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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,被告からの無効審判請求に基づき請求項1ないし4に係る原告らの特許を無効とする2件の審決の取消訴訟です。
 1件は,不成立審決が知財高裁によって取り消され(実施可能要件違反),一度特許庁へ戻った後,無効審決が下されました(実施可能要件違反)。もう1件は,他の理由と併せて,改めて無効審判請求がされ,同様に,無効審決が下されたものです(やはり,実施可能要件違反)。

 したがい,争点は,訂正後の請求項1ないし4の発明につき,明細書の発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に記載がされているか否か(実施可能要件の有無)です。

 これに対して,知財高裁2部は,この2つの審決を取消しました。要するに,実施可能要件違反はない,ということですね。

 まあ,本件,記載要件に関するものですので,取り上げました。

2 問題点
 記載要件というのは,趣旨は簡単です。要するに,UFO型の明細書の防止です。

特許請求の範囲:UFO 
明細書の骨子:謎の宇宙人から手渡された図面を元に,謎の物質を謎の道具で削ったりウンたらして,エネルギーいらずで光速を超えることのできる謎の乗り物を完成した~。

 とにかく俺は作ったんだよ,現に存在するんだよ,では通りません。
 こう書くと,そんな馬鹿な明細書を書くアホはいないだろうと思いますよね。ところが,これが意外とそうじゃないのですよ。

 もちろん,それには理由があります。詳細に何でもかんでも書くとどうなりますかね?真似する方にしては簡単ですよね。ふむふむ,ここで,こういう鼻薬を入れればよいのか,ここでこういう工夫しているというのはパイオニアの発明者しかわからないなあ,うんうん,ということまで書いてしまうと,特許はとれるかもしれませんが,本来絶対に開示してはいけないような営業秘密(ノウハウ)はジャジャ漏れになってしまいます。
 ですので,出願人としてはあまり開示したくないなあというのが実情だと思います。

 他方,上記のとおり,新規発明開示の代償としての特許制度の趣旨からすると,真似して製造などできるだけの情報を開示しないといけないわけです。そうしないと,技術が進歩しないからですね。

 したがい,要らんところまで開示したくないという要請VS開示が不十分だと特許がとれないから開示したいという要請の,一見相反するこの2つの要請を同時に満たすように明細書を書かないといけないわけです。
 単なる企業の下請け,代書屋,無資格者などでできる仕事ではないのですよ。

 本件では,知財高裁が,この相反する要請をどう考えているか,その一端が見られました。

3 判旨
「 この点,審決は,「訂正明細書の実施例3,4で採用されている119℃(実施例3),40℃,60℃(実施例4)といった実験条件は,セボフルラン含有麻酔薬の製造,保存等において通常使用されている温度ではなく,過酷な温度条件
である。かかる温度条件は,セボフルランの分解抑制効果を確認するための実験を,3時間,あるいは144時間もしくは200時間といった通常のセボフルラン含有麻酔薬の保存期間に比べて短期間に行うために採用されたものと考えられる」とする一方で,「これらの温度,時間についての実験条件と,通常のセボフルラン含有麻酔薬の製造,保存等の環境下での条件との関係については,訂正明細書には何ら説明がない。また,原告は,訂正明細書の実験例において採用される条件が『最悪の場合のシナリオ』と主張するにとどまり,両者の具体的な関係は明らかにしていない。」と説示する。
しかし,訂正明細書の実施例3,4で採用されている実験条件が通常想定される使用条件を超える過酷なもので,短時間で実験を終える加速試験の条件として設定されたものであるとすれば,上記実験条件下でも安定している薬剤は,上記実験条件未満の通常の使用条件の下でも安定しているものと考えるのが当業者の当然の理解であって,さらに詳細に製造条件等を開示するか否かは,明細書の作成者において発明の詳細な説明をどこまで具体的かつ詳細に記載し,当該発明の実施形態を詳細に開示するかによるものにすぎず,かかる詳細な製造条件等の開示が特許法36条4項1号の規定の適用上必須だとされるものではない。そうすると,審決の上記説示は誤りである。」

4 検討
 知財高裁2部は,少なくとも小姑のように,いちいち細かく開示する必要はないと考えているようですね。まあこの辺の駆け引きというか塩梅というかは,各弁理士のノウハウのようなところもありますし,各技術技術によってまちまちと思いますので,一般的にどうのこうの言うことはできません。
 ただ,新規事項追加の件もありますし,ノウハウと言えない部分についてはある程度開示していた方が安心でしょうね。

 あと,今回の件は,一度,知財高裁が実施可能要件違反があると言ったものについて(平成18(行ケ)10489号,平成21年04月23日判決),そうでないと結論づけたものです。最初の訴訟から訂正はあるものの(クレームのみの訂正),新規事項追加はできませんので,基本明細書は同じなわけです。
 つまり,2年経ち,しかも別の合議体に係属し,別異の結論となったわけです。いろいろ考えさせるところはありますが,結論を言い過ぎると無粋なので(自分で考えてね♡),この辺で。

 ところで,また,大きな余震がありました。全く落ち着きませんね。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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