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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,ハンガリーに本社を持つ製薬会社のテバ社が,同社の保有する特許権(特許番号:特許第3737801号,発明の名称:プラバスタチンラクトン及びエピプラ バスタチンを実質的に含まないプラバスタチンナトリウム,並びにそれを含む組成物)を協和発酵キリン社が侵害しているとして,同社製品の製造・販売の差止 等を請求した特許侵害訴訟の控訴審です。と言うより,6件目の知財高裁大合議の事件,と言った方が早いでしょうかね。

 一審(東京地裁29部,当時は清水さんの合議体でした。)は,このブログでも記載したとおり,原告の請求を棄却しました。ポイントは,「したがって,物の発明について,特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されている場合には,原則として,「物の発明」であるからといって,特許請求の範 囲に記載された当該物の製造方法の記載を除外すべきではなく,当該特許発明の技術的範囲は,当該製造方法によって製造された物に限られると解すべきであっ て,物の構成を記載して当該物を特定することが困難であり,当該物の製造方法によって,特許請求の範囲に記載した物を特定せざるを得ないなどの特段の事情 がある場合に限り,当該製造方法とは異なる製造方法により製造されたが物としては同一であると認められる物も,当該特許発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。」
とした部分です。

 一審の判断は非常に妥当だと思います。
 そして,この控訴審が大合議で判断されるということを聞いたときには驚きました。だって,別に一審の規範で十分だし,それ以上に上級審が特別なことをやる必然性に乏しいと思ったからです。
 要するに,今,知財の事件は減っています(この前の飯村さんの話だと昨年はちょっと増えたらしいですが。)。そうすると,大合議なんて必要ないよね,更には,知財高裁自体必要ないよね,ってなると困るからだと思います。
 誰が困るって,そりゃ裁判官ですよ。国民は大して困りませんけどね。ですので,事業仕分けされないための,アピール!それが今回の大合議の真の意義,ということになると思います。

 なお,判決自体,アップが遅れております。ですので,今回知財高裁のHPにあった「判決の要旨」で代用しました。

2 問題点
(1)論点は,基本一つです。プロダクトバイプロセスクレーム(「物」の発明(特許法2条3項1号)にもかかわらず,そのクレーム中に,対象となる物の製法が記載されているものをいいます。)の技術的範囲(特許法70条)の解釈です。
 復習になりますが,この論点には,A下手に製法の特定があるため,その製法に限定されるのではないか(製法限定説),Bいやいや物の発明なのだから,結果の物が同じなら同じだ(物同一性説)という二つの説があります。そして,裁判官出身の高林龍先生などは,原則クレーム中の製法に限定するが,例外的に特段の事情があれば,製法をスキップできる,という修正製法限定説を唱え,一審は,この考え方に沿ったものだったわけです。

 そして,この一審以上に付け加えることなし(つまり,短く控訴棄却すれば良かったんじゃねえの?),というのが私の考え方だというのは,上で述べたとおりです。

(2)ところが,知財高裁の判決の要旨を見ると,さらに屋上屋を架しております。そのため,私も(2)としたわけです。何のことかというと,知財高裁で論点が増えております。

 それは,無効の抗弁における発明の要旨認定におけるクレーム解釈の話ですね。つまり,上記の論点はあくまで,特許法70条におけるクレーム解釈であって,発明の要旨を認定する場合のクレーム解釈ではありません。それ故,プロダクトバイプロセスクレームの発明における発明の要旨認定はどのようにするべきか,一応そこは確定的判断のない空白部分だったわけです。ですので,知財高裁がおっとり刀でそこも切ったというわけですね。

 ただ,どうなんでしょ。私なんかは,続審主義の弊害~♪と感じてしまいますよ。続審主義だと,当事者も主張や立証を躊躇なく控訴審でも行えますが,それは裁判所も一緖というわけなんですかね。不要で,無用なことも,ユー言っちゃいなよ~ってやったようにしか思えませんね。

3 判旨(ただし要旨からですので,正確な判旨ではないと思います。)
(1)の論点
 「・・・したがって,特許権侵害を理由とする差止請求又は損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきである。特許請求の範囲に記載される文言は,特許発明の技術的範囲を具体的に画しているものと解すべきであり,仮に,これを否定し,特許請求の範囲として記載されている特定の「文言」が発明の技術的範囲を限定する意味を有しないなどと解釈することになると,特許公報に記載された「特許請求の範囲」の記載に従って行動した第三者の信頼を損ねかねないこととなり,法的安定性を害する結果となる。
 そうすると,本件のように「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合,当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法を超えて,他の製造方法を含むものとして解釈・確定されることは許されないのが原則である。
 もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした特許法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,特許法36条6項2号にも反しないと解される。
 そして,そのような事情が存在する場合には,その技術的範囲は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,製造方法は物を特定する目的で記載されたものとして,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されることとなる。」
 「ところで,物の発明において,特許請求の範囲に製造方法が記載されている場合,このような形式のクレームは,広く「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と称されることもある。前記アで述べた観点に照らすならば,上記プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)と,「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)の2種類があることになるから,これを区別して検討を加えることとする。
 そして,前記アによれば,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈されることになる。
 また,特許権侵害訴訟における立証責任の分配という観点からいうと,物の発明に係る特許請求の範囲に,製造方法が記載されている場合,その記載は文言どおりに解釈するのが原則であるから,真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると主張する者において「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,もしその立証を尽くすことができないときは,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであるものとして,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定するのが相当である。」
として,本件では,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情」は存在しないから,上記不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームであると認定し,一審同様,工程a)を充足しないため,技術的範囲に入らないとしました。

(2)の論点
 「・・・特許法104条の3に係る抗弁の成否を判断する前提となる発明の要旨は,上記特許無効審判請求手続において特許庁(審判体)が把握すべき請求項の具体的内容と同様に認定されるべきである。
 すなわち,本件のように,「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている前記プロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合の発明の要旨の認定については,前述した特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の認定方法の場合と同様の理由により,① 発明の対象となる物の構成を,製造方法によることなく,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときは,その発明の要旨は,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと認定されるべきであるが(真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム),② 上記①のような事情が存在するといえないときは,その発明の要旨は,記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである(不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)。
 この場合において,上記①のような事情が存在することを認めるに足りないときは,これを上記②の不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとして扱うべきものと解するのが相当である。
 上記の観点から本件を検討するに,本件特許には,上記①にいう不可能又は困難であるとの事情の存在が認められないことは前述のとおりであるから,特許無効審判請求における発明の要旨の認定に際しても,特許請求の範囲に記載されたとおりの製造方法により製造された物として,その手続を進めるべきものと解されるから,特許法104条の3に係る抗弁においても同様に解すべきである。」
として,技術的範囲でのクレーム解釈と同様に解釈してよいとして,結果として,無効事由ありとしました。

4 検討
 (1)の論点については,上でしつこく述べたとおりですが,一つ面白い点があります。それは「真正」「不真正」という用語です。真正だと,物同一性説,不真正だと製法限定説になる,というわけです。まあこれはこれでわかりやすくてよいかもしれません。
 ちなみに,法律用語で「不真正」というときは,条文にない,というときが多いようですが(例えば,不真正不作為犯,不真正連帯債務など。),今回はそういうときの意味合いと何か違うような気がしますね~♪

 (2)の論点については,一定程度の意義があります。プロダクトバイプロセスクレームの発明の要旨認定にあたっては,基本製法限定説で,70条の技術的範囲の解釈と同じクレーム解釈でよい,とした点です。つまり,狭い解釈なので,無効にはなりにくい解釈です(今回は無効になってしまいましたが。)。まあ今後余計なことに精力を割かずに済むわけです。

 ちなみに,この発明は,第一国がUSだったようですが,そのクレームは,訴訟で問題となった日本のクレームと多々違う所があります。つまり,そのままの翻訳ではなく,日本用のクレームと言えるわけです(明細書でこんなことしちゃダメですよ。それは新規事項追加ですので。)。
 USのままだとおそらく,特許とれないと思って,限定するしかなかったのでしょうね~。このときから,この発明の命運は決まっていたのかもしれません。

5 追記(2/6)
 ようやく判決の全文がアップされました。
 ただし,あてはめの部分がちょっと参考にできるかな~,くらいで,あとは要旨で十分です。おっと,五人目の裁判官が,当然清水さんではなく,東海林さんだったことは追記しておきましょう。
 
 さて,ここでふと思ったのですが,上記のとおり,構成要件充足性を一部欠く( 工程a))わけですので,均等論の適用ってどうなんでしょう?ありえる論点じゃないですかね~♪
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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