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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告が,原告の有する特許権(発明の名称,「接着剤,接着剤の製造方法及びそれを用いた回路接続構造体の製造方法」,特許第4165065号)に係る本件特許に対する被告の特許無効審判請求について,特許庁が,本件訂正を認めた上,本件特許を無効とした無効審決(①本件発明1ないし5及び9については,本件明細書の発明の詳細な説明の記載はいわゆる実施可能要件に違反し,また,②本件特許の特許請求の範囲の記載がいわゆるサポート要件に違反する。)に不服として,その取消しを求め出訴した事案です。

 審決の詳細には,上記①については,実験成績証明書(甲5)における実験結果を参酌すると,単一のシランカップリング剤のオリゴマー組成物につきGPC測定する場合であっても,展開溶媒の種別なる1つの測定条件の変化により有意にモノマー:ダイマーの面積比が変化するものと解するのが自然であるとし,カラム,展開溶媒等のGPCに係る測定条件が具体的に記載されていない以上,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,本件発明1ないし5及び9を当業者が実施しようとする場合において,当該モノマー:ダイマーの面積比により「シランカップリング剤(SCO)を選択することが困難であるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載はいわゆる実施可能要件に違反するとしています。

 他方,上記②については,本件明細書の発明の詳細な説明には,「シランカップリング剤」と「オリゴマー」との割合につき,「(A-1):(A-2)=100:1~100」の範囲とすることを発明特定事項とする訂正後の請求項に係る技術事項を具備するものが全て本件発明が解決しようとする課題を解決できると当業者が認識することができるように記載されているものとはいえず,出願時の当業界の技術常識に照らして当業者が検討しても,本件発明が上記解決すべき課題を解決することができると認識することができるものということができないとして,本件特許の特許請求の範囲の記載はいわゆるサポート要件に違反するとしました。

 これに対して,知財高裁4部は,「サポート要件に違反するとした本件審決の判断は,本件発明6ないし8及び10に係る部分についてのみ,相当でなく,取消しを免れない。」として,一部請求認容しました。

 今回これを取り上げたのは,パラメータ事件の大合議におさらばするのは,3部だけじゃないんだよ,4部もその可能性があるよ,ということだからです。

2 問題点
 パラメータ事件大合議は,ここで説明するまでもないでしょう。しかし,一応簡単に説明しましょう。
 この事件は,LCDパネルで必須の偏光板の製造方法に関する発明が問題になったものですね。それには,PVAを使っているのですが,その性質を表すのに,温度と膨潤度の2つのパラメータが使われており,その実施例が2つしかなかったので,問題となったのでした。
 そして,この発明では,2つしか実施例がないのに,エイヤ!で直線を引いて,比較例の領域と実施例(本件発明)の領域を分けたのです。
 ところが,2点しかないわけですから,引こうと思ったら,双曲線でも,2次関数でも,3次関数でもsinでもcosでも,ありとあらゆる曲線なども引けるわけです。

 ですので,このパラメータ事件で,設立間もない知財高裁は,
特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。特許法旧36条5項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。
そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(特許拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の原告)又は特許権者(平成15年法律第47号附則2条9項に基づく特許取消決定取消訴訟又は特許無効審判請求を認容した審決の取消訴訟の原告,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の被告)が証明責任を負うと解するのが相当である。
と判示しました。

 長らく,サポート要件といえば,この判決,そして,特許庁の審判もこの判断でやっておりました。
 ただ,この規範の,「当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる」などということは,要するに,課題解決できる=そのような使用=実施=物の発明の場合の実施可能要件か?,ということになってしまいます。
 つまり,この規範に従う限り,少なくとも物の発明の場合,サポート要件と実施可能要件はほぼ同じ!になってしまうのです。

 まあそれはそれでもよいという価値判断はあると思います。現に,ここしばらくはそうでしたから。ただ,本当にそれでいいんかえという判決もこのところ続いておりました。
 例えば,H21(行ケ)10033(H22.1.28知財高裁3部判決)がその嚆矢でしょう。そして,最近でも,H22(行ケ)10109(H23.2.28知財高裁3部判決),H22(行ケ)10221(H23.2.28知財高裁3部判決)がありました。
 ただ,一目瞭然,これは全て,3部の飯村さんの合議体の判決なのですね。

 ですので,他の合議体はどうなんだ?というところは関心のあるところだと思います。

3 判旨
サポート要件のところのみ,実施可能要件は,審決の判断でOKとしました。
「本件明細書において,本件発明の接着剤を用いた実施例1ないし4に対する初期及び耐湿後の接続抵抗,接着強度並びに耐湿後外観検査の結果が比較例と対照しつつ具体的に示されており,また,本件発明1の効果として,高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤を提供することができるとともに,当該接着剤の保管時や,使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤の提供と記載されている。
以上からすると,本件発明1の効果,すなわち,①高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤が提供されること及び②保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤が提供されたことについては,いずれも比較例と実施例との対照において具体的に開示されているということができる。・・・・

本件審決は,本件発明1の課題について,①高接着力でロットばらつきが発生せず,高い歩留まりで良品を量産可能となる接着剤が提供されたこと及び②保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤が提供されたこと認定しており,本件発明1の課題に関する認定については,何らの誤りはない。
しかしながら,本件審決は,サポート要件の判断において,②接着剤の保管時や使用時のシランカップリング剤の劣化を最小限とし,長期の保存安定性を与える接着剤の提供という課題についてのみ,当業者が認識することができるか否かについて判断を行い,①の「高接着力で信頼性が高い接着剤」の提供なる解決課題が解決できるか否かについての判断を行っていない。
また,先に指摘したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に係る接着剤の接着力について,その効果が実施例として具体的に開示されているのであるから,本件審決のサポート要件の判断には,本件明細書の発明の詳細な説明の記載内容に関する認定自体に誤りがあるものというほかない。」

4 検討
 まあ,明示的にさらば大合議というものではないですね。パラメータ事件大合議の範疇から一歩も出なくてもこの判示となるでしょうから。
 ただ,今回,進歩性を判断するような感じで,課題というものに,極めて分析的にアプローチしているのが特徴ですよね。
 この前の進歩性のシンポジウムに出席した人はわかると思いますが,知財高裁の進歩性の判断手法は,いわば課題解決アプローチになっているのではないかという話があったと思います。それは,分析的アプローチでもあります。
 ですので,今後,記載要件もそのようなムードというか,流行というか,そのようなもので判断されるのではないかという気がしてきますね。

 今回ある意味フライング気味の記事ではありますが,そのようなムードを感じ,敢えてフライングしてみた次第です。以降,他の部の判断にも注目ですね。

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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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