忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 特許の無効審判の不成立審決(訂正を認めた上で,進歩性あり)に対する審決取消訴訟の判決です。
 発明は,「杭埋込装置及び基礎用杭の埋込方法」を名称とするものです。
 原審は,上記のとおりですが,これに対して,知財高裁は,新規事項の追加でないとして訂正を認めた点に瑕疵はないとする一方で,進歩性を認めた点に瑕疵ありとして,審決を取消しました。

2 問題点等
 訂正が新規事項の追加か否か,すなわち,「明細書又は図面に記載した事項」の範囲内かどうかは,知財高裁大合議H20.5.30判決の規範によることが多いと思います。
 これは,「当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである」かどうかで判断されると思います。

 これはこれでよいのですが,一つ問題があります。新規事項の追加の判断もそうですが,明細書に書いてあること+αが実質的に記載されていることと評価されうる場合としては,サポート要件や実施可能要件の判断などがあります。ここで,明示の記載はないけれど,当業者からすると,記載されているに等しいよね,と判断されると特許権者なり出願人なりを救済する方向に向かうと思います。

 しかし,この当業者から見て記載されているに等しい事項が,仮に新規性・進歩性判断における引例との相違点だったら?今度は,逆に特許権者なり出願人なりに厳しい方向に向かいますよね。当業者から見て記載されているに等しい事項しか違いがないのですから,そのような事項は設計事項として微差,悪ければ微差すらでないとして同一発明の誹りさえ受ける可能性があります。

 本件では,そのようなことが問題となりました。

3 判旨
訂正の判断について,「本件明細書及び図面に接した当業者は,当該図面の記載が必ずしも明確でないとしても,そのような周知の構成を備えた台板が記載されていると認識することができたものというべきであるから,本件訂正は,特許請求の範囲に記載された発明の特定の部材の構成について,設計的事項に類する当業者に周知のいくつかの構成のうちの1つに限定するにすぎないものであり,この程度の限定を加えることについて,新たな技術的事項を導入するものとまで評価することはできないから,本件訂正は本件明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものとした本件審決の判断に誤りはない。」と判断し,他方,進歩性の判断については,「しかしながら,相違点2に係る構成は,この種の杭埋込装置における設計的事項であって,当業者によく知られた周知の構成のうちの1つであることについては,取消事由1及び2について検討したところから明らかであり,また,そうであるからこそ,本件訂正は,特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもなく,新規事項を追加するものでもないということができるところ,台板と振動装置との関係として,油圧モーターを含む振動装置が台板に隠れるように構成することによって,下方からの外力から台板の上部にある振動装置が保護されることは,当業者であれば,作業現場における使用を通じて既に熟知している事柄であるといわなければならない。
そうすると,当業者に周知の設計的事項に係る構成である相違点2に係る構成を導き出すことは,当業者にとって容易であるというほかはない。」と判断しました。

4 検討
 そんな殺生な,ちーさん~。あちらを立たせて,こちらを立たせないなら,同じですよ~。本件仮に,進歩性があるとすれば,今度は,新規事項の追加の訂正要件違反であの世行き,なんともかんともです。

 ところで,知財高裁は,新規事項の追加判断の判断主体である「当業者」と,進歩性判断の判断主体である「当事者」(こちらは明文あり)とを全く同じ「当業者」であると判断しているように思えます。
 さて,これらは,果たして同じでよいのでしょうか。
 進歩性は,inventive stepですから,そりゃ史上最高の当事者(能力及び参照発明に関し)によって判断することが妥当でしょう。しかも,その対象は,先行技術ですから。
 しかし,新規事項追加というのは,現にある記載をどれだけ膨らませられるかということですから,普通の当事者でよいはずです。なによりも,その判断対象は,先行技術ではなく本願なのですし。そういう意味では,36条判断主体の当事者に同じか近いはずです。

 何でもかんでも同じ「当業者」とされたら,わかりやすい発明(むしろ弁理士が努力によりわかりやすく書いた発明と言うべきでしょうね。)は,須く進歩性なしとされてしまいますよ。
 この文系の俺っちにわかるんだから,大したことない発明なんだろうなーってな馬鹿げた先入観は非常に怖いと思います。
 おっと,何だか刑事裁判と似たような問題点が浮かび上がってきましたね。特許訴訟にも,裁判員導入か??しかし,特許訴訟は,通常企業法務に関する民事訴訟ですから,宗主国であるアメリカが許すはずはありませんね。
PR
29  28  27  26  25  24  23  22  21  20  19 
カレンダー
06 2017/07 08
S M T W T F S
1
3 5 7 8
9 11 12 13 15
16 17 19 22
23 28 29
30 31
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]