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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,発明の名称を「餅」とする特許第4111382号の特許権者である原告だった控訴人(越後製菓)が,被告だった被控訴人(佐藤食品)において被告製品を製造,販売及び輸出する行為が本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造,譲渡等の差止め並びに被告製品,その半製品及び被製品の製造装置の廃棄を求めるとともに,本件特許権侵害の不法行為による損害賠償として14億8500万円及び遅延損害金の支払を求めた事案での控訴審です。

 一審の東京地裁46部(大鷹さんの合議体です。)は,構成要件の充足性がないとして,請求を棄却しました。
 このことはこのブログでも書きました。

 そして,知財高裁3部(飯村さんの合議体です。)は,中間判決ですが,構成要件充足性あり,無効事由なし,として,「被控訴人が製造,販売する別紙物件目録1ないし5記載の各食品は,控訴人が有する別紙特許目録記載の特許の特許請求の範囲の請求項1記載の発明の技術的範囲に属する。同特許は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。」と判断しました。

 ガーン,エー!というのは被告はもちろん,私だけでなく,一審の裁判官,特許庁の審判官,そして,国語の先生もそうだと思います。

2 問題点
 2日連続して同じ話題で失礼します。ちなみに昨日はいつもの2倍の閲覧数でした。
 一般の方の関心も高いと思います。でも,こうやって,きちんとした判決の紹介だと,えらく閲覧数が低下するんですね。ややこしくて読んでられないのはわかりますが,このアホの私が書いているのですから,誰でもわかる,と思います。

 さて,問題点ですが,基本1つで,特許庁の判定も,一審も,それだけ!と言ってよいものです。
 それは、クレームの構成要件B「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,」の傍線部の解釈です。

 特許庁判定も,一審も,そして私も,これは,餅の上側や下側には溝はなく,側面のみに溝を設けたという趣旨だと捉えました。
 何故かというと,①まず,クレームの文言ですね。「載置底面又は平坦上面ではなく」と書いてあるのですから,そこは排除しているでしょ,普通,ということです。
 ②次に,明細書に記載している作用効果「焼いた後の焼き餅の美感も損なわず」という観点からすると,「載置底面又は平坦上面」に切り込みや溝があったら,人肌での傷跡のような焼き上がりとなってしまうため,やはり,そこは排除しているでしょ,ということです。

 でも,知財高裁が逆転でこのような判決を下したということは・・・こんな解釈ではないということです。

3 判旨
「当裁判所は,構成要件Bにおける「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載は,「側周表面」であることを明確にするための記載であり,載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部(以下「切り込み部等」ということがある。)を設けることを除外するための記載ではないと判断する。   
 この点,被告は,「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分は,「この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」との記載部分とは,切り離して意味を理解すべきであって,「載置底面又は平坦上面」には,「一若しくは複数の切れ込み部又は溝部」を設けない,という意味に理解すべきであると主張する。
 しかし,①「特許請求の範囲の記載」全体の構文も含めた,通常の文言の解釈,②本件明細書の発明の詳細な説明の記載,及び③出願経過等を総合するならば,被告の上記主張は,採用することができない。その理由は,以下のとおりである。
  (ア)  特許請求の範囲の記載
  本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,」(構成要件B)と記載されている。
  上記特許請求の範囲の記載によれば,「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分の直後に,「この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」との記載部分が,読点が付されることなく続いているのであって,そのような構文に照らすならば,「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分は,その直後の「この小片餅体の上側表面部の立直側面である」との記載部分とともに,「側周表面」を修飾しているものと理解するのが自然である。
  (イ)  発明の詳細な説明の記載
・・・・・b  上記発明の詳細な説明欄の記載によれば,本件発明の作用効果として,①加熱時の突発的な膨化による噴き出しの抑制,②切り込み部位の忌避すべき焼き上がり防止(美感の維持),③均一な焼き上がり,④食べ易く,美味しい焼き上がり,が挙げられている。そして,本件発明は,切餅の立直側面である側周表面に切り込み部等を形成し,焼き上がり時に,上側が持ち上がることにより,上記①ないし④の作用効果が生ずるものと理解することができる。これに対して,発明の詳細な説明欄において,側周表面に切り込み部等を設け,更に,載置底面又は平坦上面に切り込み部等を形成すると,上記作用効果が生じないなどとの説明がされた部分はない。本件明細書の記載及び図面を考慮しても,構成要件Bにおける「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載は,通常は,最も広い面を載置底面として焼き上げるのが一般的であるが,そのような態様で載置しない場合もあり得ることから,載置状態との関係を示すため,「側周表面」を,より明確にする趣旨で付加された記載と理解することができ,載置底面又は平坦上面に切り込み部等を設けることを排除する趣旨を読み取ることはできない。
c  これに対し,被告は,本件発明は,切餅について,切り込みの設定によって,焼き途中での膨化による噴き出しを制御できるという効果(効果①)と,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化できるという効果(効果②)を共に奏するものであるが(本件明細書段落【0032】),切餅の平坦上面又は載置底面に切り込みが存在する場合には,焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなるため,忌避すべき状態になることから(本件明細書段落【0007】),本件発明における効果②を奏することはないと主張する。
 しかし,被告の主張は,採用の限りでない。
 すなわち,本件発明は,上記のとおり,切餅の側周表面の周方向の切り込みによって,膨化による噴き出しを抑制する効果があるということを利用した発明であり,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化できるという効果は,これに伴う当然の結果であるといえる。載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けたために,美観を損なう場合が生じ得るからといって,そのことから直ちに,構成要件Bにおいて,載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けることが,排除されると解することは相当でない。」

4 検討
(1)これってどうなんですかね~。
 例えば,「A君又はB君ではなくC君が好きだ」という文章があったとします。

 普通,C君大喜び,A君B君がっくしじゃないですか。しかも,その理由として,A君B君とも顔がタイプじゃない,みたいなことがはっきりしていたとしたら。
 それを,いやいや,「A君又はB君ではなく」の意味は,C君をA君やB君と区別して明瞭に判別するだけのことであって,A君B君を好きであることを排除していないんだよ,ちっとも,なーんて言われたら,屁理屈もタイガイにしといた方がいいんじゃねえの,と思うはずです。だって,普通の日本語ではそうはとりませんもの。

 明細書というか作用効果の話もそうです。
 判旨の中には作用効果の記載が4つあり,①の効果は,クレームにも載っています(「膨化による外部への噴き出しを抑制するように」)。そして,確かに②の効果は,クレームには載っていません。ただ,明細書に記載はあり,クレームの記載「載置底面又は平坦上面ではなく」というのも,それを紐付けるためのものだと思います。
 そうすると,これで,「これに伴う当然の結果である」なんて言えるのでしょうかね。おかしいなあ。

 あと,出願経過の話(一旦,側面「のみ」の趣旨で補正したのだが,新規事項追加となるため,これを撤回したという話)は,特許権者に有利にも不利にも取れる話であり,まあ均等論の論点じゃない限り活きない話なのでこれに拘る必要はないと思います(おそらくこの点があるので,均等論の採用はやめたのでしょうね。)。

 また,原告が後で提出した図面の話(餅の面積の狭い,通常側面の部分を下にして焼く場合もあるということ。)は,確かに多少の説得力はあるのですが,こんな話,明細書には一言もないのですね。

 いやあ,ですので,こんなのあり!?というのが正直な感想です。

(2)じゃあ無効論はどうかというと,これも被告にちょっと不運なところがあります。
 この判決と同時に出た審決取消訴訟(平22行ケ10225)の判決によると,文献での新規性・進歩性の争いはしていないようです(侵害訴訟の無効論も同じ。)。

 さらに,被告に運が無かったのは,無効審判の審決は,構成要件Bの解釈について,「本件発明1の構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,・・・切り込み部又は溝部を設け」るとは,載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けず,上側表面部の立直側面である側周表面に切り込み部又は溝部を設けることを意味することは明らかであるから,」と,「のみ」の狭い解釈をとって(これは特許庁判定,侵害訴訟一審と同じです。),記載要件にかかる無効理由はない!としているのです。
 ですので,被告(審決取消訴訟での原告でもあるのですが。)としては,ここは自分の解釈とおりなので,審決取消訴訟でも侵害訴訟でも争っていないのです!(正確にいうと争えなかったということですね。)。

 これもまずいなあという気がします。今回のクレーム解釈は,明らかに,無効ルートと齟齬が生じています!無効ルートは狭い解釈で有効となり,侵害ルートは広い解釈で侵害となりました。そう!幻の知財高裁大合議の論点と同じです。といっても,今回は,あのときと違って,あくまで黙示の論点ではあるのですけどね。

(3)ともかくも,これは上告すべきだし,被告は法改正やられる前に,早い所,再度の無効審判を起こした方がよいと思いますね。

 まあこうやって,検討すると,何故ここまでウルトラC的・屁理屈的にこねくり回して,原告を勝たせなければならないか,イマイチよくわかりません。
 昔プロレスラーにワンマン・ギャングというのがいましたが(あと,ワンマンクラッシュと呼ばれた歌手もいますけど。),飯村さんはさしずめワンマンプロパテントなのでしょうね。
 よっしゃあ,ギター叩きつけて,ロンドンコーリングじゃあ~。脱線し過ぎたところでおしまいです。
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理論物理学者を志望したのはもう30年近く前のこと。某メーカーエンジニアを経て,弁理士に。今は,弁護士です。
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