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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 概要
 本件は,原告(自然人)が,原告と被告(トヨタ自動車)は,平成12年5月頃,原告の構築した物流システムに関する理論を被告がコンピュータ上で物流支援システムとして具現化することにつき原告が承認すること,及び被告の外部防御のため,上記理論を原告が特許出願することに対し,被告が相応の対価を支払うことを合意し,さらに,平成19年2月2日,上記合意を再確認したにもかかわらず,被告が上記相応の対価を支払わないと主張して,主位的には,上記合意に基づく請求として,予備的には,債務不履行に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として,5億円(合意に基づく請求及び債務不履行に基づく損害賠償請求については,上記理論をコンピュータ上で具現化することを認めたことの対価18億6020万円の一部である3億円,特許出願の対価9億3010万円の一部である1億円,原告が上記理論の研究・構築に要した実費5514万2208円及び特許出願に要した実費・労務費5304万7880円の合計額である1億0819万0088円の一部である1億円の合計額。不当利得返還請求については,上記理論をコンピュータ上で具現化することを認めたことの対価18億6020万円の一部である5億円)(附帯請求として,上記合意に基づく支払期限である平成19年2月2日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求める事案です。

 これに対して,東京地裁民事第29部(大須賀さんの合議体です。)は,原告の請求を一部認めました(2702万5000円及びこれに対する平成19年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員)。
 つまりは,上記の合意はあるのだから,支払っていない相応の対価を支払え,ってことですね。

 ま,元々の請求額が結構大きいので,被告の方が19/20勝っているのですが,色んな意味からすると被告であるトヨタ自動車の完敗じゃないですかね。

 で,珍しい訴訟物の訴訟なのですが,この事件,今後の「職務発明」に関する事件を先取りしているような話だったので,取り上げました。

2 問題点
 問題点は,端的に言うと2つです。上記の概要で書いた合意はあったのか?合意があった場合,相応の対価はいくらか?ということです。

 で,そもそも,従業員とその人の所属する会社間で,この手の契約つまりは特許のライセンス契約が結ばれるっていうのが珍しいです。ですので,そこが一番の論点になるわけですね。

 さて,従業員とその人の所属する会社で,特許のことが議論になるというと,真っ先に思いつくのが職務発明です。金曜に書いたここのブログも,その話です。

 まずは,職務発明の定義(要件)です。特許法35条1項です。
使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)

 これを見ると2つの要件が必要だということがわかります。①その性質上当該使用者等の業務範囲に属すること,②その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属すること,です。要するに,会社の仕事で,かつ自分の仕事でやった発明,ってわけです。

 この要件が認められると,効果は以下のとおりです。
・使用者等は,職務発明について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
・あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ又は使用者等のため仮専用実施権若しくは専用実施権を設定することを定めた契約、勤務規則その他の定めの条項は有効となる。
・従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権 を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。

 色んな効果が生じますなあ。でも,注意するのは,こういう効果は,職務発明だからこそ,です。なので,①の要件を満たさないとき,つまりは,会社の仕事じゃない分野の発明(これが自由発明)をしたときや,②の要件を満たさないとき,つまりは会社の仕事の分野の発明なんだけど,自分の仕事じゃない発明(業務発明)をしたときは,上記の効果はないのです。

 中でも,会社にとって厄介なのは,通常実施権も生じないし,その特許を受ける権利を予めガメることができない,ってことですね(ま,当たり前ですが。)。そういうことなので,職務発明については,色んな規定を設けて,ケアしている会社も多くなって来ているのですが,業務発明とか自由発明については,全くケアしていない会社も多いと思います。

 ま,ケアと言っても大したことはできず,要するにFirst Refusal Right関係を構築するぐらいしかできませんけどね。
 つまりは,ガメることは許されないけど,折角うちの会社で働いているという誼があるんだから,兎に角発明したときは,会社に報告する義務や,もし特許を受ける権利を誰かに譲渡するときは,最初にうちの会社と交渉してくださいな,という義務を課するわけです。
 こうすると,ガメてるわけじゃないので,これらの規定を就業規則やら発明規定で置いても,別に法律違反とか公序良俗違反になることはないですよ。ま,こんなの知っている人は知っていますけど,一応企業寄り知財部寄りのことを書いておきました。

 さて,今回はどう判断したのでしょうかね。

3 判旨
・合意について
「・・・以上によれば,Qの発言による本件合意には,特許出願費用を被告が負担することは含まれていなかったものと解されるところ,前記(2)ウ(ウ)でみた被告内部での検討内容に照らせば,上記発言には,原告が将来取得することのあり得る特許権の被告による実施について,原告からの権利行使を防止するという趣旨が含まれるものと認められる。
      イ  しかし,上記発言の時点において,原告が行う特許出願の具体的内容やその予定時期は決まっていなかったものであるから,Qの上記発言を,将来原告が取得することのあり得る特許権に係る発明についての実施許諾を予約する趣旨を表示したものとみるのは相当ではない。むしろ,前記のとおり,被告アフマ部において,本件プロジェクトの成功のためには原告からその研究成果等の提供を継続して受けることが不可欠であると認識されていたことがうかがわれることを考慮すれば,Qの上記発言は,上記特許権に係る発明を含めた原告の研究成果に係る知的財産全般について,その特許登録の成否にかかわらず,上記時点においてその使用の包括的な許諾を申し入れる趣旨を表示するものであったとみるのが相当である。これは,被告知財部が,アフマ部との打合せにおいて,「ロイヤリティは特許の譲渡対価に含めて一括支払との考え方をとりたい。ノウハウに関するロイヤリティは特許とは別に設定しない」と述べ(前記(1)ケ(エ)),特許発明とノウハウを区別して認識した上で,ノウハウ部分についても対価を支払う必要があり得ることを認識していることとも整合するものというべきである。
 相応の対価を支払う旨のQの発言は,このような包括的許諾に対し,これに見合った対価を支払うことを表示するものであったと認めるのが相当である。
 ウ  原告は,このような被告の意思表示に対し,これを承諾したものと認められるから(甲56,原告本人),原告と被告との間には,原告が,その研究成果に係る知的財産全般(将来原告が特許権を取得した場合には,当該特許権に係る発明を含む。)について,その使用を包括的に許諾し,被告が上記許諾につき相応の対価を支払う旨の合意が成立したものと認められる。」

・相応の対価について
「 むしろ,本件合意が「相応の対価」という文言を用いてされたものであることや,原告が,「相応の対価」に加えて「相応の対応」も約束された旨主張していること,被告アフマ部が,被告知財部との打合せにおいて,本件システムの期待効果等の一覧表(甲21の2)を示したのに対し,被告知財部が,本件システムの効果を実施前に評価することはできず,上記一覧表は現時点では意味をもたない旨のコメントをしていること(前記1(1)ケ(イ))に照らせば,原告と被告は,上記合意時において,同時点において存在する資料を基にして直ちに対価額を算定し,その支払を行うことを予定していたものではなく,本件システムの完成を待った上で,完成後の本件システムの内容や,同システムにおいて原告の提供した知見が実際に利用されている程度,本件システムのソフトウェアの頒布・利用状況,その導入効果,原告が取得した特許権の内容・数等を勘案し,さらに,被告における原告の今後の処遇等との兼ね合いも考慮して,相当と認められる金額を上記「相応の対価」として,支払を行うことを念頭に置いていたものとみるのが相当というべきである。 ・・・
 そうすると,これらの事情を踏まえれば,上記コスト削減見込額のうち,実際に実現されたものとみることができる部分(被告が実際に得た利益とみることができる部分)は,その半分程度にとどまるものとみるのが相当である。また,被告の発明規定において,導入による効果に対し5年間一定の対価を支払う旨の実績報奨制度が存在するとされること(弁論の全趣旨)を考慮すれば,本件においても,被告が5年間において得た利益(5年分のコスト削減額)を,「相応の対価」の算定の基礎とするのが相当である。
 前記共販店におけるコスト削減見込額の合計額(前記ウ(ウ)aないしgの合計額)は10億8100万円であるところ,これに2分の1を乗じ,5年分のコスト削減額を算出すると,その額は27億0250万円となり,同額が,「相応の対価」の算定の基礎とすべき金額(原告の提供した知的財産の使用料率を乗じるべき金額)となる。 ・・・
 他方,原告が合計7件の特 許権を取得し ていること(前記前提事 実(4)),原告は平成23年7月31日まで被告の名古屋オフィスにおいて勤務していたものであるが(前記前提事実(1)ア(ア)),原告が,本件システム開発に関与したことにより,被告において特段に有利な処遇を受けた等の事実も見当たらないことも総合的に考慮すれば,原告の提供した知的財産の使用料率としては,1パーセントが相当である。
キ  したがって,本件システムを用いたシミュレーションにより,被告が5年間において得た利益(前記5年分のコスト削減効果である27億0250万円)に,原告が提供した知的財産の使用料率である1パーセントを乗じた額である2702万5000円が,原告の提供した知的財産の使用許諾料の額(「相応の対価」の額)として相当であると認められる。 」

4 検討
 ということで,具体的な額は決めてなかったかもしれないけど,合意はあったとされたわけです。つまりは,原告とトヨタ自動車の間で,特許ライセンス契約締結はあったわけですね。
 ま,別にこれでトヨタ自動車は極端に不利になったわけでなく,例えば,原告が特許侵害による差止なんか求めても,実施権の抗弁で対応できますので,それはそれなりです。

 ただしかし,事実認定を見ると,トヨタ自動車という世界でも一流の会社の知財部でも,みっともない程右往左往しているのがわかりますね~。私は仕事柄色んな会社の知財部を知っていますが,本当,これはすごいやり手の集団だなあと思える知財部は殆どないですね(全くないわけではありませんが。)。

 それに,今回の事件,冒頭で先取りと書きましたが,まさにトヨタ自動車も所属している経団連が強力に推し進めている職務発明の法人帰属化に対し,非常に効果的な対抗策を示したものと言えます。さっき,会社寄りのことを書きましたので,ここは発明者寄りのことを書きますね。

 仮に,職務発明の法人帰属が法改正されたとしても,発明者の方々,別段慌てる必要はありません。発明報告義務は上記のとおり課されていると思いますので,何か発明したときは,一応会社に報告します。ただ,ここで,会社の業務じゃない発明や自分の仕事じゃない発明をちょびっと入れて報告するのがポイントです。
 例えば,CMOSセンサーの発明をしたときに,そのCMOSセンサーを用いたミサイル誘導装置とか,パソコンとかを発明報告書に書いておくのです。

 そうすると,知財部としては,これをそのまま職務発明としてよいのか判断がつかず(某会社がミサイル作っているか~?パソコン事業は売り飛ばすんだろ~♫),発明者と協議しないといけないことになります。そうすると,しめたものです。知財部のヤツにうまいこと言って職務発明ごと引取り,自分で出願しちゃえばいいのです。
 
 つい一昔前までは弁理士は数が少なく,また大きなクライアントばかり相手をして中小零細や個人発明家に対応する弁理士なんぞいませんでした。
 しかし,弁理士の数が増え,大手企業は,特許事務所を容赦なく切り捨ててますので,大企業のエンジニアが自腹で出願すると言えば,多くの分野で対応してくれる弁理士はいると思います。

 ですので,そういう弁理士にある程度安くやってもらえば,出願して権利化も可能です。

 ほんで,あとは知らん顔して,自分のいる会社に権利行使しちゃえばいいのです。
 弁護士も弁理士と同様今や食いはぐれてハイエナ化していますので,結構安く依頼できると思います。そう,職務発明の相当対価請求が無くなったあとは,社内パテント・トロール作戦で行きましょう。
 ま,自社じゃなくても,発明者なら,実施をしている所をすぐに嗅ぎつけられるはずです。自社に裁判するのは引け目を感じても,他社ならそれもないでしょう。

 ですので,今後はワンマントロール!,これこそイノベーションと司法改革の成果に相応しいものでしょう。

5 追伸
 今日の未明に閉会式があり,ソチオリンピックが終わりました。何だかんだかなり見ていたので,やはり終わると寂しいものです。
 何っつても,世の中の99%はプロレスと豪語している私ですので,そもそも真剣勝負前提のものなんか世の中の1%にも満たないのですね。その1%のうち,八百長が99%で本当のガチンコは1%程度でしょう。そんな数少ないガチンコがスポーツですので,見る方にも力が入るわけです。

 さて,まとめはスポーツ・イラストレイテッドの予想と比べましょう。
 予想は,こうでした。
 金メダルは,羽生と高梨
 銀メダルは,平野歩夢
 銅メダルは,加藤条治,竹内智香,浅田真央

 結果はこうでした。
 金メダルは,羽生
 銀メダルは,平野,渡部,葛西,竹内 
 銅メダルは,平岡,ジャンプ団体,小野塚

 当たっているのが2つしかないぞ。予想より高いのは,6つ,予想より低いのが3つか~。とすると,予想以上に頑張ったと言えるでしょうね。競技別ではスノーボードが3つでトップという驚くべき結果です。

 ま,しかし,オリンピック以外でも注目されたり(フィギュア),オリンピック以外に価値基準があったり(スノーボードのハーフパイプなど)する競技はいいですが,オリンピックしか注目されないのに(スピードスケートとかジャンプとか),メダルが取れないと悲惨ですね(スピードスケート)。

 何度も書いてますが,オランダに行けばいいだけなのに,それが出来ないんでしょうね~。

 さて,次の興味は初夏にあるサッカーのW杯ですね。いやあこれも楽しみだなあ。

6 さらに追伸
 先週の金曜は,関西から高校の同級生が上京するというので,在京の同級生で集まりました。10人くらいが来ましたので,結構な集まりでしたね。

 中でも,卒業以来,本当に30年ぶりじゃないかという人も居て,それは懐かしかったです。

 で,去年の夏の大きな同窓会のときも少し思ったのですが,高校時代辛い思い出しか無い私って,それなりに幸せな高校時代だったのかも~ということです。

 いや,別にマゾじゃないですよ。要するに,多くの同級生が,部活とかやっておらず(運動部に入っちゃいけない令みたいなものがあったのです。マジで。),高校と家の往復がメインで,辛い思い出もないけれど,普通の思い出もあんまり無い,っていうことがわかったのですね。
 高校当時の私からすると,放課後辛い練習なくすぐに帰れる同級生が羨ましくて羨ましくて~仕方がなく,今も高校時代の思い出なんか,あー陸上の練習きつかった~,人間関係も大変だった~,陸上部やめることしか考えてなかった~ってなもんですが,それでも無いよりはマシなのですね。

 ですので,本当,世の中,ありとあらゆる事は相対的で,一見不幸なようで実は幸福だったり,他方一見幸福なようで実は不幸だったりするのかもしれません。

 兎も角も,そういう滅多にないメンバーで飲みましたので,かなり飲み過ぎ,土曜は案の定二日酔いでしたね。いやあ,高校の同級生と飲むと,田舎でも東京でも二日酔いがデフォーというのは,年甲斐も無い事なのですが,しょうがないですなあ。

  
 
 
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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