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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,被告の有する本件特許(第3117169号,発明の名称が「レベル・センサ」です。)に対して,原告が,特許庁に,本件特許の請求項1記載の発明についての特許を無効とすることを求めて無効審判を請求したものの(補正の要件違反による出願日繰り下げ(要旨変更時代)での新規性・進歩性なし,出願日そのままでの新規性・進歩性なし,記載不備),特許庁が,不成立審決をしたため,これに不服の原告が,知財高裁に,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決のままでよく,補正の要件違反なし,新規性・進歩性あり,記載不備なし,ということですね。

2 問題点
 これは特段新傾向判決でもありません。では,何故これをとりあげたか。それは,特許番号と発明の名称を見てください。レベル・センサ事件なのですね。
 えっ!何のことかわからない?困りますね~。昨年,弁理士会の研修でも取り上げたではないですか,侵害訴訟の方を。このブログでも取り上げております。これですよ。

 その侵害訴訟の方は,記載要件,特にサポート要件違反として,無効の抗弁成立で,請求棄却となっております。記載不備により,権利行使不能となる例は少ないですから,結構注目された事件だと思います。
 私のデータベースでは控訴したかどうかわかりませんが,同一の特許について,侵害訴訟での被告から無効審判が提起され,これが上記のとおり,不成立審決となり,さらに知財高裁に提訴され,今般判決が下ったということになります。

 着目すべきは,侵害訴訟での判断と審取訴訟での判断がまるっきり正反対ということですね。

 ちなみに,この侵害訴訟での裁判所は、まず,パラメータ事件の大合議判決の規範によることを示し,「レベルセンサが液中で概ね主水平位置を安定的に維持し,もってマイクロスイッチを確実に停止させるために,平衡重りに一定の重量が要求されることは技術常識として肯認する余地があるが,それがなにゆえ平衡重りそれ自体の絶対的な重量ではなく,センサ全体の重量との関係での相対的な重量比で定められるのかについて,上記発明の詳細な説明にその技術的意義は何ら開示されていない。」と認定し,技術常識についても,「そもそも平衡重りの重量のセンサ全体の重量に対する比率を数値限定することが,マイクロスイッチを確実に停止させる効果を奏するという技術的意義を有する旨の技術常識の存在を認めることはできない。」とも認定して,結局,サポート要件違反と認定したわけなのです。
 もちろん,この結論に至るまで,高校の物理Ⅱ程度(と言ってもかなり難しいですよ。)のモーメントのつり合いの式を用いるなどして,緻密に論証しております。

 では,知財高裁3部はどのように判断したのでしょうか。

3 判旨
サポート要件のところのみです。
「しかし,原告のこの点の主張は,以下のとおり,採用の限りでない。すなわち,前記2(4)ウのとおり,本件明細書の段落【0010】,【0011】,【0012】,【0014】,【0016】によれば,本件発明における「平衡重り」のセンサに対する30%以上との重量比は,センサ全体の重心が前記垂直線に対し平衡重りの重心と同じ側方にあることとあいまって,センサ本体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾かせるとともに,センサ本体が傾き始め,水平位置に到達した後,水位レベルがセンサ本体より上昇してもなお,センサ本体が水平位置を取るようにするため,安定性の程度を調節するという意味において,技術的意義があると理解することができるから,特許請求の範囲(請求項1)において,平衡重りのセンサ全体に対する重量比について,30%以上との限定を付した点に,旧特許法36条5項1号の規定の違反があると解することはできない。」

4 検討
 知財高裁3部は,本件のサポート要件の判断について,少なくとも明示的にはパラメータ事件の大合議判決の規範によることはしておりません。とすれば,判断が真逆だったのもさもありなんというところではないでしょうか。

 さらに,その上で,今回の判断については,進歩性の判断のところにも遠因があるような気がします。進歩性の判断について重要部を抜き出します。

 甲16発明との相違点C:重りの重量について,本件発明は「前記平衡重りの重量は,前記中空本体,前記マイクロスイッチ,平衡重り,及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持する手段から成るセンサが空気によって囲まれている時該センサの全重量の少なくとも30%」であるのに対して,甲16記載の発明はその重量について不明である点。
 甲18発明との相違点H :重りの重量について,本件発明は「前記平衡重りの重量は,前記中空本体,前記マイクロスイッチ,平衡重り,及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持する手段から成るセンサが空気によって囲まれている時該センサの全重量の少なくとも30%」であるのに対して,甲18記載の発明はその重量について不明である点。

相違点Cの判断:「本件発明における「平衡重り」のセンサに対する30%以上との重量比は,センサ全体の重心が前記垂直線に対し平衡重りの重心と同じ側方にあることとあいまって,センサ本体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾かせるとともに,センサ本体が傾き始め,水平位置に到達した後,水位レベルがセンサ本体より上昇してもなお,センサ本体が水平位置を取るようにするため,安定性の程度を調節するという意味において,技術的意義を認めることができる。」(ちなみにここが,「前記2(4)ウ」。)

相違点Hの判断:「前記(4)ウと同様,本件発明において,平衡重りの重量が,センサの全重量の少なくとも30%である点について,技術的意義を認めることができる。そして,甲18記載の発明を基礎として,相違点Cに係る構成に至ることが容易であるとはいえない。

 要するに,本件特許については,平衡重りの重量が,センサの全重量の少なくとも30%であるという数値限定がなくても進歩性ありとまでは言い切ることはできませんが,少なくとも数値限定にきちきちした臨界的意義がなくても進歩性あり,という発明であったということですね。もちろん,これは引例である甲16や甲18の対比ありきということではあります。

 とすると,若干緩やかでよい構成要件について,ざっくりした数値限定がついているからといって,それでサポート要件違反とするほどのものではないかなあというところなのでしょうね。厳密な規範を用いれば,そりゃつりあいの式など使わないといけないかもしれないけど,そうでないならば,定性的な技術的意義が認められれば十分ということでしょうね。

 うーん,これにて,さらば,パラメータ事件の大合議判決!となるのでしょうかね。

 あと,本件を含め,昨日の1/31に知財高裁3部から,将来的に重要となりそうな判決が複数出ております。マニアの皆さん,要チェックです。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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