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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「換気扇フィルター及びその製造方法」とする特許第3561899号(本件特許)の特許権者であるところの原告が,被告から本件特許の無効審判請求(無効2009-800070号事件)をされ,これに対し特許庁が,無効審決(進歩性なし)を下したために,この審決に不服として審決取消訴訟を提起したものです。

 知財高裁3部は,「審決には,本件各発明の解決課題を正確に認定していない点で誤りがあり,また,誤った解決課題を前提とした上で本件各発明が容易想到であるとした点において誤りがある。」として審決を取り消しました。要するに,進歩性あり,としたわけですね。

 とすると・・・新傾向判決ですね。

 これで,2011/1/31判決の3部作終了というところでしょうか。アインシュタインに勝てるかな。

2 問題点
 新傾向判決ですので,ぐだぐた言うより,中身に行きましょう。
クレームと引例との相違点です。
・本件発明1
金属製フィルター枠と,該金属製フィルター枠に設けられた開口を覆って,該金属製フィルター枠に接着されている不織布製フィルター材とよりなる換気扇フィルターにおいて,該金属製フィルター枠と該不織布製フィルター材とは,皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いて接着されていることを特徴とする換気扇フィルター。

・発明A
「金属箔をもって一体に形成された,レンジフードの開口部周縁への取付座となるフィルターカバーの鍔部と,この鍔部の内周縁に立上り壁と,該立上り壁の下端に格子状部と,該格子状部に接着剤によって装着されている難燃性乃至不燃性の不織布フィルターと,前記鍔部に取付けたレンジフードへの吸着用マグネットからなるレンジフード用フィルターカバー。」

・本件発明1と発明Aとの相違点(相違点A)
 接着剤につき,本件発明1では,皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いているのに対し,発明Aでは,かかる接着剤を用いていない点。

3 判旨
「当該発明について,当業者が特許法29条1項各号に該当する発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたか否かを判断するに当たっては,従来技術における当該発明に最も近似する発明(「主たる引用発明」)から出発して,これに,主たる引用発明以外の引用発明(「従たる引用発明」)及び技術常識等を総合的に考慮して,当業者において,当該発明における,主たる引用発明と相違する構成(当該発明の特徴的部分)に到達することが容易であったか否かによって判断するのが客観的かつ合理的な手法といえる。当該発明における,主たる引用例と相違する構成(当該発明の構成上の特徴)は,従来技術では解決できなかった課題を解決するために,新たな技術的構成を付加ないし変更するものであるから,容易想到性の有無の判断するに当たっては,当該発明が目的とした解決課題(作用・効果等)を的確に把握した上で,それとの関係で「解決課題の設定が容易であったか」及び「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であったか否か」を総合的に判断することが必要かつ不可欠となる。上記のとおり,当該発明が容易に想到できたか否かは総合的な判断であるから,当該発明が容易であったとするためには,「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」ことのみでは十分ではなく,「解決課題の設定が容易であった」ことも必要となる場合がある。すなわち,たとえ「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」としても,「解決課題の設定・着眼がユニークであった場合」(例えば,一般には着想しない課題を設定した場合等)には,当然には,当該発明が容易想到であるということはできない。ところで,「解決課題の設定が容易であったこと」についての判断は,着想それ自体の容易性が対象とされるため,事後的・主観的な判断が入りやすいことから,そのような判断を防止するためにも,証拠に基づいた論理的な説明が不可欠となる。また,その前提として,当該発明が目的とした解決課題を正確に把握することは,当該発明の容易想到性の結論を導く上で,とりわけ重要であることはいうまでもない。」
「本件発明1は,前記認定のとおり,従来の換気扇フィルターでは,アルミニウム箔片面全面に,感熱性接着剤皮膜を設け,これに,張出成形や膨出成形等の成形を施すと共に,打抜加工して開口を設けて金属製フィルター枠とし,この金属製フィルター枠の開口を覆うようにして不織布製フィルター材を張り,押圧加熱し,感熱性接着剤を溶融固化させて,不織布製フィルター材を金属製フィルター枠に接着するという方法で製造されていたので,使用後に,不織布製フィルターを金属製フィルター枠から剥離しようとすると,両者の接着が強固であるため,不織布製フィルターが破れてしまい,両者を分別することができないという欠点があったため,本件各発明は,金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを接着する際,通常の状態では強固な接着が達成でき,水を付与すると,金属と不織布間との接着力が低下する性質を持つ接着剤を用い,使用後の換気扇フィルターを水に浸漬することにより,容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とに分別し得るようにすることを発明の目的としたものである。
そうすると,本件発明1は,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて,通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得るようにして,素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」を解決課題とし,「(換気扇フィルターにおいて),通常の状態では強固に接着させるが,水に浸漬すれば接着力が低下し,容易に金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とを分別し得る皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いること」を解決手段とした発明である。
これに対して,前記認定のとおり,審決が文献から引用した発明Aは,「金属箔をもって一体に形成された,レンジフードの開口部周縁への取付座となるフィルターカバーの鍔部と,この鍔部の内周縁に立上り壁と,該立上り壁の下端に格子状部と,該格子状部に接着剤によって装着されている難燃性乃至不燃性の不織布フィルターと,前記鍔部に取付けたレンジフードへの吸着用マグネットからなるレンジフード用フィルターカバー。」であって,「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて,通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得るようにして,素材毎に分別して廃棄することを可能とすること」を解決課題として,これに対する解決課題を示した本件発明1とは異なる。甲1には,本件発明1が目的としている解決課題及び解決手段に関連した記載又は開示等はないのみならず,逆に,フィルターをフィルターカバーから剥離せずに廃棄することを前提とした発明であることが示されている。・・・
以上のとおり,甲18,19及び32において,本件発明1と発明Aとの相違点(相違点A)に係る構成,すなわち,「接着剤につき,本件発明1では,皮膜形成性重合体を含む水性エマルジョン系接着剤を用いているのに対し,発明Aでは,かかる接着剤を用いていない点。」に関する解決課題及び解決手段についての示唆はない。
したがって,審決において,本件発明1における「金属製フィルター枠と不織布製フィルター材とが接着剤で接着されている換気扇フィルターにおいて,通常の状態では強固に接着されているが,使用後は容易に両者を分別し得ることを容易化すること」という解決課題設定及び解決手段の達成が容易に想到できたとの点について,証拠を基礎とした客観的合理的な論理に基づいた説明が示されていると判断することはできない。」

4 検討
 課題重視も極まれり,というところですね。時と場合によっては,課題解決手段の採用の容易性だけでなく,課題設定の容易性まで検討する必要があるというのです。
 まあまあ,飯村さんの考えというのは,従前述べたとおりですから,それを敷衍するとここまで至るのでしょうね。

 ともかくも進歩性判断については,新時代(2昔前に戻っただけ?)を迎えることになったような感があります。

5 追伸
 昨日の日弁連の臨時総会は,大本営側の議案が全て通ったということのようです。賛成側は厖大な委任状を手にしていたようですから,総会は表面上はともかくも内面は完全な出来レースだったわけです。

 出来レースということは八百長ということですが,昨今,八百長を巡って色々論議があります(おっと,また余談が長くなりそうですね。)。
 私が気に入らないのは,相撲も今後はプロレス云々というような議論ですね。プロレスを八百長だと思っているんだろう,あんた!ということですよ。違うのです。プロレスは八百長ではありません。

 私は英語が得意ではありませんし,好きでもありませんが,上記のことを説明するのには,英語が適しております(和製英語かもしれませんが,概念の説明なので,構わないでしょう。)。要するに,上記の議論は,2種類のものを混同しているのです。これを英語で説明すると,よくわかります。

 1つがfixed matchです。固定された試合ということですね。勝ち負けが固定されているから,この表現になります。これが,真の意味で八百長です。真剣勝負前提で,勝ち負けが決められているものです。大相撲への批判は,この概念に沿ったものでなければ,的外れのはずです。

 他方,もう1つはfake matchです。偽の試合ということですね。プロレスなどのことを指します(評価的な表現でありますが,コントラストを出すため,敢えて使います。)。
 つまり,真剣勝負前提の,試合ではない!ということが大きいと思います。例えば,「ラストサムライ」でのトム・クルーズを見て,剣道日本一の警察官が勝負を挑むなーんてことはないですよね。映画やテレビドラマなど見て,全部嘘ばなしじゃねーか,なーんて野暮なことも普通言わないわけです。でも何故かプロレスは野暮なことを言われてしまう,若干不幸ではありますね。

 日本で「八百長」と言われると,この上記2つの概念を含み,混同した表現としてされることが多いと思います。なかなか意識的に分けて論述していることは少ないようです。しかし,分析的に考えることが必要ではないかと思う次第です。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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