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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,平成10年5月14日に名称を「音響波方式タッチパネル」とする発明について特許出願(特願平10-132325号)をしたダイセル化学工業株式会社から,同出願に基づく特許を受ける権利を譲渡された原告が,特許庁より拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をしたものの,  特許庁が不成立審決(委任省令違反,サポート要件違反,実施可能要件違反)をしたため,これに不服の原告が知財高裁に出訴したものです。

 これに対して知財高裁2部は(塩月さんの合議体です。),原告の請求を棄却しました。要するに,審決のとおりでよい,ということですね。

 これもよくあるものなのですが,サポート要件の判断で,しかも3部以外のものなので,取り上げました。

 なお,ネトウヨの弁護士先生なら,今もっと取り上げるべき判決があるんじゃねえの~!という声も聞こえてきそうですが,そもそも私はへそ曲がりな上,大騒ぎする程のものかねえという感もありますので,国旗国歌訴訟の最高裁判決は取り上げません。

2 問題点
 サポート要件の判断について,最も規範性が高いと思わるのは,例のパラメータ事件大合議事件です(平成17年(行ケ)第10042号事件)。
 このとき,知財高裁の大合議は,サポート要件の判断に際して,「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(特許拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の原告)又は特許権者(平成15年法律第47号附則2条9項に基づく特許取消決定取消訴訟又は特許無効審判請求を認容した審決の取消訴訟の原告,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の被告)が証明責任を負うと解するのが相当である。」と,有名な規範を述べました。

 特許庁の審査・審判もこれに則り,さらに,その後の知財高裁でもサポート要件が問題となったときは,この規範に拠っていたと思います。
 ところが,昨年,3部の判決にこれに反旗を翻したと思える判決が出ました。「フリバンセリン事件」です。
 このとき,3部は,「①「特許請求の範囲」が,複数のパラメータで特定された記載であり,その解釈が争点となっていること,②「特許請求の範囲」の記載が「発明の詳細な説明」 の記載による開示内容と対比し,「発明の詳細な説明」に記載,開示された技術内容を超えているかどうかが争点とされた事案においてされたもの」には,パラメータ事件の規範は適用できるものの,そうでない場合には適用できない旨を判示しました。

 そうすると,パラメータ事件のような事案はむしろ特殊と言えますから,3部において,実質的に,パラメータ事件大合議の規範の適用はなくなりました。その後の3部は,「技術的事項の範囲のものであるか否か」という規範により判断していることはこのブログで散々お伝えしたとおりです。

 さて,そうすると,問題は3部以外の部はどうだ?という話になってくると思います。
 これに対しては,4部では,パラメータ事件におさらばする可能性はあるものの,いまだその範疇内だと考えられる判決がありました。

 そして,本件は2部です。さあどう判断したのでしょうか。3部の適用規範と照合するために,一応クレームを示しておきます。

  「【請求項1】音響波の伝搬媒体としてのガラス基板を備え,接触位置に関する座標データを検知するためのタッチパネルであって,
 前記ガラス基板が,主成分としてのSiO2と追加の成分とで構成され,
 追加の成分が, 
  BaOの含有量が1.5重量%以下であり, 
  ZrO2 およびSrOのうち少なくとも一方の成分を1重量%以上含むことを特徴とする,
 前記タッチパネル。」 

3 判旨
「  特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁大合議部判決平成17年11月11日〔平成17年(行ケ)10042号〕参照)。
  本願発明は,音響波方式タッチパネルに用いられるガラス基板の成分の含有量の数値範囲を特定している発明であるから,本願発明において,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲に記載された当該成分の含有量の数値範囲が,発明の詳細な説明に記載されており,当該成分の含有量の数値範囲により,発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が音響波減衰等の抑制等の課題を解決できると認識できるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし音響波減衰の抑制等の課題を解決できると認識できるか否かを検討して判断すべきと解される。 」

4 検討
 判旨は,上記の規範のあと,かなり詳細なあてはめを行っております。
 ほんで,規範はパラメータ事件大合議ですね!

 とすると,2部は守旧派か?!と思いがちですが,規範の2段目を見ると,何だか3部の適用要件を彷彿とさせるようなものですね。
 今回のクレームを見るとわかるとおり,成分が複数の数値限定の発明ですから,複数のパラメータの発明と言ってよさそうですし,サポート要件が問題となっているわけですから,クレームと明細書の包含関係が問題となっているわけですしね。
 したがい,3部の要件に照らしても,今回はパラメータ事件大合議の規範を用いるべきものだとも言えます。

 要するに,今回のものだけでは,性急に結論を出せないということですね。チャンチャン。
 ただ,3部は何かと理由をつけて,パラメータ事件大合議を避ける感がありますが,4部も今回の2部も,まあそれほど遠ざけなくてもいいんじゃないの,という微妙なニュアンスの違いはあるように感じられます。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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