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知財,特に特許を中心とした事件を扱っている理系の弁護士の雑記帳です。知財の判決やトピックについてコメントしたいと思っております。
1 本件は,発明の名称を「像シフトが可能なズームレンズ」とする特許権(特許第3755609号)を有する原告ニコンが,被告シグマに対し,別紙被告製品目録記載の各被告製品(同目録記載①~⑥の製品を順に「イ号製品」「ロ号製品」「ハ号製品」「ニ号製品」「ホ号製品」「ヘ号製品」という。)が本件特許権を侵害している旨主張して,①特許法100条1項に基づく差止請求として被告製品の製造等の禁止,②同条2項に基づく廃棄請求として被告製品の廃棄,③不法行為(同法102条2項による損害推定)に基づく損害賠償請求として119億0300万円(弁護士・弁理士費用5億円を含む。また,附帯請求として不法行為の後である平成23年5月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案です。

 これに対し,東京地裁民事第29部(大須賀さんの合議体ですね。)は,ニコンの請求を棄却しました。

 典型的な特許侵害訴訟ですが,訴訟提起時にこのブログでも取り上げましたので,判決も取り上げたわけです。ただ,そのときは,3つの特許のどれかとコメントしましたが,実際は2個の特許だったわけです。
 え!今回の訴訟は上のとおり1つのようだが・・・と思えますが,実はもう1件の特許(特許3269223)に関しては,分離して審理しているようです。

 何と3日続けて判決の紹介です。どんどん閲覧数が下がりそうですね。

 さて,問題点は,ということですが,これが耳目を惹くようなことはありません。非常にディープな進歩性の話です。
 つまり,構成要件充足性はあり,ということです。その上で,無効の抗弁(進歩性)が功を奏したわけですね。

2 問題点
 ということで,進歩性です。いやあ弁理士や知財部以外の人ごめんなさいって感じですね。

 進歩性というのは,先行技術とは同一じゃないけど,微差に過ぎない場合に特許しないよというものです。
 つまりは,人には本来的な向上欲みたいなものがあり,別に金が儲からない,女にももてない,そういうインセンティブがなくても,何だか工夫をしちゃうのですね。

 例えば,現在家事事件手続法が施行され漸く1ヶ月過ぎたところですが,新しい手続きがわからない所を,うまーく教えてもらうにはどうすればよいかわかりますか?勿論,家事の書記官に教えてもらうと手っ取り早いのですが,その際,ワザと間違えるといいのですね。そして,さもそれが正しく自分は間違っていないという態度で聞くと効果テキメンです。

 人ってよせばいいのに,間違いは直さないといられないのですね。ですので,書記官に訂正してもらい,そこからは低姿勢に聞くだけの態度にすると,もう止まらない止まらない,さらに愚痴でも聞いてあげようものなら,いやあお金を払っても聞けないようなことまで教えてくれるかもしれません。

 誤りは直したい,なにか改善したい,それが人間の性というものです(議題から逸れてませんからね。)。
 ですので,そういう人間の性を超えた,とんでもない工夫にのみ特許を付与するようにしないと,特許制度がイノベーションのインセンティブとしては働きません。これが進歩性の趣旨です。

 ただ,そうは言うものの,特許できない微差がどのくらいなのかというとこれが難しいです。
 今具体的には,その昔の審判便覧で初めてまとめ,いつかの進歩性検討会で公になった例の,「進歩性の判断手順例」に則っております。これは中山先生の「特許法」でもそのままコピペされているくらいのものですから(はっきり言って手抜きなのですが。),裁判官もこのフローチャートで判断しているのですね。

 で,最近は,その進歩性の動機づけとして,課題の共通性を重視するようになったということは,ここを読んでいる方にはよくわかる話だと思います。

 ただ,従前は,分野が同一ならすぐに進歩性なしとされたのですがね。

 さて,今回の判決はいかに?

3 判旨
 「(イ) ところで,乙6の【0007】には,「一般的に,望遠ズームレンズは,第1レンズ群が最も大型のレンズ群であり,フォーカシング時に繰り出されることが多い。このため,第1レンズ群を…補正光学系にすることは,保持機構及び駆動機構が大型化し好ましくない。従って,本発明における正負負正負タイプも同様に,第1レンズ群を防振補正光学系にするのは好ましくない。」と記載されているから,第1群フォーカス方式が開示されていると解されるが,上記の「本発明」に対応する請求項1は,フォーカス方式を特定していない。そして,乙6発明の技術的意義に照らすと,乙6発明において第1群フォーカス方式であることが必須の前提であるとは解されない。そうすると,乙6発明は,第1群フォーカス方式以外のフォーカス方式を排除していないというべきである。
 また,証拠(乙8~10)によれば,ズームレンズの技術分野において,1群フォーカスでは大型の構造になる欠点があるために,インナーフォーカスとすることは周知であることが認められる(乙8の【0003】,乙9の(従来の技術),乙10の[従来の技術と課題])。以上のとおり,乙6発明は第1群フォーカス方式の態様を含むのであり,上記の周知技術に照らすと,第1群フォーカス方式の態様において大型の構造になるという課題を当業者は認識できる。
(ウ) 乙7には,上記アのとおり,望遠レンズにおいては,第1レンズ群以外の比較的レンズ系の小さなレンズ群を光軸上移動させてフォーカスを行う内焦式フォーカス方式(インナーフォーカス方式)を用いている場合が多いことが記載されるとともに,インナーフォーカス方式を用いた望遠レンズにおいて,一部のレンズ群を偏芯させて防振を行うと,偏芯収差の発生量が著しく多くなり,特にフォーカスに際しての偏芯収差の発生量の変動が多くなり撮影画像の光学性能を著しく低下させる原因となっていることが記載されている。そして,上記の周知技術に照らすと,当業者は,乙7では,第1群フォーカス方式のレンズが従来技術と位置付けられているとともに,その課題を解決するためにインナーフォーカス方式が採用されてきたことに加え,インナーフォーカス方式における防振レンズでは,撮影画像の光学性能を著しく低下させるとの課題が生じることが示されていると認識できる。
(エ) そして,乙6と乙7はともに,本件特許発明の属する像シフトが可能なレンズの技術分野に属するものであるから,当該技術分野の当業者は,乙6と乙7とに同時に接することができる。
 そうすると,当業者は,1群フォーカス方式の態様を含む乙6発明において,1群フォーカス方式の欠点を解消するとともに,撮影画像の光学性能を著しく低下させることのない防振レンズを構成するとの課題を認識することができるから,その課題を解決するために乙7発明を適用する動機付けがあると認められる。
 したがって,乙6発明に乙7発明を組み合わせることは容易であると認められる。」

4 検討
 どうなんですかね~。確かに乙6と乙7は技術分野は同一です。ただ,乙6の発明と乙7の発明って,課題も共通ですかね~。乙6は第1群フォーカスを主眼としたもので,他方,乙7はインナーフォーカスを主眼としたものです。確かに本願と比べると,構成はかなり似通っていますから,この判断が不当とも言いがたいのですが,やはり課題の認定をきちんとやっていないので,消化不良的な感じが残ってしまいますね。

 あと,原告について言えば,訂正の再抗弁が見当たりません。特許庁のHPから見ると,本願は訂正審判の請求があるようですから,どうして侵害訴訟にフィードバックしていないのか疑問です。審決取消訴訟と合わせて,知財高裁が山であるとの認識なのでしょうかね。ただ,言いたいことは早めに言っておかないと,一昨日のようなこともありますのでね。

 ま,ともかくも,被告のシグマには良い結論でしたね。
 ところで,シグマの代理人は,私の元ボス弁の出身事務所です。今は,元有名女子アナ弁護士のいる事務所と言った方が早いですかね。ということですので,特許訴訟はあまりやっていない筈です。ところが,いい先行技術を見つけております。ということは,今回アリが象に勝ったのは弁理士の方のお手柄でしょうね。
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