが。)。いずれの論点も、牛刀をもって鶏を割くって感がして、実務家とは水と油のようなタイプですからね。 

(3)片山先生(当然対抗)
 新特許権者に「対抗」できるとして、何が対抗できるのか、その中身は何だという話です。田村先生の話とはうってかわって実務チックです。

 要するに、旧特許権者と通常実施権者の間のライセンス契約が、新特許権者に承継されるのか、そうではないのか、という話です。誤解を恐れずにさらに平たく言えば、通常実施権者は誰にライセンス料を払えばよいのかという話です。

 この論点では、非承継説(通常実施権者は旧特許権者にライセンス料を払う。)と、承継説(通常実施権者は新特許権者にライセンス料を払う。賃貸借と同じ。)という説があります。どちらも一長一短ありますが、産業界の要望と単純さから、片山先生は、非承継説をおとりのようです。ちなみに、田村先生も非承継説、演説のあった竹田先生は承継説らしいです。

なお、この点、後のパネルディスカッションで議論があったのですが、飯村部長は、大した問題じゃないと一刀両断!片山先生苦笑いというところがありました。
 これは、契約書を起案したため後で責任追及されてしまう虞のある弁護士と、結局迂闊な誰かに責任を負わせりゃ良い裁判官では温度差が違うのは当然ですね。

(4)飯村部長(ダブルトラック関係)
 実は、飯村部長が1分以上話をしているのを見たのはこれが初めてです(UMAでしょうかね。)。私が特許訴訟にデビューした頃は、既に飯村部長はお偉くなっており、陪席の訴訟指揮を聞いているか、技術発表会で両当事者のプレゼンを聞いているか、の印象しかありません。
 まあ基本あまりしゃべるのは得意じゃないようですね。あと、明治大学でやるということで学生相手かと思っていたら、実務家と企業の人がメインで、びっくりした旨の発言もありました。 

という事情もあり、前半はキルビー判決の経緯等の詳細な説明、その後、新104条の4(再審における主張の制限)の説明がありました。

 注目は、差止めの認容が出た侵害訴訟の確定後に無効審決確定の場合はどうなるか、というところでした。この場合は、再審によらず、当然に旧被告は、実施できるということでした。よく考えると当然なのですが、特許は寿命や特許料未納であの世行きになりますから、そのときは誰でも実施できるわけですね。そうすると、旧被告のみ再審が必要だったり、そこでの主張が制限されたりなどあるわけな~いということなんだと思います。

 あと、飯村部長も、ダブルトラックは残ったけれども、侵害訴訟での実質一元化がなされたと話されておりました(アメリカ型)。

(5)議論
 特筆するようなものは上で書いたとおりです。あとは、高倉先生の結構なむちゃぶりがあったなあと言う感じです。まあパネルディスカッションで議論って、大体そんなもんですよね。パネルディスカッションというものの、ディスカッションはおまけ、ということです。

 そして、最後にパネラーへの質疑応答の時間もあったのですが、特許庁の方へは、バンバン挙手があったのに対し、ここでは一人しかいませんでした。おそらく、聞きたいことは答えてくれそうにないし、答えてくれそうなことは聞けないし、ということだったのだと思います。
 その中で、たった一人勇気を持って挙手した方がいらっしゃったのですが、契約実務と訴訟実務に疎い方だったようで、大ずっこけでしたね。ただ、一時の恥を忍ぶ勇気はすばらしい!また、この質疑応答の時間、上で書いたように、竹田先生の演説がありました。中身は上で書いたとおりです。

なお、今回、質疑応答の際には所属を言ってもらうようにしてあったのですが、ほぼ弁理士の方でした。少しは知財の弁護士もいるかなあと思ったのですが、知っている顔は片山先生のお伴の弁護士だけでしたね。ですので、弁理士の方の勉強熱心さに頭が下がる思いでした

5 まとめ
 事務所を出るときは結構晴れていたのですが、中央線でお茶の水に着くあたりから、ポツポツ来て、駅を出たときにはザンザン降りでした。計4時間のシンポジウムが終わったときにも、まだ降っており、傘を面倒臭がった私は結構濡れてしまいました。
 元ボーイスカウトとしては、残念無念です。「そなえよつねに。」がモットーですからね。ちなみスローガンは「日々の善行」だったと思います♪。

 いろいろ書きましたが、主催者の明治大学知的財産法政策研究所さんには非常に感謝しております。私は今回初参加だったのですが、またこういうのがあれば是非参加したいと思います。
 自分もこういう企画をやるからわかるのですが、準備する方は本当大変なんですよね。またよろしくお願いします。

さて、今回、かなり長文です。ここまで読んでいただいた方は本当偉いと思います。私は自分の備忘のため、昨日の話をまとめるというインセンティブがありますが、読んでいる方には何のインセンティブも義理もないわけですからね。 

最後に、繰り返しますが、この内容は、講師やパネラーでなく全部私に責任のあることです。しかし、これを軽々に信じてそのまま誰かや何かに使って、あとで間違いだったじゃねえかと言われても責任は負えませんので、悪しからず。著作権の放棄もありませんが、元のある話ですので、その辺しかるべく、といったところです♪

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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