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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
  本件は,発明の名称を「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」とする特許第3547755号(本件特許)の特許権者である被告に対し,原告が,本件特許の無効審判請求(無効2009-800029号事件)をしたものの,特許庁から不成立審決(新規性・進歩性あり)が下ったため,これに不服の原告が,知財高裁に審決取消訴訟を提起したものです。

  これに対し,知財高裁3部は,原告の請求を棄却しました。要するに,新規性・進歩性あるので,審決のまんまでよし,ということですね。

  まあ,これもよくあるパターンなのですが,1/31付けの判決には,マニア向け判決が複数あると予告しておきました。これはそのうちの1つです。何に着目したか?それは,数値限定発明についての進歩性の考え方が顕わになっていたからです。

2 問題点
 数値限定発明というのは,まあ特許の実務家の間ではポピュラーなものだと思います。特に化学などの分野では,数値限定しないことには特許をとれないことが多く,ある意味必須なものです。中身は詳しく言いませんが,クレーム中に数値を限定した構成要件のある発明ということになりましょうか。

 しかし,数値限定発明を分析的に考えると結構悩ましいところがあります。要するに,進歩性のところです。端的に言えば,数値限定発明の進歩性はどう考えるべきであろうか?という問題意識ですね。
 というのは,判決を見ると,数値限定発明に進歩性を認める場合,その数値に臨界的意義(技術的意義などと言われることもあるようです。)が無ければダメだ!と言っているように読める判決があったり,逆に,そんなの必要なし!と言っているように読める判決があったりするからです。

 この部分についてもいろいろな識者によって,いろいろな考えがあるので,一概には言えないので,私の考えを述べますと,数値限定発明には,結果として(ここは重要です。),臨界的意義がないと進歩性が認められないものと,臨界的意義がなくても進歩性が認められるものの2種あるという風に考えております。

 この,結果として,というのは,私は弁理士ではありますが,弁護士の仕事が主ですから,明細書を直接書くことはありません。ですから,私のところで数値限定発明が問題になっているときには,すでに”上がった”状態,つまり,引例も何本も引かれた状態でやってくるということです。そうすると,当該数値限定発明の進歩性が認められるかそうでないかは,引例に何が書かれてあるか次第というわけです。

 そういう引例に数値限定まで書かれてあると,当該数値限定発明には,臨界的意義が必要でしょうし,他方,逆に,引例と比較して当該数値限定では限定し過ぎの場合もありえます(この場合,当然,臨界的意義など不要。)。
 近時,出願時の先行技術調査の精度が上がり,やばい先行技術がわかった場合は,数値限定に臨界的意義を持たせるしか方法のない場合もありますが,そうでない場合もあるでしょう。
 ただ,私のような弁護士のところに来たときには,臨界的意義の要不要で切れる場合が多いというだけかもしれません。

3 判旨
「(4) 数値範囲における意義について
原告は,数値限定発明において容易想到性でないとされるためには,数値範囲の全般において効果が顕著に優れているとの臨界的意義が示されることを要すると解されるが,本件発明1は,そのような効果が示されていないので,本件発明1が容易想到でなかったとした審決の判断には誤りがあると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,一般に,当該発明の容易想到性の有無を判断するに当たっては,当該発明と特定の先行発明とを対比し,当該発明の先行発明と相違する構成を明らかにして,出願時の技術水準を前提として,当業者であれば,相違点に係る当該発明の構成に到達することが容易であったか否かを検討することによって,結論を導くのが合理的である。そして,当該発明の相違点に係る構成に到達することが容易であったか否かの検討は,当該発明と先行発明との間における技術分野における関連性の程度,解決課題の共通性の程度,作用効果の共通性の程度等を総合して考慮すべきである。この点は,当該発明の相違点に係る構成が,数値範囲で限定した構成を含む発明である場合においても,その判断手法において,何ら異なることはなく,当該発明の技術的意義,課題解決の内容,作用効果等について,他の相違点に係る構成等も含めて総合的に考慮すべきであることはいうまでもない。」

4 検討
 少なくとも,知財高裁3部は,数値限定発明だからといって,特別な判断はしない,と明言しました。おそらく,他の部もそうだと思います。数値限定発明だから,どうだこうだ,というのは,私のような下々の者の論評にすぎず,裁判官としては,そんなの同じじゃん,という感じなのでしょうね。

 まあ,そういうことが明らかになるというのはそれ自体意味のあることだと思います。

 さてさて,1/31付け3部のマニア向け判決はまだあります。将来,この2011/1/31が特別な日になるのかどうかわかりませんが,もしかすると,そうなるかもしれません。
 と,ここまで書いて全く別な話が思い浮かんだので,それも書いておきます。

 1905年は何の年でしょう。私のような保守派からすると,日露戦争戦勝の年!ということになりますが,私は,保守派であるとともに,物理学徒でしたので,1905年といえば,アインシュタインの奇跡の年!ということにもなります。
 特殊相対論,光量子,ブラウン運動,いずれも物理学にとって非常に重要な論文をこの年立て続けに発表したからですね。例えるならば,三冠王と沢村賞と日本シリーズ優勝監督を一度に取ったくらいの勢いでしょうか。

 2005年はそれから100周年ということで,世界物理年でした。そして,その日本での運営委員長をされていたのが,大学の研究室の恩師である北原先生でした。他方,それに比べて,私は何やっているんだろうという感じですが,まあ人生というのは,自分の思うとおりなかなかならないものなので,致し方なし!というところですね。

 ということで,2011/1/31が”奇跡の日”となるか乞うご期待。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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