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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,発明の名称を「米糠を基質とした麹培養方法と玄米麹」とする特許第4304319号(本件特許)の特許権者である被告に対して,原告が,本件特許の無効審判請求(無効2009-800195号事件)をしたものの,特許庁が不成立審決(進歩性あり,記載要件あり,産業上利用できる発明であり,補正の要件も満たす。)をしたため,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部は,原告の請求を棄却しました。要するに,審決のままでよい,としたわけです。

 まあこれもよくあるパターンなのですが,今回取り上げたのは知財高裁3部のまとまった考えが,進歩性と記載要件の両方同時に見られるからですね。

2 問題点
 私の特許における問題意識は一に進歩性,二に記載要件です。特許実務家のみなさんもおそらく同じだと思います。この問題意識の中心が均等論だとか消尽論だとか国際管轄とかになってくると,まあ実務家ではないなあというところでしょうね。
 法律論としては面白いのでしょうが,そんなのが問題になるのは,例外中の例外であり,しかも「ためにする」論から一歩も出ない話ですしね。

 さて,その進歩性と記載要件ですが,別々の要件にも関わらず,それらの関係性が気になるのは,従前からお話しているとおりです。要するに,弁理士が理解し易いようにわかりやすく書くと,記載要件(特に実施可能要件とサポート要件)は満たす方向に向かうのでしょうが,進歩性は逆に満たさない方向に向かってしまうのではないかという,進歩性と記載要件のジレンマの話です。
 こういう場合,特に進歩性は厳格に(雰囲気で,という意味ではなく)考察しないといけないのにも関わらず,得てして「簡単な発明」ということで,進歩性を正しく判断されていなかったのではないかと思うのですね。

 ですので,近時の進歩性についての新傾向判決の意義というのは,進歩性だけにとどまらず,記載要件にも影響を与える大きいものということになります。ただ,これは,ある意味当然なのかもしれません。

3 判旨
進歩性について
「特許法29条2項所定の「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたとき」との要件は,無効審判を請求する請求人(本件では原告)において,主張,立証すべき責任を負う。そして,本件各発明について,当業者(その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者)が同条1項各号に該当する発明(以下「主たる引用発明」という場合がある。)に基づいて容易に発明をすることができたかは,通常,引用発明のうち,特許発明に最も近似する引用の発明から出発して,主たる引用発明以外の引用発明(以下「従たる引用発明」という場合がある。)及び技術常識ないし周知技術(その発明の属する技術分野における通常の知識)を考慮することにより,特許発明の主たる引用発明と相違する構成(特許発明の特徴的な構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断されるべきものである。ところで,上記の特許発明の主たる引用発明との相違する構成は,特許発明が目的とした課題を解決するために採用された構成であるから,特許発明の主たる引用発明と相違する構成に到達することが容易であったか否かの判断に当たっては,特許発明が目的とした解決課題及び解決手段の相違等を的確に検討することによって判断することが重要となる。
 上記の観点から,以下,本件各発明が特許法29条2項に該当する発明であるとの要件に該当する事実を,原告において主張,立証できたか否かについて,検討する。この点,原告の審判手続における主張等を総合しても,原告は,単に,甲5ないし7,18ないし21,特開2002-29994号公報等は挙げるものの,①どのような先行技術を「主たる引用発明」として,同項の要件充足性の主張,立証を試みようとしているのか,②特定の先行技術を「主たる引用発明」として選択した場合に,本件各発明と当該先行技術との一致する構成及び相違する構成は何か,③本件各発明における「主たる引用発明」との相違する構成が,解決課題及び解決手段との関係でどのような技術的な意義を有するのか,④「主たる引用発明」と「従たる引用発明」を組み合わせることに支障があるか否かについて,合理的な主張,立証をしていると評価することはできない。」

記載要件について
「上記のとおり,請求項1の「水分を加え粒子状に加工する」との構成について,本件明細書には,10~数100μの粉末状にある米糠を用い,米糠を蒸す前に,米糠を100とし,湿度状態などによって水分量を調整しながら40~50重量%の水を加え,略2~4mm(直径)の大きさの粒子状に加工することが記載され,また,その技術的意義について,栄養価の高い米糠を単体,基質として麹菌を培養するとき,米糠は,粉状であるため,空気の流通性が悪く,麹菌が増殖できず,腐敗菌が増殖してしまうという問題があったことから,米糠を,粒状にすることにより,保水性を高めるとともに,培養段階においては,空気の流通性を良くし,麹菌を働きやすくするということが記載され,当業者の通常の理解の範囲を超えるものとはいえない。 」

4 検討
 進歩性と記載要件は別々の要件であり,本来的には別々に検討するはずですが,従前進歩性のハードルが高かったため,わかりやすい明細書を書くと尚更進歩性が認められないのではないかという疑心暗鬼状態だったように思えます。
 しかし,少なくとも知財高裁3部では,進歩性と記載要件が同時に問題となった本件の事例において,的確な判断をしていると思いますので,今後はわかりやすい明細書を書くというのを恐れる必要は全くないと言ってよいと思います。
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