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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,「洗浄剤組成物」を発明の名称とする特許の特許権者である原告が,被告の請求した無効審判において,訂正は認められたものの,特許を無効とした本件審決(進歩性なし)には,取消事由があると主張して,その取消しを求める事案です。

 本件発明の要旨は,以下のとおりです。
(1) 本件発明1:水酸化ナトリウム,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類,及びグリコール酸ナトリウムを含有し,水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1~40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物

 引用発明との相違点は以下のとおりです。
(ア) 相違点1:本件発明1が「洗浄剤組成物」であるのに対し,引用発明1は「金属イオン封鎖剤組成物」である点
(イ) 相違点2:本件発明1が,水酸化ナトリウムを含有し,「水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1~40重量%」と規定されているのに対し,引用発明1は,水酸化ナトリウムを含有することについて規定されていない点

 そして,知財高裁4部は,この審決について取消しました。要は,進歩性あり,と判断したわけですね。

 今回ここで,取り上げたのは,逆転で進歩性ありとして特許権者が勝ったのもさることながら,阻害要因あり,という判断が久々見られたので,取り上げたということになります。

2 問題点
 進歩性の判断において,阻害要因というキーワードがあります。

 これを,最近お気に入りのラジカセで説明したいと思います。
 ここにラジオとカセットがあり,それを組合わせただけで進歩性がないじゃないかという判断がされそうな場合に,阻害要因があれば,進歩性ありとされるわけです。
 例えば,カセットに録音する時は磁気ヘッドを用いるため,周辺に電磁場が発生し,このため,近くにラジオがあった場合,そのラジオの受信状況に悪影響を及ぼす,というような現象があったとします。そのため,結線などしてエアチェックをする場合,ラジオとカセットを一定程度離さなければならないことになります。そうすると,ラジオとカセットを一体化して同じ筐体内に入れるなんて,とても当業者にはできない。すなわち,カセットとラジオの一体化(ラジカセ化)には,受信状況の悪化という阻害要因があるということになるわけです。

 ですので,単にラジオとカセットを組合わせたというだけでなく,電磁遮蔽などの工夫を行い,この阻害要因を打ち破ったような発明は,進歩性ありとされるわけです。

 進歩性は,自然な進歩(技術というのは,ほっといても自然に進歩するもの)よりも,一段ぶっ飛んだ進歩にこそ認められるわけですから,このような考え方は,進歩性の趣旨に叶っていると思います。

 ところで,話はずれますが,専門家の方で,進歩性ではなく,容易想到性と言うべきだと主張される方が結構いらっしゃいます。
 その昔,スノーボードのことをスノボと略すな!というスノボマニアの運動が弱火ながらありました。
 何だかそれを彷彿とさせるちっちゃな話でしょうがありません。適当,お気楽をモットーとする私からすれば,進歩性だろうが,容易想到だろうが,どっちでもいいんじゃねえの,という感じですね。

3 判旨
「しかしながら,引用発明2は,グリコール酸ナトリウムを組成物とする金属イオン封鎖剤組成物の発明ではなく,また,引用発明1も,その発明に係る金属イオン封鎖剤組成物には,グリコール酸ナトリウムが含まれているとはいえ,前記(1)ウのとおり,当該金属イオン封鎖剤組成物にとって,グリコール酸ナトリウムは必須の組成物ではなく,かえって,その必要がない組成物にすぎないのである。そうすると,一般的に,金属イオン封鎖剤を含む洗浄剤組成物を硬表面の洗浄のための有効成分として用いることとし,その際に引用発明1に引用発明2を組み合わせて引用発明1の金属イオン封鎖剤に水酸化ナトリウムを加えることまでは当業者にとって容易に想到し得るとしても,引用発明1の金属イオン封鎖剤組成物にとって必須の組成物でないとされるグリコール酸ナトリウムを含んだまま,これに水酸化ナトリウムを加えるのは,引用例1にグリコール酸ナトリウムを生成する反応式(2)の反応が起こらないようにする必要があると記載されているのであるから,阻害要因があるといわざるを得ず,その阻害要因が解消されない限り,そもそも引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けもないというべきであって,その組合せが当業者にとって容易想到であったということはできない。」

4 検討
 上記のとおり,主引例の引用発明1には,水酸化ナトリウムを含有することについて規定されていなかったのでした。他方,引用発明2には,水酸化ナトリウムを含有することについての規定があったのですね。ですので,まあ同じ分野等のものだし,組み合わせに動機づけあり!で進歩性なしとされるのが普通です。

 しかし,今回は,引用発明1の記載から,ここをうまく回避することができたのですね。まあ,引用発明1を探してきたのは,無効審判請求人である被告だったのでしょうから,無効審判を勝つくらいの証拠という意味ではお手柄だったのかもしれません。
 しかし,同じ証拠に,そんな阻害要因のことも書いてあったというのでは,チャンチャンというところですね。





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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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