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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は, 原告が,被告による別紙物件目録2記載の装置の製造及び使用が,原告の有する特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,上記装置(一部例外あり。)の製造及び使用の差止め並びに廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金のうち5億円及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年10月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案です。

 これに対して,東京地裁民事46部(長谷川さんの合議体です。)は,原告の請求を一部認めました。要するに,特許侵害あり,ってことです。

 ま,よくある特許侵害事件で,特段面白げな内容や,特筆すべき法的論点はありません。基本ありきたりのものです。
 ただ,1点~,これは参考にした方が良い,何なら早めにダウンロード~♫という所がありましたので,紹介した次第です。

 なおクレームはこんな感じです。
A  市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段と,
B  前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,
C  前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして,実在しない無効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,
D  を備えたことを特徴とする電話番号情報の自動作成装置。

 ま,別にそんなに難しくありません。自動で使える電話番号と使えない電話番号を調べ,使えない電話番号については使えない理由で仕分けして,それらのデータベースを構築するという装置の発明です。

 で,下記の問題点のとおり,このクレームの充足性はそんな問題になりませんので,深入りする必要はないですよ。

2 問題点
 論点は特許侵害なので,よくあるものばかりです。ただ,無効の抗弁はあまり主張していないようなので,そこは何か事情があるのかもしれませんね。
 ほんで,そのよくある論点中,私が着目したのは,「被告が賠償すべき原告の損害額 」の所です。これもよくあるのですが,今回特許法102条2条が問題になっております。

 特許法102条2項はこんな感じです。
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。

 で,特許法102条2項ということですので,例の大合議の話が来ますよね。ただ,この大合議の事件,なかなかコメントしづらい所にあります。弁護士ならば,大体コメントしづらいものの範疇ってわかりますよね~。この大合議の事件も,やはりそういうものなのですね。

 なので,その大合議の論点には特には触れないのですが,違う論点として,この「利益」とは何ぞや?というのがあります。

 と言っても今や限界利益(=貢献利益)説で大体衆目の一致を得ていると思います。ただ,この限界利益というか貢献利益というかは,会計・簿記などでいう限界利益とは若干違うようです。会計・簿記でいう限界利益というのは,売上から変動費を引いたものです。ですので,通常のP/Lではこの限界利益はよくわかりません。ちょっと特別の会計処理をしてもらわないと直ちに出ないものです。

 で,特許侵害訴訟でいう限界利益も,概ねこの売上から変動費を控除するという考え方は合っているのですが,何を控除するかというのがケース・バイ・ケースといった所じゃないでしょうか。裁判体によっても,具体的な被告の状況によっても,何を控除し,何を控除しないかが変ってくるということです。

 では判旨を具体的に見ましょうかね。

3 判旨
「 ・・・特許法102条2項は特許権者における損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であるから,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合にはその適用が認められ,特許権者が特許に係る発明を実施していないことは,その適用を排除する理由にはならないと解される。
 上記ア認定の事実によれば,原告は電話番号の利用状況の調査を必要とする顧客に原告装置を使用して蓄積された電話番号の利用状況履歴データベースを提供しているところ,原告装置が本件発明の実施品に当たらないとしても,被告と同種の営業を行っているものといえるから,侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情があるものと認められる。
 ・・・
ア  被告事業による売上高
(ア)  被告作成の「H19/9処理分~H21/8までの売上」と題するエクセル書面(乙199),公認会計士作成の調査報告書(乙221の1及び2),被告の第17期~第19期(平成19年1月1日~平成21年12月31日)の事業報告書,決算報告書,確定申告書及び法人税の領収証書(乙223~225,228~236)並びに被告の取締役の陳述書(乙220,222,239)によれば,被告の年間売上高は平成19年が10億0135万2539円,平成20年が9億0544万7272円,平成21年が7億2805万0944円であり,このうち本件特許権の侵害に当たる被告装置2~4の製造及び使用に係る被告の売上げは,別紙損害額一覧表の被告装置2~4の「売上高」欄のうち「認定額」欄記載のとおりであり,合計2億7530万2800円であると認められる。・・・
 イ  控除すべき費用
(ア)  被告は,上記アの売上高から,これを得るために要した費用として,別紙損害額一覧表の「費用」欄に記載された①~⑫の各費用を控除すべき旨主張するものである。
  そこで判断するに,上記費用のうち,外注費(①)(括弧内の数字は別紙損害額一覧表中の番号に対応している。以下同じ。),拠点費用(②),通信料(③),消耗品費等(④),営業人件費(⑨),営業交通費(⑩),販売促進費(⑪)及び個別原価(⑫)については,証拠(乙220,221の1及び2,222,239)及び弁論の全趣旨によれば,侵害行為による利益を得るために追加的に要した費用であると認められるので,その全額を控除すべきである。
  これに対し,被告本社ビルの地代家賃(⑥),被告本社ビルの電話料金や機器のレンタル料等の共有経費(⑦)は,その性質上,侵害行為による利益を得るために追加的に要した費用であると認めることはできない。また,被告装置を使用して電話番号の利用状況を調査するために必要な機器の減価償却費(⑧)についても,追加的に要した費用であると認めるに足りる証拠はない。
  一方,被告装置による調査に使用するプログラムやTel2鑑定団専用のアプリケーションソフト作成に従事した従業員についての開発人件費(⑤)については,被告は開発に従事する全従業員の人件費をTACS事業と被告事業とで2分の1ずつに割り付けた金額を控除すべきであると主張するが,TACS事業と被告事業の売上高により按分した額について,被告事業により利益を得るために追加的に要した費用であると認めるのが相当である。そして,被告におけるTACS事業と被告事業の売上高は,平成19年1月1日~同年12月31日はそれぞれ4億3038万2000円と2億0074万5000円,平成20年1月1日~同年12月31日はそれぞれ3億7903万円と2億0345万円,平成21年1月1日~同年12月31日はそれぞれ2億8066万円と2億3750万7000円であるから(乙223~225),TACS事業と被告事業の合計売上高に対する被告事業の売上高の比率は,平成19年は32%,平成20年は35%,平成21年は46%である(小数点以下四捨五入。以下同じ。)。そこで,開発人件費総額について,被告装置2(使用期間は平成19年9月~同年11月末日)は32%,被告装置3(使用期間は平成20年1月~同年10月末日)は35%,被告装置4(使用期間は平成20年11月~平成21年2月25日)は40%(平成20年と平成21年の各割合及び使用期間を勘案したもの)となるので,これら各割合を被告事業の開発人件費として控除すべきである。その金額は別紙損害額一覧表の「開発人件費」の「認定額」欄記載のとおりである。・・・
 特許法102条2項により損害の額を算定するに当たり,被告が得た利益のうちに当該特許発明の実施以外の要因により生じたと認められる部分があるときは,同項による推定を一部覆滅する事情があるものとして,その分を損害額から減ずることが相当である。
  これを本件についてみると,被告は被告事業による利益を得るために被告の保有する3件の特許権に係る特許発明を実施していること(前記(2)ア(ア)b),本件発明と同様の調査データを取得し得る方法として被告装置5の実施態様(b)等の代替的な方法があることに照らすと,本件発明の技術的意義はさほど高くなく,被告事業による利益に対する本件特許の寄与は限定的なものであるというべきである。さらに,特許権侵害期間の被告の顧客のうち6割以上は本件特許権の特許登録前からの被告の顧客であること(前記(2)ア(ア)c),原告の事業や被告事業と同種のサービスが多数存在していること(同(ウ))など本件の証拠上認められる一切の事情によれば,上記利益が特許権侵害による原告の損害であるとの推定を覆滅する事情があると認められ,その割合は75%であると評価するのが相当である。
  したがって,特許法102条2項に基づいて算定される損害額は,上記(3)の利益額に25%を乗じた2498万5556円であり,原告がこれを上回る損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。 」

4 検討
 今回何が良いって,普通は黒塗りになっている具体的な費目や額まで,露わになっていることですね。ちなみに,利益と損害を計算するエクセルのシートまで,別紙ということで,ダウンロードできます。今回は,損害論の所で,生帳簿の提出ではなく公認会計士のレポートでOKだったので,こういうことができたのでしょうね。

 ですので,結構どういうやつを控除するかというのが一目瞭然でわかって実に良いと思います。

 あと,規範のところで早くも大合議のものを使っておりますので,一応それも注目してください。

5 追伸
 ソチ五輪,やっぱハーフパイプ男子でしょう。平野選手,平岡選手おめでとうございます。

 私は,昨日予選の2組目の途中まで,平野選手,平岡選手が準決を挿まず,直接決勝に行き,他方残りの2選手が準決にも行けず予選落ちした所までは,生で見ておりました。その後耐え切れず寝たわけです。

 で,朝,結果を見ないようそうっと昨日の録画を見たのですね。

 で,感じたことをメモしておきましょう。

・パイプがダメ。
 前回のバンクーバー五輪は,サイプレスマウンテンという所で,メイン会場のウィスラーよりはバンクーバー市内に近かったようですが,非常に整備されたHPでした。
 ところが,今回のソチのやつは見た目は結構でかくてまともなようですが,元々暖かい場所での開催のため,雪質が悪く,しかも整備もダメ!結構な選手が詰まったり,轍にとられたりしてました。あれだけの選手が失敗しているのですから,HPが悪いと見たほうがいいですよね。
 おかげで,うん,これオリンピックのレベル?つうくらい,皆さん安全策で演技してましたね。逆に日本勢にはそれが効いたのかもしれませんけど。

・はしゃぐ大人に冷静なこども
 金メダルのユーリ何とかかんとか選手は,逆転の金メダルのせいかもしれませんが,凄いはしゃぎっぷりでした(ちなみに25歳らしいです。)。
 他方,日本の10代の選手は,感動で泣くこともなく,ニヒルを気取るわけでもなく至って普通でした。キョウリュウジャー終わるって?え,トッキュウジャーが始まるからいいって?みたいな感じでしたね。
 大人って色んなものを背負っていくので,実は子供よりメンタルが弱かったりすることもあります。日本の10代のメダリストは,小さいころから世界を転戦しているし,他方余計な人生経験は少ないしで,肝は座ってましたよね。
 上記のとおりのパイプの状態が良くない中,冷静にビタ着できる技に絞り,自ら負けた言い訳をするようなイチかバチかの大技をすることもないっていうのは,極めて冷静です。ショーン・ホワイトが今回全然だめだったのは,この日本の10代と全く対照的でした。スゲーぜ。

・コーチ陣
 他方,今回最も喜んだのはコーチ陣じゃなかったかと思います。ここで昨日も書いたように,コーチ陣は当然FIS-SAJでスノボの競技をする前からスノボをやっていた人たちが多いです。それが,FIS-SAJが五輪ではスノボをやるからと,誘われたり自発的にFIS-SAJに移ったわけです。
 そうすると,私のような心無いスノボマニアから,裏切り者,金に釣られたか,スキーとスノボじゃ生き方からして違うんだよ,何だよお前ら,とまるでチベット族の共産党員かウイグル族の警官のように言われてたことと思います。それが今回の結果ですので,漸く報われたという所じゃないでしょうかね。ま,大人は大変なんすよね。

・その他
 今回のスノボの結果は女子ジャンプの高梨選手と好対照になってしまいました。何が好対照かというと,ジャンプとかあとスピードスケートもそうですが,練習自体全く楽しくない競技って,本当試合で良い結果を出すしか救われることはないのですね。
 スノボはHPでもスロープスタイルでも楽しみの部分は残っております。冬季五輪の競技だとあとアイスホッケーもその部類でしょうかね。
 私が昔やっていた陸上も全く楽しくない競技でした。陸上部自体に山あり谷ありではあったのですが,陸上をやっていて練習が楽しいと感じたのはタダの一度もありません。だって,単に走るだけのどこが楽しいですかね。近時は色んな所でマラソンブームとかありますが,世の中には暇なマゾがたくさんいるんだなあと,鼻くそほじりながら思うだけです。

 ですので,そんな辛い競技のジャンプとかスピードスケートとかで結果が出ないと,本当いたたまれない感じに襲われます。今の企業スポーツの状況からして,選手メインで食っていけるだけ恵まれているっていう話もありますが,恐らくスノボの選手たちが,日本に帰ってニセコでフリーランだイエーみたいなノリかと思うと,世の中色々不公平だなあって思うわけです。

 とはいうものの,個人的には,もはやどちらかと言うと人を使う立場にいるわけで,じゃあジャンプとかスピードスケートの選手とスノボでイエ~の人たちのどちらが信用できるかというそりゃ圧倒的にジャンプとかスピードスケートの選手でしょうね。

 だって,仕事って,ほぼ楽しくないことばかりです。ま,私はこうやってお気楽ご気楽に書いており,ある程度選り好みをしてますので,全てが全て砂を噛むような日々ばかり~♫あコリャコリャってなわけではありませんが,仕事って大変なものですよ。
 そうすると,面白くない少なくとも面白いという理由で続けているわけではない競技出身の人たちの方が信用できるっていうことです。こんな仕事面白くねえから辞めさせてもらうぜ~ってなると困りますからね。

 高梨さんはジャンプを辞めずに続けてほしいですね。もし辞めたとしても,それは世間のせいで,高梨さんのせいではありません。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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