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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護土の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告(60歳代の主婦)が,被告ら(本件各特許権の持分権者等)に対し,被告らが一体となって原告に対し地盤工法やナビゲーションシステムに関する特許権の共有持分を購入すれば近日中に大幅に価値が上がる等と嘘を言って勧誘し,特許権持分の購入代金名下に不法に多額の金員を支払わせたとして,共同不法行為ないし会社法429条1項に基づく損害賠償請求として,9032万円及びこれに対する平成29年3月8日(最後の不法行為の日)から支払済みまでの遅延損害金の連帯支払を請求する事案です。

 まあこの概要だけ見ても,なんだかなあ~って感じの事件です。
 
 あ,これってシャークフィンの事件でもないし,カプコンVSコーエーテクモの事件でもないですからね。
 ここでマジな判決の紹介はしない~って言ったじゃないの~♡

 ここでやるのは面白事件だけーっす。

2 問題点
 問題点は,不法行為の成否ですね。
 いわゆる消費者被害と同様の構図です。

 このインチキスキームを見た方が早いでしょう。判旨からの引用です。

エ  被告日本知財開発は,平成23年ころ,本件地盤特許の持分の譲渡を受けた者に対し,本件地盤特許のライセンシング収入や,侵害訴訟による損害賠償金として回収された金員を,特許権の権利終了まで毎年支払う旨を約し,本件地盤特許の持分を2万分の1に分割して,その1口を価格60万円及び手数料3万円で譲渡する,特許権共有持分譲渡受の枠組みを考案した(甲3,乙1)。
 上記枠組みにおいて,被告日本知財開発は,管理委託機関として,自らの管理基本台帳に譲受人を記載し,権利証書を発行して(別途費用を負担しない限り,特許原簿への登録は予定されていない。),ライセンシング等収入を集計し,年1回譲受人に支払うこととされており,特許権者及び権利の譲渡者は,被告P5及び被告日本知財開発とされている(甲3)。
 被告日本知財開発の実質的経営者であるP11は,知人である被告P3に対し,上記枠組みによる共有持分譲渡の代理店となるよう依頼し,被告日本知財開発は代 表者被告P2の名で,福岡市所在のリーフは代表者被告P3の名で,平成23年7月20日,リーフが本件地盤特許の案内をして,譲受者から譲受金,手数料等を収受し,被告日本知財開発は,委託業務手数料として,譲受金が回収された1口につき15万円をリーフに支払うこと等を内容とする契約を締結した(乙1)。

 こんな感じのスキームはときどき発明されますね。
 私のブログでも昔,新カラオケ法理として,似たスキームを紹介しました。

 こういう風に実体法的にはきちんと存在するのだけれども,その価値はほんの僅かなものを分割して上手いこと売り払うという,まあぎーさーですわ。

原告は,平成24年12月,はなみずきのP9から,3年間使わない金があれば良い話があるからと電話で勧誘を受け,同月末頃面談し,本件地盤特許の共有持分を,1口60万円(手数料1口3万円)で購入できるから10口分を購入しないかと勧誘を受けた。 
 P9は,「発明の名称  地盤強化工法」と表紙に示された「特許権共有持分譲渡受申込要項」と題する書面(甲3の1ないし3枚目。以下「本件地盤特許申込要項」という。)を示しながら,被告P5及び被告日本知財開発が,訴外鹿島建設に対して本件地盤特許侵害訴訟を提起しており(同訴訟における実際の原告は被告ジンムである。甲20),2,3年後に勝訴すれば持分の価値が2,3倍になること,保有するのをやめたくなれば,被告日本知財開発が買い戻してくれることを述べた。
  イ  原告は,平成25年1月18日,本件地盤特許の共有持分10口分を購入することとし,「特許権譲受申込書」(甲3の4枚目以降。以下「本件地盤特許譲受申込書」という。)に必要事項を記入した上,P9に,10口分の代金,手数料合計として,現金630万円を手渡した。P9は,はなみずきは,被告日本知財開発の販売店であるリーフ(リーフと被告ecoリーフが区別されているかは不明。)の下請けであると話した。

 アチャーって感じです。

 でもまあ物によってはこういうスキームがちゃんとしている場合もあります。
 例えば,REIT(real estate investment trust)って本質的には,今回の特許分割スキームと変わりがありません。

 ただ,特許と不動産って,似ている所もありますが,やはり全然違います。
 賃料をきちんと出している収益物件の不動産って,日本中に沢山無数にあります。
 私が入っているこのビルも結構転々と所有者が変わってます。それはこの物件からお金がコンスタントに発生しているからですね。

 勿論,その中にはカスみたいなものから,優等生的なものまで色々あるでしょう。でも,不動産の場合,収益を上げる物件が多く,しかも取引も頻繁に起こるものですから,価値を測るのが比較的容易なのですね。

 他方,特許権はどうですか?
 たった1個の特許権の価値をどうやって測りますか?
 通常金勘定は,コストアプローチ,インカムアプローチ,マーケットアプローチって3つくらいありますが,市場もなく,価値基準もない(土地の場合,路線価,公示地価,固定資産税評価,基準地価など4つも基準があります。)特許権で,一体どうやって測ったらいいのでしょうかね?

 にもかかわらず,たった一つの特許権を分割して,上記の値付けって,本当意味不明です。

 さらに,原告にとっては災難が続きます。
ア  本件ナビ特許の権利者である被告P5及び被告日本知財開発,その専用実施権者である被告ジンムは,その権利登録がなされた平成23年5月以降のいずれかの時点で,本件ナビ特許についても,管理委託機関である被告日本知財開発が,ライセンシング等収入を集計して,権利の譲受人に支払う旨を約して本件ナビ特許の持分を10万分の1に分割して,その1口を価格20万円及び手数料1万円で譲渡し,その案内及び譲受金等の収受をリーフ等に委託するという,本件地盤特許と全く同様の枠組みを考案した(甲2,5,26)。
  イ  原告は,平成26年12月ころ,リーフのP10と名乗る人物から電話を受け,本件地盤特許侵害訴訟がうまくいっていないが,被告P5には別の特許があり,こちらはもっと確実であるとして,話を聞くよう勧誘された。
  原告は,本件地盤特許の持分を購入した際に,リーフのことは聞いていたので, P10に会ったところ,P10は,本件ナビ特許は確実にもうかる,被告P5は現在自動車に搭載されているカーナビゲーションシステムの発案者である,本件ナビ特許はそれをさらに進化させたものであり,アメリカですでに特許をとっており,大手IT企業(グーグル)に1億ドル以上の値段で売れるなどと述べて,本件ナビ特許の共有持分を,1口20万円(手数料1口1万円)で購入するよう勧誘した(甲29)。  」

 まずい,逃げて~♪って感じです。

 「ウ  原告は,本件ナビ特許の持分を20口譲り受けることとして,リーフとの間で,平成27年1月22日,特許権譲受申込書(甲5),及び十分な説明受けたこと等を確認する特許権譲受申込確認書(乙4の1)を作成して,特許権共有持分譲渡受申込要項(甲26)を受け取り,同月27日に220万円を,同月28日に200万円を,いずれもリーフのP10に支払った(甲6の1,2)。 」
「エ  原告は,その後,リーフのP10から,本件ナビ特許については,当初の数 倍の価値が出ている,問題ない,大丈夫などと勧誘を受け,平成27年3月6日に10口分代金手数料合計210万円を,同年6月7日までに20口分420万円を,同年7月23日までに20口分420万円を,同年11月13日に50口分1050万円を,同月30日に15口分315万円を,いずれもリーフに支払い,本件ナビ特許の持分の譲渡を受けた(甲8ないし15,29)。

 特商法が専門の先生ならこういう事案をよくやっていると思います。
 いわゆる次々商法ってやつですかね。過量販売の事例です。

 こういうのはクーリングオフするのがデフォーと思いますが,こういうことになりました。

原告は,上記売買後,不安を感じ,クーリングオフをしようとして,P10,被告P3,被告日本知財開発のP11に電話するなどしたが説得され,クーリングオフを断念した。

 あーあ。で,何が残ったかというと,何も残らなかったようです。
イ  本件各特許権の持分の譲渡については,被告日本知財開発が作成した証書等に記載されるに止まり,特許原簿への登録はされていないから,効力は生じておらず(特許法98条1項),本件地盤特許については平成28年6月29日の閉鎖時点において,本件ナビ特許については平成29年6月8日の時点において,特許権者は,いずれも被告P5及び被告日本知財開発である。
  ウ  原告は,前記アの持分返還名目で受領した63万円を除き,管理委託機関で ある被告日本知財開発あるいは他の被告らから,本件各特許権の持分を譲り受けたことによる収益又は対価としての金員の支払を全く受けていない(甲29)。 」

 名義変更すらしていない!酷い話です。

 じゃ,判旨の重要な所を見ますか。

3 判旨
「2  争点⑴(被告らの原告に対する共同不法行為及び会社法429条1項の責任の成否)について
  ⑴  本件各特許権持分譲渡時の説明の虚偽性について
・・・
 ウ  以上ア及びイで述べたところを総合すると,原告が本件各特許権の持分の譲渡を受けた際に,リーフ,被告ecoリーフ,はなみずきの担当者又は代表者であるP9,P10,被告P3らがした前記⑴ア③の説明は,客観的裏付けのない,原告に金員を出させることのみを目的とした虚偽のものであったといわざるを得ない。
  そして,本件各特許権の持分を細分化して高額で譲渡するという基本的枠組みは,被告P5,被告日本知財開発,被告ジンムの関与がなければ成立し得ないものであり,前記P9らは,被告日本知財開発らが定めた基本的枠組み,あるいは被告P5が作成し被告日本知財開発が配布した報告書の内容に沿って案内をしたものと認められるから,前記P9らが被告P5,被告日本知財開発及び被告ジンムと無関係に,原告に案内,説明したと考える余地はなく,同被告らは,前記P9らが原告に前記虚偽の説明をして本件各特許権の持分を取得させたことを認識していたものと認めることができる。 」

4 検討
 まあ以前はこういうのって,実用新案でやるのがデフォーでした。
 実用新案って,基本無審査なので,何でも登録になるからです。だから,事業者でも騙されて・・出資ないし投資させられて~なんてありえました。
 
 でも,近時は手がこんできて,実用新案~そりゃインチキでっせ~というのをうまく回避しているようです。

 だけど,繰り返しになりますが,今般知財高裁まで争われたカプコンの特許だって,1億数千万円なのですよ,たかだか。それなのに,2万個×60万円=120億円ですからねえ。
 まあ被害に遭う方も遭う方だと,ある程度は思ってしまいます。

 あとはこの判決が確定しても絵に描いた餅にならないことを祈るのみです。


 


 
 
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理論物理学者を目指したのはもう30年以上前のこと。某メーカーでの液晶ディスプレイのエンジニアを経て,弁理土に。今は,弁護土です。次は何かな。
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