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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告が,被告に対し,別紙被告製品目録記載の装置(被告製品)が原告の有する特許権(第3713190号,「円テーブル装置」)を侵害するとして,特許法100条1項,2項に基づき,被告製品の販売等の差止め,廃棄を求めるとともに,同法102条2項により,被告が受けた利益を原告の受けた損害と推定し,不法行為(民法709条)に基づく損害賠償の支払を求めた事案です。

 これに対して大阪地裁第21民事部(異動しましたが,谷さんの合議体ですね。)は,原告の請求をいずれも棄却しました。要するに,侵害でない,更に要するに構成要件充足性なし!というわけです。

 クレームからです。
【請求項1】
A 回転軸(5)の軸方向一端にワーク取付部を備え,駆動機構により回転軸(5)を回転させ,クランプ機構により所定回転角度で回転軸を固定する円テーブル装置において,
B 前記駆動機構は,回転軸(5)に設けたウォームホイール(11)と該ウォームホイール(11)に噛み合うウォーム軸(12)により構成されると共に,ウォーム軸(12)とウォームホイール(11)はオイルバス内に収納され,
C 前記クランプ機構は,
 C1 前記ウォームホイール(11)に固着されたブレーキディスク(15)と,
 C2 該ブレーキディスク(15)を軸方向の両側から解除可能に挟圧する固定側クランプ部材(20)及び可動側クランプ部材(21)と,
 C3 可動側クランプ部材(21)を軸方向の固定側クランプ部材(20)側に加圧する流体圧ピストン(25)と,
 C4 前記流体圧ピストン(25)を軸方向移動可能に嵌合させているシリンダ形成部材(31)と,
 C5 該流体圧ピストン(25)と前記可動側クランプ部材(21)と前記シリンダ形成部材(31)との間に介在すると共に軸方向及び径方向に移動可能なボール(26)とカム面(28,29,40)よりなる増力機構とを,備え,
D 前記可動側クランプ部材(21)は,リターンばね(30)により,軸方向のアンクランプ側に付勢され,
E 前記増力機構は,
 E1 ボール(26)を介してシリンダ形成部材(31)のテーパー面(40)に対向している流体圧ピストン(25)の第1段用テーパーカム面(28)のカム作用による第1段増力部と,
 E2 ボール(26)を介してシリンダ形成部材(31)のテーパー面(40)に対向している可動側クランプ部材(21)の第2段用テーパーカム面(29)のカム作用による第2段増力部を有する
F ことを特徴とする円テーブル装置。

 さあ,何の発明でしょうか?いやあクレーム読んだだけではさっぱりわかりません。恐らく,この分野の出願をたくさんやっている弁理士ならわかるのかもしれませんが,はっきり言いますが,私はこれだけでは全くわかりませんでした。

 機械系の発明って,本当機構全体がわかっていないと,直感的理解も全くできませんよね。いやあ,特許の事件における文系阻害力は物凄いと言われていますが,こういうクレームだとさもありなんて所です。

 というわけで明細書を見るのですが,これはNC旋盤とかに使う,円テーブルの発明ですね。ほんで,特に,その円テーブルの回転を止める機構に関するものです。
 
 図面を見ましょう。
 
 この上の図面が図1で,この円テーブルの断面図です。下が,図2で,ポイントとなる円テーブルの回転を止める機構に関する所です。

 この図面をクレームと一緒に見ると何とか理解できると思いますよ。
 まあ要するに,自動車とか自転車の高級品に使われているディスクブレーキってありますよね。あれと同じ原理で止めるわけです。

 ディスクが15です。それをクランプ部材20と21で上下から挟み込んで止めるわけです。
 で,上のクランプ部材20は固定式ですが,下のクランプ部材21は可動式で,これを上に押し出して挟むのですが,このときの押し出しの機構が特徴です。

 押し出す力が強ければいいのですが,そうすると,高い高級品のピストンを使わないといけません。本件発明では安く力のないピストンを使えるように,増力機構を備えた~ここがポイントになります。

 その増力機構ですが,くさびの原理を使っています。
 くさびの原理って知ってますかね。テーパーのついたタガネを岩に食い込ませて,進行方向に伝える力以上の力をそれとは直角方向に伝え,岩を割るってようなやつです。
 クサビに伝える力F1,クサビの先端角θ,岩を割る力F2とすると,
 F2 =(F1/2)/sin(θ/2)
 で表されるようですね。
 つまり,θが小さければ小さいほど,直角方向に大きな力が出るというやつです。

 本件発明は,このクサビの原理の増力機構を2回使っています(構成要件E1とE2)。

 で,E2の充足性が問題となったのですね。

2 問題点
 で,論点は上記のとおり,E2の充足性です。
 被告製品は,図2でいうα3が0度で,それにも関わらず,第2段用テーパーカム面(29)に当たるかが問題となったわけです。

 ですので,何と言いましょうか,こういうことに興味がないと実にしんどい話ですよね。はっきり言って法的論点ではありません。国際商事管轄や,均等論や,FRAND条件などが問題になったわけではありません。
 ですが,特許の訴訟の多くは本件のような点が問題になっており,理系的興味がないと,だから何なのよ~♡っていうようなものばかりです。

 ちなみに,図2のとおり,下部のピストンないしシリンダから押し出された力をF1とすると,二段の増力機構を経て,F3に増力します。
 このF3とF1の関係は,
 F3=F1/(tanθ1×tanθ2)となるはずです。

 ここで,θ1はF1とF2となす角度,θ2はF2とF3がなす角度です。本当は,θ1≒α1で,θ2≒α3だと思うのですが,間にα2というやつが入ってきているために,ちょっと,こんな形にしました。
本当は,αの関数だけで表したいのですが,さすがにそこまで私も暇じゃないので,大体わかればいいってことで,上記の式にしました。

 兎も角,この式からわかることは,θが小さいとF3はでかくなるってことです(tanは一定の範囲で比例関数です。)

 おっとここで飯の時間だ~。続きは昼休み後~。

 戻ってきました。
 さて,構成要件充足性に争いがあるのは,α3,つまり上の式でいうθ2の方です。
 被告製品では,上記のとおりα3=0だったのですね。

 こうなると,上記の式だとどうなるかというと,θ2=0でもありますので,tanθ2=0となります。そうすると,F3は無限大になりそうなのですが,ちょっと待ってください。図2を見るとこの場合には,クサビの原理が起きず,F2がそのまま荷重されるだけです。F2=F3っていう状態ですね。

 そうすると,もうこれだけで第2段増力部ではないような気がしますが,どうなんでしょうな。

3 判旨
「(2) 構成要件E2(「ボール(26)を介してシリンダ形成部材(31)のテーパー面(40)に対向している可動側クランプ部材(21)の第2段用テーパーカム面(29)のカム作用による第2段増力部を有する」)について
ア 原告は,被告製品におけるクランプリング8の鋼球10に接する面が,「可動側クランプ部材21」の「テーパーカム面(29)」に相当する旨主張するが,被告がこれを争うため,「テーパーカム面」の意義について検討する。
イ 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 本件明細書には,次の記載がある(甲4,5)。
【0018】
シリンダ形成部材31のテーパー面40及び可動側クランプ部材21のテーパーカム面29は,回転軸芯と直角な面に対して,30°以下の緩やかな傾斜角度α2,α3となっており,また,ピストン25のテーパーカム面28のテーパー角α1も,30°以下の緩やかな傾斜角となっている。
(イ) 「テーパー」とは,「円錐状に直径が次第に減少している状態。また,その勾配」であり,「カム」とは,「回転軸からの距離が一定でない周辺を有し,回転しながらその周辺で他の部材に種々の運動を与える装置」である(甲13,14)。
ウ 「テーパーカム面(29)」の意義
(ア) 「テーパーカム面」の意義について,本件特許請求の範囲や本件明細書に具体的な記載はないところ,原告は,「テーパーカム面」は,不可分一体の用語であり,シリンダ形成部材テーパー面40と対向してセットになるカム作用を生じさせる面であり,傾斜角度がつけられていることは必須ではない旨主張するのに対し,被告は,「テーパー」で限定された「面」あるいは「カム面」である旨主張する。
(イ) 原告は,本件明細書において,「テーパー面(40)」と,「カム面(28,29)」及び「テーパーカム面」は明確に書き分けられていると指摘し,「カム面」を,カム作用を生じさせる面であるとして,前記のとおり主張する。
 しかし,構成要件C5は,「カム面(28,29,40)よりなる増力機構」と記載し(「40」は,訂正により加えられている。),ボールを介した増力機構における面40,面28及び面29を「カム面」として同列に記載していることからすれば,原告が主張するような明確な書き分けがされているとまではいえない。
 また,本件明細書において,面28,29及び40については「カム面」との用語を使用しながら,構成要件E2において「テーパーカム面(29)」との用語を使用しているということは,当該面それ自体が,「カム」としての性格または機能と「テーパー」としての性格または機能を有する趣旨と解するのが自然である。
(ウ) 原告は,「テーパー」の意味として,ピストン側のボールと接する面(28)及び可動側クランプ部材の面(29)と,シリンダ形成部材との各2両面で勾配を形成していることのように主張する。
 しかし,本件明細書には,回転軸芯と面28とのなす角度α1を「テーパー角」,「シリンダ形成部材31のテーパー面40及び可動クランプ部材21のテーパーカム面29は,回転軸芯と直角な面に対して30°以下の緩やかな傾斜角度α2,α3」となっている旨の記載があり(【0018】),ボール26を囲む面の有する勾配については,回転軸芯ないしは回転軸芯と直角な面に対する勾配であることを前提としていることが認められるものの,複数の面の相関関係によって円錐状の勾配が形成されるとの意味で「テーパー」が用いられていると解し得る記載は存しない。
 そして,本件特許は回転軸芯を中心とした円テーブル装置であり,その構造に関する本件特許請求の範囲の記載を解釈するものであることをあわせ考慮すれば,「テーパー」とは,回転軸芯あるいは回転軸芯と直角な面を基準として,傾斜角度を有することと解するのが相当である。
 この点,原告は,面29の回転軸芯と直角な面に対する角度(α3)が0°の場合も含む旨主張し,当業者の認識理解や,α3が0°の場合のみ除くのは不自然であることなどを指摘するが,上記「テーパー」の意義からすれば,原告の上記主張は採用できないというべきである。
(エ) 前述のとおり,構成要件E2の「テーパーカム面」は,面29それ自体が,「テーパー」としての性格または機能と「カム」としての性格または機能を有すべきところ,前記イ(イ)によれば,「カム」の典型的機能は,回転運動を直線運動に変換することであるから,広義では,方向等を変換しつつ力を伝達する部材と解する余地がある。
また,上記検討したところによれば,「テーパー」は,回転軸芯あるいは回転軸芯と直角な面を基準として傾斜角度(0°を含まない。)を有するとの意味になる。
ウ 被告製品の構成要件E2充足性
以上を前提に,被告製品が,構成要件E2を充足するかにつき検討するに,前記認定によれば,クランプリング8の鋼球10と当接する面は,増力機構の一部として,鋼球10を介し,クランプピストン9の前進による力をクランプリング8に伝達するのであるから,カム面としての性質を有しているということはできる。
 しかしながら, 被告製品において,クランプリング8の鋼球10と当接する面が回転軸芯と直角であること(α3=0°)は争いがなく(原告は,この面が傾斜している旨を主張するものではなく,この面の傾斜角度が0°であっても,テーパーカム面に該当する旨を主張する。),「テーパー」について前記イのとおり解する以上,この面は「テーパーカム面」に該当せず,結局,被告製品は構成要件E2を充足しない。」

4 検討
 テーパーって言えばやはり角度のついたものっていう意味でしょうね。判旨では,作用効果のツッコミはあまりありませんが,上記のとおり,角度0では,クサビの増力効果を奏しませんので,増力部とも言えないと思います。

 ですので,この構成要件充足性がない部分を均等論で補うのは無理でしょうね~。このクサビの効果による増力部っていうのは,本質的部分とも言えますし,その部分が無ければ作用効果も同一じゃないですからね。

 ですので,これねえ,明細書の書き方が悪かったかもしれませんよ~♪

 作用効果としては,安い力のないピストンでもちゃんとディスクブレーキをクランプできる,っていうところが本質なんだから,第1増力部だけでもいいし,第2増力部だけでもいい,そして,本件発明のように合わせていい,っていう,若干上位概念のようなクレームと明細書にしておけばよかったのですよ。

 そうすると,第1増力部に該当するのは争いがなかったようですので,第2増力部にテーパーが無かろうが有ろうが結局該当するとなったと思います。

 まあ私は無責任な通りすがりなので,いやいやいや,第1増力部だけの発明は既にあって,引例で引かれていたので,こうするしかなかったというのかもしれませんがね。


 なので,今回のこの事件,弁理士と知財部の人はよ~く勉強した方がいいですよ。

 いやあしかし,タダでこれだけ解説してもらえるってあんたら幸せだねえ。判例雑誌にこれが出るとも思えないし,出てもこれだけの解説ができまっか~♫だけどクレーム解釈が非常に重要だってわけですよ~♡
 たまには仕事の1つでも依頼してもバチは当たらんってなもんですけどねえ。あ,コリャコリャ。

5 追伸
 毎度おなじみ流浪の弁護士,散歩のコーナーでございます。
 本日は,ここ品川区役所前に来ております。
 
 いやあそれにしても,今日も暑い東京です。そろそろ散歩も暑さとの戦いになってきましたね。今日も27度越えのようです。

 ところで,この品川区役所~結構な不便な場所にあります。大井町駅が一番近いとは言え,結構歩きます。東京って,結構公共機関が最寄りの駅から離れたところにあることがあります。
 それでも区役所はそこそこ駅の真上とか真横とかあるものですが,品川区はどうしたもんですかね~。

 で,この大井町駅ですが結構大きい駅です。品川区でも一二を争う所じゃないでしょうか。あ,品川駅はあれ港区ですので,お間違えなく。
 品川区内だと,五反田,大崎,目黒,大井町が大きいと思いますが,繁華街とか,お店の関係上,五反田か大井町がワンツーでしょうね。
 まず,大井町は,JR,りんかい線,東急大井町線と,3つの路線が乗り入れております。
 他方,五反田は,JR,東急池上線,都営浅草線と,こちらも3つです。

 次に,大きなお店ですと,大井町にはヤマダ電機とイトーヨーカドーが駅近にあります。
 他方,五反田は,ちょっと離れたところにTOCがありますね。

 とここまでだと大井町優勢なのですが,乗降客数は,五反田が圧倒しております。ですので,五反田の勝ち~!品川区で一番大きい街は五反田,ってことにしておきましょうかね。

 ところで,その品川区内に昔本社のあったソニーですが,その本社は今は(正確には昨日)こんな感じです。
 
 わかりますかね。
 囲いでよく見えませんが,躯体に関しては取り壊しがほぼ終わったようです。ですので,囲いの高さももう低いですね。予定より早いのではないかなあ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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