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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 原告は,平成12年8月21日,米国出願による優先権主張をした発明の名称を「被覆ベルト用基材」とする発明について,特許出願をしたものの,平成18年10月17日付けで拒絶査定を受けたため,平成19年1月16日,拒絶査定不服審判を請求するとともに,同月24日付けで手続補正書も提出しました(以下「本件補正2」といいます。)。
 ところが,特許庁は,平成21年10月14日,本件補正2を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月26日,原告に送達されたことから,原告が,拒絶審決取消訴訟を提起したということです。

 審決の理由は,①本件補正2が新規事項追加であり,②仮に新規事項追加でないとしても,補正後の発明(本願補正発明)は,進歩性がなく独立特許要件を満たさないため,いずれにしろNGということでした。

 これについて,知財高裁3部は,原告の請求を棄却しました。

 これもよくあるパターンですね。では,何故ここで紹介するのか?それは,判決の進歩性判断に関するなお書がおもしろかったからです。

2 問題点
 進歩性判断については,いろんな文献が出ています。
 私も,特許は,進歩性に始まり進歩性に終わる,と思っているくらい重要視しております。
 そのような判断が記載されている文献等のなかでも有名なものは,平成18年の進歩性検討会(現特許性検討会)のフローチャートではないでしょうか。これは,元々審判便覧か何かの特許庁審判部作成の内部資料的だった資料が,上記進歩性検討会の資料として添付され,著名になったものです。
 中山信弘先生の最新の著作「特許法」136頁にも載っております。私も机の正面に貼って,いつも参照しているのですね。

 それほど有名なこのチャート,まず,本願発明の認定に始まります。次に,引用発明の認定を行います。そして,本願発明と引用発明との,一致点・相違点の認定を行います。そして,その後チャートが枝分かれをします。

 さてさて,そうすると,ここまで出た,本願発明の認定,引用発明の認定,一致点・相違点の認定,のいずれも重要ということになりますね。
 本件では,その重要な一つである一致点・相違点認定の部分に,知財高裁から,かなりの注文がつけられたということが注目されるということになります。

3 判旨
「なお,本願補正発明の進歩性の有無を判断するに当たり,審決は,本願補正発明と引用発明との相違点を認定したが,その認定の方法は,著しく適切を欠く。すなわち,審決は,発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく,相違点を,ことさらに細かく分けて(本件では6個),認定した上で,それぞれの相違点が,他の先行技術を組み合わせることによって,容易であると判断した。このような判断手法を用いると,本来であれば,進歩性が肯定されるべき発明に対しても,正当に判断されることなく,進歩性が否定される結果を生じることがあり得る。相違点の認定は,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構成を単位として認定されるべきであり,この点を逸脱した審決における相違点の認定手法は,適切を欠く。
しかし,本件では,原告において,このような問題点を指摘することなく,また,平成22年4月15付けの第1準備書面において,審決のした本願補正発明の相違点1ないし5に係る認定及び容易想到性の判断に誤りがないことを自認している以上,審決の上記の不適切な点を,当裁判所の審理の対象とすることはしない。」

4 検討
 まあ,判旨のとおりです。
 例えば,ラジカセというものがあります。今はあまり流行っていないのかもしれませんが,私の若いころは,大流行でした。それを分析的に考え,ラジオがあった,カセットがあった,それをくっつけただけ,進歩性なし!という判断はどうでしょうね。
 分析的に考えれば,1+1はあくまで2ということになります。3になることはないのです。ですので,1+1+1+1+1+1+1が単なる6だとした審決もその延長の考えということになりますね。
 しかし,場合によっては,有機的ネットワークにより,1+1が3になったり,1+1+1が6になる場合もあると思います。ラジカセの場合でも,結線不要でエアチェック(懐かしい~)ができる,という1+1が2以上の効果を生みます。

 そうすると,もっと技術的にまとめられる範囲で相違点をまとめることが適切な場合があり,そうしてくれない場合には,分節し過ぎ,分析的過ぎだよ,特許庁さん,と言える場合もあるのではないでしょうか。

 ただ,本件は,原告がミスって,かなりの自認をしてしまっております。あーあ。
 別に特許訴訟に限らず,すべての訴訟において,代理人の占める役割は案外小さいものです。人によって,筋だとか,事実だとか,言いますが,要は,代理人の寄与分って,結果に占める割合は1割弱くらいではないでしょうか。俺に任せればどんな訴訟も,とか,勝訴率*%とか,まあ怪しいの一言ですね。

 ところが,本件のミスは,代理人のミスでしょうね。普通は,上記のとおり,代理人で勝ち負けが決まるものではないのですが,本件は代理人で負けが決まっております。

 本件の代理人を見たところ,弁護士が代理人で,弁理士が補佐人でした。珍しいですよね。拒絶査定不服審判の審取訴訟は,通常,手続担当の弁理士がそのまま代理人をやることが多く,弁護士を頼むことがあっても,弁理士が補佐人に下がるということはまあありません(侵害訴訟と異なり,審取訴訟では,最高裁まで弁理士のみで代理できますので。)。
 色んな理由があったのかなあ,と考えさせられる判決でもありました。



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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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