忍者ブログ
知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,名称を「赤外線透過性に優れた表示を印刷してなる包装用アルミニウム箔」とする発明について,特許出願(特願2003-372727号) した原告が,特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判を請求したものの,さらに不成立審決(進歩性なし。)を下されたため,これに不服として,知財高裁に出訴した審決取消訴訟です。

 これに対して,知財高裁2部は,審決を取消しました。要するに,進歩性あり,ということですね。

2 問題点
 よくあるタイプのものですが,特許,進歩性と来れば,新傾向判決!となるのがこれまでのこのブログのパターンです。
 ただ,これは3部ではなく,2部なのです。しかしながら,まあこれは,新傾向と見てよいのではないかと思っております。

 審決は,以下のように判断しております。

【本願発明と引用発明1との相違点】
本願発明の印刷インキは,樹脂ワニスに顔料を添加してなり,該顔料は,顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されているのに対して,引用発明1のインクはそのようなものでない点。
【相違点についての判断】
引用発明1では,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて印刷部9を設けることにより,印刷部9とカバーフィルム4自体との明度差を小さくしているが,赤外光に対し格別に優れた透過性を有するインクを用いなくても,閾値δ2を適当な値に設定すれば,カバーフィルム4上の異物を印刷部9と区別して判定することができることは明らかである。一方,引用発明2は,「塗料」であるが,そもそも「塗料」と「インク」は厳密に区別されるものではなく,例えば,金属板の上に盛るように付着させる場合は「塗料」と呼び,紙に染みこませる場合は「インク」と呼ぶとしても,材料自体に本質的な相違がない場合が多く,引用発明2の塗料はアルミニウム箔の表面に印刷するときにも使用できることは,容易に推察される。したがって,引用発明1のインクに代えて,引用発明2の塗料を用いること,すなわち上記相違点は,当業者が容易に想到し得たことである。

 ところが,判決は,引用発明2を引用発明1に組み合わせる動機付けが示されていないとして,NG!としたのです。

 この「動機づけ」っちゅうのは,いつも思うのですが,よくわからないところがありますね。審査基準を見ると,①技術分野,②課題,③作用効果,④示唆,と4通りの動機付けの例が載っているので,このことなのでしょう。

 他方,さらに,特許庁の審査基準には「論理付け」という,動機づけと似たような用語が登場するのですが,これはもっとよくわかりません。
 裁判所は,こんなの無視すればよいのですけど,現場の弁理士の方々は,監督官庁の特許庁に逆らうことはできませんので,一応従っているようです。
 でもよくわからないものはわからないですよ~。一般的にわかる用語,法律用語として熟している用語であれば,説明は要りませんが,そうでないなら説明が必要ですよ,特許庁さん(具体例はありますが,うーん。)。いつもこのブログ見てるの知っているんですから,次回の機会には,ちゃんと書きましょうね。じゃないとお尻ペンペンですよ。

 まあ私としては,この「動機付け」をきっかけ,トリガーというくらいの意味ととっております。まあ大間違いでなければよいのです。いたって適当な者ですので。

3 判旨
「まず,引用発明1は,前記第2の3(2)の【引用発明1】,【引用発明1と本願発明との一致点】及び引用例(甲1)の記載によれば,以下のとおりと認められる。
すなわち,引用発明1は,PTPシートの製造に際して,赤外光を照射することにより,アルミニウム製のカバーフィルムの印刷部上にある異物をも判別できることを技術課題の1つとして,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて記号等からなる識別情報としての印刷部を設け,赤外光を照射した際の反射光において,印刷部とカバーフィルム自体との明度差を極めて小さくし,さらに,第2の閾値δ2をカバーフィルムの明度より若干低い値に設定するという構成を採用することにより,印刷部の存在の有無に関係なく,印刷部のみが無視されてカバーフィルム上の異物が判定できるという作用効果を達成したものと認められる。
これに対し,審決は,上記のとおり,「赤外光に対し格別に優れた透過性を有するインクを用いなくても,閾値δ2を適当な値に設定すれば,カバーフィルム4上の異物を印刷部9と区別して判定することができることは明らかである。」と述べるところ,赤外光に対し透過性を有するインクを用いない場合には,印刷部の明度が一定程度低下し,印刷部上に印刷部と同程度の明度を有する異物が存するときには,当該異物が判定できないこととなる(異物の明度が既に判明している場合には,その明度より高く,かつ,印刷部の明度より低く閾値δ2を設定すれば異物が判定できるが,そのような場合が一般的であると解することはできない。)。したがって,審決の上記説示は,引用発明1の技術課題が解決できない従来技術を示したものにすぎず,引用発明1に対して引用発明2の構成を適用することについての動機付け等を明らかにするものではない。」

「また,審決は,上記のとおり,「引用発明2は,「塗料」であるが,そもそも「塗料」と「インク」は厳密に区別されるものではなく,例えば,金属板の上に盛るように付着させる場合は「塗料」と呼び,紙に染みこませる場合は「インク」と呼ぶとしても,材料自体に本質的な相違がない場合が多く,引用発明2の塗料はアルミニウム箔の表面に印刷するときにも使用できることは,容易に推察される。」と述べるところ,この説示は,「塗料」と「インク」とが厳密に区別されるものではなく,本質的な相違がない旨を述べるだけであり,仮に,「塗料」と「インク」が区別されず,また,引用発明2の塗料がアルミニウム箔の表面の印刷に使用できるとしても,それはただに,引用例2がアルミニウム箔に使用できる可能性のあるインクを開示しているにすぎない。引用例2には,当該塗料が赤外光に対する透過性に優れることは記載されておらず,引用発明2の「塗料」を引用発明1の「インク」として使用することが示唆されているということにはならない。
そもそも,「塗料」又は「インク」に関する公知技術は,世上数限りなく存在するのであり,その中から特定の技術思想を発明として選択し,他の発明と組み合わせて進歩性を否定するには,その組合せについての示唆ないし動機付けが明らかとされなければならないところ,審決では,当業者が,引用発明1に対してどのような技術的観点から被覆顔料を使用する引用発明2の構成が適用できるのか,その動機付けが示されていない(当該技術が,当業者にとっての慣用技術等にすぎないような場合は,必ずしも動機付け等が示されることは要しないが,引用発明2の構成を慣用技術と認めることはできないし,被告もその主張をしていない。)。」

4 検討
 判旨は,示唆と動機付けを並行して書いております。審査基準では,動機づけの下位概念が示唆ですから,若干違いますねよね。
 ですが,判示のとおりに裁判所(2部)が考えているとしたら,示唆と言おうが,動機付けと言おうが,結局,記載(明記)された組合わせのきっかけ,と言ってよいものが進歩性を否定するには必要だ!ということになると思います。

 となると,これはやはり3部の新傾向判決と軌を一にするものと言ってよいのではないでしょうか。
 ということで,私が最初に言いましょう。これが3部以外の新傾向判決として最初のものだ,と。間違えてたらゴメンなさいね~。たかがブログなんですから,信じたあなたが重~過失~。
PR
239  238  237  236  235  234  233  232  231  230  229 
カレンダー
10 2017/11 12
S M T W T F S
3 4
5 7 8 11
12 13 14 15 16 18
19 21 23 24 25
26 27 28 29 30
ブログ内検索
プロフィール
HN:
iwanagalaw
HP:
性別:
男性
職業:
弁護士
趣味:
サーフィン&スノーボード
自己紹介:
理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
カウンター
アクセス解析
忍者アナライズ
Admin / Write
忍者ブログ [PR]