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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,特許第4058072号(発明の名称「スーパーオキサイドアニオン分解剤」。以下「本件特許」といいます。)の特許権者であるところの被告に対し,原告が,本件特許を無効とすることを求めて審判を請求した(無効2009-800033号)たものの,特許庁が,不成立審決(新規性あり,進歩性あり)をしたため,これに不服の原告が,審決取消訴訟を提起したものです。

 これに対して,知財高裁3部は,この審決を取消しました。何と,新規性なし!ということです。

 私が興味のあるのは,進歩性ですが,新規性と本質的に同じ物だという考えもありますし(若干この考えには異論もあるところですが。),わかりやすい論点故取り上げました。

2 問題点
 新規性の趣旨は簡単ですよね。そもそも特許制度自体,新規発明公開の代償として,独占排他権を付与するというものだからです。さらに敷衍すれば,新規でない発明に特許権を付与すれば,誰でも知っているような発明が自由に使えなくなるだけですから,産業の発達を阻害する結果になるわけですね。

 ですので,公知の発明と同一の発明には特許権は付与できないということになります(これが新規性。)。

 ということは,問題となるのが,発明の同一性,つまり,引用発明(公知発明)をどう捉えるかということになるということはたやすくおわかりでしょう。

 そして,発明の同一性というのは,原則,構成の同一性で判断されるわけです(要するに,物自体の同一性のこと。)。

 ただ,例外もあります。それがいわゆる用途発明と言われるものです。例えば,ニトログリセリンがよくこの例に挙げられます。爆薬に使われるニトログリセリンは当然,その物は公知だったわけです。
 ところが,どうやって発見したのかわかりませんが,同じニトログリセリンが心臓病に効くということがわかったわけです。物としては全く同一です。ただ,「①その物についての非公知の性質(属性)が発見,実証又は機序の解明等がされるなどし,②その性質(属性)を利用する方法(用途)が非公知又は非公然実施であり,③その性質(属性)を利用する方法(用途)が,産業上利用することができ,技術思想の創作としての高度なものと評価されるような場合には,」新規性等ありで,特許を付与されることもあるわけです。

 本件では,引用発明と本願発明のとの物の同一性について,原被告で争いはありませんでした。争いがあるのは,その用途だったわけですが,さあ裁判所はどう判断したのでしょうね。

3 判旨
「・・・物の性質の発見,実証,機序の解明等に基づく新たな利用方法に基づいて,「物の発明」としての用途発明を肯定すべきか否かを判断するに当たっては,個々の発明ごとに,発明者が公開した方法(用途)の新規とされる内容,意義及び有用性,発明として保護した場合の第三者に与える影響,公益との調和等を個々的具体的に検討して,物に係る方法(用途)の発見等が,技術思想の創作として高度のものと評価されるか否かの観点から判断することが不可欠となる。 以上に照らして,本件特許発明の新規性の有無について検討する。 」

「(2)前記1のとおり,本件補正明細書には,以下の記載がある。すなわち,①「背景技術」として,スーパーオキサイドアニオン等の活性酸素種(ラジカル)が生体内で生体制御に関与していると言われていること,活性酸素が関与する疾病として,ガン,糖尿病,アトピー性皮膚炎,アルツハイマー,網膜色素変性症等が挙げられ,ヒトの病気の90%には何らかのかたちで過剰状態の活性酸素が関与していると言われていること,②本件特許発明の「解決課題」として,生体内で生成する活性酸素のうちO(スーパーオキサイドアニオン)等を効率よく消失させ,生体内におけるこれらの活性酸素の過剰状態を解消するための手段を提供することを目的としていること,③本件特許発明の「課題解決手段」として,白金微粉末等の微粉末は,生体内においてスーパーオキサイドアニオンを分解できること,④実施例及び実験結果を示した上,白金微粉末等の微粉末それ自体を,医薬又は化粧料として使用できるほか,健康食品の製造や医薬又は化粧料などの製造に使用することもできるとしていること,⑤本件特許発明の「産業上の利用可能性」として,本件発明のスーパーオキサイドアニオン分解剤を,生体に投与することにより,生体内の過剰なスーパーオキサイドアニオンを分解することができること等が記載されている。
他方,甲1には,前記のとおり,構成AないしCを充足する白金微粉末として,(a)コロイド中の白金粒子が,単一粒子かつ10nm 以下で,その単一粒子が鎖状になった凝集粒子が150nm オーダー以下で分散している白金コロイド溶液であって,たとえば,金属塩還元法(特に,特願平11-259356号に記載の方法)により製造されるもの等があること,白金微粉末を体内に取りいれる方法が示されていること,白金微粉末の上記方法は,各種病気の症状改善に効果があること等が記載,開示されている。

(3)  本件特許発明の構成AないしC記載の白金の微粉末は,甲1の白金微粉末を含んでいるから,公知の物質であるといえる(この点,当事者間に争いはない。なお,本件特許発明記載の白金の微粉末は,甲1を示すまでもなく,物質として公知である。)。
そして,本件補正明細書の記載によれば,①スーパーオキサイドアニオン等の活性酸素種が関与する疾病として,ガン,糖尿病,アトピー性皮膚炎,アルツハイマー,網膜色素変性症等が存在すること,②構成AないしCに該当する白金微粉末には,スーパーオキサイドアニオンを分解できる属性を有することが確認されたことが記載されている。また,特許請求の範囲の記載によれば,本件特許発明は,構成AないしCに該当する白金微粉末を,「医薬品」「健康食品」又は「化粧品」の用途に使用するための「物の発明」として特許請求されたのではなく,「スーパーオキサイドアニオン分解剤」の用途に使用するための「物の発明」として特許請求されている。
他方,甲1には,構成AないしCに該当する白金微粉末は,ガン,糖尿病,アトピー性皮膚炎などの予防又は治療に有効であると期待されていること,そのような効果を期待して,水溶液として,体内に投与する方法が示されていることが記載され,同記載によれば,そのような使用方法は,公知であることが認められる。そうすると,甲1には,白金微粉末がスーパーオキサイドアニオンを分解する作用が明示的形式的に記載されていないものの,従来技術(甲1)の下においても,白金微粉末を上記のような方法で用いれば,スーパーオキサイドアニオンが分解されることは明らかであり,白金微粉末によりスーパーオキサイドアニオンが分解されるという属性に基づく方法が利用されたものと合理的に理解される(甲24参照)。

以上によれば,本件特許発明における白金微粉末を「スーパーオキサイドアニオン分解剤」としての用途に用いるという技術は,甲1において記載,開示されていた,白金微粉末を用いた方法(用途)と実質的に何ら相違はなく,新規な方法(用途)とはいえないのであって,せいぜい,白金微粉末に備わった上記の性質を,構成Dとして付加したにすぎないといえる。すなわち,構成Dは,白金微粉末の使用方法として,従来技術において行われていた方法(用途)とは相違する新規の高度な創作的な方法(用途)の提示とはいえない。 」

4 検討
 残念!用途のダブりもありでした~。まあちょっとしょうがないかなあという気がします。
 ただ,新規性に関しては,補正・訂正で何とかできる場合は比較的多いと思いますから,このままこの特許があの世行きになるかはまだわかりませんね。



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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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