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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「アミノシリコーンによる毛髪パーマネント再整形方法」とする発明について,特許出願をした原告が(特願2002-100506号,パリ条約による優先権主張 平成13年4月6日 フランス共和国。),拒絶査定を下され,さらに,拒絶査定不服審判(不服2005-12666号)を請求したものの,特許庁から,不成立審決(36条6項1号の規定に適合しないといういわゆるサポート要件違反)を下されたため,これに不服として,知財高裁に出訴したものです。

 これに対して,知財高裁3部は,審決を取り消しました。要するに,サポート要件違反じゃないよ,ということですね。

2 問題点
 私は,個人的な興味で,侵害訴訟における記載要件不備による無効の抗弁について,調査などやっております。ですので,審取訴訟でもどういう風なのかというのは,当然に興味のあるところです。
 さて,昨日も書いたように,知財高裁3部では,パラメータ事件大合議は無視!というのがデフォーのようです。その典型が今回のようなものですので,ご参考に,というところで,取り上げた次第です。

 判旨がかなりわかりやすいので,そちらに行きましょう。

3 判旨
「36条6項1号は,「特許請求の範囲」の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を要するとしている。同条同号は,同条4項が「発明の詳細な説明」に関する記載要件を定めたものであるのに対し,「特許請求の範囲」に関する記載要件を定めたものである点において,その対象を異にする。特許権者は,業として特許発明の実施をする権利を専有すると規定され,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した「特許請求の範囲」の記載に基づいて定められる旨規定されていることから明らかなように,特許権者の専有権の及ぶ範囲は,「特許請求の範囲」の記載によって画される(特許法68条,70条)。もし仮に,「発明の詳細な説明」に記載・開示がされている技術的事項の範囲を超えて,「特許請求の範囲」の記載がされるような場合があれば,特許権者が開示していない広範な技術的範囲にまで独占権を付与することになり,当該技術を公開した範囲で,公開の代償として独占権を付与するという特許制度の目的を逸脱することになる。36条6項1号は,そのような「特許請求の範囲」の記載を許さないものとするために設けられた規定である。したがって,「発明の詳細な説明」において,「実施例」として記載された実施態様やその他の記載を参照しても,限定的かつ狭い範囲の技術的事項しか開示されていないと解されるにもかかわらず,「特許請求の範囲」に,「発明の詳細な説明」において開示された技術的範囲を超えた,広範な技術的範囲を含む記載がされているような場合は,同号に違反するものとして許されない(もとより,「発明の詳細な説明」において,技術的事項が実質的に全く記載・開示されていないと解されるような場合に,同号に違反するものとして許されないことになるのは,いうまでもない。)。
以上のとおり,36条6項1号への適合性を判断するに当たっては,「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」とを対比することから,同号への適合性を判断するためには,その前提として,「特許請求の範囲」の記載に基づく技術的範囲を適切に把握すること,及び「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項を適切に把握することの両者が必要となる。」

「審決は,特許請求の範囲の請求項1(請求項2ないし9も同様である,以下同じ。)の「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」の意義について,「アミノシリコーンを含有しない還元用組成物」と限定的な解釈を施した上で,発明の詳細な説明中には,アミノシリコーンミクロエマルジョンを含有する前処理剤により前処理した実施例は記載されているものの,前処理をせず「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」により還元処理をした従来技術に係る比較例は記載されておらず,そのような従来技術との比較実験データは記載されていないから,特許請求の範囲に記載された発明は,発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるということができない,と判断したものである。
しかし,「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」は,「アミノシリコーンを含有しない還元用組成物」と限定的に解釈することはできず,また,本願発明に係る「特許請求の範囲」は,本願明細書の「発明の詳細な説明」に記載されていると理解することができるから,本願発明1ないし9の請求項の記載は36条6項1号に適合しないとした審決の判断には,誤りがある。その理由は,以下のとおりである。」

ここで,クレームと発明の詳細な説明と,一件書類から,「還元用組成物」の意義を参酌。そして,規範としては,「「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比し,「特許請求の範囲」に記載された本願発明が,「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項の範囲のものであるか否か,すなわち,還元処理の前にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有する前処理用化粧料組成物を毛髪に適用して前処理をし,その後還元用組成物により還元処理をするとの本願発明が,アミノシリコーンを含有する還元用組成物により還元処理をするという従来技術と対比して,毛髪の劣化の程度の緩和等の作用効果を実現し,課題を解決し得ることが,「発明の詳細な説明」に記載・開示されているか否かについて,検討する。」と判示しました。

その上で,結論として,
「審決が,①本願発明について,「還元処理の前にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有する前処理用化粧料組成物を毛髪に適用して前処理をし,その後アミノシリコーンを含有しない還元用組成物により還元処理をする」との構成に係る発明であると限定的に解釈したと解される点,②「前処理をせずに,アミノシリコーンを含む還元用組成物により還元処理をした従来技術」とを比較した場合の本願発明の効果が示されていないと判断した点,及び③本願発明1ないし9について,「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるということはできないと判断した点に,誤りがある。
したがって,審決は,36条6項1号に適合しないとの結論を導いた限りにおいて,理由を誤った違法がある。」としたわけです。

4 検討
 飯村さんは,「技術的事項」が好きなのですね~。まあ,これはちょっと前からの3部の流れなので,驚くことではないと思います。

 驚くべきことはクレーム解釈です。「還元用組成物」の解釈にあたっては,侵害訴訟のような解釈をしております。
 今回は,新規性・進歩性の判断ではなく,記載要件の判断ではありますが,大きく,特許性の判断ということになります。とすると,それは発明の要旨認定ということに他なりませんから,本来リパーゼ判決の範疇で,判断すべきが原則とも思われます。
 ところが,今回,ご覧のように,「特段の事情」の判断無く,躊躇無く,明細書内へ,さらには,一件書類内へ,解釈時の参酌対象を求めております。

 すなわち,大合議無視,リパーゼ無視,憲法76条3項とおりじゃ~ということなのでしょうね。別に当てこすりや嫌味じゃありませんよ。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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