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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,PCTに基づき,特許庁長官に対し国際出願をし,その後,国際予備審査の請求をした原告が,特許庁審査官が作成した国際予備審査機関の見解書及び国際予備審査報告書は特許法29条に則さない無効な審査に基づくものであると主張して,被告に対し,①国家賠償法1条1項に基づき損害賠償金8946万円の支払を求め,②行政事件訴訟法36条,3条4項に基づき上記見解書及び報告書に係る審査結果が無効であることの確認を求めるとともに,③同法37条の3,3条6項2号に基づき,特許庁長官に対し,上記見解書及び報告書に係る審査結果が無効であることを認め,原告が被った損害を賠償し,特許庁審査官の特許法29条に基づく実体審査の在り方及び審査業務の取組姿勢を見直し,再発を防止することの義務付けを求める事案です。

 これに対し,東京地裁40部は,②③の無効等確認の訴え及び義務付けの訴えをいずれも却下し,①の損害賠償金の支払請求を棄却しました。

 まあ,一見するにつけ,・・・の・・・訴訟の典型です(・・・にはお好きなものを。)。
 しかし,そんな理由で取り上げたら,好事家に過ぎず,オタク・マニアの名が廃るというものです。
 私がこれを取り上げたのは,珍しくPCTの解釈が裁判で見られたからです。決して,先週の記事に知財の話がなく,苦し紛れに採用したわけではありませんよ。

2 問題点
 PCTとは,特許協力条約の略です。私が,弁理士の受験生だった頃は,短答も論文も条約という科目が必須科目として存在しました。今から考えると,何て国際的だったのでしょうね~。その条約はその名のとおり,条約ですので,非常に範囲が広いものでした。ただし,重要なのは,いわゆるパリ条約,PCTでした。私が受験生になったころから,TRIPSの重要度が増したのですが,2001年からの試験制度改革により,論文必須から切られたため,受験生は勉強しなくなったと聞いていおります。論者によっては,これは大問題と捉える方もいます。
 保守派の私でも,大した内容が問われていたわけでもなく,条約くらい必須にしても罰は当たらないんじゃないの~と思っております。

 おっと,いつものとおり,前置きが長いですね。さて,そのPCTですが,非常に楽しかった弁理士試験の勉強で,唯一楽しくなかったのがこのPCTでした。
 というのは,手続法であり(実体はパリ条約などで),加えて,厖大な規則も勉強しなければならず,砂を噛むとはこのことでした。司法試験の勉強では,民訴法に似た感じの科目と思っていただければよいと思います。
 したがい,裁判で問題となることもあまりありませんよね。所詮,手続法ですから。

 ところが,今回,この手続法的な条約の解釈がポイントとなったのです。

3 判旨
「1 PCT,PCT規則及び関係法令によれば,PCTの目的及びPCT国際出願の手続の概要は,以下のとおりである。・・・・
(2) PCT国際出願の手続の概要・・・・
エ国際予備審査
(ア) PCT国際出願は,出願人の請求により,国際予備審査の対象となる(PCT31条(1))。国際予備審査は,PCT国際出願に係る発明が新規性,進歩性及び産業上の利用可能性を有するものかどうかについて,国際予備審査機関による予備的なかつ拘束力のない見解を示すものであり(PCT33条(1)),その報告(国際予備審査報告)は国際事務局及び出願人に送付される(PCT規則71.1)。この国際予備審査制度の目的は,PCT国際出願の出願人が,国際出願された発明の特許性に関する判断を国際調査機関の見解書に加えて入手することにより,あるいは国際出願の内容を補正し,特許性について否定的な見解を示した国際調査機関の見解書に対して応答等することにより,特許取得の可能性を精査し,コストの効率化及び適正化を図ることを可能にすることにある。・・・
(ウ)国際予備審査報告には,当該国際出願の請求の範囲に記載されている発明がPCT33条(1)から(4)までに規定する新規性,進歩性(自明のものではないもの)及び産業上の利用可能性の基準に適合していると認められるかどうかを各請求の範囲について記述し,その記述の結論を裏付けると認められる文献を列記し,場合により必要な説明を付するとされており,当該国際出願の請求の範囲に記載されている発明がいずれかの国内法令により特許を受けることができる発明であるかどうか又は特許を受けることができる発明であると思われるかどうかの問題についてのいかなる陳述をも記載してはならないとされている(PCT35条(2))。
これは,国際予備審査の性格が予備的で,選択国を拘束しないものであることから,国際予備審査がいずれの国内法令からも独立し,PCT33条に規定された要件によってのみ行われることを明らかにするものといえる。
(エ) 国際予備審査機関は,国際予備審査報告を作成し,これを国際事務局及び出願人に送付する(PCT35条(1),PCT規則71.1)。
(オ) 国際予備審査機関は,当該国際出願のいずれかの請求の範囲に記載されている発明が,新規性,進歩性(自明のものではないもの)又は産業上の利用可能性を有するものとは認められないため,当該請求の範囲について国際予備審査報告が否定的となると認めた場合等には,その旨を国際予備審査機関の見解及びその根拠を十分に記載した見解書で出願人に通知する(PCT規則66.2)。通常,前記イのとおり,国際調査機関により見解書が作成されており,当該見解書は,国際予備審査機関の書面による見解(見解書)とみなされる(PCT規則66.1の2)。・・・・」

「2 争点1(国家賠償法1条1項の違法の有無)について・・・
原告は,特許庁審査官が,本件見解書において本件国際予備審査請求の請求の範囲21及び22につき,本件報告書において本件国際予備審査請求の請求の範囲9ないし13につき,それぞれ特許性(進歩性)がない旨の審査をしたことが特許法29条に則さない論理付けであって無効であるから,これらの書面を作成・送付した行為が違法であると主張する。
しかし,前記1(2)エ(ウ)のとおり,国際予備審査は,予備的で選択国を拘束しないものであり,いずれの国内法令からも独立し,PCT33条に規定された要件によってのみ行われるものであるから,国際予備審査報告においては,当該国際出願の請求の範囲に記載されている発明がいずれかの国内法令により特許を受けることができる発明であるかどうか又は特許を受けることができる発明であると思われるかどうかの問題についてのいかなる陳述をも記載してはならないとされている(PCT35条(2))。
したがって,本件国際予備審査請求に係る国際予備審査報告を作成する特許庁審査官に対し,本件国際予備審査請求の請求の範囲に係る発明につき,我が国の特許法29条に基づく特許性(進歩性)の有無の判断を求めることを前提とする原告の主張は,PCT35条(2)に反する行為を求めるものであって,失当である。・・・

さらに,前記1(2)エ(ア),(ウ)のとおり,国際予備審査は,いずれの国内法令からも独立し,PCT国際出願に係る発明が新規性,進歩性及び産業上の利用可能性を有するものかどうかについて,国際予備審査機関による予備的なかつ拘束力のない見解を示すものである(PCT33条(1))から,仮に国際予備審査機関が違法な判断に基づき特許性を否定する旨の国際予備審査報告を作成し,これを国際事務局に送付したとしても,出願人が特許を取得したい締約国の指定官庁(又は選択官庁)が国際予備審査報告の見解に法的に拘束されることはない上,そもそも原告は日本以外の国の指定官庁(又は選択官庁)に明細書の翻訳文等必要な書面を提出していないのであるから,特許庁が本件見解書及び本件報告書を原告・国際事務局に送付したことが,原告が本件国際出願に係る発明につき日本以外の国で特許を取得できなかったことと相当因果関係のある原因行為であると認めることはできない。」

4 検討
 だから,PCTは手続法なんだって,少なくとも実体を決めるもんじゃないんだって,ということに尽きますね。
 こういうことも,弁理士試験の勉強で,ちょっと勉強していただけで,わかるわけなんですよ。

 もちろん,本件裁判は,地裁の裁判にもかかわらず,弁理士も弁護士も一人も登場していないので,その辺の勉強がどうのこうのという事案ではないのですが。。

 ともかくも,たまには裁判でも役に立つかも,PCTという話でした。

 ところで,今回,事件番号の符号が「行ウ」でした~,知財では珍しいですね。


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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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