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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,パン生地,饅頭生地等の外皮材によって,餡,調理した肉・野菜等の内材を確実に包み込み成形することができる,食品の包み込み成形方法及びこれに用いる食品の包み込み成形装置についての特許権を有する原告が,被告による被告装置の製造,販売等の行為は上記成形装置の特許権を侵害するものである,又は,特許法101条4号により上記成形方法の特許権を侵害するものとみなされる,と主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告装置の製造,販売等の差止め,同条2項に基づく被告装置の廃棄並びに不法行為に基づく損害賠償として3600万円及び遅延損害金の支払を求めた事案の控訴審です。

 原審の東京地裁民事47部(阿部さんの合議体です。)は,被告方法1,2,3は本件発明1の構成要件を充足しない,被告装置1ないし3の構成は,本件発明2の構成要件を充足しない,として,原告の請求を棄却しました。

 ちなみに原審の判決は,昨年の11月25日で,このブログの開設後です。にもかかわらず,取り上げていないということは,特筆すべきことは何もなかったのでしょうね。

 ところが,知財高裁の4部(滝澤さんの合議体です。)は,逆転で,一部請求認容しております。さらに,何と,均等侵害も認めております。年に一度の均等論♫あ~これこれ♫と書いたのは訂正しないといけませんね。

2 問題点
(1)クレーム
まず,クレームからです。
「【請求項1】(本件発明1)
  1A:受け部材の上方に配設した複数のシャッタ片からなるシャッタを開口させた状態で受け部材上にシート状の外皮材を供給し,
  1B:シャッタ片を閉じる方向に動作させてその開口面積を縮小して外皮材が所定位置に収まるように位置調整し,
  1C:押し込み部材とともに押え部材を下降させて押え部材を外皮材の縁部に押し付けて外皮材を受け部材上に保持し,
  1D:押し込み部材をさらに下降させることにより受け部材の開口部に進入させて外皮材の中央部分を開口部に押し込み外皮材を椀状に形成するとともに外皮材を支持部材で支持し,
  1E:押し込み部材を通して内材を供給して外皮材に内材を配置し,
  1F:外皮材を支持部材で支持した状態でシャッタを閉じ動作させることにより外皮材の周縁部を内材を包むように集めて封着し,
  1G:支持部材を下降させて成形品を搬送すること
  1H:を特徴とする食品の包み込み成形方法。

【請求項2】(本件発明2)
  2A:中央部分に開口部が形成されるとともにシート状の外皮材が載置される受け部材と,
  2B:受け部材の上方に配設されるとともに複数のシャッタ片を備えたシャッタと,
  2C:シャッタ片を閉じる方向に動作させてその開口面積を縮小して外皮材が所定位置に収まるように位置調整するとともにシャッタを閉じ動作させることにより外皮材の周縁部を内材を包むように集めて封着するシャッタ駆動手段と,
  2D:押し込み部材を下降させることにより受け部材の開口部に進入させて外皮材の中央部分を開口部に押し込み外皮材を椀状に形成するとともに押し込み部材を通して外皮材内に内材を供給する外皮材形成手段と,
  2E:外皮材形成手段に設けられるとともに押え部材を外皮材の縁部に押し付けて外皮材を受け部材上に保持する保持手段と,
  2F:受け部材の下方に配設されるとともに支持部材を上昇させて椀状形成された外皮材を支持し支持部材を下降させて成形品を搬送する支持手段と
  2G:を備えていることを特徴とする食品の包み込み成形装置。 」

 本件発明1は方法の発明で,本件発明2は物の発明ということですね。

(2)原審の判断
 被告装置でいう「ノズル部材4」は,本件発明1でいう「押し込み部材」に当たらないとしました。
 そのポイントは,被告装置の「ノズル部材4」は,生地に深く入ることはなく生地に当接する程度であり,むしろ内材(餡など)の吐出圧で,生地が椀状の形状となるのであって,本件発明の押し込み部材のように,押し込み部材の押し込み圧によって生地が椀状の形状となるわけではないと認定したことです。

 とすると,知財高裁がどう判断したか,予想はつきますね。

3 判旨
被告方法1の構成要件充足性について
「 以上によれば,本件発明1において,押し込み部材によって外皮材を「椀状に形成する」ことの意義は,外皮材の性状にかかわらず,押し込み部材が一定程度の深さまで下降することによって,外皮材を押し込み部材の先端形状に沿った「椀状」の形状に形成させるようにし,内材の配置及び封着ができるようにしたことにあるというべきである。そして,「椀状」の程度については,特許請求の範囲に何らの限定もなく,特許技術用語としても,浅いか深いかを問わずに「椀状」という用語を用いている例があることに照らすと,原判決が認定するように「成形品の高さと同程度の深さ」というほど深いものである必要はなく,その後内材の配置及び封着ができるものであれば足り,浅いか深いかを問わないものということができる。」
「 そうすると,被告方法1は,ノズル部材を下降させることにより,その下端を載置部材の開口部に,下面から深さ7ないし15㎜の位置まで進入させることができ,これにより,生地の中央部を押し込み,生地にノズル部材の先端形状に沿った窪みを形成するとともに,生地を載置部材で支持するものということができる。 」
「以上のとおり,被告方法1は,本件発明1の構成要件を全て充足する。」

被告装置1の間接侵害について
「このような観点から考えれば,その方法の使用に「のみ」用いる物とは,当該物に経済的,商業的又は実用的な他の用途がないことが必要であると解するのが相当である。
  被告装置1は,前記のとおり本件発明1に係る方法を使用する物であるところ,ノズル部材が1㎜以下に下降できない状態で納品したという被控訴人の前記主張は,被告装置1においても,本件発明1を実施しない場合があるとの趣旨に善解することができる。
しかしながら,同号の上記趣旨からすれば,特許発明に係る方法の使用に用いる物に,当該特許発明を実施しない使用方法自体が存する場合であっても,当該特許発明を実施しない機能のみを使用し続けながら,当該特許発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が,その物の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認められない限り,その物を製造,販売等することによって侵害行為が誘発される蓋然性が極めて高いことに変わりはないというべきであるから,なお「その方法の使用にのみ用いる物」に当たると解するのが相当である。
被告装置1において,ストッパーの位置を変更したり,ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが不可能ではなく,かつノズル部材をより深く下降させた方が実用的であることは,前記のとおりである。そうすると,仮に被控訴人がノズル部材が1㎜以下に下降できない状態で納品していたとしても,例えば,ノズル部材が窪みを形成することがないよう下降しないようにストッパーを設け,そのストッパーの位置を変更したり,ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが物理的にも不可能になっているなど,本件発明1を実施しない機能のみを使用し続けながら,本件発明1を実施する機能は全く使用しないという使用形態を,被告装置1の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認めることはできない。したがって,被告装置1は,「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ない。 」

被告方法2の均等侵害について
「そうすると,被告方法2は,本件発明1がノズル部材及び生地押え部材を下降させてシャッタ片及び載置部材に接近させているのに対し,押し込み部材の下降はなく,シャッタ片及び載置部材を上昇させることによってノズル部材及び生地押え部材に接近させている点において,異なるものである。 」
要件①「本件発明1においては,シャッタ片及び載置部材と,ノズル部材及び生地押え部材とが相対的に接近することは重要であるが,いずれの側を昇降させるかは技術的に重要であるとはいえない。よって,本件発明1がノズル部材及び生地押え部材を下降させてシャッタ片及び載置部材に接近させているのに対し,被告方法2がシャッタ片及び載置部材を上昇させることによってノズル部材及び生地押え部材に接近させているという相違部分は,本件発明1の本質的部分とはいえない。 」
「 以上のとおり,被告方法2は,本件発明1の構成要件1Cの構成と均等なものである。 」
「 以上のとおり,被告方法2は,本件発明1と均等なものとして,その技術的範囲に属する。 」

被告装置2の間接侵害について
「 前記2と同様,被告装置2は,本件発明1の「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ない。 」

被告方法3及び本件特許2については省略。

4 検討
(1)あんたの装置でも生地に深く入れようと思えば,可能なのだから,被告装置でいう「ノズル部材4」は,本件発明1でいう「押し込み部材」に当たるのじゃ!としたわけですね。

(2)小さい論点としては,間接侵害における均等論の適用ということが挙げられると思います。ただ,これは,特許法65条の補償金請求権においても均等論を認めて良いか,良いとした場合その要件は特許権成立後の要件と同じか違うか,という論点に比べて,本当に大したことはありません。

 私が,最も問題としたいのは,やろうと思えばやれるけど(その場合,構成要件充足性ありとなる。),通常そのようにしては売っていない場合の構成要件充足性ですね。端的に言えば,後発的に(例えば客先などで。)構成要件が充足される場合どうだ?というやつです。

 事件としては,カビキラー事件が有名です(東京地裁平成11年11月4日判決)。これは,出荷時には構成要件充足性がないものの,その後自然的な化学反応で構成要件を後発的に満たすようになった場合の事件です。
 判決は,この場合でも「特許請求の範囲に記載された香料を当初から添加する場合だけでなく、当該香料が製造後使用時までの間に含有されるように、当該香料を生成させ得る別の香料を製造時に添加する場合も、その技術的範囲に属するものというべきである。」として,侵害としました。

 他方,ドクターブレード事件というのもあります(東京地裁平成14年5月15日判決)。これは,やはり出荷時には,構成要件充足性がないものの,その後,客先で使用すると,ブレードがすり減って数値限定の範囲に入ってきてしまい,後発的に構成要件を満たすようになった場合の事件です。
 判決は,この場合,「まず,被告は,セラミックの表面被覆の厚さを0.313㎜以上0.525㎜とし,これによりブレードの使用寿命を一層長くすることを可能にした特性を有する製品(イ号ないしハ号物件)を顧客に提供し,顧客は,当該製品を,その特性を生かして,その本来の用法に従って使用している。
 購入者は,イ号ないしハ号物件を購入した後,使用を継続する。セラミックの表面被覆は,摩耗して薄くなることもあり得ようが,これは通常の用途に従った利用行為の結果であるから,このような購入者の行為を,社会通念上,物を生産している行為ということはできない。」として,非侵害としました。

 以上に加え,今回の件も含めると,なかなか一般的に基準を示すことはできないような感がします。ただ,カビキラーが侵害で,ドクターブレードが非侵害とすると,出荷時の状態で技術的範囲からかなり遠い場合は,非侵害としているような感はあります。本件でも機能的構造的に,「ノズル部材」を生地に深く入れることができないような状態で出荷していたならば,非侵害の原審のままだったのかもしれませんね。

5 その他
 7月に入って最初のブログの記事でした。ここ数日,ツイッターとfacebookに気を取られていたため,ブログの更新が疎かになっておりました。まあ根がchildishなもので,新しいオモチャにすぐ関心が移ってしまうのですね。ということで,万事ボチボチやりますので,あまり過大なご期待なさらないように,くれぐれも~。

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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